とあるお嬢様を窮地から救出したあの日から約1週間が経過したある日。俺のスマホに伯父からの連絡が入った。
伯父『おう白郎、元気にしてるか?俺は元気だ!ハッハッハッハッ!…えーと、実はなアメリカでほぼ完璧な状態で発掘されたTレックスの化石が発掘されたんだ。んで今度それが東京の博物館で展示されることになってな、俺は仕事でその展示にいろいろ関わってたんだが、ある日関係者からチケットをご厚意で貰ったんだ。だが俺はその展示期間中は他で仕事あるから意味ねぇんだわ。それにもう搬入するとき見てるしな!ハハハハハ!!でだ、捨てるのはもったいねぇからお前にやるわ!もう郵送で送ったから気が向いたら行ってくれ!またな!!ッ――…ッ――…』
内容はこうである。自由奔放とはまさにこういう人のことを言うのだろう。まあ送ってくれたんだし行ってみよう。博物館なんて何かきっかけがないと行かねぇからな。
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――展示当日――
――某国立科学博物館――
ざわざわ…… ザワザワ……
多くの来館者によって博物館は賑わっている。目玉であるTレックスの化石の前には多くの人が一際集まっている。
来館者「おぉ~、やっぱデケェな」「お父さん、見て!見て!恐竜!」「写真撮って!写真!」
擬魅「(やっぱ人多い…。あと子供が大半を占めてる…それもほぼ男の子。やっぱ男の子って恐竜好きなんだな。まあ嫌いじゃないね。カッコいいし)」
擬魅はメインのTレックスの化石から少し離れた場所にあるベンチに座りながら化石を遠目で眺めていた。理由は簡単。ゆっくり見たいからである。
擬魅「(そう言えばこの化石って展示が終わればアメリカに戻るんだっけ?だとすればある意味今回見れたのはラッキーだったな。伯父さんに感謝だな(笑))」
そう思いながら擬魅は悠々と化石を眺め十分に満足すると、そのまま博物館関連のグッズが売っているショップへ足を向けた。
擬魅「(こういう場所で売っているグッズって無性に欲しくなったりするんだよなー…)さて、なにがあるかな…おっこれは…」
商品棚を見ているととあるものが目に入った。それは今回のTレックスの化石展示を記念して作られたラバーストラップだった。Tレックスの化石をモチーフで、デフォルメしてポップな感じになっている。なかなか愛らしい印象である。擬魅は迷わずそれを手に取るのであった。そのあとは気にいったものを手に取り会計を手早く済ませ、帰宅するだけになるはずだったのだが…。
擬魅「(たまには
そう思いながらショップをあとにしようとしたその時、ショップの奥の方から大きな声が聞こえてきた。声のした方へ顔を向けると何やら言い争っている様子が伺える。
男「あ˝ぁん?変な言いがかりはよしてくれよなぁ!これは俺が先に取ってたんだ!だから俺のもんだ!!」
女子「なに言ってんのよ!この子が持っていたのをアンタが無理やり奪ったんでしょーが!!」
子供「うぅ…僕の…」
聞こえる内容から察するに、どうやら子供が持っていた商品を大声を出している男が無理やり
擬魅「(パッと見…子供は除いて言い争っている2人は俺と同い年ぐらいか…?原因はあの男か?もしそうだとしたらやめてほしいもんだ…)はあ、ROOM…!」
ブウゥゥン…
来館者「んっ?」「なにこれ?」
男「あっ?」
女子「えっ、なにこれ?」
擬魅「シャンブルズ…!」
擬魅はカバンに入れていた飲みかけのペットボトルと、男が手に持っている商品を入れ替えた。
擬魅「あれ、これあのストラップじゃん」
男「なっ、俺のストラップが!?どこに…!?」
女子「えっ、なにが起きて…」
擬魅「店員さん、これお会計お願いします」
店員「えっ…あ、は、はい…!」
擬魅は言い争いの当事者たちが驚ているうちに素早く会計を済ませる。
女子「え、あれって…」
男「おっ、俺のストラップ!!」
子供「僕の…」
店員「お待たせしました」
擬魅「はい、ありがとー。……」ちょいちょい
子供「……ぼく?」
擬魅「そーそー、きみだよ~」
涙目になっている子供に自分のもとに来るように手招きする擬魅。子供は少し戸惑いながらも擬魅に近づく。
子供「えっと…あの…」
擬魅「はいこれ」
子供「えっ、これって…」
擬魅「君のだよ」
女子「…!!」
男「んなっ!?ちょっおい!!」
子供「…いい…んですか?」
擬魅「いいのいいの。もとは君が最初に持っていたんだしね。通りすがりのお兄さんからのプレゼントってことで…!」ニカッ!
子供「…!!!」パアァァァ…!
子供の顔が戸惑いから一瞬にして笑顔にかわる。子供の気持ちはいま最高潮だろう。そして普通ならここでいいお話でしたね!、で終わるだろう。だが現実はそう簡単にはいかず…。
男「おいおいおい!ちょっと待てや!!それは俺のもんだろうが!なに勝手に取ってカッコつけてんだよ!!」
擬魅「カッコつけるも何も(笑)、俺はこの子の代わりに商品を買ってあげただけだ。そしてそれをプレゼントした。たったそれだけの事だろうが」
男「ふざけんな!!
男が子供が手に持っているストラップを無理やり奪ろうと、注意した女子を押しのけて擬魅と子供の方へ迫ってきた。
女子「うわっちょ…!?」
子供「ひっ…!?」
擬魅「おっと、それ以上なにかするなら警察を呼ぶぞ。それにアンタの主張が正しいと言うなら防犯カメラを確認するけどいいんだな?」
男「あ˝あ˝っ!?そんなこと確認する必要ねぇんだよ!!俺が言ってることは間違いねぇんだ!俺が正しいんだ!!とっとと返さねぇと俺の個性で痛い目見るぞ!!」
男はそう言うと体に力を込め始める。すると男の体はミシミシ、メキメキと小さな音をたてながら大きくなり見た目も変化し始めた。やがて変化が終わると男の姿は随分と変わっていた。それはまるで竜と人を融合させたような姿…そう、いわゆる漫画やアニメに出てくる竜人である。周りにいた店員や来館者たちはそれを見ると危険と判断したのか次々とショップの外に移動し始める。
来館者「ちょ、あれヤバいんじゃないの?個性使ってんじゃん!」「警察呼んだほうが…」
ショップの外に移動した店員や来館者たちは遠目にショップ内の様子を伺っていた。そうしていると博物館の警備員2人が騒ぎを聞き駆けつけて来た。そしてそのまま男の両腕を掴みながら注意を促す。
警備員「ちょっと君!何してるの!?」「すぐに個性解除して!」
男「あ˝ぁ?外野はすっこんでろ!!」グアッ!!
警備員「うわっ!!」「うおぁっ!?」
ドガシャアアンっ!!!
男は力任せに警備員を投げ飛ばし、投げ飛ばされた警備員はそのまま商品棚に激突し倒れてしまう。
来館者「きゃあああっ!!」「ちょっヤバいってアイツ!!」「誰か警察とヒーローを!!」
女子「ちょっアンタ!!自分が何してるか分かってんの!?」
男「うるせぇ!女は黙ってろ!!」
擬魅「少年、今日は誰かと来てるの?」
子供「お、お母さんと一緒に…」
擬魅「じゃあ、お母さんの所に行くんだ。ここは危ないから」
子供「お、お兄ちゃんは…?」
擬魅「あ~、俺はね……このトカゲさんをどうにかしないといけないから」
男「ト、トカゲだとおおお!!?」
擬魅「ほら、早く行って」
子供「う、うん!」
子供はそう返事すると外にいた母親の元に走っていった。擬魅は聞こえていないがどうやら途中どこかではぐれたらしく、母親は子供を抱きしめていた。
男「おい…誰がトカゲだって?」
擬魅「ああ、トカゲじゃなくてバカでしたっけ?」
男「あ˝あ˝っ!!?バカだと!?テメェいまバカつったか!?」
擬魅「こんな騒ぎ起こしている奴をバカと言う以外あるとでも?」
男「おいテメェ!今すぐ土下座して謝るならパンチ1発で勘弁してやる!もししねぇなら分かってるだろうな?いや、俺のこの姿を見て分からねぇはずがねぇ…!」
竜人に変身した男は擬魅を睨みつけながら謝罪を要求。だがその言動は漫画に出てくるチンピラそのものであった。また、そのチンピラみたいな男に注意をした女子は冷や汗をかいていた。
女子「(ちょ大丈夫なのあの人!?さっきの入れ替えが個性だとしたら…相性悪すぎじゃん!!)」
擬魅「よっぽどその個性がご自慢らしいですね。お礼と言っては何ですがこちらも個性を披露させて頂きますね(笑)」
男「あ、個性を…?ハハハハハっ!!お前の個性はモノの位置を変える個性じゃねぇのか?さっき俺の手にあったストラップがお前の手に移動したのが何よりの証拠!そんな個性でこの俺とやり合うつもりか!?」
擬魅「1つ忠告しておこう…目に見えたものが真実とは限らない…(リュウリュウの能力、モデル…――)」
男「あ、なに言って……?」
男が何か言おうとしたが擬魅はお構いなしに個性を発動させる。
ググググオォォ……
男「んなっ…!?テメェ体が…!!!」
女子「(大きくなって…!?)」
擬魅の身体はどんどん大きくなり変化していく。……そして、変化が終わるとそこには…。
男「なっ…んなっ……そっ、その姿は……!!!」
来館者「あれって…」「すげぇ……」「あの恐竜は確か…」
女子「…………スピノサウルス」
男「…っ!!!」
スピノサウルス…特徴的なのはやはり背中にある半円型の背びれとワニのような長い口だろう。その姿は擬魅の周りにいた者たち全員を圧巻させた。だが…。
男「……たっ、たかが恐竜に変身したからってなんだ!!!変身したって弱かったら意味ねぇんだよ!!」
男は擬魅に向かって拳を構えながら突っ込み始めた。それに対し擬魅は…。
グオオオォオオオォォオオオォオッッーーー!!!!!
咆哮。大気が震えるほどの咆哮。それは周囲にあったガラスが割れてもおかしくない程の咆哮であった。
男「ヒイイイイィィィィィッーー!!!??」
来館者「うおああっ!?」「うわわっ!?」「きゃああっ!!」
周囲にいた人たちは驚愕し、尻もちをついてしまったり腰が抜けて床に座り込んでしまったりしていた。
擬魅「(あ、やべ…やりすぎたかな?…(汗))」
女子「……(ビリビリきた…)スゲぇ…」
擬魅「さて…」
男「ひっ!ごごご、ごめんなさいごめんなさい!!俺が悪かったです!!」
擬魅「(さっきまでの威勢はどこにいったんだ…)なにが…?」
男「えっ……?」
擬魅「だから、具体的に何が悪かったの?」
男「お、俺があの子供から…むむ、無理やりストラップを
擬魅「じゃあ、俺に謝るんじゃなくてあの子に謝るのが先じゃないの?」
男「へっ…あ、ははは、はい!!えっと、無理やり奪ったりしてすいませんでしたぁぁぁぁ!!!」
男が子供に対して行った土下座は、それはそれは綺麗な土下座であった。
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その後、擬魅の咆哮によって大人しくなった男は通報によって駆けつけたヒーローと警察によって連行されていった。罪状は暴行・器物損壊・個性不正使用である。個性不正使用で言えば擬魅もそうなのだが、今回の
ヒーロー「…であるから今後は気を付けるように!!いいね!?」
擬魅「う、うす…すいませんでした」
ヒーロー「うむ!では気を付けて帰るように!」
擬魅「はーい…………ふぅー…」
女子「お疲れだったねぇ~」
擬魅「えっ、あ、ああ……確か連行された男の後ろに…いた女子?」
女子「そうだよ~!注意していたらアンタが割り込んできてほとんど棒立ちしていた女子でぇ~す!」
擬魅「なんか含みがある言い方だな!おい!」
女子「なんもないってば~!正直助かったよ!私の個性じゃどうしようもなかったし!それにしてもアンタの個性すごかったねー!あ、アンタって言ったら失礼だね!えーと…」
擬魅「擬魅白郎…まあよろしく」
取蔭「わたし取蔭切奈!よろしく!」
擬魅「(なんかテンション高ぇな…てか取蔭って…マジか)そういや俺になんか用でもあるの?」
取蔭「ああ、そうそう!ほら君、おいで!」
取蔭が後ろに振り向き誰かを呼ぶ。すると来たのは先ほどの子供であった。
子供「あの……た、助けてくれてありがとう…!!あと、すごくカッコよかったです!!ヒーローみたいだった!!」
擬魅「―っ!!……どういたしまして(笑)。次からは取られねぇようにちゃんと持っておけよ?」
子供「うんっ!!……あの名前…」
擬魅「ん、名前…?」
子供「お兄ちゃんの…」
擬魅「ああ…名前は白郎、擬魅白郎だ」
子供「まがみ…はくろう…。おれリュウト!」
擬魅「リュウトか、カッコいい名前じゃん」
リュウト「っ!…あ、ありがと…ぅ//」
擬魅「ほら、お母さんが待ってるぜ」
リュウト「あ、うん。じゃあ…またね!!」
擬魅「おう、またどっかでな…!」
リュウトは多少照れながら母親の元へ戻っていた。そして今のやり取りの様子をニヤニヤしながら見てる者が1人いた。
取蔭「ひゅー!カッコいー擬魅!」
擬魅「茶化すんじゃねぇよ!正直いまちょっと恥ずかしいんだぞ!」
取蔭「アッハッハッハッハッ!!いーじゃんいーじゃん!あ~いいもん見れたわぁ!これで
擬魅「あれ?」
取蔭「ああ、限定ストラップのことね。ほら、擬魅がリュウトくんに買ってあげたあれだよ!」
擬魅「あーこれのことか」
擬魅はカバンの中から購入したストラップを出しながら納得する。すると取蔭がそれに食いつく。
取蔭「えっ、買ってたの!?」
擬魅「ああ、これだろ?」
取蔭「うわー!いいなー!ねぇちょっと見せて見せて!!」
擬魅「お、おお……」
擬魅は手に持っていたストラップを取蔭に渡す。受け取った取蔭は目をキラキラさせながらストラップを見つめる。
取蔭「わぁ~…ヤバかわいい……」
擬魅「(ヤバかわいい…?)…………欲しい?」
取蔭「うぇ…!?いや、そんな目で見てたわけじゃ…!!」ブンブンブン!
腕をいろんな方向にぶんぶんと振りながら否定する取蔭だが、その手はストラップをガッチリと握っていた。
擬魅「焦りすぎだって。それに取蔭も頑張ってたんだし」
取蔭「私も…?」
擬魅「最初
取蔭「ま、まあ…でも何もできなかったけどね」
擬魅「そお?声に出して注意するってなかなか出来ないと思うよ?」
取蔭「そう、かな…//?」
擬魅「そうだよ。だからそれは俺からの……あー言葉にするのよく分かんねぇけどあれだあれ。まあやるよ」
取蔭「いや!最後なんか投げやりだなオイ!!もっとカッコいい言い方なかったのかよ!!」
擬魅「ねぇな!」
取蔭「即答かよ!!!」
取蔭がキレのいいツッコミをすると2人の間に少し沈黙が流れる。だがそれに耐えきれなかったのか取蔭が笑い出した。
取蔭「…ふふっ!ぶふはっ!!アッハッハッハッハ!!ダメだ!耐えられない!!ひぃーひっひっひっ(笑)!!」
擬魅「そんなに面白かった…フッ…か?」
取蔭「いや、アンタも笑ってんじゃん!!いま笑ったでしょ!?」
擬魅「んん?なんのことだかな?」キリッ!
取蔭「そんな顔しても誤魔化せられないから!…ふふっ、まぁいいや(笑)。じゃあこれはありがたく貰うね!ありがと!」
擬魅「どういたしまして」
取蔭「じゃあお礼に私の連絡先を教えてあげる!」
擬魅「えっ?それじゃ俺があげた意味が…」
取蔭「出せ」
擬魅「うす…」
なかば強制的にスマホを取り出すように言われ、そのまま連絡先を交換する擬魅であった。
取蔭「よし、登録っと………ねぇ、擬魅ってヒーロー目指してんの?」
擬魅「唐突だな…まあヒーローは目指してるよ」
取蔭「!…へぇーそうなんだ。もしかして雄英?」
擬魅「そうだよ。そういう取蔭は?」
取蔭「私のもヒーロー志望だよ。アンタと同じ雄英」
擬魅「じゃあ、次会うときは落ちてなかったら雄英か(笑)」
取蔭「そうなるね、お互い落ちないように頑張らないとね!」
擬魅「そうだな(笑)」
取蔭「…じゃあ私そろそろ帰るね//!じゃあね!!」
擬魅「おう、またな」
取蔭は軽快な足取りでその場を離れていった。そんな離れていく彼女の顔の頬はどことなく赤みがかっていた。
擬魅「(なんか最近トラブルによく遭遇するな…)」
そう思いながらも帰路につく擬魅であった。
いずれ擬魅のイメージ図を出します。