GATE 処刑人、彼の地にて斯く断罪せり 作:ドレッジキング
考えられる限りで最悪の展開になっている件について(;^_^A
けど遺族達に残された道ってこれしかないわけだし…。
由佳は川に写った自分を見ながら、考える。一般市民に過ぎない自分が帝国をどれだけ恨み、憎んだ所で何も変わらない。自分には帝国と戦うだけの力などないし、『銀座事件被害者の会』のメンバーとして日本政府に対し、帝国との講和の撤廃を訴える事しかできない。……もしくは日本に来た帝国の要人であるピニャを襲撃する程度だ。所詮銀座事件の犠牲者の遺族に過ぎない自分や被害者の会のメンバーなど、日本と帝国という二つの国家のパワーゲームになんの影響も与えられない。
しかし、もし仮に帝国が講和を破棄し、再び日本と戦争を始めれば、それは由佳のような遺族達にとっては喜ばしい事だろう。だが……再度戦争をして日本が勝利した所で、皇帝や皇族達が銀座事件の責任を追及される事は無いかもしれない。どこかキリのいい所でまた講和でも結ばれるのが関の山だ。日本政府には帝国を滅ぼすという意思や考えは無く、自国の利益を最優先している。なんて自分は無力なのだろう、と由佳は思った。由佳はふと顔を上げると、川の水面に反射した夕日が目に入る。そして由佳の後ろから声を掛けた男がいた。
「ユカ、久しぶりだな」
「…!?」
由佳が振り向くと、そこには黒いロングコートに、胸に大きな髑髏のマークが描かれた欧米人の大男が立っていた。そう、目の前の男こそ銀座事件で由佳を救ったパニッシャーだ。由佳はパニッシャーの姿を見ると、彼の胸に飛び込んだ。
「パニッシャーさん……!また会えて嬉しいです……!」
「そんなに俺に再会できたのが嬉しかったか?」
パニッシャーの言葉に由佳は何度も「はい」と答える。今、由佳が生きていられるのはパニッシャーのお陰なのだ。彼が助けてくれなければ今頃由佳も銀座事件の犠牲者の名簿リストに名前が載っていただろう。数か月ぶりに会う命の恩人の胸で、涙を流す由佳。
「……泣いているのか?」
「……済みません、もう少し…このままでいさせてください……」
由佳はパニッシャーの胸の中で、大粒の涙をこぼす
「私……悔しくて……皆死んじゃって……私だけが生き残っていて……もうどうしようもなくて……お父さんもお母さんも香織もお兄ちゃんも……死んで……私だけ助かっちゃったんです……!」
銀座事件以降、由佳は何度涙を流しただろうか。銀座事件の生存者達はあの日以来、その心の傷を癒やす事なく生きてきた。そして、彼女も例外ではない。
「辛かったな……ユカ」
パニッシャーはそう言うと、由佳を優しく抱き寄せた。パニッシャーの胸に抱かれた由佳は子供のように泣きじゃくる。パニッシャーは彼女の頭を撫でてやった。
「お前は頑張って生きている。お前は立派な人間だ」
「……ありがとうございます!!」
三十分後、ようやく泣き止んだ由佳は、パニッシャーと一緒に神田川の河川敷にあるベンチに座った。由佳は自分が銀座事件の犠牲者や生き残りの者達が結成した『銀座事件被害者の会』に入会した事をパニッシャーに伝える。今こうして生きてこれたのは被害者の会の人間達と銀座事件での痛みを分かち合い、共有できたからだ。
「そういえばパニッシャーさんはどうして日本に?まさか観光ですか?」
「まぁそんな所だ。ところでお前はこれからどうするんだ?」
「そうですね……取りあえず一度家に帰ろうと思います」
「そうか」
由佳はパニッシャーに対して銀座にある『門』を通って銀座に現れ、銀座にいた人々を虐殺した帝国に対する憎悪の炎が未だに自分の中で燃え盛っている事をパニッシャーに打ち明ける。あの地獄のような場所で家族を全員失い、喪失感に襲われた事もあったが、それでも由佳は無気力になる事なく、帝国に対する憎しみを抱き続けた。だが幾ら帝国に怒りを向けた所で、幾ら恨んだ所で、幾ら憎悪した所で所詮一般人で、女子高校生に過ぎない由佳ではどうする事もできなかった。帝国という特地に存在する巨大な国家の前では由佳などただの羽虫以下の存在に過ぎない。帝国という巨大国家による暴力で蹂躙された銀座の人々の遺族は、帝国を、そして皇帝であるモルトを深く恨み、日本政府に対し講和の撤廃を求めていた。
しかし、由佳がいくら帝国を怨んでいても、彼女の力だけでは帝国に一矢報いる事もままならない。由佳は自分の無力さ、帝国への深い恨み、家族の仇を討ちたいという気持ちをパニッシャーに語った。
「ユカ、お前さんの気持ちは分かるがな、お前さんの力じゃどう足掻いても帝国には勝てんぞ。それに、お前さんは今の自分に何ができるか考えた事があるか?」
「それは……」
「戦う力の無い奴が自分の力の範疇を超えた復讐をしようとしても待っているのは破滅だけだ。お前さんもそんな事は分かっている筈だ。」
「……は……はぃ……」
パニッシャーの言う事は正論だ。しかしそんな事は由佳でも分かっている。このまま帝国に復讐する事もできずに、銀座事件で亡くなった家族との思い出の日々を懐かしみながら毎日を過ごす方が余程辛い。
「お前さんは今のままじゃ帝国には敵わん。お前さんがどれだけ努力しようともな」
「そんな事……分かってますよ……!」
由佳は帝国や、皇女であるピニャを倒す事さえできない無力な自分を呪いたくなった。
そして由佳はベンチを立つと、家路に向かって歩き始めた。そして去り際にパニッシャーに対して言う。
「パニッシャーさん……貴方の言う事は分かります。けど……けど今の私にはもう復讐しか残されていないんです……!大切な者を全て亡くした人の気持ちがどんなものか想像できますか!?」
由佳の言葉に対してパニッシャーは数秒沈黙した後、答える。
「大切な者の死なら俺も経験した……」
「え……?」
「お前が今言った通り、今のお前さんは復讐で頭が一杯だろうがな、少しは頭を冷やして考えろ。」
「何を……ですか?」
「今のお前さんは復讐で視野が狭くなっている。復讐で暴走すれば待っているのは破滅だけだ。」
「……!」
由佳はそのままパニッシャーから離れていく。パニッシャーは去っていく由佳の背中を見ながら呟いた。
「……あの娘が何か危ない事をしないか見張っておくか」
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パニッシャーと別れた由佳は真っ直ぐ家に帰り、自分の部屋に閉じこもる。父、母、妹、兄が消え、家にいるのは今や由佳一人だけだ。広い家にたった一人で暮らす由佳は、家に帰る度に喪失感に襲われる。由佳はベッドの上で仰向けに寝転がり、天井をぼんやりと見上げる。由佳はパニッシャーの言う事が正しい事を理解していた。自分がどれだけ帝国を恨んだ所で、帝国を倒す力も無ければ、一矢報いることも出来ない。帝国という巨大な壁を前にした由佳にはどうする事もできなかった。その時、由佳の携帯に着信メールが来た。
由佳は携帯を見てみると、『銀座事件被害者の会』の代表である坂東からのメールだった。開いてみると、こう書かれてあった。
『もしどうしても帝国への復讐をしたいという方は、〇月〇日の午後〇時に指定の場所に集合願います』
帝国への復讐を望む会員に向けてのメールだった。この日時に指定の場所に行けばどうなるのか由佳は興味を抱いた。
「……何もしないよりはマシね」
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ピニャは特使としての仕事を終え、銀座にある『門』を通って帝国へ帰国する事となった。特使であるピニャを護衛するのは伊丹達陸上自衛隊第三偵察隊の役割である。
伊丹や栗林はピニャを自衛隊のジープに乗せ、銀座にある『門』の前まで来た。そして『門』へ車を通すべく、陸上自衛隊が『門』の周囲に建造した隔壁が開いていき、完全に開くと、
車はそのまま前進して通過する。そして暫く走行すると、アルヌスの丘へと到着した。アルヌスの丘の『門』の前には、ピニャの配下である薔薇騎士団の面々が皇女であるピニャを迎えにきていた。薔薇騎士団を率いているのはハミルトン・ウノ・ローだ。ピニャはジープを降りると、ハミルトンに近づいていき、彼女に労いの言葉を掛ける。
「よくぞ妾の迎えの務めを果たしてくれた、感謝する」
「勿体なきお言葉です、姫殿下」
「では行くとするか」
2人の会話が終わると、ピニャの部下達はピニャを囲むように整列した。そしてピニャは部下達に対して命令を下した。
「皆のもの!妾はこれより帝都へ戻る!ついてまいれ!」
「「「「「「はい!姫殿下!!!」」」」」」
薔薇騎士団の号令と共に、帝都へと向けて進みだす。伊丹達も自衛隊のジープに乗りながら、ピニャ達の後を付いていく。アルヌスを超えてイタリカまでピニャの護衛をする事となっている。アルヌスの丘に駐留している他の自衛隊の部隊も、伊丹達と共にイタリカを目指す事となった。それから丸一日掛けて、彼らは目的地のイタリカに到着した。
自衛隊が初めて『門』を通って特地へと赴いた際、諸王国軍敗残兵の盗賊にイタリカの街を襲撃された際に自衛隊の協力で撃退して以来協力関係にある。
イタリカの街の外は大規模な穀倉地帯となっており、街をぐるりと囲っている城壁は、自衛隊からもたらされた技術が使われており、非常に頑丈で高さは10メートル近くある。
街の正門には槍を持った衛兵が2名立っていた。兵士は門の両脇に立ち、通行人に身分証の提示を求めているようだ。ピニャは馬車を止めさせると、御者の兵士が城門に向かって走る。そして門が開き、イタリカの街へと通される事となった。そして街の中央に建てられているフォルマル伯爵家の屋敷へと向かう。伊丹達自衛隊とピニャはイタリカの街に数日滞在する事が決定した。
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伊丹は栗林達と由佳の事、そして由佳が所属している『銀座事件被害者の会』の事を話し合っていた。銀座事件によって万単位の市民が死亡し、『門』を通って銀座に出現した帝国の兵士達やモンスターによって家族、恋人、友人を奪われた者達が帝国への報復を訴える『銀座事件被害者の会』を結成した。今まで伊丹達は銀座事件の犠牲者の遺族達から目を背けていたのかもしれない。自分達が特地の者やアルヌスに暮らす人々と交流する内に、この世界の文化に感化されたのは否定できないからだ。親しい人、愛する人を失った銀座事件の犠牲者の遺族達にとって、伊丹達がいる特地という世界は忌まわしく、悍ましい場所に映るだろう。正直な話、伊丹や栗林とて家族や恋人を帝国によって奪われれば被害者の会の者達と同じ道を歩んでいたのかもしれない。
「憎しみっていうのは一種の『呪い』みたいなもんなんだよ。由佳ちゃんにしても、被害者の会の連中にしても、憎しみや怒りに囚われて前が見えなくなっているんだ」
伊丹はそう言って腕を組む。由佳の事情を知った栗林は、
「復讐かぁ……。まあ分からなくもないけどね」
伊丹の言う事が分かるのか納得した表情を浮かべて呟く。栗林の隣に座っていた富田も同じ気持ちなのか首を縦に振る。
「けど…やっぱりこのままじゃいけないと俺は思います。復讐や憎しみに囚われ続ければ、精神を病んでしまうかもしれません。そんな事になったら取り返しのつかない事になってしまうと思うんです。伊丹隊長は復讐の事は忘れろって言いましたが、俺は無理だと思います。俺も大切な人達を殺された苦しみは良く分かります。でもだからと言って復讐して良い理由にはなりませんよ?」
倉田はそう言って伊丹を見つめる。伊丹はその視線から逃れるように、顔を逸らす。
「まぁ、とにかく由佳ちゃんは自分一人で乗り越えなきゃいけないんですよ。外野である俺達が口出しした所で何にもならないんですから……」
「そりゃそうだとは思うけどねぇ」
倉田の言葉に伊丹も同意する。
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その日、由佳はメールに記載されていた建物の地下に来ていた。建物の地下は非常に大きく、万単位の人間を収容できそうな程の空間があった。この地下の上にある建物はそこまで大きい建造物ではなかったのだが、地下にこれだけのスペースがあるとは由佳は思わなかった。広大な地下には由佳以外にも沢山の人間がいた。優に千人は超えているだろう。周囲にいる人間の中には見知った顔が何人かいるのだが、由佳や周囲の参加者達は自分達の目の前に聳える「物」に目を奪われていた。広大な地下空間の中央にあるのは銀座に出現した『門』と瓜二つの『門』があるのだ。なぜこんな地下に銀座に出現したものと同じ『門』があるのだろうか?精巧に作られたレプリカ?由佳と参加者達はそんな考えをしていると、被害者の会の代表である坂東が、由佳達に挨拶する。
「ようこそおいでくださいました。今日ここにお集まりいただいた被害者の会の方々は『選ばれし者達』です。老若男女、年齢も性別もバラバラですが、我々は同じ「目的」の為に行動している同志なのです」
そう言うと坂東は地下の中央にそびえる『門』の横に立つ。
「単刀直入に言いましょう。この『門』を通れば特地へと出ます」
坂東の言葉に集まった参加者達の間でどよめきが起こる。
「嘘だろ…!?目の前にある『門』を通れば特地に…自衛隊が出入りしている異世界に行けるのか!?」
「う、嘘じゃないよな…!?本当なんだよな…!?」
「けどもし特地に行けるのなら…銀座事件で死んだ家族の仇を討てるかもしれないぞ…!」
銀座事件で帝国兵やモンスターによって家族、恋人、友人を殺された被害者の会の面々にとっては願ってもないチャンスである。例えこれが夢であったとしても、彼等はそれにすがりたい心境なのだ。由佳は自分が復讐の炎に身を焦がしながらも、今のままでは復讐を諦めるべきだと思っていた。しかし、目の前にある『門』を通れば、自分は復讐の道へと踏み出せるのではないかと思った。もし仮に門を通れたとして、特地で帝国軍と戦う事になるだろう。それはつまり、家族の復讐を果たせるという事である。由佳は地下の巨大な空間中央にある、銀座に出現したものと全く同じ形状の門をじっと見据える。
「皆さん、皆さんは先日のホールにおけるピニャ皇女や、自衛隊の面々の言葉を聞いたでしょう。自衛隊の面々は帝国との友好や講和ばかりを重んじ、私達銀座事件の犠牲者遺族の主張を否定し続けた。日本国民を大量虐殺した残虐なる帝国との関係の方が我々遺族よりも大事だと言いました。そして皇女ピニャに至っては我々銀座事件の遺族に対して「申し訳ない」とさえ思っていない!奴らは所詮、自分達の都合しか考えていないのです!」
由佳の隣にいた男性が、拳を握りしめながら声を上げる。
由佳はその男の発言に耳を傾けながらも、視線だけはずっと門の方を向いている。
そして男性は続ける。
男は帝国に妻子を奪われた事を切々と訴える。
「我々は帝国と日本の講和など認めません!帝国は自分達が犯してきた罪を償うべきなのです!!」
男の演説が終わると、地下の空間は静寂に包まれる。そして坂東を皮切りに、地下空間に喝采が響き渡る。
「そうだ!帝国を許すな!」
「俺の娘は帝国兵の玩具にされて殺されたんだぞ!!ふざけんな!」
「帝国の奴等を殺してくれーっ!!!」
「復讐だぁあああっ!!!」
「復讐してやるぅうううううっ!!!」
地下空間の至る所で怒号が飛び交っている。そして由佳も自分の家族を奪った帝国に対する怒りを叫ぶ。
「殺せぇええええッ!!!」
「全員ぶっ殺してやれぇえええっ!!!」
帝国に対する怒りの声を上げる参加者達を見て、坂東の口元が歪む。そして坂東はスタッフに命令し、参加者達に持たせる『武器』を配らせた。集まった被害者の会のメンバー達が全員『門』の中に入ると、『門』そのものが次第に消えていく。そして坂東は『邪神』としての姿へと戻る。
「復讐者達よ、お前達の願いは確かに聞き入れたぞ。私はお前達に極上の舞台を用意してやった。好きなだけ復讐という名の美酒に酔いしれるがいい。ハハハハハハハ!!!!」
ロキは高笑いを上げると、魔術によって転移した。
そして誰もいなくなった地下空間に、一人の男が入ってくる。黒いコートに髑髏のマークが施されたシャツを着た男は軽く舌打ちすると、急いで建物の外へと出る。
次回、かなり精神的にくる回なので注意。次回でようやくプロローグ終了です。