マクイク、その後です。ちょっと番外編チックです。
「マックイーンさん、おはようございます。今日も美しいですね」
「おはようございます、イクノさん。そちらも相変わらず見ていて飽きないお顔ですわ」
朝五時半。早朝のトレーニングの為に早起きする。起きて早々、共に目を覚ましたイクノディクタスと挨拶を交わす。
眼鏡をしていない彼女を見る、数少ないチャンスの一つ。メジロマックイーンは眼鏡をかけたイクノディクタスの事も大変気に入っていたが、素顔の状態の彼女のこともまた好いていた。
普段は凛々しい目線を投げかけてくる彼女だが、朝の寝起きのこの状態の時は、少しとろんとした瞳が、何にも遮られることなく真っ直ぐメジロマックイーンを見る。
これを見ることが出来るのは、同室である自分の特権である、とメジロマックイーンは三女神に感謝していた。
それはイクノディクタスもまた同じ。朝起きる度にメジロマックイーンのふわふわした表情を見られるのは、何よりも幸せである。
「マックイーンさん、こちらへ」
彼女に促されるがまま、メジロマックイーンがそばに近寄る。イクノディクタスはそんなメジロマックイーンの華奢な体に腕を回し、ぎゅっと抱き寄せる。
毎日ハグをする事でストレスが緩和される。それを小耳に挟んだ彼女は、それからというもの二人きりになるとよくメジロマックイーンの事を抱きしめていた。華奢な彼女のことを抱きしめると、どんな蟠りだってすっと消えていく。
寝付きの悪い夜には、相手のことを抱きしめて寝ると一瞬で深い眠りに入っていく。
これが、「お互いに好き合っている相手同士でないと効果がない」行為だということを、二人は全く知る由もない。
二人は、ただただ相手と一緒にいる、触れ合えると幸せである、ということだけで二人は触れ合っていた。
どこからどう見ても恋人同士にしか見えないこの二人、実際は未だにただの友人同士なのである。
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「マックイーンさん、昼食一緒に食べましょう」
「ええ、勿論ですわ」
昼十二時半。朝練や授業を超え、二人は再び巡り会う。
二人の周りに居るウマ娘達は、既に手元にはブラックコーヒー。この後起こる惨劇に備えるためのものであり、最近はコーヒーのハケが非常に良い、とは食堂のおばちゃん談である。
メジロマックイーンは日替わり定食、イクノディクタスは日替わり丼を頼む。それぞれ出てきたのは、ハンバーグ定食と親子丼だった。
そのまま窓際のカウンター席に腰を掛ける二人。やはり絵になる二人である。学校の食堂のはずなのに、あの二人の周りだけお洒落なレストランの一角のように、周りのウマ娘達は錯覚してしまう。
「「いただきます」」
二人揃って手を合わせ、食事を始める……所で、イクノディクタスがメジロマックイーンに注意を促し始める。
「マックイーンさん、まずは付け合せのサラダから食べてください。そうする事で脂肪が付きにくくなります」
「そうなんですの!?」
──始まった。
二人の会話に注視していた周囲のウマ娘達は、その手にコーヒーカップを持つ。成長期にあまりカフェインを取って欲しくはない、と彼女達のトレーナーは嘆くが、この様子を見たら仕方ないとは思う。
なぜなら、あの二人の周辺だけ、妙にキラキラしてるし、妙にピンクピンクしていた。
意味がわからないとは思うが、とにかく、キラキラしていて、ピンクピンクしていたのだ。
「マックイーンさんは、その……どうしても太りやすい体質の人です。そればかりはどうしようもありません。ですが、栄養はしっかり取らなければなりません。それなら、そういう工夫をしていきましょう」
「イクノさん……! 本当にありがとうございます! イクノさんと出会ってから、かなり体重管理がしやすくなりましたわ!」
「これくらいどうってことありません。マックイーンさんには体重のことを気にせずに居てもらいたいですから」
イクノディクタスはキラキラとした瞳で見つめてくるメジロマックイーンの頬にそっと手を当てる。
まるで少女漫画かのようなワンシーンに、多感な時期のウマ娘達は一斉に黄色い悲鳴を上げ、ごくごくとブラックコーヒーを飲んでいく。約一名は飲んだコーヒーをと同じくらいの量、鼻血をぼたぼたと垂らしていく。
しかし、完全に二人の世界に入ってしまっているメジロマックイーンとイクノディクタスには、そんな周りの惨劇など目に入らない。
周囲に多大なる影響を無自覚に与えながら、二人は昼食を楽しむ。
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「もう一本だ、イクノ! 今日の限界を超えていけ!」
「はいっ……! はあああああああああっ!」
夕方六時。待ちに待ったトレーニング。レースが間近でトレーニングを早めに終えたメジロマックイーンは、遠くでまだ自分を追い込んでいるイクノディクタスの事をクールダウンしながら眺めていた。
朝見たような、ほんわりとした表情でもなく、昼のような知的な表情でもない。
ウマ娘の本能剥き出しの、勝利への渇望とトレーニングの疲労により歪んだ表情。ギラギラと輝いた瞳はダート坂路の上に向いており、ぼたぼたと大量の汗を流しながら彼女は走る。
──美しい。
メジロマックイーンは、そんな彼女に対してそんな感情を抱く。元から美しい彼女が、一番美しい瞬間が今である。
「おーい、マックちゃんよー! ……あー、いや、いいや」
普段あれだけメジロマックイーンにだる絡みし、振り回しまくるゴールドシップ。しかし、案外空気を読む彼女は、この時ばかりはメジロマックイーンに絡まず、そのまま寂しそうに去っていく。
しかし、そんなことなど露知らず。メジロマックイーンは全く気にせずに、前屈をしながらイクノディクタスを見つめる。
「イクノさん……やはり、お美しい……」
傍から見たら、完全に恋する乙女である。しかし、彼女とイクノディクタスはそれを全く自覚していない。
こうなったメジロマックイーンは、誰かから強く揺さぶられないと全く動き出さない。
非常に邪魔な存在が、そこに出来上がっていた。
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「イクノさん……その、今日はご一緒に寝てもよろしいでしょうか……?」
「勿論です。こちらへどうぞ」
夜十時。レースが近付いてくるとメジロマックイーンは、頻繁にイクノディクタスと寝床を共にしようとする。
どうしてもレースのことを考えると眠れなくなる日が来ることがある。それまでは夜風を浴びに出かけたり、読書をして眠気が来るのを待ったりしていた。
しかし、イクノディクタスと両想い()になってからは、よくイクノディクタスのベッドに潜り込む。
自らの枕と共にイクノディクタスが空けたスペースに入る。既に入っていたイクノディクタス自身の体温に包まれ、心の底から安堵する。
布団を直し、そのままメジロマックイーンを胸に抱くイクノディクタス。彼女にとっても、メジロマックイーンと同じベッドで寝るのは非常に喜ばしい。
密着した二人は、お互いが発する熱で温まりあって行く。心地いい温もりに包まれると、どんなに眠れそうにない夜もぐっすり寝られる。
「マックイーンさん……今日も一日お疲れ様でした。きっと明日も、素晴らしい一日になります」
「えぇ……明日も、頑張りましょう」
──おやすみなさい。
二人はそう言い合い、抱きしめる力を強くする。
授業やトレーニングの疲れに、愛しい温もり。それらが合わされば、約束された快眠が待っていた。
こうして、二人の一日は優雅に幸せに過ぎていくのであった……。
尚、何度も言うようではあるが、この二人は恋人同士でも夫婦でも婚約者同士でもなんでもなく、ただの友人同士であるということを重ねて強く記しておく。
因みに、これは完全な余談ではあるのだが、この二人がこんな調子になってからというもの、時々トレセン学園内でアグネスデジタルが突然死をする頻度が急増した。
蘇生されたアグネスデジタル曰く、「近くでとんでもない尊さを受信した。死ななければ無礼というもの」と訳の分からないことを口にしていた。
ご閲覧ありがとうございます。なぜこんなことになったのか、後悔はしていませんが、自分でも謎です。
感想、評価、お気に入り登録等していただくと、皆様も僕もウマ娘ちゃん達もデジたんも幸せになります。
それでは、また次回。