俺の幼馴染はハイパードジっ子兼ネガティブウマ娘です   作:たぬき田中

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16話

 「黒沼だ。自分の部屋だと思ってゆっくりしてくれ」

 

 黒沼と名乗った男性トレーナーは、自分の部屋に俺をあげると椅子に腰を下ろす。ぐるっと彼の部屋を見回して、やはり目に行くのは部屋の隅に設置されている多くのトレーニンググッズだ。ランニングマシンにベンチプレスなど、トレセン学園内にあったやつと同じくらいの種類があった。彼の立派な肉体ボディにも繋がっていることが分かる。

 

 「あ、あの。今日は寝床を貸してくれてありがとうございました。」

 

 「おう。礼なんて一々言う必要は無い。大人が子供を助けるのは当然のことだ。」

 

 か、かっけぇ。正に男の中の男って感じがする。見た目は組長レベルのヤ○ザみたいなのに、いい人じゃん。エアシャカールさんとはまた別のベクトルで憧れてしまう。

 

 「風呂は沸かしてあるが、入るか?」

 

 「あ、じゃあいただきます。」

 

 「部屋出て右の部屋が浴室だ。ゆっくり入れよ」

 

 「はい」

 

 俺はショッピングモールで購入した着替えやシャンプー等を持って浴室へと向かう。思い返してみれば1日を通して結構動いたから汗とかベタベタだったりする。

 

 服を脱いでから、浴室の中へと入ると

 

 「いや、広っ!!」

 

 そこには、テレビ特集とかでしか見ないような高級な広い浴室があった。あれ?あの人、一人暮らし………だよな?トレーナー寮ってこんな高級な設備とか揃ってんの?すげぇな。

 

 「うわ、サウナとかあんじゃん。本格的すぎだろ」

 

 あと、湯船を見てみると可愛いアヒルのおもちゃが1匹ぷかぷか浮かんでいた。あの見た目でアヒル浮かせてんの?想像つかんわ。

 

 とりあえず、全身をしっかりと洗い、でかい湯船に浸かって身体を温めたり、サウナで汗を流したりと暫く堪能した。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 「お風呂いただきました。」

 

 「しっかり温まったか?」

 

 寝衣に着替え、タオルで髪の毛を拭きながら俺は黒沼さんの部屋へと戻る。黒沼さんはなにやら大量の書類に目を通していたが、俺が戻ってきたのを確認すると声を掛けた。

 

 「はい。そりゃあ、もう。めちゃくちゃ温まりました。」

 

 「そうか。何か飲み物飲むか?」

 

 「あ、はい。いただきます。」

 

 俺の言葉を聞くと、黒沼さんは冷蔵庫まで足を運び、中から缶ジュースを1本取り出して俺の方へと優しく投げる。俺はそれを上手くキャッチして礼を言ってから飲む。

 

 その後、またしても黒沼さんは書類に目を通し始める。

 

 「何してるんですか?」

 

 黒沼さんの作業に好奇心を持ってしまい、思わず声を掛けてしまった。

 

 「今、担当してる子達のトレーニングの見直しをしている。デビュー戦を控えている子もいるから最終調整をな。」

 

 「ほへー。」

 

 あれ?これって中々、一般人は見れないレアな光景じゃないか?トレセン学園のトレーナーさんの作業なんてテレビ特集とかでもあまり見ないし。

 

 「興味あるのか?」

 

 黒沼さんは俺に声を掛ける。まぁ、トレーナーの作業をこんな興味津々に眺めてたらそれなりに気がある風には見えるのか。

 

 「いや、特にはっきりとは………」

 

 「そうか」

 

 俺は曖昧な感じで返答する。そういえば、そもそもこの人がトレーニングジムでウマ娘さんと一緒に筋トレしてる様子を見て少しいいなって思ったっけ。だからといって、絶対にトレーナーになりたいとは思わないけれど。

 

 黒沼さんは近くに置いてあったスマホを手に取る。何かしらメッセージを送る素振りを見せたあとに再度、俺に声を掛けた。

 

 「坊主。明日は俺のトレーニングを手伝え」

 

 「はい?」

 

 黒沼さんの予想外の発言に、俺は目を点にする。何言ってんの、この人。

 

 「同期に聞いてみたが、明日はお前の幼馴染がトレーニング終わるまで特に予定はないみたいだな?」

 

 「そう……ですね。」

 

 よくよく考えてみれば、明日の予定なんて決めてなかったな。

 

 「明日は同期のトレーニングが終わるまで、俺のトレーニングを手伝ってもらう。異論は認めない」

 

 「ま、待ってください!そんな事言われても、俺……なんもできねぇっすよ!?」

 

 「できるできないかは明日の俺が決める。」

 

 り、理不尽とはこのことを言うのか。まさかこんな所でそれを学ぶとは思わなかった。

 

 「それに……これは俺の勘だが……お前はトレーナーに向いている気がする」

 

 「俺が?」

 

 俺が……トレーナーに向いている?どこが?ウマ娘なんて最近まで幼馴染のメイショウドトウやエアシャカールさん、クラスメイトのウマ娘ぐらいしかまともに名前を知らなかったこの俺が?

 

 「坊主の何がトレーナーに向いているかは分からん。だが、お前にはトレーナーとして必要な才能があると感じる。」

 

 「才能………??」

 

 トレーナーとして必要な才能があるなんて言われても、そんなの見覚えが全くない。

 

 「詳しいことは明日伝える。今日はもう遅い。隣の部屋に布団を出してあるから寝なさい。」

 

 「………分かりました」

 

 俺はぺこりと頭を下げてから、隣の部屋へと向かう。すると、そこには高級そうな布団が敷いてあった。

 

 「まぁ、今日の寝泊まりの場を提供してくれたお礼だと思ってやればいっか。特にやれることなんて無いはずだし。」

 

 そんなことを口にして、俺は布団の中へと入る。全体がふかふかで最高すぎる。これなら……すぐに寝れそうだ。

 

 それにしても、今日は色々あったな。まさか、あのトレセン学園で寝泊まりするなんて思いもしなかった。

 

 けど、いい事はあった。それは勿論……アドマイヤベガさんに出会ったこと。そんな彼女に一目惚れをしたこと。

 

 今日は少ししか話せれなかったけど……明日こそ。明日こそは……がんば……って、かのじょに……は……なしか……け………

 

 「すぅ………すぅ………」

 

 気付いたら俺は夢の世界へと旅たった。

 

 ☆☆☆☆☆

 

 「ただいま」

 

 「お、おかえりなさいですぅ〜!」

 

 トレーナーとある程度、今後の方向性を決めたエアシャカールは寮の部屋へと戻ると、ルームメイトであるメイショウドトウが彼女を出迎える。

 

 「あ、あの!シャカールさん!」

 

 「あン?」

 

 エアシャカールが肩に背負っていた荷物を置いたところで、メイショウドトウが話しかける。

 

 「今日はカズくんを手助けしてくれて、ありがとうございました!!何かお礼させてください!!」

 

 「別に礼なんていいぜ。 歳上が歳下に手を貸すなんて当然のことだろ。」

 

 「で、でもぉ〜」

 

 エアシャカールの正論の言葉にメイショウドトウはいつものようにショボーンとした表情を浮かばせる。彼女のアホ毛も元気なく萎える。それを見て折れたエアシャカールは髪の毛を乱暴そうに掻きながら

 

 「あァ、もう!!分かった。分かったよ。決まり次第、お前に言うからそんな顔すんじゃねェ!!」

 

 「シャカールさぁん!!」

 

 先程までのショボン顔が嘘だったみたいに今度は嬉しそうな表情を浮かべるメイショウドトウ。それを見てエアシャカールは溜息を吐く。

 

 そんなやり取りをした後、一緒に雑談しながら寝床に入る2人。電気を消し、暗くなった部屋の中でエアシャカールは彼女に声を掛ける。

 

 「…………ドトウ。起きてるか?」

 

 「は、はい!なんでしょうかぁ〜?」

 

 

 「お前はさ……カズのことどう思ってるンだ?」

 

 

 「か、カズくんですかぁ〜!?」

 

 まさか、あのエアシャカールさんから幼馴染のことを言われるとは思いもしなかったメイショウドトウ。思わず目を丸くする。だけど、彼女は口にする。幼馴染のことを。

 

 「カズくんは……とても優しくてドジばっかする私なんかにもずっと傍に居てくれて……彼と一緒にいると心がポカポカするんです。」

 

 「そうか。………なぁ、ドトウ。もしも、もしもの話だ。もしもーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カズの野郎が違う女を好きになったら……お前はどうする?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「…………はぁ??

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ーーーゾッッッッッ!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 「ーーーッッ!!?」

 

 

 何気ない一言をエアシャカールが放った瞬間、隣から今まで生きていて1度も感じたことの無いような殺気を全身的に感じた。こんな殺気は過去のレースでも感じたことが無いほどに強烈なものであった。

 

 思わず、エアシャカールは咄嗟に自分の手で全身を触る。まるで、今の殺気で己が死んでしまったと疑ってしまうばかりのように。

 

 「も、もう!な、何言ってるんですかぁ〜!!は、恥ずかしいこと言わないでくださいぃ〜!!」

 

 エアシャカールが息を荒くしている中で、メイショウドトウがいつもの弱々しい声で恥ずかしそうに言葉を出す。先程の殺気がまるで無かったかのように。

 

 「お、おう。変な事聞ィて悪かった。互いに明日も朝早いから寝るか。」

 

 「はいぃ〜♪おやすみですぅ〜」

 

 「おやすみ」

 

 誤魔化すようにエアシャカールは就寝の意図を伝え、メイショウドトウとの会話を断ち切る。言葉が終わり、少しすると隣からはメイショウドトウの寝息が聞こえる。今日もハードなトレーニングを積んできたのだ。疲労がゆえ、夢の世界に行くのは早いことだろう。

 

 

 

 (なんだったンだ??今のは………)

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 「はっ………はっ………はっ!!!」ダッダッタ

 

 夜遅く、空には星がちらほら輝いている中でトレーニング上で未だに走り続ける一人のウマ娘。

 

 「まだ………まだ!!こんなんじゃ、私は………あの子に……!!!」

 

 

 ーーーズキ

 

 

 「ッッ!………大丈夫。これはまだ誰も気付いてないし、バレてもない。いや、バレるはずがないんだ。まだ私は……走り続けれる。」

 

 

 そして、彼女………アドマイヤベガはトレーニングを続行させた。

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