あ、お気に入り登録百件ありがとうございました。
キタサト、トレセン学園入学後の一幕です。前回の話を読んだ方が、より一層楽しめます(書き忘れてた)。
二人で並んで歩く。
毎日のように繰り返している事なのに、なぜ今日はこんなにも心が踊るのだろうかと、トレセン学園の制服を身にまとったキタサンブラックは考えた。
春、これからの新生活に胸を躍らせながらトレセン学園の校門を潜った時。
夏、メイクデビューで二人揃って一着を取った帰り道。
秋、初めての重賞勝利のお祝いをした帰り道。
ずっと隣を歩いていた。ずっと隣を歩いてくれた。
彼女の隣は、普段は落ち着くという感想が一番しっくりくる。自分が歩いても走っても、ずっと歩幅を合わせてくれる。
それなのに、キタサンブラックは今、いつもは感じない心臓の高鳴りを感じていた。自分がこの後しようとしていることを考えると、それも当然かもしれないが。
「でも、ちょっと意外だったかも。ダイヤちゃんがパーティー抜け出そうって言うなんて」
今日はトレセン学園の寮でクリスマスパーティーが開催される日。先程まで二人はその輪の中に入り、用意されたご馳走を食べたり、プレゼント交換をしたりと楽しんでいた。寮内には彼女らが仲良くしている人たちも沢山いるので、キタサンブラックは心の底から楽しんでいた。
しかし、一通り楽しんだ後で、彼女のそばにサトノダイヤモンドがやってきて、一言耳打ちした。
──一緒に、抜け出しちゃお?
その言葉に従い、彼女たちはパーティー会場からそっと抜け出した。今二人は、少し寒さが増してきた夜の街を並んで歩いていた。
「うん……不思議だよね。いつも一緒に居るのに、こんな時にも一緒に居たいなぁって思っちゃったんだ」
「……ふうん?」
それが何を意味しているのか、キタサンブラックも分からない訳では無い。数年前までの鈍感だった小学生時代ならともかく、今はもう中等部。彼女の自分に対する気持ちが、『普通の親友』に対するものでは無いことぐらい、とっくに理解していた。
だから、キタサンブラックは敢えて素っ気ない態度をとる。自分がそれに気付いているなんて事、サトノダイヤモンドが気付いていないわけ無いと、確信していた。
──好都合だ。この後の事考えると、寮なんかより周りにカップルだらけの場所に行った方がいい。木を隠すなら森の中、カップルを隠すならカップルの中、だ。
キタサンブラックは、そんな事を考えていた。
「キタちゃん、寒くない? 急いで出ちゃったから、上着とか置いてきちゃったね」
「……こうすれば、暖かいよ! ダイヤちゃん!」
はあー、と自分の手に息を吹き掛けていたサトノダイヤモンドの右手を握る。子供の頃はしなかった、指と指とを絡める、より密着する繋ぎ方。少しだけ自分より小さい手が、こんなにも愛おしい。
分かってないフリして、子供っぽく笑ってみせるキタサンブラック。いつの間にそんな事をできるようになったんだと、サトノダイヤモンドは顔を赤くする。
サトノダイヤモンドは知っている。キタサンブラックが、その持ってきたカバンの中に自分へ向けたクリスマスプレゼントを入れてきていることを。みんなの前で渡すのはきっと恥ずかしがって出来ないから、それを貰うために、パーティーを抜け出してきた。
いつも、こういう駆け引きはサトノダイヤモンドが一枚か二枚は上手だった。ちょっとからかったら真っ赤になって黙り込んでしまうキタサンブラックは世界の何よりも可愛かった。
なのに、最近おかしい。キタサンブラックが、昔から誰よりもカッコよかったキタサンブラックが、最近ますますかっこよく見えてしまう。昔なら、こんな事大胆なことしてこなかったのに。
そう──サトノダイヤモンドは、キタサンブラックの予想に反して、自らの気持ちが自分の一方的なものであると、思い込んでいた。
「きっ、キタちゃん……!?」
「ん? どうしたの、ダイヤちゃん。嫌だった?」
「い、嫌じゃないけど……」
「じゃ、行こっか! 駅前のイルミネーション、見に行こうよ!」
キタサンブラックは、気付いていた。お互いの気持ちが全く同じである事を。
サトノダイヤモンドは、気付いていなかった。お互いの気持ちが全く同じである事を。
そんな二人は、トレセン学園の校門を潜り、街へと繰り出す。
今日は、クリスマス。
────────────
「きれー……」
「うん……」
目的地の駅前。そこで二人は、目の前の光景に圧倒されていた。
東京レース場が近いということもあり、普段からよく訪れており、見慣れた駅。そこが今は、光の世界へと生まれ変わっていた。
葉も全て落ちた木に光の葉が付き、駅前のオブジェクトも青色のLEDに彩られていた。
設置されたクリスマスツリーの頂点は星ではなく蹄鉄。如何にこの街がトゥインクル・シリーズと密接に結びついているかが良く伺えた。
訪れた人々が、みな一度は足を止めその光景に浸っていた。
彼女ら二人も、例外ではない。
「……ねえ、ダイヤちゃん。昔さ、二人で交換したクリスマスプレゼントが、全く同じペンダントだったってこと、覚えてる?」
キタサンブラックは、顔はイルミネーションの方を向いたまま、数年前のクリスマスの事を語り始める。あの時のことはよく覚えていた。
突然話を振られたサトノダイヤモンドは、少し意表をつかれたように反応する。
「も、勿論だよっ! 今もあのペンダント着けてるもん!」
「うん、私もだよ」
レースの時以外は、肌身離さず持っているペンダント。少しメッキが剥がれているところもあるが、そのチェーンが切れることはまだ無さそうであった。
サトノダイヤモンドは服の中にしまっていたペンダントを取り出す。イルミネーションの光に照らされたそれが、きらりと輝く。それにならい、キタサンブラックも自分が着けているペンダントを取り出した。
全く同じペンダントが、ここに二つ。
「……今日のプレゼントさ、このペンダントに付けるやつなんだ。だから、一回貸してもらってもいいかな?」
「え? う、うん」
サトノダイヤモンドは少しだけ名残惜しそうに、自分の首からペンダントを外し、キタサンブラックに手渡す。受け取った彼女は、サトノダイヤモンドから隠すように後ろを向き、そのペンダントのチェーンに今回用意した自分のプレゼントを通す。
外れないことを確認し、それを後ろ手に振り返る。
「ダイヤちゃん、目を閉じて? 着けたげるから」
「はっ、はいっ!」
──こんなキタちゃん、知らないっ。
先程からドキドキさせられっぱなしの彼女は、もうどうにでもなれと目を閉じる。ペンダントを着けるために近付いてきたキタサンブラックの呼吸が、すぐそこに感じられた。
──ちゅっ。
柔らかな感触と、小さな水音が、自分の額から響いた。
「──えっ」
「──ほら、付いたよ」
思わず目を開けた時、目の前にいるキタサンブラックは、まるでなんでもないというように笑っていた。
さっきのは、自分の妄想が夢になったものだったのか? そん考えていたサトノダイヤモンドだったが、首に掛かっていたペンダントに新しく付いていたそれが、きっと夢じゃないと語っていた。
「ごめん、ちょっとお手洗い行ってくるね……返事、帰ってきたら、聞かせてね?」
まるで逃げるようにその場から立ち去るキタサンブラック。顔は一切変化が無かったが、髪の隙間から見えた耳が、寒さの一言では説明がつかない程真っ赤になっていた。
呼び止める間もなく、キタサンブラックは駅の構内へと入っていった。残された、サトノダイヤモンドは、首元で輝くペンダントに目を向ける。
「ずるいっ……いつの間に、そんなに……っ!」
潤んでいく瞳の先。
少し傷んでいる蹄鉄の隣に、シンプルなデザインの銀色の輪が輝いていた。
「プロポーズじゃないですかっ!!!」
「そうですなぁ。いやぁ、あの時あんなに小さかった二人が……いやはや、時の流れというのは早いですなぁ」
「ホントですよ……いやぁ、今となっては安心して尊死できるから、随分気楽になりました」
「毎回聞いても理解したくないねぇ、ほっほっほ!」
駅から遥か上空。もうすっかり魂になることに慣れてしまったアグネスデジタルは、ここ最近毎年のように会って顔見知りになった、サンタクロースと会話していた。
サンタクロースの優しさにより、ソリに同伴させて貰っているアグネスデジタル。半透明のその姿は、誰がどう見ても幽霊だった。
数年前、クリスマスに尊死した時にたまたま上空を通りかかったサンタクロースに助けられて以来、クリスマスの日に尊死した時は決まって彼に助けて貰っていた。それ以外の時どうやって蘇っているかは謎である。
「はぁ……幼馴染で誰より大切な子にクリスマスの日に逃げるように告白とか、コミック百〇姫か何かですか? よかったですよあの二人が別室で……」
「ほっほっほ。相変わらず口の回るお嬢さんだねぇ……去年と同じ、トレセン学園前で大丈夫かい?」
「あ、はい。毎度お世話になっておりましゅ……」
サンタクロースは手網を引き、トナカイの進路を帰る。
かくして、アグネスデジタルの魂はトレセン学園に送り届けられるのであった。
ちなみに、帰って早々クリスマスを共に過ごすウマ娘CP達を目の当たりにしたアグネスデジタルが、再び肉体と魂が分離してしまったのは、また別の話。
ご閲覧ありがとうございます。なんとかクリスマスを乗り越えました(ほめて)。
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それでは、また次回。