人形少女の使い方   作:林公一

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人形の原動力

「ポリー」

 

「ポリッ!」

 

 “トライアタック"

 

 ポリゴン2──ポリーと名付けた──から電気、炎、氷のエネルギーを再現した三色の光線が飛ぶ。

 それはヘルガーの急所を的確に撃ち抜き、残った体力を完全に奪い去った。

 

「……私の負けですね」

 

 言いながら、アポロが最後のポケモンであるヘルガーをボールに戻す。

 サカキが()()()()()で動けなくなった代わりとして、久方振りにタマムシのアジトから本部に戻ってきたアポロを訓練場に呼び出してみたものの、結果としては特別苦戦もない試合だった。

 圧勝ではないけれど、勝つ事自体は差程難しくもない。

 喜びを表しながら擦り寄ってくるポリーを撫でながらアポロに一言。

 

「もっと強くなってもらわないと困るわ」

 

「簡単に言ってくれますね。貴方ならわかるでしょう。これが我々の限界です」

 

 アポロが皮肉っぽく言う。

 わかっている。これがアポロの──ロケット団の限界値だ。望んで力が手に入るなら、そもそもこんな組織は生まれていない。

 けれど。

 

「……訓練にならないわ」

 

 ヤマブキでの一件から一月が経過し、わたしは努めて強くなろうとした。

 誰が相手でも叩き潰せる強さ。逆らう気力も打ち砕くような強さを欲した。

 バトルに興味が無いのは依然として変わっていないけれど、必要であれば訓練もする。アポロが戻ってくるまでわたしの相手が出来るような人間がいなかったから、その機会があまり無かっただけだ。

 

「せめてメガシンカくらいは完成させてほしいのだけど」

 

「……出来るのならば既にやっています」

 

 渋い顔でアポロが言う。痛いところを突いたらしい。

 メガシンカの研究が完成した時、サカキはアポロにもキーストーンとメガストーンを渡していた。

 アポロの持つヘルガーはメガシンカが可能な種であり、これ一つを取っても戦力が大幅に向上するのは言うまでもない。

 しかし、メガシンカをするには──正確に言えば、メガシンカの制御には絆が必要なのだ。

 単にメガシンカを果たすだけならば、一組の宝珠さえあれば誰でも出来るだろう。

 けれどそれを制御するとなると話は変わる。メガシンカした事による膨大なエネルギーはポケモンを暴走させる。早い話が()()()()()()のだ。

 

 この手網を取るのがトレーナーの役目であり、つまりはそれが絆である。

 

 その点サカキは何も問題無い。ポケモン自身が強靭な精神力を備えているし、サカキもポケモンを完璧に統率出来ている。

 けれどアポロはそうではない。ロケット団の中では比較的マシな部類ではあれど、やはりトレーナーとしては大成しなかった人間だ。

 力に呑まれたポケモンを繋ぎ止められるような強い絆を、彼らは結べていない。

 

「しかしなるほど、貴方相手にこれでは確かにマサラの連中を相手取るのは難しそうですね」

 

「言っておくけれど、これが()()()よ。彼らはまだまだ成長するわ」

 

 以前に戦ったグリーンを仮想敵とした場合、対抗するなら今のわたしくらいの強さは必要だ。

 だからこれが最低限。そのラインだったのに結果がこれでは、最早一対一では勝負にもなるまい。

 二人……いや、幹部三人が殺す気でやって、ようやく勝負らしきものが成立するといったところか。下っ端で抗おうとするなら更にその倍は必要だろう。

 

「運が悪い……と言うべきなのかしらね。ジムリーダーだけでも面倒なのに、あんな才能が同時期に三人も現れるなんて」

 

「そればかりは誤算ですね。おそらくサカキ様ですら予見してはいなかったでしょう。その意味では、貴方がこちら側にいるのは不幸中の幸いです」

 

「……わたしがいなかったらどうしてたのかしら」

 

「さて、どうでしょう。存外あっさりと潰されていたかもしれませんね」

 

 事も無げに言うアポロに嘆息する。

 それはそうかもしれないけれど、もう少し言い方は無いのだろうか。

 

「もしもを話したところで意味は無いでしょう。そんな事を夢想するより、今ある手札で何が出来るかを考えるべきです」

 

「だったら早くメガシンカ(ジョーカー)を切れるようになるべきね。せっかくの強い札も扱い方を知らなければ意味が無いわ」

 

「ええ、善処しますよ」

 

 などとアポロは言うが、まあ十中八九無理だろうと思う。

 そしてそれをアポロ本人もわかっているのだろう。半ば諦めたような表情を隠しもしない。

 わたしが側にいるならサポート出来なくもないけれど、あまりそういう状況にはならない気がする。

 

「勝てとは言わないけれど、時間を稼げる程度にはなってほしいわ」

 

「それはもちろん。元より私たちの力は乱戦でこそ発揮される。真っ当な勝負さえ避ければいくらでもやりようはありますよ」

 

 そう嘯くアポロ。

 正確に自分の力を把握した上で、最も効果的な手段を選ぶ。強さとはまた違い、戦況をコントロールする(うま)さがアポロの長所だ。

 トキワジムのジムリーダー代理を任されるだけあって、ロケット団の中でもアポロの実力は飛び抜けている。

 もちろん代理は代理なのでサカキと比べれば大きく見劣りするし、結局グリーンには勝てなさそうではあるのだけれど。

 

「……まあいいわ。ところでタマムシの方は?」

 

「大騒ぎでしたよ。何せ警察とジムリーダーが生き埋めになりかけましたからね。一歩間違えれば死人が出ていたでしょう」

 

 くつくつとアポロが笑う。

 以前からアポロが指揮を執っていたタマムシのアジトは、文字通りの意味で崩壊した。

 尤も、それを起こしたのは外部からの攻撃ではなく、こちら側からの罠だったのだけど。

 

「あそこまで目論見通りにいくといっそ哀れみさえ覚えますね。世間のなんと愚かな事か」

 

「仕方ないわ。誰も真相なんて知らないもの」

 

 数日前、タマムシのゲームコーナーに警察の捜査が入った。

 どうやら何者かからの密告(タレコミ)があったらしく、その地下にロケット団のアジトがあるのではないかと推察されたとの事。

 その推察は正しくその通りで、秘密のスイッチを押した先には本来想定されていた数倍の規模の地下施設が広がっている。

 そこで警察は街のジムリーダー(エリカ)に協力を仰ぎ、そしてエリカはサカキに助けを求めた。

 タマムシのロケット団による事件発生率は他の街と比べて高く、何か大きな事件があった時に自分だけでは対処しきれないと判断したらしいエリカは、交流戦の際にサカキに協力の約束を取り付けていたらしい。

 今回はそれが活かされた形であり、警察部隊にジムリーダー二人という体制で敢行されたアジトへの突入作戦。

 警察にとって誤算だったのは、ロケット団も警察の動きを掴んでいた事だった。

 アジトは既にもぬけの殻であり、取り立てて証拠になりそうなものも残っていない。

 骨折り損のくたびれ儲けとはこの事であり、それでも何かないかと捜査を続行したところでそれは起きた。

 

 爆弾である。アジトには大量の爆弾が仕掛けられていた。

 

 連鎖する爆発が地下の崩落を引き起こし、あわや全員生き埋めというところでサカキのドサイドンが爆風の大半を防いで脱出した。

 幸運だったのは中に突入した人数が少数だった事。

 ジムリーダー……特に相手の動きを封じる各種粉技が使えるエリカがいたからこそ、動きの邪魔にならないようにとの判断であったが、これが功を奏した。

 もし大人数で突入していれば、まず間違いなく死人が出ていただろう。結果論とはいえ英断である。

 当然ながらゲームコーナーはしばらく営業停止になったし、全員が大なり小なりの傷を負ったが、命に関わるような大怪我が無かったのは奇跡と言っていい。

 咄嗟の判断で身を呈して仲間を守ったサカキは、今やちょっとした英雄なのだ。

 

 ……と、ここまでが新聞やニュースで語られる事の顛末である。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と知っている身からすればとんだ茶番だ。

 アジトの破棄は警察に情報が流れた時点で決定されていた事だし、ならばそれを逆に利用してやろうという動きがアジトの爆破騒動である。

 ゲームコーナーはロケットコンツェルンの名義で建設されたものであり、サカキの知らない間に作られたと言い張るにしてもロケット団との繋がりを疑われるだろう。

 それをさせない為の今回の作戦。

 つまりサカキ自らがアジトを潰す事──もっと言うのなら、アジトを潰そうとした警察諸共サカキを消そうとする事で、捜査の目からサカキを外させるのが目的だった。

 

 では、今現在警察の目は何処に向いているだろうか。

 

 まるで突入タイミングがわかっていたかのように仕掛けられていた爆弾。その場に居合わせなかった者。そして闇に潜み暗躍出来る有数の実力者。

 

「キョウは災難ね。まさか自分に嫌疑が掛けられるとは思わなかったでしょう」

 

「状況が出来すぎていました。しばらく彼は動けないでしょうね」

 

 セキチクシティのジムリーダーのキョウ。隠密行動や諜報能力に長けた忍者の末裔でもある人物だ。

 密告者がキョウだったというのは後から判明したとサカキに聞いたが、当時のサカキとしては密告者(それ)自体は誰でもよかったらしい。ただ、最も可能性が高かったのもキョウであると話していた。

 罪を被せるにはあまりにも都合が良すぎる人物だ。経歴からそれが可能だろうという客観的事実も後押ししている。

 ロケット団という組織にとって、ある意味最大の天敵とも言えるジムリーダー(キョウ)を封殺し、さらにエリカからは絶対的な信頼を得た。

 トキワでちまちまやっていた治安活動など比にならない。ここに来てサカキは不動の地位と大量の味方を獲得したわけである。多少の懐疑は民衆の声がかき消すだろう。

 その代償としてサカキは決して軽くない傷を負ったわけだけど、まあ安い買い物だと言える。今は自宅で療養中だ。

 

「どうあれ、改めてロケット団の脅威を知らしめる事は出来たはずです。民衆の不安は高まっていく事でしょう」

 

 街の象徴であり、暴力に対する盾でもあったジムリーダーが罠に嵌められた。

 そのうちの一人は首謀者だと疑われているのだから、セキチクシティなんかは今頃大きな騒動になっていそうだ。

 

「とまあ、ロケット団が動くには最大の好機なのですが、いい事ばかりでもないのですよね」

 

 言いながらアポロが書類の束を二組取り出し、わたしの方へ放った。

 念動力でそれを手元に引き寄せ、内容を確認する。

 

「シオンタウンの占拠を任せた下っ端がいるでしょう」

 

「……この人は……」

 

 書類の一番上に、見覚えのある顔があった。

 名をヨツバと言うらしい。確か、ずっと前にわたしの姿を見た唯一の下っ端だったはず。

 

「おや、知り合いでも?」

 

「いえ、続けて」

 

「では──その書類はとあるリストです。シオンタウン占拠に関わっていたり、ダークポケモンを保有している人物が多くいますね」

 

「それがどうしたのかしら」

 

「徒党を組むような動きが見られました」

 

 ぴくり、と眉根をひそめる。

 

「……根拠は?」

 

「不必要な恫喝や破壊行動、及び命令無視が目立ちます。尤も、特別大きく逸脱した、というわけではないのですが」

 

 書類を見ながらアポロが続ける。

 

「同じような行動をした者がさらに数人。いずれもそのリストに載っている人間です」

 

「それだけなら力に溺れた愚か者、という判断も出来るわ」

 

 ダークポケモンの力は強大だ。

 とにかく攻撃性に優れており、命令に従順。痛覚が存在しないかのように振る舞い、傷付く事に躊躇いが無い。

 戦闘マシーンとはよく言ったもので、その異常性から対峙する者には恐怖や嫌悪感を与えるだろう。

 是非はともかくとして、ポケモン単体の強さとしては非常に高性能であり、ロケット団の戦力拡大の為に導入されたものだけれど、そんなポケモンだから自分が強くなったと勘違いする者も現れる。

 つまりはそういう手合いではないかと思ったのだけど。

 

「専門の部隊を新たに創設しないかと打診されましてね。その希望者がそのリストですよ」

 

「どうするの?」

 

「却下したに決まっているでしょう。余計な不和を生みかねない」

 

 ふんと鼻を鳴らしながら言うアポロ。

 まあ当然だろう。そもそも誰が指揮をするのかという話であり、最大の作戦が目前に控えている中、そんなものを設立する余裕などあるはずもない。

 

「なまじ成功体験を与えたのが良くありませんでしたね。自分たちだけでも何かが成せると思ってしまった」

 

「それがダークポケモン部隊?」

 

「でしょうね。結果を出してサカキ様に認められたいのでしょうが……結局のところ、彼らはただ暴れたいだけです。それだけならわざわざ専用に部隊を編成する必要は無い。こちらで適切に配置するだけの事」

 

 シオンタウンの占拠は下っ端だけで成立した。

 それを自信とするのはいい。けれど過信となると話は違う。

 所詮はポケモンの性能(スペック)に頼り切っただけの力押しでしかなく、彼ら自身には何の能も無い。

 たかだか一回の成功体験で思い上がるなど愚の骨頂である。

 

「一応聞いておきますが、仮に部隊を編成したとしてマサラの連中に勝てると思いますか?」

 

「無理ね」

 

 即答する。

 

「逆に聞くけれど、この人たちがわたしに敵うと思う?」

 

「愚問でしたね、忘れてください」

 

 いくら性能が高かろうと、命令に忠実という事は命令された事しか出来ないという裏返しでもある。

 トレーナーとしての能力が劣る相手に負けるとは微塵も思わない。当然それはマサラの三人組も同じであり。

 尤も、戦力を集中させて()()()()()()()()()()()()のであれば少し話は変わるけれど──。

 

 と、ふと疑問。

 

「……アポロ、この人たちの中にシオンのガラガラを殺した人はいる?」

 

「ええ。ヨツバという人物がそうですが」

 

「もう一つ質問よ。この人たちは()()()()()()()に躊躇いはある?」

 

「無いでしょうね。特に今は勢いがあります。何故警察やタマムシのジムリーダーを見捨てなかったのか、なんて話も出ていましたね」

 

「最後の質問よ。この人たちの誰かはタマムシにいる?」

 

「ええ、十余名程。勝手な行動は慎むよう言ってはいますがね」

 

「そう」

 

 質問を終え、踵を返して扉の方へと歩みを進める。

 

「行くのですか? 今からだと夜も遅くなると思いますが」

 

「センターにでも泊まるわ。連絡するから明日拾いに来てちょうだい」

 

「サカキ様は何も言われませんでしたが」

 

「止められてもいないのでしょう」

 

 まさかわたしにだけこの話をしているわけではあるまい。サカキも既に知っているはずだ。その上で何も言わなかった。

 つまりこれは『わたし(お前)が決めろ』という事なのだろう。

 

「わざわざ生かしたのだから、まだ利用価値があると解釈すべきだわ」

 

「予見していなかったやもしれません」

 

「サカキが? 冗談が下手ね」

 

 わたし程度で辿り着ける考えを、わたしよりもよっぽど知恵の回るサカキが見落とすはずもないだろうに。

 

「相手の戦力を削れるかもしれませんよ」

 

「その代わりに組織としての強度が下がるわ。命令違反は捨て置けない」

 

 仮に上手くいったとして、それを言い訳に同じ事を繰り返されてはたまったものではない。

 どちらにしてもここは行くのが正解だと考える。

 

「止める気があるのなら話を聞くけれど」

 

「まさか。そんな権限も理由も持ち合わせていませんよ。それに貴方が行くのなら()()()()()()が出なくて済むかもしれませんからね」

 

 アポロが薄く笑みを浮かべる。

 一度忠告されている以上、二度目は無い。わたしが行かなければ結果はどうであれその下っ端たちを始末し、組織の和を乱した者がどうなるかという見せしめに使う気だったのだろう。

 口で言ってわからないのなら恐怖で縛る。実に単純かつ効果的な方法だ。

 

「ああ、行くのなら『リンカ』として振る舞ってくださいね。間違っても『ドール』としての貴方は見せないように」

 

「わかっているわ」

 

 わたしがやろうというのはエリカを──敵であるジムリーダーを助けるような行動だ。

 そんな姿をロケット団(ドール)が見せるわけにはいかないし、罰を与えるにしてもわたしでは不適格だ。

 

「精々頑張ってくださいよ。私とて出来る事なら残業したくはありませんから」

 

「努力はするわ」

 

 言って会話を切り、今度こそ訓練場を出る。

 別に彼らがどうなろうと知った事ではないけれど、サカキの障害になるなら何が相手でも潰すと決めた。

 その結果として生死が分かれるのだとしても、それはわたしの預かり知るところではない。

 ただ──誰も死なずに済むのなら、その方がいいと思っているだけなのだ。




今まで本部=タマムシのアジトと思ってた人いるかもしれないので少しプロローグ等に改稿があるかも。本部はトキワにあるロケットコンツェルンです。

サブタイトル考えたいのでちょっと書き溜め今後はまた投稿遅れると思います。
多分2章的な感じになると思います。
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