GATE 処刑人、彼の地にて斯く断罪せり   作:ドレッジキング

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プロローグ5話目です。というかどんだけプロローグ長いんだよ(;^_^A

実際伊丹達自衛隊の面々が帝国への憎悪を叫ぶ銀座事件の遺族を見たらどんな反応するんだろう?伊丹自身も銀座事件の現場に居合わせているわけだから、あの事件の悲惨さは分かると思うんだけど…。



売国奴

帝国からの特使であるピニャは総理大臣との会談を終えた後、伊丹達と共に有楽町を歩いていた。帝国と日本の講和が成功し、日本の帝国に対する賠償金の件についてもスムーズに進んでいる。

 

「伊丹殿、これで日本との交渉は上手くいきますな」

 

「そうですね。一時はどうなるかと思いましたよ」

 

「伊丹殿の交渉術には驚かされました。ニホンの方々は皆ああも巧みなのですか?」

 

「まさか。俺なんかまだまだですよ。今回も結構危なかったですからね」

 

「伊丹さんは交渉とか得意じゃないでしょ」

 

だがピニャには気になる点があったようだ。自衛隊が初めて『門』を越えて向こう側の世界に入った時、帝都のウラ・ビアンカにある帝国議会の建物が何者かの攻撃を受け、帝国議会の建物は半壊、元老院のメンバーが多数死亡した件について日本の総理は一貫して関与を否定していた。あの現場にいた兵士達の証言によると、犯人は単独であったようだ。何でも全身を黒い鎧に包んだ男で、身体から強力な飛び道具を射出し、何百もの帝国兵達が何もできずに殺されたのだという。そして事が終わると、空を飛び去って帝都から離れていったそうだが、皇帝であるモルトはこの襲撃を日本の自衛隊の仕業であると考え、日本との講和にスムーズに応じたのだ。日本政府と自衛隊としても帝都の議会を襲撃した覚えはないのだが、皇帝のモルトには日本の仕業だと思い込んでいてもらった方がかえって好都合だったのだ。伊丹と栗林は帝都にある議会を襲撃した犯人の特徴に心当たりがあった。

 

(……アイアンマンじゃないかそれ?いや、黒いアーマーだからウォーマシン?)

 

(隊長、ローズ大佐が秘密裏に銀座の『門』を通って帝国まで行ったんでしょうか?)

 

(そんな事は有りえない。米軍に所属しているローズ大佐が来るなんて事は一言も伝えられてないし、米軍との共同作戦なんて話も聞いていない)

 

伊丹と栗林はアベンジャーズに所属しているアイアンマンと、ウォーマシンの事を思い出す。しかしピニャはアベンジャーズの存在自体知らないので、アイアンマンやウォーマシンの事が分かる筈もない。それにウォーマシンの中身は米軍のローズ大佐である。もし米軍が日本政府にも秘密で銀座である『門』から特地へと侵入したのであれば米国と日本の外交問題にも発展しかねない。事実、総理はディレル大統領にこの事を尋ねたが、見事にはぐらかされたようだが。

 

「……?どうかしたのか?」

 

「いえ、なんでもありません」

 

「ところで帝国が賠償として支払う金額はどれくらいなのだ?もしよかったら妾にも教えてくれないか?以前に提示した金額の場合、帝国ではとても払いきれないのだ…」

 

「えぇ、なるべく早く正確な金額をお伝えできればと思います。ですがもう少し時間を下さい。今はまだ確定していないので……」

 

「そうか……分かった。ではまた連絡してくれ」

 

「分かりました」

 

「それと…帝都にある帝国議会を襲撃した者と、あの時、イタリカに駐留していた妾の麾下たる薔薇騎士団のメンバーの半数以上を殺害したのは同一犯である可能性はあるのか?外見的特徴がハミルトンの証言と一致している。妾としても部下を殺した鎧の男を何とかしてやりたいのだが…。あの男が何者であるか分からない以上は下手に動けないな」

 

「そうですね……私も気になります」

 

「薔薇騎士団のメンバーを殺した鎧の男が自衛隊の関係者であるという事は考えられないか?その…ボーゼスとパナシュの二人は伊丹殿に対して酷い仕打ちをしただろう?その報復…という事も考えられるのだ。妾とて自衛隊がそんな事をするとは思えぬのだがな」

 

「「ピニャ殿下!我々は誓ってそのような真似はしません!」」

 

ピニャの言葉に対して伊丹と栗林は声がハモる。ピニャは思わず苦笑いする。

 

「殿下…その…ボーゼスとパナシュの事はお気の毒です」

 

「気にするな。あいつ等とて騎士だ。自分が死ぬ事も覚悟の上だっただろう」

 

謎の黒い鎧の男が帝国議会を襲撃した事で、主戦派だった帝国の貴族達も日本との講和派へと続々鞍替えした。単独であそこまでの損害を帝国にもたらせる日本の自衛隊の実力を見せつけられ、皇帝や主戦派の貴族連中も日本の力を思い知る事になった。講和派のピニャや日本政府にとっては皇帝や貴族達には黒い鎧の男が日本の自衛隊の仕業だと勘違いしてもらった方が好都合だったのだ。日本との主戦派の急先鋒だったゾルザルでさえも最近は大人しくしている。だがピニャとしては最近ゾルザルが妙に大人しいのが気がかりだった。

 

ピニャは伊丹と栗林に尋ねる。

 

「伊丹殿、あの黒い鎧の男が本当に自衛隊の者ではないとすれば、帝国や妾にとっては敵という事になる。伊丹殿はあの男をどうするつもりだ?」

 

「我々としては自衛隊ではない黒い鎧の男を国境侵犯罪、もしくは銀座にある『門』から特地へと侵入した不法侵入罪に問う事ができます。最も、黒い鎧の男は我々自衛隊を直接攻撃したわけではないので、そこまで重い罪に問う事はできませんが」

 

「つまり自衛権の行使として、黒い鎧の男を捕らえるつもりなのか?」

 

「はい」

 

「そうか……なら妾は伊丹殿に任せようと思う。」

 

「「「「!?」」」」

 

ピニャの発言に対し、伊丹と栗林、富田と倉田は驚愕する。ピニャは続けて口を開いた。

 

「あの黒い鎧の男が『門』を通って帝国に来たのだとすれば、伊丹殿達がいるこの日本か諸外国にいる可能性が高い。妾は伊丹殿達にあの黒い鎧の男の捜索を依頼する」

 

「分かりました。必ず帝都の議会を襲い、殿下の配下である薔薇騎士団のメンバーを殺害した犯人を俺達が突き止めます。」

 

伊丹はピニャに力強く答える。そして倉田が昨日、メイド喫茶でピニャを襲った由佳の事を調べ、由佳が所属している団体を伊丹達にはなした。

 

「伊丹隊長、昨日アキバのメイド喫茶でピニャ殿下を襲った由佳ちゃんは『銀座事件被害者の会』のメンバーです」

 

「『銀座事件被害者の会』?」

 

「はい。銀座事件の生存者のうち、帝国に憎しみを持つ者達で結成された市民団体です。彼等は日本と帝国との間に結ばれた講和条約の即時撤廃と、武力による帝国への報復を日本政府に訴えています。また、帝国に殺された被害者や遺族達の救済を求めています」

 

『銀座事件被害者の会』は伊丹や栗林もしょっちゅう耳にする市民団体だ。しかし、日本政府は帝国と講和を結んだばかりなので、過激な行動を取る彼等に頭を痛めていた。更に『銀座事件被害者の会』は帝国に対する憎悪を煽るヘイトスピーチまで行っている。

 

「昨日の由佳ちゃんの様子を見る限りじゃ、帝国に対して並々ならぬ憎悪と怒りを抱いているみたいでしたね」

 

「ああ、まるで般若のような表情だったな」

 

「『銀座事件被害者の会』は過激派の集まりなんですか?」

 

「はい、帝国だけでなく『門』の向こうの世界全てを敵視している位ですから。中には『門』を通って特地へ行って帝国兵を皆殺しにしてやるって言っている人すらいますよ」

 

「何とも恐ろしい話だな」

 

「今日は都内にある市民ホールで、『銀座事件被害者の会』の集会が行われているようです」

 

ピニャは倉田や伊丹に対して『銀座事件被害者の会』の集会に行き、彼等と直接話がしたい事を伝えた。

 

「伊丹殿、妾は『銀座事件被害者の会』の集会が開かれているホールに行き、彼等と直接話がしてみたいのだが……」

 

「…殿下は行かない方がいい。帝国の皇女である殿下が彼等と顔を合わせれば、彼等がどんな行動に出るか分かりません」

 

「そうか……」

 

ピニャは帝国の皇女として、銀座事件の被害者や犠牲者の遺族達と話を付けたいと考えた。ピニャ自身は今の今まで銀座事件の遺族達の事など特に気にしてはいなかったが、昨日メイド喫茶で自分を襲った由佳という少女の自分に対する憎悪の瞳を見て、このままではいけないと思ったのだ。

 

最も、仮にも帝国の第三皇女であるピニャが日本の民間団体である『銀座事件被害者の会』に頭を下げて謝罪した事が父である皇帝モルトや、兄のゾルザルに知られれば「弱腰」と誹りや叱責を受けかねない。ピニャは皇女として下手に出る事なく銀座事件の遺族達と話し合うつもりだ。

 

「伊丹殿の言いたい事は分かる。だが銀座事件の被害者の遺族である『銀座事件被害者の会』の者達とはどうしても会っておきたいのだ。元々銀座事件は妾の国である帝国が引き起こした悲劇だ。妾の立場上、完全に非を認めるというわけにもいかぬが、それでも謝罪すべきであろう?」

 

「それは確かに仰る通りですが……」

 

伊丹はピニャの意見に賛成しながらも渋っているようだ。栗林の方を見ると彼女も似たような顔をしていた。

 

「殿下の気持ちは分かりますし、私もその意見には賛成します。しかしですね、相手はテロリストの集団ですよ?何をしてくるのか分かったもんじゃないんですから」

 

栗林の「テロリスト」という言葉に伊丹や倉田は複雑な表情を浮かべる。確かに昨日アキバでピニャを襲撃した由佳は傍から見れば立派なテロリストだろう。だが…彼女がピニャを襲撃せざるを得なかった事情や状況を考えれば、一概に由佳をロリストだと糾弾する事はできない。

 

「伊丹殿、倉田殿、心配するな。妾はそのような者達に後れを取ったりはせぬ。それに万が一何かあってもお主達が守ってくれるだろう?」

 

「まぁ、そりゃあもちろん」

 

「はい、俺達が命に代えてでも殿下をお守り致します」

 

「ならば何も問題あるまい」

 

「俺達にはロゥリィがいるからな。各国の工作員連中が来たって負けないぜ」

 

こうして伊丹達は『銀座事件被害者の会』が主催する集会が開かれている千代田区の市民ホールへと向かった。

 

 

********************************************************************:

 

会場は満員であった。ホールに集まった『銀座事件被害者の会』のメンバーは千人近くいた。伊丹達は自分達の身分と素性を明かした上で受付に参加を希望した。伊丹やピニャの素性を知った受付は椅子からひっくり返る程に驚き、急いで会のお偉方と掛け合い、どうにか参加する事は許可された。そして伊丹達はホールの壇上の裏から、集会の様子を伺った。

 

司会らしき男がマイクを持って集まった聴衆に挨拶をしている。

 

「本日はお忙しい中、集まっていただきまして誠にありがとうございます。これより第二十五回『銀座事件被害者の会』の大会を開催致します。今回はゲストの方々をお招きいたしました。陸上自衛隊第三偵察隊所属の伊丹耀司二等陸尉、同じく栗林志乃二等陸曹、倉田武雄三等陸曹、そして帝国第三皇女のピニャ・コ・ラーダ殿下です」

 

司会の男がピニャの名前と立場を口にした瞬間、会場にどよめきが起こる。

 

「殿下ってあの?」

 

「え、あれが?」

 

「本物?」

 

「まさか」

 

「嘘だろ?」

 

「本当に?」

 

伊丹は周囲の反応に苦笑する。

 

「おいおい、いくら何でも有名人過ぎるだろ」

 

「そうっすね」

 

「殿下はご存知なかったようですが、世間一般では殿下の存在は認知されているんです」

 

そしてまず最初に栗林が挨拶をする事となり、裏幕からステージへと移動し壇上に上がると、マイクの前で聴衆に挨拶する。

 

「皆さん初めまして、私は陸上自衛隊第三偵察隊所属の栗林志乃です。今日は皆さんに会いにこの会場に来ました」

 

栗林は銀座にある『門』から特地に向かった自衛隊の中でも有名人であり、栗林の一騎当千とも呼べる格闘の腕前は世間に知られる事となった。最も、特地での栗林の活躍と彼女の強さを広めたのはピニャや伊丹だったりするのだが。聴衆の中には有名人である栗林が壇上に上がった事で拍手を送る者までいる。

 

「それでは早速始めましょうか。私達の銀座事件を語り合い、犠牲者と遺族の皆様の為に祈り、銀座事件の悲劇を忘れない為にも」

 

栗林はホールにいる『銀座事件被害者の会』のメンバー達に対して、帝国に対するヘイトデモを慎むように忠告する事にした。

 

「銀座事件を生き延びた方や、犠牲者の方の遺族の中には帝国を恨む者もいるでしょう。しかし日本は帝国と講和をしました。『銀座事件被害者の会』の皆さんが帝国の皇女であるピニャ殿下に直接危害を加えるような行動はくれぐれも控えてください」

 

栗林は続ける。

 

「皆さん方の多くは帝国に恨みを持っているでしょう。でも今は怒りに身を任せている場合ではありません。我々日本人は帝国と平和的に話し合い、お互いを理解しあい、平和的な解決を模索しなければなりません」

 

しかし栗林の演説に対して、一人の聴衆が席を立ちあがり、栗林に罵声を浴びせる。

 

「平和平和って言うけどな、俺達の国である日本に攻撃を仕掛けてきた帝国に対して譲歩してるだけじゃないか!!帝国との講和がその証拠だ!これがもしアメリカだったら帝国の帝都を爆撃して、帝国を滅ぼしてくれたかもしれない!その方が少なくとも俺達は帝国に対する憎悪は薄れていたんだ!」

 

「そうだ!!」

 

「帝国の奴等を許すな!!」

 

「戦争を続けろー!!!」

 

「帝国のクソ共を叩き潰せーッ!!!」

 

「「「「「殺せ―――っ!!!」」」」」

 

「帝国に死を!!!」

 

「「「「「帝国に死を!!!」」」」」

 

会場内は帝国に対する憎悪の籠った怒号で溢れた。

 

「ふざけんな!!お前らは帝国を恨んでいないのか!?」

 

「俺の親父は帝国軍に殺されたんだぞ!!」

 

「うちの旦那もよ……!あいつらに殺されなきゃ今頃子供も生まれて幸せに暮らしていたはずなのに……!」

 

「俺の親戚も銀座で死んだ……!なんで俺の家族が死ななきゃいけないんだ……!なんでだよ……!!」

 

栗林は罵声と怒号を浴びせてくる聴衆を宥めるべく、言葉を掛ける。

 

「皆さん、落ち着いてください。皆さんの怒りはわかります。ですが、ここで感情に任せた行動を取ってはならないのです」

 

「じゃあどうしろっていうんだよ!!?」

 

「このまま黙っていろってのか……??」

 

「そうだ……!何もせずにただ見てろって言うのか……?」

 

「政府は私達遺族や生き残りの訴えなんて聞き入れてくれないじゃない!!自分の国の領土を侵犯して、国民を万単位で虐殺した帝国に対して何で譲歩なんかしているのよ!?」

 

「賠償金の問題じゃないんだよ!!何でも金で解決しようとするな!!」

 

「私達の苦しみがわからないの!?」

 

「ふざけんじゃねえ!!俺達は被害者なんだぞ!!」

 

「賠償しろーっ!!」

 

「「殺せ―っ!!」」

 

「「「「「殺せ!!」」」」」

 

ホール内の空気はまさに一触即発であった。

 

その時、会場にピニャの怒声が響いた。

 

「えぇい……!うるさい……!静かにせんか……!!」

 

ピニャの怒声に、会場に溢れていたブーイングはピタリと止んだ。そしてピニャは栗林を下がらせて壇上に上がると、集まった聴衆に挨拶をする。

 

「皆の者、初めましてだ。妾は帝国の第3皇女にして第10位皇位継承者のピニャ・コ・ラーダだ。妾はお主達『銀座事件被害者の会』が主催する大会に顔を出したくなってな。どうしてもお主達を話を付けておきたかったのだ」

 

ピニャは続ける。

 

「お主達の中には帝国に憎しみを抱く者も多いだろう。しかし、今は怒りに身を任せるべきではない。まずは冷静になって話し合うべきだ。お主達の中には帝国の皇女である妾を不快に思う者もおろう。しかし、ここは耐えてほしい」

 

そしてピニャが演説をしていると、一人の聴衆が席を立つ。昨日、ピニャをアキバのメイド喫茶で襲った由佳だ。

 

「……私達の大会に顔を出すなんてどういう風の吹き回しかしら?」

 

由佳はピニャを睨みながら尋ねる。

 

「別に深い意味は無い。お主には一度会いたいと思っておったのでな」

 

「私に会いたかった?」

 

「ああ、昨日は大した話もできなかったからな。お主が所属している団体の大会に参加してじっくりと語り合おうと思っていたのだ」

 

ピニャの言葉に、由佳は身体を小刻みに震わせる。自分達銀座事件の犠牲者の遺族の集会に顔を出し、犠牲者の遺族達の前で堂々と演説をしているピニャに対する殺意が芽生えたのだ。

 

「貴女の国…帝国のせいで、私だけじゃなく今日この会場に集まった人達の家族や友人は皆殺にされたのよ?よく私達の前に顔を出すことができたわね?よっぽど面の皮が厚いのかしら?」

 

「それは済まなかったと思っている。だからこうしてお悔やみを言いに来たのだ」

「アンタにお悔やみの言葉を言われても嬉しくないわよ!!本当に私達に対して悪い事をしたと思っているのなら、帝国の皇帝であるモルトの首を私達の前に持ってきなさいよ!!」

 

「それは出来ぬ!皇帝陛下は妾の父上なのだぞ!父上の首など取れるはずがない!」

 

「なら反省も謝罪も後悔もしていないと見做すわよ?口先だけなら幾らでも謝れるんだからね」

 

「……確かに妾は帝国に非がある事を認めておる。しかし、妾は立場上、簡単にお前達に頭を下げるわけにはいかんのだ」

 

「だったら…だったら何でこの会場に来たのよ……」

 

由佳は目を細めて言う。由佳はピニャの態度を見て苛立ちを隠せない様子だ。銀座事件で大勢の日本国民が帝国兵やモンスター達に虐殺され、由佳自身も家族を全員失った。家族や友人を失った遺族達は喪失感と帝国への憎悪を募らせる日々を送っているというのに、目の前の皇女のピニャは自分の国の兵士達が大虐殺を繰り広げた日本で、日本政府から帝国からの特使という待遇を受けてアキバで観光など楽しんでいる始末だ。日本国民に対する虐殺に対しての帝国への罰則が「賠償金」とアルヌスという「土地」だけで済まされたという事実は銀座事件の遺族達の日本政府への失望感と帝国への憎悪を加速させる結果となった。ピニャの周囲にいる伊丹や栗林といった自衛隊の面々も口を開けば帝国との友好だの講和だのを口にするばかりで、帝国の皇女であるピニャと懇意にしている始末。一番の元凶である帝国の皇帝を裁判に掛ける事さえせず、「金」と「土地」さえ貰えれば文句すら言わない政府の弱腰ぶり、自衛隊の面々に至っては『門』の向こうの特地の文化に感化されている有様だ。

 

「ねぇ…家族や友達を殺された私達遺族の主張が間違いで、帝国との講和と友好を重視している貴方達の主張の方が正しいの…?ねぇ…答えてよ…」

 

由佳はピニャと、彼女の後ろにいる伊丹や栗林に尋ねる。

 

「……少なくとも、俺個人の意見としては講和も友好も必要だと思います。」

 

伊丹の言葉を聞き、由佳の中で何かが「壊れた」。そしてゆっくりと客席から、壇上に上がっているピニャへと近づいていく。壇上に続く階段を上がると、懐からナイフを取り出し、ピニャに襲い掛かる。

 

「死ね…!」

 

が、間一髪で栗林が止めに入る。由佳の持っていたナイフを弾き飛ばし、取り押さえる。由佳の行動に会場は騒然となった。

 

「放せ…!私は…私はコイツを…ピニャ・コ・ラーダを殺す…!」

 

由佳は目を血走らせた猟犬のような表情でピニャを睨みながら言う。由佳の豹変ぶりに、会場にいた参加者達は驚き戸惑っていた。ピニャも由佳の突然の凶行に唖然としていた。栗林は暴れる由佳を取り抑えながら言う。

 

「由佳さん、貴女は自分が何をしたのか分かってるんですか!?」

 

「うるさい!離せ!私の家族を返してよ!!」

 

「落ち着きなさい!今ここで暴漢行為を働いてどうなるか分かっているのですか!このままでは貴女のご家族が浮かばれませんよ!!」

 

「黙れ!アンタに何が分かる!!家族を皆殺しにされた人間の気持ちが!!」

 

その時、由佳の友人である雪奈が客席を立ち上がると、猛スピードで壇上まで駆け上がり、由佳を取り押さえている栗林に掴みかかる。

 

「由佳ちゃんを放して!!」

 

「なっ……!君は一体誰だ!!」

 

「いいから由佳を放しなさい!!」

 

「ちょっと!落ち着いてください!」

 

「放さないと警察を呼ぶわよ!!」

 

「やめろ!!暴力はダメだ!!」

 

由佳を押さえつけていた栗林は慌てて離れる。

 

「もう我慢ならないわ!!私もそいつらを許せない!由佳ちゃんが…由佳ちゃんがどれだけ辛い想いをしてきたか貴方達には分からないでしょ!?何が帝国との講和よ…何が…何が自衛隊よ…!貴方達自衛隊は日本国民よりも帝国との関係の方が大切なの!?」

 

雪奈は所持していた特殊警棒を取り出すと、栗林に殴り掛かる。が、栗林は雪奈の腕を掴むと、一本背負いを決めて床に叩きつけた。雪奈は背中を強く打ち付けたため、呼吸困難に陥ってしまう。

 

「ゴホ…!ゴホ…!ガハッ……」

 

「ゆ、雪奈ちゃん!?」

 

由佳は慌てて雪奈に駆け寄る。

 

「大丈夫?しっかりして!」

 

由佳の声に反応したのか、それとも酸素を求めて喘いでいるのかは不明だが、雪奈は何とか息を吹き返したようだ。雪奈は苦しそうな表情を浮かべながらもゆっくりと立ち上がった。しかし顔色は真っ青だ。雪奈は心配する由佳に「だ……大丈夫」と返事をした

 

「許さない…!」

 

由佳は再度ピニャに向かっていこうとするが、会場の裏でスタンバってたロゥリィが大ジャンプで壇上に着地し、由佳の行く手を阻んだ。

 

「どきなさいよ!」

 

「嫌よぉ」

 

「そこをどけぇ!!」

 

「い~やぁ」

 

由佳はロゥリィに殴り掛かるが、あっさりと受け止められてしまう。そしてロゥリィは持っていたハルバートを振り上げ、由佳に振り下ろそうとするが、伊丹に制止される。

 

「よせロゥリィ!その娘を殺すな!!俺達の目的はこの場を収める事だぞ!!」

 

「……分かったわよ」

 

ロゥリィは渋々といった様子で由佳を離す。

 

「……今回の事でよく分かった。アンタ達自衛隊は帝国に魂を売り渡した『売国奴』だって事が!!」

 

由佳は帝国との講和を重視する伊丹や栗林といった自衛隊の面々を『売国奴』と罵る。

 

「……俺達は帝国と講和を結ぶつもりだ。」

 

「それが『売国奴』だって言ってるのよ!!講和なんて結んでも帝国は賠償金と土地だけよこして終わりに決まってるじゃない!!帝国は私達の事なんかこれっぽっちも考えてないのよ!!そんな連中と講和を結んでも、また同じ事を繰り返すに決まっているわ!!そうやって『門』の向こうの特地に擦り寄ろうとしているのでしょう!?」

 

「違う!俺は特地の人達と仲良くしたいだけだ!」

 

「私達遺族にとっては特地も帝国も同じなのよ!!そこにいる特地から来たドブネズミみたいな連中を日本に連れてこないで!!迷惑なのよ!!」

 

由佳は憤怒の形相で伊丹達の後ろにいるレレイを指差しながら吼える。

 

が、その時栗林が由佳の頬を平手打ちする。パンッという乾いた音がホールに響いた。

 

「いい加減にしなさい!これ以上恥を晒さないでください!」

 

「何よ!?アンタには関係ないでしょ!?」

 

「関係あります!貴女はご家族の仇である帝国に怒りを向けるのは分かりますが、だからといって関係のない人まで巻き込むような真似はやめてください!それに、さっき貴女は自衛隊を侮辱しましたね!訂正しなさい!」

 

「誰が…誰が訂正なんかするもんですか…!日本国民の為に働けない自衛隊なんか存在する意味無いじゃない…!!」

 

「貴女の気持ちは痛いほど理解できます。ですが、帝国憎しで、帝国とは関係のないレレイまで罵倒するのは間違っています!彼女こそ、貴女と同じ被害者なのに……!それに彼女は帝国の刺客から命を狙われた事もあるんですよ!?貴女は、貴女の家族は帝国に殺されたのに、どうして帝国と関係の無い人を恨めるの!?貴女は家族の死を無駄にする気ですか!?」

 

「アンタ達自衛隊が私の家族を語るな…!」

 

由佳は栗林の胸倉を掴む。

 

「家族が殺されてからの数か月間、私はずっと苦しかった……!辛くて……悲しくても……誰にも相談できなかった……!アンタ達に分かる!?私の気持ちが!?」

「それは……でも、仕方のない事だったんです。」

 

「仕方なくなんて……無かった……!私の家族はみんな死んだ……!何で……何で私だけが生き残ったの!?」

 

「……」

 

「私も死にたかった!今すぐ死んでしまいたい!私も……私も……!」

 

「やめなさい!それ以上は言わないでください!」

 

 

その時だった、『銀座事件被害者の会』の代表である坂東が栗林の胸倉を掴む由佳を宥める。

 

「由佳ちゃん、君の気持ちは痛い程分かる。けど今は堪えて欲しい。そこにいるピニャ殿下や、自衛隊の方々に危害を加えれば、私でも君を守ってあげられなくなる」

 

「……!」

 

由佳は坂東の説得で、その場は引き下がる事になった。そして由佳は壇上を降りると、そのまま会場を後にする。

 

「申し訳ありませんでした栗林さん、伊丹さん、そしてピニャ殿下」

 

坂東は伊丹達に深々と頭を下げる。

 

「由佳ちゃんは銀座事件でご両親とご兄弟を一度に亡くしておりまして、色々と精神的に追い詰められている状態なんです。どうか彼女を許してあげてください」

 

「いやいや、こちらこそうちの隊員のせいで不快な思いをさせてしまいました。」

 

「そうですよ。私からもお詫びします」

 

「私もぉ」

 

「私も」

 

「私も」

 

「いえ、これは代表である私の責任です。今の由佳ちゃんには時間が必要なのです。…受け入れるのは辛いでしょうが…」

 

そう言うと坂東は再度伊丹達に頭を下げると、壇上を去っていく。そんな坂東の後ろ姿をレレイはじっと見つめていた。最年少で導師号を授与される程のレレイであれば、『坂東』の違和感に気付くのであろうか。

 

 

********************************************************

 

その頃、帝都ウラ・ビアンカの王宮の私室にいるゾルザルは、どうにかして日本と帝国を再戦させようとしていた。あの日、空から現れた黒い甲冑の男が帝国議会の建物を半壊させ、元老院のメンバーを殆ど殺し、駆け付けた数百名の兵士達をゴミのように殺しまわって以降、すっかり父の皇帝モルトは日本の軍事力を恐れるよになった。たった一人の手によってあそこまでやられたのだから無理もないが、あの黒い鎧の男のせいで主戦派の貴族達までもが講和派に鞍替えする始末だ。主戦派の急先鋒であるゾルザルにとっては面白くない話であろう。

 

そこで、講和反対派の貴族や元老院議員達を焚き付ける為、帝国と日本の講和を白紙に戻すべく、日本と戦争を再開させる必要がある。

 

そう思っていた矢先、ゾルザルの私室に『邪神』が立っていた。いつからそこに居たのか。部屋に入ってくる様子すらもなく、ゾルザルのベッドの横に立っていたのだ。ゾルザルは入って来た『邪神』を見ると、退屈そうに言う。

 

「ロキか…。なぁロキよ。日本との戦争を再開させる為に良い妙案はないか?」

 

そしてロキはゾルザルの傍まで行き、ゾルザルに耳打ちする。それを聞いたゾルザルは口元を歪ませて笑みをこぼした。

 

「…そうか、その手があったか。ロキよ、お前は何という邪悪な心の持ち主なのだ。流石は俺の右腕よ」

 

「いえ、貴方様が手を汚さずとも、自然と講和派の貴族共は日本との戦争再開を望むでしょう。そして貴方様のお父上である皇帝陛下も心変わりする筈です」

 

「まさかそのような手駒がいたとはな…いやはや、伊達に『姦計の神』とは呼ばれてはおらんようだな」

 

ロキはそう言うと、部屋を出ようとする。部屋の扉を開けると、そこにはテューレが立っていた。テューレはヴォーリアバニーの女王であり、現在はゾルザルの奴隷となっている。テューレは衣服を着ておらず、首輪を付けられていた。そしてロキはすれ違い様にテューレに耳打ちする。

 

『余り勝手な真似をされても困る。それに毒など初心者のする事だ』

 

ロキはそう言うと、テューレから離れていき、廊下で高笑いを上げながら去っていく。ロキの言葉を聞いたテューレは去っていくロキの後ろ姿を睨んでいた。




帝都の議会を襲撃した鉄の鎧の男って一体誰なんでしょうねー?(棒読み)
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