GATE 処刑人、彼の地にて斯く断罪せり   作:ドレッジキング

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銀座事件の犠牲者の遺族達って確実に存在すると思うんですけど、ゲートの劇中では彼等がクローズアップされる事は無かったような…。自分の中のモヤモヤを作品で発散させていきたいと思っております。


プロローグ
帝国の皇女


「嘘……、何でこんな所に…?」

 

 

 

気分転換を兼ねてアキバのメイド喫茶に入った由佳は外の景色を見ながらコーヒーを飲んでいたが、自分の前方数メートルの地点にいる少女を目にして、自分の筋肉と脳が静止する感覚を体感した。目の前でメイド喫茶の店員と話している赤髪の少女以外の人間が由佳の視界に入らなくなっているのだ。由佳の目の前にいる赤髪の少女は"帝国"の第3皇女にして、第10位王位継承権を持つピニャ·コ·ラーダだ。

 

 

 

ピニャはメイド喫茶の女性店員と何やら談笑しているが、由佳にはどうでも良い事だった。あの日、由佳の人生が激変したあの事件の根本の原因となった帝国の、しかも皇女が目の前にいるのだ。由佳は自分の体内を流れる血液が沸騰してくるのを感じた。由佳が目の前のピニャの容姿を知ったのは3週間前の事だ。由佳が所属している会の代表が「特別なルート」を経て入手した情報によるものだ。

 

 

 

由佳が見たファイルには帝国の皇帝や皇太子の顔写真やプロフィールが詳細に記されており、目の前にいるピニャの顔写真も掲載されていた。由佳は帝国の皇帝と皇太子、皇女の顔をしっかりと自分の脳裏に焼き付けた。

 

 

 

そして由佳はゆっくりと席を立つと、ピニャの方に向けて歩き出した。由佳はポケットにナイフを忍ばせつつ、ピニャに向かって一歩一歩歩み寄る。由佳の身体からは殺気が放たれており、ピニャと一緒においた伊丹と栗林はピニャに近付いてくる由佳に気付いた。

 

 

 

そして由佳はナイフを取り出すと、ピニャに向かって切り掛かる。が、栗林は間髪入れずにナイフを持っている由佳の右手首を掴み取る。しかし、その動きを読んでいたのか、由佳はすぐに左手で栗林の手を振り払うと同時に右脚を大きく上げて蹴りを放つ。

 

 

 

由佳の放った回し蹴りは見事に栗林の首筋に命中したのだが、栗林は全く怯んだ様子を見せない。それどころか、逆に由佳の方がバランスを崩してしまい、地面に倒れ込んでしまう。由佳は何が起きたか分からず混乱するが、すぐに立ち上がって再び攻撃を加えようとする。

 

 

「何よ貴方達!邪魔しないで!」

 

 

由佳は栗林と伊丹に対して怒鳴る。対する二人は全く動じていない様子だ。

栗林は由佳の目を見据えながらどうしてピニャを攻撃したのかを尋ねる。勿論、ピニャが帝国の皇女だという事実は伏せてある。

 

 

「貴女、どうして彼女にナイフで斬りかかったんです?理由を教えてください」

 

 

「うるさいっ!!︎」

 

 

由佳はそう叫ぶと栗林に再び殴りかかるが、今度はあっさり避けられてしまう。由佳は再び攻撃を仕掛けるが、それも簡単にかわされてしまう。

 

 

「落ち着いてください」

 

 

栗林は冷静な口調で言うが、そんな言葉など今の由佳にとっては無意味だ。

 

 

「黙れぇえ!!」

 

 

由佳は栗林に蹴りを放つが、またもやあっけなく交わされてしまい、そのまま地面へと転倒してしまう。

 

 

「お願いですから話を聞いて下さい」

 

 

栗林の言葉を無視して由佳は立ち上がり、再び攻撃を繰り出す。栗林はため息をつくと、懐に手を入れて拳銃を取り出した。

 

 

「これ以上続けるなら撃ちます」

 

 

栗林の冷たい声に由佳の動きが止まる。由佳はナイフを床に捨てるも、尚もピニャを睨んでいる。

 

「お前さん、何で彼女を攻撃したんだ?」

 

伊丹は由佳に尋ねる。

 

「…その女が"帝国"の皇女だからよ」

 

伊丹と栗林はピニャが帝国の皇女である事を目の前の由佳が知っている事に驚く。最も、ピニャを攻撃した時点である程度の予想はしていたが、ピニャが帝国の皇女である事を一般人が知っている筈がないのだ。

 

 

伊丹と栗林は由佳がアメリカかロシアのスパイか工作員ではないかと考えたが、すぐにその線は無いと断言した。気配の消し方や戦い方がスパイや工作員にしてはお粗末過ぎるからだ。由佳はピニャを護衛している伊丹と栗林に対して苛立ちを隠せていなかった。

 

 

「貴方達はどうしてその女を…帝国の皇女であるピニャを守るの!?」

 

 

由佳の問いに伊丹と栗林は顔を見合わせる。そして伊丹が口を開く。

 

 

「俺達は確かにピニャ殿下を護衛しているが、ピニャ殿下は帝国の特使としてこの

日本を訪れているんだ。俺達自衛隊がピニャ殿下を守るのは当たり前だろ?それに今は帝国と日本は講和条約を結んでいるんだ」

 

 

「講和条約が何よ…!帝国が先に日本を攻撃したって言うのに、どうして帝国と仲良くできるのよ!」

 

 

由佳は立ち上がると、ピニャ目掛けて突進していく。ここでピニャを殺さなければ二度とチャンスが来ないかもしれないのだ。しかし、由佳の攻撃はまたしても栗林に阻まれる。栗林は由佳の右腕を掴むと、そのまま背負い投げを決める。由佳は背中を強く打ち付けられ、一瞬呼吸困難に陥るも、すぐに起き上がろうとする。

 

 

「まだやる気ですか?」

 

栗林は冷徹な声で由佳に尋ねる。

 

「当然でしょ?その女を殺すまでは諦めない…!」

 

が、由佳は倉田と富田によって取り押さえられてしまった。由佳は暴れるが、2人の自衛官の力には敵わず、身動きが取れなかった。

 

「離してよ!そいつをぶっ殺さないと気が済まないの!」

 

「いい加減にしなさい!これ以上騒ぎを起こすようなら公務執行妨害で逮捕しますよ!」

 

由佳は必死に抵抗するが、2人の力ではどうする事もできなかった。

 

「ちょっと!放しなさいよ!」

 

由佳は暴れながら倉田と富田に叫んだ。結局、由佳は伊丹と栗林に連行される形でメイド喫茶を出た。その後、由佳は伊丹と栗林に厳重注意を受けた後、解放される事になった。

 

しかし、由佳は納得していなかった。何故自分がこんな目に遭わなければならないのか、自分はただピニャを殺したかっただけなのに、それが何でこうなるのか、由佳は目の前にいる伊丹と栗林に対して怒りを露わにする。

 

「私を警察に突き出さなくていいのかしら?」

 

由佳はまだ16歳であり、高校1年生だ。本来ならば警察沙汰になれば親権者に連絡が行き、由佳は保護者の迎えが来るまで警察署で事情聴取を受ける事になるのだが、今回は事情が違う。

 

「お前さん、どうして彼女がピニャ殿下だと分かったんだ?誰かから教えられたのか?」

 

「ハァ?知ってても貴方達に言うわないでしょ、バ〜カ」

 

「おい、こっち向け」

 

由佳は伊丹と栗林の方へ振り向いた瞬間、顔面に衝撃を感じた。栗林の拳が由佳の頬に命中すると、由佳はそのまま地面に倒れ込んだ。

 

「お前さん、少しは頭を冷やしたらどうなんだ?」

 

伊丹は地面に倒れている由佳を見下ろしながら言う。

 

「うるさい!あんたらだって同じでしょ!帝国の犬め!日本を守る自衛隊の癖に、何で帝国の皇女と仲良くしてるのよ!」

 

「…確かに私達はピニャ殿下と懇意にしてます。しかし、それは彼女本人と親しいだけであって、私達自衛隊が帝国に傅いているわけじゃありません」

 

「嘘つけぇ!!︎」

 

由佳は立ち上がって栗林に殴りかかるが、栗林は由佳の手首を掴んで捻り上げると、そのまま地面に組み伏せる。

 

「痛っ!何すんのよ!」

 

「貴方が大人しくならないからです」

 

「放してよ!」

 

由佳は暴れるが、栗林は由佳の両手首をしっかりと握り締めて拘束する。

 

「もう止めてくれ。これ以上騒ぐなら本当に逮捕するぞ」

 

「そうです。貴女は暴行未遂で現行犯逮捕されるんですよ?」

 

伊丹と栗林の言葉に由佳は悔しそうな表情を浮かべる。

 

「……クソッ!」

 

由佳は悪態を突く。帝国の皇女であるピニャが目の前にいるのに、自分は何もできない。伊丹は由佳に対して何故ピニャを襲ったのか理由を聞く事にした。

 

「なぁ、何でメイド喫茶でピニャ殿下を攻撃したんだ?理由を教えてくれるか?」

 

「…………」

 

由佳は黙ったままだ。

 

「黙っていたんじゃ分からないだろ。教えてくれないか?俺達が何か気に障る事をしたなら謝るから」

 

由佳はしばらく黙っていたが、やがて口を開いた。

 

「……別に大した理由じゃないわよ。貴方達だってあの事件の事は知っているでしょ?」

 

「銀座事件の事か。って事はお前さんは……」

 

「ここまで言えば分かるでしょ。私は銀座事件の生き残りよ……」

 

伊丹と栗林は由佳の言葉に絶句した。

 

「……そうだったんですか」

 

栗林は呟き、伊丹も言葉が出てこなかった。

 

「……ねぇ、貴方達は帝国を恨んだことはないの?帝国のせいで私の家族は死んだのよ?日本は帝国と国交を結んで講和をしたけど、私達遺族にはそんなの関係ないの!帝国が…帝国が私や他の遺族の人達の家族や友人を殺したって事実は未来永劫残り続けるの!!」

 

由佳は伊丹と栗林に叫ぶ。伊丹と栗林は由佳の叫びに何も言い返せなかった。

 

「…仮にピニャ殿下を殺したって貴女の家族の仇は取れないわよ?」

 

栗林は冷静な口調で言う。

 

「そんなの分かってるわよ……でも……それでも……!」

 

「アンタ達自衛隊は国から命令を受けて動いていればそれでいいんでしょうけど、私みたいな民間人の声はいつも政府に無視される!私達遺族が帝国との戦争再開を望んでも、政府は知らんぷりじゃない…!国会でデモをしたって…帝国への報復を叫んだって…私達はいつも泣き寝入りするのよ!」

 

「……確かに俺達は帝国との平和条約締結の為に動いている。ピニャ殿下は日本との講和の為に来られたんだ。俺達はピニャ殿下の護衛をしているが、俺達自衛隊がピニャ殿下に忠誠を誓っているわけではない」

 

伊丹は栗林に視線を向ける。栗林は小さく首肯し、伊丹は由佳に向き直ると口を開く。

「……俺達自衛隊は帝国と戦争をしたいと思っているわけじゃない。俺達自衛隊は帝国と友好関係を築きたいんだ」

 

「……!!」

 

由佳は伊丹の言葉に目を見開く。「この人は何を言っているんだろう?」由佳は心の中でそう思った。

 

確かに日本政府は帝国に対して銀座事件の賠償金を請求しているが、日本政府は金さえ貰えればそれで良いのだろうか?金さえ受け取れば銀座事件での大量虐殺行為は無かった事になるんだろうか?帝国の皇帝や皇族を裁判に掛けて責任を追及する事さえしない日本政府に対して、由佳は失意と怒りを抱いていた。会の代表から手渡された資料には「ピニャは講和派」と記載されてあったが、向こうが講和を望んだとしても、それを拒否する事もできた筈だ。

 

「……ねぇ、皇女のピニャは日本との講和を望んでいるんでしょ?貴方達自衛隊はピニャが持ち出した講和を拒否する事だってできた筈じゃない?何で講和を拒否しなかったの?」

 

栗林に抑えつけられた状態の由佳は、伊丹の目を見ながら言う。

 

「それは……」

 

伊丹は答えに窮する。

 

「伊丹さん、ここは私が」

 

栗林は由佳の問いに答える。

 

「確かに私達はピニャ殿下の申し出を受け入れました。しかし、それはピニャ殿下が日本と帝国との間に結ばれた講和条約の締結を望むと言った為です。私達はピニャ殿下の希望を叶えただけです」

 

由佳は栗林の言葉に絶望した。帝国との講和などせず、そのまま戦い続けて帝都を陥落させていれば由佳や他の遺族達の気持ちも幾らか晴れただろう。しかしそんな望みさえも潰えてしまった。この自衛隊員達は日本国民を守る事よりも、帝国との関係の方を重要視しているのだ。いや、それは日本政府も同じだが。結局帝国は銀座事件の賠償金を払わされる程度の「罰」で済まされる。理不尽だ、不条理だ、由佳の心は怒りで満ちていった。

 

「……貴方達は……貴方達は最低よ!!︎帝国との関係の方がそこまで大切なの!?」

 

「違う!!︎」

 

伊丹は由佳の言葉を否定する。

 

「俺達は帝国と仲良くなりたいとは思っていない。ただ、帝国の皇女であるピニャ殿とは良好な関係を築いているだけだ」

 

「講和派だろうとピニャは帝国の皇女よ!!心の中では日本と日本人を見下して、日本を植民地にしようと思っているんでしょ!?」

 

「そんな事は断じてない!ピニャ殿下はそんな方ではない!」

 

「嘘よ!現にピニャは私達遺族に謝罪すらしていない!ピニャは私達遺族の事なんてどうとも思ってないのよ!私と私の家族があの日…銀座でどんな目に遭ったかあの女は知らないのよ!!」

 

 

そう、全てはあの日から始まったのだ。全ての発端となった「銀座事件」の日から。




銀座事件の被害者の遺族達がアキバで遊んでる帝国の皇女のピニャを見たらと思うと…(;^ω^)
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