人形少女の使い方   作:林公一

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人形は揺れる

 ツンツン頭の少年と対峙する。

 ラッタを倒し、次に繰り出されたカメックスが“こうそくスピン"でこちらに迫ってきた。

 

()()

 

 声をかけ、サイドン(リノ)と一体化する。

 呼吸を合わせ、動きを同調させ、カメックスの動きの先を読んで“アームハンマー"を振り抜いた。

 衝撃と轟音。確かな手応えと共にカメックスが吹き飛ぶ。戦闘不能にこそなってはいないけれど、大きなダメージを与える事が出来た。

 次がとどめの一撃になる。そんな確信。

 

「リノ──」

 

 “アームハンマー"と指示しようとした、その刹那。

 戦闘音が呼び水となったのか、地面から多数のイワークが飛び出してきた。

 これではバトルどころではない。()()()を連れて脱出しようと“テレポート"の準備をする。

 ──けれど。

 

「どうした」

 

「このままじゃ彼が死んでしまうわ」

 

 サカキの問いかけ。

 わたしは『げんきのかけら』をポシェットから取り出し、それをグリーンに投げつけた。

 

「いけなかったかしら」

 

 今度はわたしからの問いかけ。

 

「……いいや。お前のしたいようにすればいい」

 

 サカキが肯定する。

 その言葉にわたしはどこか安心感を覚えて──はたと気付く。

 

 ──これは、夢だ。

 

 夢を夢だと気付く事。確か明晰夢といったはずのそれを、わたしは見ている。

 

「……茶番ね」

 

 念動力を腕に集中させて横薙ぎに振るう。

 それは実体化した思念の刃となり、あらゆる全てを切り裂いた。

 サカキも、グリーンも、リノも、洞窟の景色さえもが霞のように消えていく。

 残ったものは、自分と真っ暗な闇だけだった。

 そう、夢だ。夢だから、わたしにとって都合のいい事を言ってくれるサカキが生み出された。

 

「……わたしは、肯定されたかったのかしら」

 

 誰にでもなく独りごちる。

 夢とは自身の願望の表れでもある。だとするなら、わたしがサカキに求めていたものは、わたしの行動を肯定してくれるという事になるのだろう。

 自覚は無い。けれど、確かに安堵した。

 この夢は、わたしの願望なのだろうか。

 

 ──否。

 

「……考えるだけ無駄ね」

 

 たとえそれが本心であろうと、人形に願望は必要無い。

 所詮自分は道具であり、誰かに使われるだけの存在でしかないのだから。

 目を閉じ、心の中で念じると、そのまま意識が浮上して──。

 

 

※ ※ ※

 

 

 目が覚めると、真っ白な天井が目に入った。

 薬品の匂いがする。右手の違和感に目線を動かせば、そこから点滴の管が伸びていた。

 いつの間にか服も病衣に変わっているし、ベッドで寝かされていたようだしでここは何処なのだろう。察するにどこかの病院なのだろうけれど。

 反対側に顔をやる。茶髪を背中まで伸ばした快活そうな少女が椅子に座って、ラルトス(サナ)を抱えているのが見えた。どうやら絵本を読んでいるところらしい。

 身体を起こす。まだ少し重い。

 

「! らぁる!」

 

「どうしたの──あっ、飛びついたらダメだよ!」

 

 物音でわたしが起きたのに気づいたのか、鳴き声をあげてわたしに飛びつこうとするサナを慌てて止める少女。

 

「病人だから、ね?」

 

「らる……」

 

「うん、えらい! ──えっと、おはよう……かな? あたしの事覚えてる?」

 

 二年くらい前に会った事あるんだけど、と頬を掻きながら少女が言う。

 忘れるわけもない。わたし視点からは会うどころか、交戦すらした目下要注意人物の名なのだから。

 

「もちろんよ──ブルー」

 

「わあっ……! 覚えててくれたのね!」

 

 そんなわたしの胸中など露知らずはしゃぐブルー。

 まあそれはいいのだけど。

 

「状況を説明してくれるかしら。何がなんだかわからないわ」

 

 直前の記憶は車に乗って移動していたところまでだ。倒れたような気もするけれど……あまりよく覚えていない。

 

「あ、えっとね……」

 

 ブルーの話を要約すると、まずブルーはヤマブキシティのジムに挑戦しようとしていたようで、その道すがらにわたしを抱えて走るサカキ──とランス──を見たらしい。

 そこでわたしが車内で倒れたと説明を受けて心配になり、病室で付き添う事にしたのだとか。

 原因としてはストレスと疲労が重なり、そこに加えて脱水症状が併発したと見られているらしい。そこまで無理をしている自覚は無かったけれど、医者が言うならそうなのだろう。

 

「びっくりしたよ。サカキさんクールなイメージなのに、随分慌ててるみたいだったから」

 

「そう」

 

 サカキが慌てる、というのもわたしには想像がつかないけれど、実際に見たブルーが言うならそうなのだろうか。

 まさか絵に書いたように慌てふためいていたとは思わないけれど。

 

「らぁる?」

 

「ん、大丈夫よ。おいで」

 

「らる!」

 

 ブルーの元から離れてこちらに飛び込んでくるサナ。この子たちにも心配をかけてしまったみたいだ。

 擦り寄るサナの頭を撫でると、気持ちよさそうに目を細めた。

 

「…………」

 

「……何かしら」

 

「えっ!? いやっ、なんでもっ?」

 

 何やらブルーがこちらをじっと見つめていた。

 同時に向けられた感情は憧憬の類。今の何処にそんな要素があったのだろうか。

 

「……あなたも撫でられたいの?」

 

「ちっ、違う違う! ただキレイだなーって……見てた……だけ……」

 

 後半は尻すぼみになってほとんど聞こえなかったけれど、何か恥ずかしがっているのはわかった。冗談のつもりだったのだけれど。

 確か初めて会った時も似たようなやり取りをしたような気がする。

 

「ゴホン! そ、それより、思ったより元気そうで何よりだわ。突然倒れたって言うから重い病気なのかと」

 

 あからさまな咳払いとともにブルーが仕切り直す。突っ込む程の事でもないし、ここは乗っておこう。

 

「大袈裟ね。この通り問題無いわ」

 

「油断しちゃダメだよ。あなたに何かあったらポケモンたちが悲しむんだから」

 

「らる!」

 

 そうだよ、とサナが言う。

 ……本当に心配させてしまったようだ。少し反省しないといけない。

 瞑目し、改めてブルーの方を向く。

 

「──で、どうしてあなただけなのかしら。サカキたちは?」

 

「着替えを取りに行くってさっき出て行ったわ。その間は看ていてほしいって」

 

 そんなブルーの説明。

 ……いや、それはおかしいだろう。

 そもそもわたしはブルーたちとはなるべく接触しないように言われていたのに、ロケット団(ドール)としてではないとはいえ、ブルーと二人きりにさせるのは少々不用心ではないか。

 せめてランスを置いていくくらいはしそうなものだけれど。

 

「……何か緊急の用でもあったのかしら」

 

「? どうしたの?」

 

「こっちの話よ」

 

 まあサカキの事だから何か考えがあるのだろうけれど、それについてはひとまず保留にしておく。

 

「……他の子は?」

 

「それならほら、そこの棚に置いてあるよ。その子はどうしても出たそうにしてたから出してあげたけど」

 

 ブルーの指した方を見れば、なるほど確かにわたしのボールがある。

 でも聞きたかったのはそっちではなく。

 

「……レッドとグリーンの事よ」

 

「……あっ、そっち? 勘違いしちゃった……」

 

 たははと笑うブルー。その仕草にもどこか愛嬌があって可愛らしい。

 

「あの二人の事も覚えててくれたのね。うん、その二人……というか、途中まではレッドと一緒にいたんだけど、グリーンともクチバシティで一度合流したわ。サント・アンヌ号って知ってる? マサキさんにペアチケットを貰ったからレッドとパーティに参加したの!」

 

 そう、と短く返す。

 豪華な食事がどうとか、船長の居合切りが凄かったとかは聞き流した。

 

「そこで一旦別れたんだけど、レッドは『グリーンに負けるか!』って意気込んでたから今頃図鑑を埋めてるんじゃないかなぁ」

 

 ああ、そういえばそんなものもあったなと思い出す。さながら寄り道がてらの修行といったところか。

 やはり一番先行しているのはグリーンらしい。その結果としてわたしたちと鉢合わせたのは運が悪かったのか。

 

「あ、グリーンで思い出した! あいつ、前にあなたに失礼な事言ったよね!? あの時は本当にごめんなさい!」

 

 パン! と両手を合わせて頭を下げるブルー。よくもまあ二年も前の他愛ない会話を覚えているものだ。

 あの時というと、トレーナーになるのがどうとかいう話だっただろうか。わたしは微塵も気にしていなかったと思うけれど。

 

「あなたが謝る事ではないでしょう?」

 

「そうなんだけど、一応あんなんでも友だちだし……今度グリーン会ったらキツく言っておくから!」

 

「……それであなたの気が収まるのなら、好きにするといいわ。それで、あなたはどうしたの?」

 

「そう! 見て見てコレ!」

 

 聞くなり、ブルーがポシェットから小さな銀のケースを取り出し、中を開いてわたしに向けた。

 

「じゃーん! ジムバッジ!」

 

 そこに輝くは四つのジムバッジ。バッジの種類的にはニビ、ハナダ、クチバ、そしてタマムシのジムを突破している事になる。

 確かブルーたちが旅立ったのが三月だとサカキは言っていたから、僅か三ヶ月程度でジムを四つ制覇した事になる。これは相当に順調であると言えるだろう。

 

「どう? どう!?」

 

 ……もの凄く褒めてもらいたそうにしている。

 あまりこの手のタイプの人種は得意ではないのだけど。

 

「……いいんじゃないかしら。順調そうね」

 

 そんな風に言えば『ありがとう!』と満面の笑みが返ってくる。非常にやりにくい。

 早くサカキたち帰ってこないかしら、と心の隅で考えた。

 

「いやー、エリカさんが強くてねー。さすが『くさ』タイプのエキスパートなだけあってフシちゃん──あっ、フシギバナなんだけど、その子の事で色々教えてもらっちゃった」

 

「そう」

 

 ブルーが持っているジムバッジは四つ。

 数の上では折り返しだけど、大変になるのはここからだとサカキは言っていた。

 この辺りからジムリーダーも育成が終わった本気の面子を交ぜ始めるのだとか。ブルーの快進撃もどこまで続くやら。

 

「あっ、エリカさんと言えば……えっと……リンカ、さんも会った事あるんだよね?」

 

 おそるおそる、といった感じでブルーが()の名前を口にする。

 さっきから呼びたそうにしていたのは気付いていたけれど、いざ口に出すと少し遠慮が入った形だろうか。

 変なところで奥手な子だ。呼ばれ方に拘りなんてないのに。

 

「……リンカでいいわ」

 

「! じゃあリンカちゃんで!」

 

 そう言ってやると、ぱっと花が咲いたような笑顔を見せるブルー。

 ……本当にやりにくい。

 

「エリカさんとのバトルの時に、あたしを見てたらリンカちゃんの事を思い出すって言われたの。リンカちゃんもトレーナーになってたのね」

 

「……一応、ね」

 

 正当なトレーナーかどうかは疑問符が付くところだけれど。

 

「その話を聞いて、エリカさんが言うくらいだからきっと強いんだろうなぁって思ったの。だから今日会えて嬉しい!」

 

 そう言ってブルーが屈託無く笑う。よく笑う子だな、と思った。

 

「強いと聞いて会いに来たのなら、目的はバトルかしら」

 

 ブルーの話からなんとなくの当たりをつける。

 既にフシギバナに進化しているようだし、リノでは苦戦を強いられそうだ。

 

「んー……それもちょっとあるけど……まずは友だちになりに、かな?」

 

「……友だち?」

 

 あまり聞き慣れないフレーズに思わず聞き返す。

 

「そう。ほら、レッドとグリーンは男の子だし、同年代で女の子の友だちっていなかったの。だからあたしと友だちになってくれると嬉しいな」

 

 言いながら手を差し出してくるブルー。

 その手を見て、ブルーの顔に視線を移し、また手を見る。

 わたしは、この手を取ってもいいのだろうか。

 

「……ごめんね、急にこんな事言われても困るよね。あはは、ちょっと急ぎすぎちゃった」

 

 言いながら、申し訳なさそうにしてブルーが手を引っ込める。

 そんなブルーの姿がなんだかちくりと胸に刺さるものだから、わたしは思わずその手を取ってしまった。

 

「……リンカちゃん?」

 

「……嫌なわけではないわ。ただ、わたしは綺麗な人間ではないから」

 

 わたしはロケット団だ。悪事に加担している人間だ。

 そんな人間が、光の道を歩いている者と繋がりを持っていいはずがない。わたしたちは交わるべきではないのだ。

 

「っ、そんな事ない!」

 

 そんな思考の中、繋いだ手の更に上から手が重ねられ、一際強くブルーが言う。

 

「そんな事ない。真っ白で雪みたいな肌も、銀の糸みたいな長い髪も、ルビーみたいな赤い瞳も、全部綺麗。あたしが男の子なら惚れちゃってたかもって思うくらいに」

 

 そんなブルーの真っ直ぐな言葉。

 お世辞ではなく、本心から言っているのが伝わってくる。

 

「そりゃあリンカちゃんは他の人と少し違うかもしれないけど、だからってそんな事言わないで。そんな自分を傷付けるような事、言わないでよ……」

 

 言って、ブルーが目を伏せる。

 泣いていた。会って間もない人間を慮って、少しだけれどブルーは泣いていた。

 感受性が豊かで、気持ちに寄り添う事が出来る心優しい子なのだと思う。それも一つの強さだ。

 ……ただまあ、それ故か早とちりする事もあるようだ。

 わたしが言った『綺麗ではない』というのは、あくまでも経歴の話であって容姿の事ではない。

 今更自分の容姿は気にしていない。奇異の目で見られる事もあるけれど、それがどうしたという話。その人間がどう思ったところでわたしには一切の関係が無いのだから。

 とはいえ、今回は勘違いしてくれて助かったと言うべきか。やはり慣れない事はすべきではない。咄嗟の言葉だと口が滑ってしまう。

 ここは勘違いさせたまま乗り切るのが得策だろう。

 少し考え、言葉を紡ぐ。

 

「……変な事を言ったわ、忘れてちょうだい。ただ、わたしといると後悔する事になると思うわ。それは嫌でしょう?」

 

「……そんなの、なってみないとわからないじゃない。あたしはやらずに後悔するよりもやって後悔したい。あなたを悪く言う人がいるなら、あたしが守ってあげるから!」

 

 ……ブルーの意思が硬い。この流れだと断るのは難しい気がする。ここに来て自分の対人スキルの無さが浮き彫りになってしまった。

 ブルーから感じられるのは庇護欲やら使命感やら、その他わたしを守ろうとする意思が色々。

 自分の容姿が与える印象はある程度自覚しているけれど、事前の話も相まってどうやらブルーの琴線に強く触れるものだったらしい。

 どうすれば上手く躱せるかを考えて、一つ閃く。

 少しズルい手だけれど、手段を選べる立場ではない。

 軽く息を吸って。

 

「それなら、バトルで決めましょう」

 

「バトル?」

 

「ええ。わたしたちはトレーナー。それなら勝敗に結果を委ねましょう」

 

 トレーナー間では、何かしらの揉め事はバトルで解決するという手段もある。

 ブルーの目的の一つがわたしとのバトルなのだから、この提案は蹴られないはず。

 

「ただ、わたしは今はバトル出来る状態じゃないから次に会った時ね。病み上がりの人間に勝っても嬉しくないでしょう?」

 

「それは……まあ……」

 

「大丈夫よ。あなたが旅を続けていればまた会えるわ。それに、わたしより弱い人に守ってもらうわけにはいかないもの」

 

 これでもトキワジムのジムトレーナーよ、と付け加えて。

 

「わたしを守るというのなら力を示してみなさい。そうすれば考えてあげる」

 

「……約束だからね」

 

「……ええ。約束」

 

 言って、小指を絡めながら笑みを作る。

 そうしている間に、サカキたちが荷物を持って病室に戻ってきた。

 指が離れてブルーが席を立ち、そしてサカキの方を向いて。

 

「あたし、強くなります! 強くなってサカキさんに──リンカちゃんに勝ちますから!」

 

 そんな宣戦布告を叩き付けて『それじゃっ!』とブルーが病室を出ていった。

 随分と賑やかな子だった。ずっと感情が動きっぱなしで、悪い気はしないけれどわたしが苦手な手合いだった。

 

「……珍しいな。お前が笑うとは」

 

「上手く作れていたかしら。ランスの評価はよかったのだけど」

 

 言うと、サカキがランスを軽く睨んだ。

 睨まれたランスが慌てて首を振り、サカキが肩を竦めて荷物を差し出す。

 

「大事を取って一日入院との事だ」

 

「大袈裟ね。ただの熱中症でしょう」

 

 言葉を返しながら荷物を受け取る。中身は着替えと飲料水だった。

 中から水を取り出し蓋を開けて中身を飲む。

 

「その熱中症で倒れたあなたがそれを言いますか。いいから大人しく寝ていなさい。また倒れられても困ります」

 

「……それはそうね。大人しくしておくわ」

 

 わたしが体調管理を怠った事によるミスなのだから、呆れて言うランスには返す言葉も無い。何より、事前にランスには水分補給をするよう言われていたというのに。

 

「それで、彼女と何を話していたんです?」

 

「わたしと友人になりたがっていたから、バトルを条件にしただけよ。大した話はしていないわ」

 

「断ったのですか?」

 

「保留にしたのよ」

 

 問いに答えつつ蓋を閉じていると、ランスが肩を竦めた。

 

「一人くらい友人がいてもいいとは思いますけどね」

 

「必要無いでしょう。重荷になるだけだわ」

 

「へえ。それはどちらが、ですか?」

 

 ぴたりと手が止まる。視線だけをランスに向けた。

 

「──ふっ、いい顔をするじゃないですか。その方がわたしの好みですよ」

 

「ランス」

 

 サカキの呼び掛け。そこでランスが一度言葉を区切る。

 

「まあ断ったのは英断だと思いますよ。敵と馴れ合う必要も無いんですから」

 

「……保留、と言ったわ」

 

「おや、では誘いを受けるつもりで?」

 

「……それは……」

 

「ランス」

 

 少々強い二度目の呼び掛け。

 そうしてようやくランスが黙り、薄く笑いながら病室の外へと出ていった。

 胸が、ざわつく。

 

「話がある」

 

「何かしら」

 

 反射的に答える。胸のざわつきが収まらない。

 自分にあまり余裕が無いのがわかる。それを知ってか知らずかサカキは続ける。

 

「シオンタウンに配置した者からの報告だ。──ガラガラを一匹殺した、と」

 

「────」

 

 シオンタウンはジムも無く有力なトレーナーがいない為、下っ端でも数がいれば十分に制圧出来る程度の小さな町だ。

 そこにあるポケモンタワーにはカラカラやガラガラが多く生息し、それらの骨は高く売れる為に下っ端に任せていた。

 仕事としては簡単な部類だ。ただ、カラカラやガラガラから骨を奪えばいいだけなのだから。

 そう。奪えばいいだけ。殺す必要は無い。

 

「激しく抵抗した個体がいたらしい。尤も、ダークポケモンを以てすれば倒す事自体は簡単だったそうだが」

 

「……そこで勢いあまって殺した、と。下っ端らしい杜撰な仕事だわ」

 

 とはいえ、別にロケット団に不殺の掟なんてものは存在しない。

 積極的に行うわけではなくても、必要であればやる時はやる。今回がそうだったというだけの話だ。

 

「で、それがどうしたのかしら。ポケモンを殺した事なんて一度や二度じゃないでしょうに」

 

「お前はこういったことを嫌うと思ってな」

 

「……は?」

 

 そんなサカキの言葉に、わたしは胸の奥から何かが込み上げてくるのを感じた。

 胸中が色々なもので吹き荒れる。それを抑え込みながら、どうにか言葉を紡いでいく。

 

「じゃあ何? わたしが嫌うとわかっていてその話をしたの? 何の為に?」

 

「随分と揺らいでいるな」

 

「いいから答えて」

 

 自分を抑えながら先を促す。

 

「ロケット団とはこういう組織だ」

 

「知っているわ。最初からずっと」

 

「お前は今日、あの女と繋がりを持った」

 

「だから何? わたしが裏切るとでも言いたいのかしら?」

 

「この先、お前がロケット団に固執する意味はなんだ」

 

 サカキの問い。

 決まっている。

 

「サカキよ。ロケット団じゃない。わたしはあなたに従っているの」

 

「その価値が不可変だと言えるか」

 

「当然よ。今後サカキが何をしようと変わらないわ」

 

「邪魔になるようなら人も殺すぞ」

 

「わかっているわ」

 

「──マサラのあの女も、だ」

 

「──っ! わ、かっ、てるわ……!」

 

 脳裏にブルーの姿が浮かぶ。

 血溜まりに沈む彼女の姿を連想した。

 吐き気がする。頭が痛い。

 深く息を吸い込み、無理やり呼吸を整えてからサカキを見る。

 

「どうしても無視出来ない障害になったら、でしょう? そうなる前にわたしが潰すわ」

 

「お前に出来るのか?」

 

「わたしはその為の道具よ」

 

 そうして会話が途切れる。

 無言の時間が流れ、そして。

 

「……話は以上だ。身体を休めろ」

 

 最後にそう言い残してサカキが退室した。

 足音が遠くに消えてから、ヘッドボードに向かって拳を打ちつけた。

 前に出られない、なんて甘えた事を言っている余裕は無い。脅威になる前に排除する。

 

「……邪魔なんてさせないわ。絶対に」

 

 マサラの三人組も、ジムリーダーたちも、警察も。

 サカキの障害となるものは全て薙ぎ倒す。それがわたしの存在理由なのだから。




作中に入らなかった裏話。
ランスは表ではソウと名乗っている(ランス=槍=ソウ)。もちろんオリジナル設定。
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