タマモクロスと大阪に行くだけだが問題…しかないな   作:ガロア_Galois

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ウマ娘に外堀を埋められるだけ

思えば、冬と言うのは至極当然寒い。特に、走っているときにの耳なんかヒトの自分でさえ痛く感じる。それを踏まえると、ウマ娘の冬毛は羨ましいなぁ、と寒空のもと感じた。

 

この時期、トレセン学園は冬季休業に入る。それと同時に、一部の生徒を除いては帰省ラッシュが始まる。

 

親元を離れての寮生活という性質、そして日本の優れたウマ娘が集まるという背景も合わさり、長期休業中の帰省は推奨されている。まぁ思春期真っ只中なのでホームシックになることは恐らく無いだろうが、それでも何年も帰らないという生徒はほとんど居ない。

 

そして自分の担当バであるタマモクロスもその一人だ。

 

彼女の実家は大阪の為、夏と冬の長期休業は必ず帰っている。今日はその帰省初日だと言うので、毎度の如く学園最寄り駅まで見送りに来た。

 

「じゃあトレーナー、行ってくるで!」

 

そういう彼女は、レースで魅せる気迫こもったウマ娘ではなく、一人の実家への帰省を楽しみにする少女とだった。

 

「あぁ、行ってらっしゃいタマ。ところで一つ聞いてもいいか?」

 

「ええでええで!何でも聞いてくれや!」

 

そうタマは無い胸をそらす。たしかに可愛いが、幼稚園児のほうが近いかもしれない。もしかしたら俺はでちゅねの気があるのか…?まぁそんなことより聞きたいことがあるんだが…

 

「じゃあ質問だが、なんで俺は荷造りをさせられた挙げ句大阪行きのチケットを渡されてるんだ?」

 

「なんでって…決まってるやん!トレーナーもウチの実家に来てもらうためや!」

 

先に諸君に告げておこう。過労とは恐ろしいものだ。

 

季節は冬。世間はお忙しいムード真っ最中だが、トレーナー陣営もご多分にもれず忙しかった。まずなんと言ってもGⅠが多すぎる。GⅠとトレーニングがキューカンバーサンドイッチみたいな密度で入ってくるため、正直並のブラック会社のほうが楽なレベルだ。

 

さらに言うなら聖蹄祭とかの行事もあるし、もちろん普段からの雑務も重なるので正味過労死ラインは余裕のよっちゃんでアウトだ。

 

そのせいでまぁトレーナー達は顔色が悪い。青、青、白、青、蛍光色……最後のはタキオンのトレーナーだな。

 

ちなみに関連性は定かではないが、トレーナーにムキムキマッチョマンが多いのはこの仕事量をさばく体力が必要になるから……らしい。

 

長々とお話ししたが、結局何が言いたいかというと、過労は人を鈍らせるらしい。正確に言うと人の判断力を、だ。

 

普通だったら事前にある程度の連絡がないと、担当バの親類などとは会話を交わすことはない。実家訪問なんてなおさらだ。

 

……えっ?海外勢?治外法権かなんかじゃないんですか?

 

まぁとにかく普通は断るのだが……あいにくその話は疲労のピークである今された。よって判断力がにぶトレーナーと成り果てた俺は……

 

「…あぁそうか。ならいいのか」

 

了承してしまった。後で振り返ると、この言質さえ取られなければまだ助かった。いやまぁ多分。

 

「ほな、行こか!」カチッ

 

タマが音声レコーダーを持ってる気がしたが、恐らくそういう形の水筒とかだろう。(疲労によるヤケクソ)

 

「あぁ、東京駅からは新幹線か?」

 

「せやで。そっから新大阪まで行くんやけど、そっからはまた着いてから説明するわ」

 

「タマは向こうの土地勘があって羨ましいな」

 

「何言ってるんやトレーナー?トレーナーもそのうち覚えるようになるで?」

 

今思えばこれだって怪しさ満点だ。いくらレースで大阪に行く機会が増えたとしても、流石に土地勘がつくまでにはならない。頼むから気づいてくれ過去の俺。

 

「はは、そうだと良いな。」

 

……やはり過労は人を狂わせる。

 

こうした他愛もない会話を続けつつ、トレセン学園の最寄り駅から二人で東京駅へと向かった。

 

タマと一緒に電車で揺られながら、東京駅についた。レースの遠征では専ら飛行機が多いので、乗り換えとしてちゃんと使うのは初めてに近かった。

 

「なぁタマ、なんであんな京葉線のホームだけ地下にあるんだ?地上にまとめたほうが効率が良くないか?」

 

「東京の人間がやることや、なんか理由があるんやないか……おっ、トレーナー!駅弁があるで!買ってこうや!」

 

「あぁ、そうだな。朝も食ってないし丁度いい」

 

そう言って自分の財布から万札を出し、タマに渡す。こういうところぐらいしか大人を見せれないのは残念だが、それぐらいタマはしっかりしている。そういう事にしておいてくれ。

 

数分経って、タマが弁当を持ってきた。それを受け取り、二人で新幹線乗り場へと向かう。チケットはタマが事前に取ってあったらしく、帰省シーズンの今でも、スムーズに座ることができた。

 

「タマが内側に座りな。」

 

「おぉ、トレーナー気が利くな!ほな座らせてもらうで」

 

旅気分も相まってか会話は弾み、駅弁も一緒に食べた。やっぱね、美味い。新幹線の中で食べる弁当は美味い。

 

するとしばらくして、と言っても静岡に入ったぐらいからだが、身体が危険信号を送ってきた。理由は単純、寝てない。

 

「なぁタマ…せっかくの帰省にすまないがちょっと寝ていいか……?睡魔がひでえんだ…」

 

「確かにトレーナー最近疲れとったしな。新大阪着く時に起こすから、ゆっくり寝とき。」

 

そう言うとタマは仕切りの手置きを上げ、トモを叩く。

 

「ほな、ちょっとここに横になっときいや。」

 

正直担当バに膝枕なんてこっ恥ずかしいが、少なくとも生命の危機の方が世間体よりも優先された。

 

「あぁなんか…疲れが取れる……クリークみたい…」

 

「トレーナー、それはあかん。底無し沼に片足突っ込んどるで」

 

「あぁ……ママ…」

 

「それどっちや!?トレーナーのお義母さんかクリークかで話変わってくるで!?」

 

タマのツッコミを最後に、自分の意識は睡魔に引っ張られていった。久々の睡眠すぎてなかなかに気持ちいいものだった。

 

気がつくと、新幹線は既に新大阪の手前まで来ていた。やけにタマは上機嫌だし、口の周りがベタベタしているが、そんなことを深く考えはしなかった。そりゃあね、数十日ぶりのまともな睡眠ですよ。気持ちいいっすわ。

 

間もなく新幹線は新大阪に到着し、二人して慌てて降りる。そこからは軽めの昼食をはさみ、在来線を何本か乗り継ぐ。

 

乗っている列車の窓から見えるのは、東日本では見られないようなある種元気のある町並みであった。タマが生まれ育ったのがこの環境なのも、妙に納得してしまう。

 

新大阪から1時間半ほどかけ、タマの実家の最寄り駅についたらしい。う〜ん、いかにも関西って感じだな。

 

「いや〜The大阪って感じだな」

 

「せやろ?ウチはこっからトレセンに来たんやで」

 

タマはトレセン学園の生徒の中でも、遠い距離を離れて生活している。それでもあれだけ気丈に振る舞うのは、さすが関西人としか言いようがない。

 

「こっからウチの家まで距離あるけど、トレーナーは大丈夫か?」

 

「あぁ、大丈夫だ。ちゃんと寝たしな」

 

そう言ってタマと歩き出す。生まれも育ちも東京の自分にとっては、何もかもが新鮮な世界で、歩くだけでも楽しかった。

 

道中、タマが商店街に寄りたいというので自分も一緒に向かう。なんでも、タマの実家から近いらしく、顔なじみも多いらしい。

 

商店街に入ると、揚げ物屋や鮮魚店などがあり、そのどれもが活気に溢れている。そんな中、タマと一緒に行きつけらしい惣菜屋へと入る。

 

「おばちゃん?元気しとるか?」

 

「あらタマちゃん久しぶり!それで隣の男の人は?あらっ、もしかして婚約者さん!?」

 

「そうそうおばちゃんには結婚式の招待にってちゃうわ!トレーナーやトレーナー!」

 

「はは、どうも…」

 

なんか早速大阪の景色を見た気がする。これが日常か…。

 

「ふふ、わかってるわよ。それで、今日は何を買ってくの?」

 

「せやな〜、コロッケ20にメンチ15と……」

 

すると、タマはテキパキと注文をしていく。こういうところがタマの凄いところだ。

 

しばらくして惣菜を買い終わると、次は八百屋、その次は鮮魚店……かなり買うな。でも確かタマには兄弟がいるみたいな話してたな。ならこれぐらいは買うのだろう。

 

しかしなぜだろう、タマと二人で買い物に行くたびに恋仲かどうかみたいな質問をされる。タマはあの手この手で返していくが……そんなに俺女に飢えているように見えるか?

 

まぁ大方、顔馴染みと言うこともあって娘のような存在なんだろう。確かに知らない男が居たら聞きたくもなる……か?

 

トレーナーからは、タマの満更でもない顔は見えなかったのだが。

改ページ

買い物を済ませ、二人で荷物を持ってタマの家へと向かう。持ってくる荷物をキャリーバッグに入れてて助かった…。

 

「帰ったでチビ達〜」

 

「お邪魔します」

 

自分がドアを開けて入ってきた途端、タマの弟たちにもみくちゃにされた。両手が塞がってる中の突進を耐えた俺、誇っていいぞ。

 

「おじさん誰〜?」

 

「やべぇタマ、心にキた」

 

こちとら余裕の20代やぞ。いくら不衛生な生き方してると言っても、流石におじさん呼ばわりは心にクる。

 

「まぁええやないか。チビ達からみたらトレーナーも十分おじさんやで?まぁ荷物はこっちで片付けとくから、トレーナーはチビ達と遊んで来いや」

 

ニヤニヤしながらタマは荷物を持っていく。嬉しいけどやっぱね、きちゃうよ

ね。心に。

 

感傷に浸るのもつかの間、弟たちに引きずり込まれていった。振り解くほどの体力がないのもあるが、ちびっこのバイタリティは恐ろしいものだ。頼むからそれをくれ。

 

 

 

数十分は弟たちと遊び、(途中からおじさん特有の疲れで遊ばれてすらいたが)ちょっと休憩という名目で一人になった。

 

ふとキッチンを見ると、エプロン姿のタマが居た。普段あまり見れない姿に、ちょっとだけキュンとしてしまった。……トレーナーとしては失格だな。でもあんな嫁さんが居たら、なんて思うぐらいは許してほしい。

 

声をかけようかと思ったが、すぐさま弟たちに捕まったためそんなチャンスはなかった。無念。

 

 

 

またしばらくすると、タマが惣菜を盛り付けた皿や茶碗などを持ってきた。どうやら夕食らしい。

 

「ごはんやで〜」

 

ここでもチビ達の体力は眼を見張るものがある。現役ウマ娘にも負けない瞬発力で、飯へと走っていく。あんな元気だったか?俺。

 

「トレーナーも食べてくよな?」

 

「いいのか?なんか急に押しかけて申し訳ないが…」

 

「ええねん、だからいつもより奮発して買ったんやで?」

 

あの量の買い物はそういうことだったのか。てっきりチビ達への分が多いと思っていたが。

 

「じゃあ有り難くいただくよ」

 

そう言って、みんなでちゃぶ台を囲む。真ん中には、もちろんと言うべきなのか、大きなたこ焼き器がおいてあった。

 

「なぁタマ、大阪の家に必ず一つはたこ焼き器があるって本当か?」

 

「流石にそこまではないで。ウチの家にはあるけどな」

 

もはやギャグの域だと思うが、腹の虫は栄養摂取を促す。疲れもあってか、食べ始めてからは箸が止まらなかった。

 

食べ終わってからは、あらかじめ沸かしてあったらしいお風呂にチビ達と入った。その後にアイスを食べたり、タマのトレーニングメニューを考えたりしていると、いつの間にか夜は深まっていた。

 

「トレーナー?ちょっとええか?」

 

「ん、あぁタマか。どうした?」

 

「いや、トレーナーも早う寝たほうがええんやないかと思ったてな。チビ達ももうぐっすりやし」

 

時計を見ると、もうそろそろ日付が変わりそうである。流石にここまで起きていては、明日に支障が出るかもしれない。ただでさえ直近は寝ていなさすぎる。

 

「じゃあちょっと寝かせてもらおうかな」

 

「ええで。チビ達とはちょっと離れに布団が引いてあるから、そこで寝てくれや」

 

「うん、ありがとう」

 

そう感謝の意を告げて、引いてある布団へと吸い込まれるように倒れていく。旅の疲れもあるのか、何かを思う間もなく眠りへとついた。

 

トレーナーはあっという間に眠ってしまった。多分、日頃の疲れも溜まっていたのだろう。

 

タマモクロスは呟くように、誰かに語りかけるように音を発する。

 

「トレーナー…ほんと頑張りすぎやで…?」

 

思えば、トレーナーはウマ娘に対して、余りにも真剣に接している。自分の体を顧みない程度には。

 

だから、タマモクロスは自分の実家に連れてきた。自分がもし理由を聞かれたら。それは間違いなく『トレーナーの疲れを取るため』と言うだろう。

 

でももし、トレーナーの疲れを利用するためだとしたら?判断力の鈍りを逆手に取っていたら?『トレーナーの外堀を埋める』ためだったら?

 

…これを思いついた時には完璧だと思った。いっつも頑張ってはるトレーナーの疲れを口実に実家へと迎える。もちろん、療養と称して。そうとなれば、まず顔馴染みの商店街の人に電話して。ちょっとだけ芝居を打ってもらって。トレーナーのにぶちんっぷりには流石に呆れたけど……概ね上手く行った。

 

(トレーナー…ほんとにトレーナーは頑張りすぎやで…こうして逃げられないように囲まれてるのを気づかないぐらいにはな……♡)

 

幸いにも、と言えるのかは怪しいが、タマモクロスには時間がある。次の夏も、次の冬も。一歩ずつ埋めていけば。トレーナーを逃さないようにすれば。

きっと、タマモクロスの思い通りになるだろう。

 

 

 

 

白い稲妻の目は、黒く濁り果てていた。

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