GATE 処刑人、彼の地にて斯く断罪せり   作:ドレッジキング

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プロローグの4話目です。というかプロローグ長くね?(^_^;)

書いてる時もMARVELとのクロスオーバーという事実を忘れる程に銀座事件の被害者である由佳ちゃんの描写に力が入っちゃう。


帝国への憎悪

「それじゃお前さんは本当に米露のスパイじゃないんだな?」

 

「当たり前でしょ!私がそんなのに見える!?」

 

メイド喫茶でピニャに襲い掛かった由佳は、伊丹と栗林に厳重注意されるだけで済まされ、そのまま解放される予定だったのだが、由佳が銀座事件の犠牲者の遺族だという事を知った伊丹によって任意同行(強制連行)の元、ピニャが滞在しているホテルの部屋に入れられていた。由佳が入れられたのは和室タイプの部屋で、由佳は部屋の中央にあるテーブルに座り、由佳の正面には伊丹と栗林が座っていた。富田と倉田は後ろで立っており、いつでも由佳を抑える準備をしている。由佳は伊丹と栗林が自分の事をアメリカかロシアのスパイではないのかとしつこく聞いてくるので、呆れ半分、怒り半分だった。

 

それだけ帝国の皇女であるピニャが各国に狙われている事に神経質になっているのだろうが、由佳にとってはどうでも良かった。そして伊丹は銀座事件の生き残りである由佳に対して、ある質問をする。

 

「なぁ、お前さん……銀座事件の生き残りなんだよな?お前さんの親御さんは…」

 

「…いちいち尋ねなくても、今の私を見れば察しが付くでしょ?」

 

「……そうだな」

 

「それでお前さんはどうやってピニャ殿下の情報を入手したんだ?アメリカやロシアが銀座事件の犠牲者の遺族に対して情報を流しているっていう線も否定できないんだ」

 

由佳は自分が所属している『銀座事件被害者の会』の事を伊丹と栗林に話さなかった。あの事件の後、心の中にぽっかりと穴の開いた由佳にとって、自分と同じ苦しみを持っている人達と交流する事で幾らか心が晴れた。被害者の会に所属している人達の帝国に対する怒りと憎悪は尋常ではない。同じ痛みを共有する者同士、固い結束を持っていた。当然、由佳は伊丹と栗林に対して被害者の会の事を話す気にはなれなかったのだ。

 

「それは……言えないわ」

 

「何故だ?」

 

「……言える訳ないでしょ?もし警察の人がその事を知ったら……沢山の人に迷惑を掛けるから……」

 

由佳は被害者の会の人々に迷惑を掛けたくなかった。いや、元はと言えば由佳自身がメイド喫茶にいたピニャに襲い掛かったのが原因なのだが、あの時の由佳は自分を抑える事ができなかったのだ。あの日、銀座での出来事で地獄を味わった由佳にとって、侵略した土地である日本のメイド喫茶で楽しそうにしているピニャの姿が我慢ならなかった。帝国と講和した途端、帝国の皇女であるピニャが何の制限も受けずに日本の観光名所を巡っていると思うと腸が煮えくり返る気分だ。自分の配下の帝国兵達が銀座では大暴れしたというのに、それを咎めるどころか歓迎ムードまで醸成している始末。由佳はピニャが許せなかった。

 

「だから……悪いけど……これ以上私の家族の事は聞かないで……」

 

由佳の悲痛な叫びに、伊丹と栗林は何も言えなかった。

 

「分かった……すまねぇ……無理に聞き出そうとして……」

 

「ねぇ、一つだけ聞かせてちょうだい。皇女であるピニャは講和派だけど、仮に日本が帝国よりも圧倒的に弱くて、簡単に帝国に制圧されるような国でもピニャは日本と講和していたの?」

 

由佳の問いかけに伊丹達は押し黙る。ピニャとて帝国の皇女としての立場上、仮に日本を征服できていたとしたら、講和など結ばなかっただろう。ピニャは銀座の『門』を通ってアルヌスの丘に来た自衛隊の装備と技術を見て、帝国では自衛隊に勝てない事を悟ったからこそ日本と講和したのだ。だから仮に日本が帝国に簡単に征服されるような国だった場合、講和していたかどうか甚だ怪しい。

 

伊丹は答えた「あぁ、間違いなく講和を結んでいただろうな」。

 

「嘘言わないでよ…。自衛隊に勝てないからやむを得ず日本と講和したんじゃないの?」

 

「確かに、お前さんの言うとおりピニャ殿下は帝国の力では自衛隊に勝てないから日本と講和する道を選んだ。けどそれは自分の国である帝国を護る為にした事だ」

 

「やっぱりそうじゃない…」

 

日本は帝国と講和条約を結び、アルヌスの丘を『日本国アルヌス州』とする事を帝国に認めさせた。そして帝国に対して賠償金も請求している。しかしそんな程度の事で銀座事件の地獄を生き延びた由佳は納得しなかった。講和条約にしても『日本国アルヌス州』にしても結局日本政府が自国の「国益」を優先しているだけで、国民の安全など二の次ではないか。何より帝国の皇帝や皇族には銀座事件を引き起こした罪という意味で裁判すらも受けていない。銀座事件で五万六千人もの人々を虐殺しておいて、日本政府が帝国側に対して要求したのは「土地」と「金」なのだ。日本政府のこうした政策に対して由佳が所属している『銀座事件被害者の会』

の者達は絶望の底に落とされた。一から十まで上手く行くとは思っていなかったが、遺族達が予想した中でも最悪のシナリオである。由佳も政府の判断に対して深い憤りを覚えた。

 

「そんな……そんな理由で私達の両親は殺されたの!?ふざけんな!!」

 

「落ち着け!俺達も政府の対応に不満を持っているが、今は耐えるしかないんだ!もうすぐ政府と帝国の間で交渉が行われる!その時、帝国が今までの事を謝罪すればあるいは……」

 

「今更そんな事言っても遅いわよ!!結局日本政府が帝国に求めているのは土地と金じゃない!何が『日本国アルヌス州』よ!そんな物を手に入れる為に銀座の『門』を通って向こうの世界まで行ったの!?」

 

由佳は怒りのあまりテーブルを強く叩いた。

 

伊丹は頭を掻きながら溜息をつく。

 

「私は…私は銀座事件を生き延び、今日まで生きてこれたのは私の家族を奪った帝国がどんな結末を辿るのかを見届ける為なのよ…。自分の手で帝国に復讐なんてできない、せめて日本政府が自衛隊を使って帝国に「償い」をさせれば私の気持ちも幾らか晴れたかもしれない。なのに…」

 

「なのに…貴方達自衛隊と日本政府は帝国との「講和」を選んだ……。銀座事件で殺された人達よりも帝国との関係を優先したのよ…。何が自衛隊よ…、日本国民を守るのが使命じゃなかったの…?私は…私達遺族は帝国との「和解」や「仲直り」なんて求めてないのに…」

 

由佳はテーブルに顔を突っ伏したまま涙を流す。伊丹は由佳の言葉に何も言い返す事ができなかった。

 

栗林は由佳に慰めの言葉をかける。

 

「貴女が辛いのは分かります…でも、今は我慢しましょう……。憎しみと怒りに囚われていては前には進めません。それに、私達は講和に賛成です。帝国が今までの罪を反省し、賠償してくれさえすれば……きっと帝国とも仲良くなれるはずですよ」

 

「……犯罪しても反省したり賠償金を払えばそれだけで罪は「帳消し」になるの?」

 

「…………」

 

栗林は由佳の問いに対して答える言葉を持たなかった。

 

その時、部屋のドアが開き、ピニャが入ってくる。ピニャは靴を脱いで部屋に入ると、テーブルに座り、由佳に語り掛けてきた。

 

「ユカ殿、お主の気持ちは分かるぞ。妾も同じ立場であったなら、帝国を恨んだであろう。しかし、今は堪えてくれぬか?講和が成った暁には、必ずや帝国は謝罪する。だからそれまで待ってくれないか?」

 

「……ねぇ、貴女は何でそんなに楽しそうなの?」

 

「え……?」

 

「……自分の国の兵士達が民間人を大量虐殺をした国で観光できて楽しいの?日本の文化に興味があるの?」「そ、それは……」

 

「答えられないわよね……。だって貴女の国は銀座で大虐殺を起こしたんだからね……。帝国が侵略しなければ、あんな事にはならなかったのに……。」

 

「……」

 

「講和が成って帝国が謝罪するっていうけど、そんなの信じられる訳ないでしょ……。結局はまた帝国が侵略してくるに決まってるわ……。それに…」

 

「それに…貴女は今までに一度でも銀座事件の犠牲者の遺族や生き残りの人達と会った事はあるの?彼等があの日、銀座事件でどんなに人生を狂わされたのか貴女には想像できる?」

 

ピニャは言葉を詰まらせる。

 

「妾は……妾は……ただ……」

 

「帝国は私達に謝罪する気なんかないわ……帝国が本当に謝罪したいのはアルヌスの丘で暮らしている帝国の民に対してでしょう……?帝国は自分達の領土を広げたいだけ……だから講和が成ったら今度はアルヌスの丘に攻め込んでくるに決まっている……」

 

「だから……だから……お願いだから……講和なんて結ばないでよ…!!私は帝国との講和なんて望んでないのよ!!」

 

そう言うと由佳は立ち上がり、ピニャの顔面を殴りつける。ピニャは殴られた衝撃で倒れ込み、口元から血が流れる。伊丹は慌てて由佳を押さえつけ、栗林は由佳を羽交締めにする。

 

羽交い絞めにされた由佳は泣き叫んだ。今まで抑えていた激情が噴出したのだろう。

 

伊丹は由佳を落ち着かせようと必死に宥める。栗林は由佳を諭すように話しかける。そして栗林は由佳を抱きしめ、優しく語り掛ける。

 

「由佳さん…落ち着いて下さい。今ここでピニャ殿下を殺したら貴女はテロリストになってしまう。貴女は復讐の為にテロを起こすつもりですか?」

 

「私には…私達には帝国と戦う力なんてないのよ…。だから…だからこういう方法しかないの…。日本政府も自衛隊も私達を助けてくれないから…だからこういう方法しか無いのよ…」

 

銀座事件の被害者達がどれだけ声高に日本政府に対して帝国への報復を訴えても、日本政府は自国の国益を優先し、帝国に対して「土地」と「金」を要求した。被害者達とて所詮は一般市民の集まりである。強大な軍事力を持つ異世界の帝国相手に何ができるのだろうか?被害者達に出来るのは、言論を用いての政治運動か、今の由佳がしているような帝国の要人を町中で襲うしか戦う手段を持っていない。そんな被害者の一人に過ぎない由佳は余りにも無力であった。伊丹は由佳の肩に手を置き、静かに言う。

 

「お前さんの気持ちは痛いほどよくわかる。けどな、俺達は帝国軍に復讐する為に生きているんじゃない。生きていく為に、明日を生きる為にこうしてるんだ。」

 

「復讐は何も生まないなんて綺麗事を言うつもりはない。復讐に囚われた奴は視野が狭くなるからな。復讐に囚われて身を滅ぼした人間なんてごまんと見てきた。復讐に囚われた人間は、復讐に囚われている間は絶対に幸せになれないとな。」

 

「……私は幸せなんて求めてない!お父さんも、お母さんも、妹の香織も、お兄ちゃんも全員銀座事件で死んだ今、どうやって幸せになれるって言うのよ!?私の幸せは…全部帝国に奪われたの…」

 

そして伊丹は由佳の目を見据えながらゆっくりと語る。

 

「……なぁ、由佳さんよぉ。復讐ってのは確かに辛いし苦しいさ。復讐したい相手を殺すまで、延々と苦しみ続ける事になる。けどな、復讐に復讐を重ねても何も生まれやしないんだよ。復讐は復讐を呼び、憎しみの連鎖が生まれるだけだ。復讐の先に待っているのは破滅なんだぜ?」

 

由佳は先程自分が殴ったピニャの方を見る。そこには頬に赤い痣を付けたまま、心配そうにこちらを見ているピニャの姿があった。

 

「なんでそんな目で私を見るのよ…?私は…貴女を殺そうとしたのに…」

 

「妾は……ユカ殿に恨まれていても仕方がないと思っておる。妾はユカ殿の家族の仇だからな……」

 

「私は……私は……」

 

由佳は俯き、嗚咽を上げ、伊丹は再び由佳に語り掛ける。

 

「由佳さんよ、あんたが帝国を許せないのは分かる……でも今は堪えてくれないか?それにこのまま帝国が日本に対して再び悪さをすれば流石に日本だって黙っていないさ。政府だって何度も帝国の悪事を許す程寛容じゃないからな。」

 

伊丹は由佳の頭をポンと軽く叩く。

 

「大丈夫だ。俺達は日本を信じろ。今は堪えてくれ。な?」

 

「……」

 

由佳は伊丹の言葉に答える事ができなかった。

 

**********************

 

伊丹達の滞在しているホテルから解放された由佳は、銀座事件の現場となった銀座四丁目に来ていた。由佳は銀座事件の犠牲者を悼む慰霊碑の前に立っている。銀座に出現した『門』は自衛隊の管理下に置かれており、ドーム型のシェルターで覆われている為、外側からは『門』を確認する事はできない。由佳は慰霊碑に刻まれた父の明彦、母の沙苗、妹の香織、兄の壮一の名前をじっと見つめていた。ホテルで伊丹から「復讐」はやめておけと忠告されたが、簡単に割り切る事などできなかった。

 

(私がもし自衛官だったら、こんな事態が起きる前に対処できたかもしれない……。あの時、もっと早く自衛隊が動いてくれていれば、銀座事件は起きなかった……。)

 

由佳は「もしも」の話をするのが好きではなかった。しかし、「もしも」の話をせずにはいられなかったのだ。何故なら、自分はこれからどうしたら良いのか分からなくなっていたからだ。

 

その時、背後から声を掛けられる。振り返るとそこには『銀座事件被害者の会』の代表である坂東がいた。

 

「由佳ちゃん、ここにいたんだね」

 

「坂東さん…」

 

由佳は被害者の会を主催する坂東には大変世話になっていた。坂東自身も、銀座事件で妻と娘を亡くしており、自分と同じ苦しみを持つ者達を集めて『銀座事件被害者の会』を立ち上げた。そして被害者の会は今や全国で20万人もの会員を擁する程に成長。日本政府に対して帝国との講和の即時撤廃と、帝国への報復を呼び掛け続けている。

 

「……坂東さん、怒りや憎しみを抱くのって間違っているんでしょうか?復讐は何も生まないっていう言葉を聞く度に私は胸がモヤモヤするんです」

 

「そうだねぇ……復讐なんてのはただの自己満足に過ぎないのかもしれない。でもさ、やっぱり大切な人を失った悲しみはそう簡単に癒えるものじゃないと思うんだ。失った物は帰ってこない……だからこそ復讐という形で心の傷を誤魔化しているのかもしれない」

 

「……私達は何の為に生きているんでしょう?もう……復讐する事しか残されていないのに……」

 

「こうして由佳ちゃんが生き残った事にもきっと意味はあるんだよ。かくいう僕も家族を奪った帝国を憎んでいるんだ。人ってのは簡単に怒りや憎しみを克服できない生き物だからね。歴史を見てもそう思う。……僕はね、こう考えるんだ。怒りや憎しみだって、人間に備わっている素晴らしい感情の一つだって」

 

「え…?」

 

「怒りや憎しみっていうのはマイナスのイメージで語られる事が多いけど、とんでもない。世間では如何に怒りや憎しみを克服するかっていう話ばかりだけど、それは違う。人間は怒らなければ、憎しみを抱かなければならない。怒りも憎しみも忘れた人間なんて、それはもう人間じゃなくて別の何かだ」

 

「怒りや憎しみ、そして復讐を乗り越える事は美談にされがちだけど、本当に必要なのは乗り越えることじゃない。それを受け入れて、前に進むことだと思う。」

 

「まぁ……何が言いたいかっていうと、復讐を果たした上で前に進めばいんだよ。」

 

「……はい」

 

「だから怒ってもいいんだ、恨んでもいいんだ。それが由佳ちゃんが生きる為の理由になるんなら。無気力になって生きる希望も見いだせなくなる事の方が余程恐ろしいよ。」

 

「はい……」

 

「いいかい、復讐をしたいのならそれ相応の覚悟を持って進まなきゃいけない。少なくとも、他人にどうこう言われた程度で揺らぐ復讐心ならその程度のレベルって事さ」

 

坂東と由佳は深夜の銀座の街を並んで歩く。あの日、由佳は『門』から出現した帝国の兵士達やモンスターに家族を殺され、自分は逃げ回った。銀座の通りを歩いていると、銀座事件の日の事を思い出し、由佳の身体は震える。そして震える由佳の肩に優しく手を置く坂東。

 

「由佳ちゃんは今自分がどんな顔をしているか分かっているのかな?復讐に囚われて、まるで般若みたいな顔だよ。」

 

由佳は思わず頬に手を当てる。

 

「ふっ……冗談さ。由佳ちゃんは可愛い女の子なんだ。そんな怖い表情は似合わない。笑っている方がずっと素敵さ」

 

「あ……ありがとうございます……!」

 

数分程歩いた後、由佳は坂東と別れ家へと歩き出した。そして坂東は笑顔で後ろ姿の由佳を見守る。

 

 

 

 

坂東の身体が光に覆われたかと思うと、そこには坂東ではなく鹿のような長い二本の角が装飾された金色の兜を被った『邪神』がいた。『邪神』は由佳の後ろ姿を見ながらほくそ笑む。

 

「そうだ…憎め…怒れ…。お前達が望む帝国への復讐は私が叶えてやろうぞ」

 

 

――――――――このロキ・ラウフェイソンがお前達に復讐の機会をやろう。




「笑いの神」登場。けどこの作品に限っては全然笑えない事をするんですけどね。
銀座事件の被害者の遺族達って絶対に多い筈なのに、何で原作では描かれなかったんだろう…?
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