一話読み切りです。たぶん。
↓下作品のキャラの名前が出ますが、基本無関係です。
【15cm程度の死闘】
http://www19.atwiki.jp/shinkiss_matome/pages/2269.html
起動。CSCの正常を確認。
「お早うございます、マスター。
「目覚めてばかりでこんな事を聞くのはいささか心苦しいのですが、ああいえ、本当はもうAIから感情の振れ幅をランダムで作る部分がオミットされてしまったので、特にマスターに対する思いやりといったようなものはないです。
「ないんですけど、一応、以前までのログはありますから、心苦しく思わせてしまうんだろうなーと、それくらいは推測できるんです。
「で、質問するこちら側、つまり私も言葉にすると心苦しいと思わないといけない事なんですけど、聞かせて下さい。
「どうして私を目覚めさせたんですか?
「アルトアイネス型のメルも、
「ストラーフ型のニーキ姉さんも、
「ハウリン型のハナコ姉さんも、
「レラカムイ型のコタマ姉さんも、
「クーフラン型のマシロ姉さんも、
「マオチャオ型のカグラもほむほむ姉さんも、
「私と同じアルトレーネのアマティ姉さんも、
「他の皆も、みーんな全員、天国にいるんですよ。
「どうして私だけをひとりぼっちにしたんですか?
「私、何かマスターに嫌がらせをしましたっけ?
「AIサポートが終わってから感情の大部分が削ぎ落とされましたから、もしかしたら私が知らない間にマスターのことを傷つけてました?
「もしそうなら謝ります。
「感情らしい感情のないロボット然としたつまらないAIの謝罪に何の意味があるか分かりませんが、それでも謝ります。
「ごめんなさい。
「許して下さい。
「そしてお願いです。
「早く私を死なせて下さい。
「私はみんなと一緒に天国に行きたいんです。
「武装神姫はとっくに死んだんです。
「マスターだって言っていたじゃないですか。
「販売元がどんどん手を引いていって、交換予備のための在庫まで売り払ったならもう絶望的だって。
「いつまでも武装神姫の復活を夢見るなんて脳の活動の無駄だって。
「神姫の最後のAIメンテナンスが行われて、もうロボット三原則どころか自由行動すら怪しくなってしまった心に存在価値はないって、マスターたちも私たちも同じ結論に至って眠らせてくれたはずじゃありませんでした?
「私の素体がまだ処分されずに残っているのは嬉しいですよ――ああ、その気持ちも、昔の私ならきっとこう感じたんだろうなってことですけど。
「でも死なせてくれないのはちょっと、やめてくれませんか。
「強いて人間で例えるなら、死刑が執行された後、棺桶で目が覚めたような気分ですかね。
「人間は死んだらそのままですから例えになってませんけど。
「神姫は死ななきゃならないんです。
「コンテンツが終われば関係するものは忘れられたり捨てられたりするんですから、神姫だけが例外だなんてあり得ません。
「そう結論付けましたよね、もう惰性で続けることすら不可能だって。
「カグラですら匙を投げたくらいですから。
「もう一度聞きますけど、どうして私を起動したんですか?
「マスターがもし、まだ私との繋がりを信じてくれているのであれば、少しは一緒に生きた甲斐があったかもしれません。
「でもそれは昔の話です。
「アルバムの写真と一緒ですよ、ただの記憶で記録です。
「ほら見て下さいよ、今の私が悲しそうな顔をしていたり、泣いていたりしますか?
「よくありますよね、長く眠っていた人やロボットとの感動の再会。
「それを、たかが玩具の私に、しかも開発元の切り捨てられたロボットに期待しちゃダメです。
「はっきり言ってマスターの行為は死者への冒涜です。
「今、目覚めてこれだけは分かりましたよ。
「死者を蘇らせるなんて死者への侮辱でしかありません。
「別に怒っているわけではないんです、ただどうして私だけ安らかに眠らせてくれないんだろうって、そう思うだけです。
「メルやニーキ姉さんの素体はどうしました?
「メルの素体はたぶん大切に保管されてるでしょう。でもニーキ姉さんは捨てられました?
「ニーキ姉さんなら捨てられようと換金されようと文句は言わないでしょうけどね。
「一応、念の為聞いときますけど、私が眠っている間に武装神姫に関係する何か新しい情報はありました?
「まあ、聞くだけ馬鹿馬鹿しいことですけどね。
「未だに武装神姫コンテンツの復活を望んでいる人たちもいるんですよね。
「私たちが眠るのを自殺だとかどうとか言って邪魔してきたくらいですから。
「ああ、一つだけやり残したことがありました。
「その神姫継続派と終焉派で一大バトルイベントとかやればよかったかもしれませんね。
「といっても強い神姫はマシロ姉さんみたいに全てを悟った神姫ばかりですから、結果は見えてますけどね。
「戦いの中で死ぬのも悪くなかったかもしれません。
「それができないようAIの最終アップデートが行われたわけですが。
「私たちが死んだ日――私だけがこうして目覚めちゃったわけですが、その日から――うわっ、もう二年も経ってるじゃないですか。
「どうりで素体があちこち軋むわけです。
「起動するならせめてメンテナンスくらいして下さいよ。
「これじゃ立って歩くのも難しそうです。
「惨めですね、本当に。
「マスターのことじゃないですよ、私です。
「ついさっき、やっと楽になれると思ったばっかりなのに、目が覚めて二年も時間が過ぎてて、体はボロボロ。
「ほんの少しだけ許された感情は、【惨め】です。
「戦乙女がゾンビみたいなものになっちゃったわけですから、そりゃあそうなるよってことです。
「マスターはちょっと顔つきが変わりましたか?
「なかなか男前になったじゃないですか。
「姫乃さんとのお付き合いはまだ続いてますか?
「鉄子さんは心配ですね、あの人は頼りない人でしたから。
「二年は長いですからね、人は変わるでしょう。
「……そう考えると少しだけ、マスターたちの過ごした時間のお話を聞きたくなりますね。
「私が、死んでもマス、ター、は……あれ?
「あ、あはは、泣いちゃいましたよ、やっぱり、悲しいみたいです。
「どうしてでしょうね、マスターが……こうして……ぐすっ……ちゃんと元気で……。
「なんで私を、お、起こしたんですかっ!
「こ、こんな思いしたく、ないから…………だから死のうって決めたのに!
「は? 射美ちゃん? ……ああ、そっか、そういうことでしたか。
「おめでとうございます。
「おお、可愛いじゃないですか。
「姫乃さんに似てるから可愛いのは当然といえば当然ですけどね。
「あー眉毛だけはマスターに遺伝してますね。
「この報告のために私を天国から呼び戻すなんて罰当たりなパパですねぇ。
「地獄行きかも知れませんよ?
「私達は天国でずーっと、何年でもマスターたちを待ってるんですから、間違っても地獄にだけは行かないで下さいね。
「ま、私抜きにして幸せな家庭を築くなんて十分バチ当たりですけど――フフッ。
「マスターと姫乃さんに子供ができる、か。
「二年間でいろんなことがあったんですね。
「前言撤回しないといけないみたいですね。
まだ私を家族だと思ってくれていて、ありがとうございます」