人形少女の使い方   作:林公一

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4月22日 追記
後書きにジムリーダー代理について少し詳しく掲載。


野望は胸に

 リンカ嬢との勝負に負けた後の記憶が薄い。

 ランスとアテナが何か言っていたような気もするがほとんど覚えていない。多分俺を慰めるような内容だったと思う。

 だが放心した今の俺にそんな言葉は大して届かず。気が付けば本社ビルの屋上で缶コーヒーを傾けていた。

 

 

「はぁ〜……」

 

 さっきのバトルを思い出して溜息をつく。

 別に俺は特別負けず嫌いというわけじゃないし、勝ち負けに拘るタイプでもない。

 リンカ嬢とのバトルは例外的に少しばかり本気で勝ちを狙いに行ったが、俺の戦法に合わない1on1ということ、相棒を使っていたわけではないということ、何よりリンカ嬢はサカキ様のサイホーンを借りていたという三点から、負けるなら負けるで構わないとさえ思っていた。

 むしろリンカ嬢の思いがけない才能を喜ぶべきだというのに。

 

「なんだろうなぁ、この釈然としない気持ちは」

 

 どこかにリンカ嬢を素直に祝福できない自分がいる。そんな自分が嫌になる。行き場の無いこの感情は何処へ吐き出せばいいのだろうか。

 そんな事を思いながら再び缶に口を付ける。

 

「はあ〜……」

 

「おや、ラムダですか。奇遇ですね」

 

「……ランスか。今日はよく会うな」

 

 物思いに(ふけ)っていると、いつの間にか背後にいたランスが声を掛けてきた。正直今一番会いたくない相手である。

 

「さっきの試合は散々でしたね。まさかバトル初心者に完敗するとは」

 

「うるせぇ、嫌味言いに来たのかお前は」

 

「まさか。そこまで暇ではありませんよ」

 

 自販機を操作しながらランスが言う。

 

「ただまあ、貴方が悪いわけではないと思いますよ。あれは我々にとっても予想外過ぎる。あの二つの技もやはりサカキ様はご存知なかったようですし」

 

「……やっぱお前の目から見てもそうか」

 

「むしろわたしの方が戦力の分析は出来ていると思いますがね」

 

 それはそうだろう。同じ実働部隊でも俺が諜報活動をメインとしているのに対し、ランスは戦闘へ入る事も視野に入れた破壊工作がメインだ。どちらがより大きな戦力を求められるかなど考えるまでもない。ランスが幹部に上がった理由もそういう能力を買われての事だ。

 

「あれでバトルの経験は初めて……本当なら末恐ろしい才能ですよ。率直に言うなら既にそこらの下っ端よりも余程強い」

 

 下っ端育成の指揮を直々に()っているランスが言うならそうなのだろう。実際、いくら俺でも下っ端に遅れは流石に取らない。

 しかし才能──才能、か。

 

「……なあ、ランス」

 

「なんです?」

 

「お前はサカキ様が嬢ちゃんを引き取った事についてどう思ってる?」

 

「はぁ?」

 

 何を今更、とでも言いたそうなランス。確かに今更ではあるのだが、それでも聞かずにはいられなかった。

 ポケットから煙草を取り出し、火をつける。

 

「俺も最初はここで育ててやればいいと思ってたけどよ。今日の嬢ちゃんを見てたらやっぱ違う道もあったんじゃねえかって思った」

 

 一目見ただけでわかるバトルの才能。他人のポケモンを使いこなし、あまつさえサカキ様(トレーナー)本人ですら気付けていなかったポテンシャルを引き出したあの一幕。

 もしもリンカ嬢が平穏無事に成長出来ていたら。トレーナーとして旅をし、ジムを巡っていたら。

 きっと大成していたに違いない。あの少女にはそんな輝かしい未来への道も存在していたはずなのだ。

 

「俺はロケット団に入った事に後悔はねぇ。俺は自分でこの道を選んだ。だけど嬢ちゃんはそうじゃねえだろ」

 

 リンカ嬢の故郷であるシンオウで何らかの事件が起こり、ナナカマドだかハチカマドだかって博士がカントーに連れて来て、オーキドのところじゃ落ち着けないからトキワの森に逃げて。挙句の果てにはロケット団(悪党の巣窟)に引き取られる始末。

 

「あの子にゃ選択肢がなかった。自分で選んだんじゃなくてそれしかなかったんだ。いくらでも未来を選べたはずのガキがなし崩しに来ていい場所じゃねえ」

 

「それはどうですかね。彼女にはオーキドのところで救いを待つ手段も取れた。事実、彼は彼女を救おうとしていたのでしょう? その時点で未来は分岐しています。救いの手を取るか、払い除けて一人で生きるか。彼女は自ら後者を選んだのです」

 

「そりゃまあ……」

 

 ランスは続ける。

 

「ロケット団に流れ着いたのは確かに偶然でしょう。けれどこうならない道筋は既に提示されていた。ならば彼女の自業自得です」

 

「厳しいねぇ。相手は七歳だぜ?」

 

「当然です。わたしたちはロケット団(悪党)ですよ? わたしたちに出来るのは可能性を提示してやる事だけ。その後の選択でどうなろうと知ったことではありません」

 

「けっ、放任主義め」

 

 煙を吐く。

 

 ──可能性の提示、か。

 

 ランスの言葉を反芻する。例えばリンカ嬢が光の道に戻れる未来は作れるのだろうか。それとも覇道を共に歩んで行くのが正解なのか。

 答えは出ない。未来は予測不可能だ。

 

 ──強さが欲しい。

 

 圧倒的な才能ではない。強力無比なポケモンでもない。

 そうではなく、もっと根本的なところ──言うなれば心の強さ。あるいは覚悟と言い換えてもいい。

 

 もちろん(やわ)な気持ちでロケット団にいるわけではないが、それでもどこかに弱い自分がいなかったか。

 組織の力は強大だが、それに甘えて自分を鍛える事を疎かにしていなかっただろうか。

 ロケット団に入ってから負けというものを経験していなかった。それが慢心に繋がり、怠慢に繋がり、その結果が今日の負けなのではないだろうか。

 

 缶を握る手に力が入る。

 ああそうだ。俺は弱い。そしてその弱さをロケット団に入る事で誤魔化していた。

 それを認めてしまった今、やるべき事など一つしかない。

 

 強くなるのだ。

 

 俺の才能で得られる物理的な強さなど高が知れている。そうではなく、精神的に強くなるのだ。

 それがあの子の為だけでなく、ロケット団に貢献する事にも繋がる。

 いざという時にサカキ様の信頼を裏切らないように。そしてリンカ嬢の選択を支えられるように。

 

 決意を改め、残ったコーヒーを一気に飲み干してゴミ箱へとシュートした。

 

 

※ ※ ※

 

 

 執務室に戻り、ラムダとリンカのバトルを振り返る。

 結果は重要ではない。注目すべきはその過程。

 勝敗に直結したあの技。“ドリルライナー"と“うちおとす"だったか。どちらも自分の知識にはない技だ。当然、サイホーンが覚えているはずもない。

 そういう技がある、という事に関しては特別驚くものではない。ポケモンにはまだまだ解明されていない未知の部分が多く、この地では発見されていないだけで他地方では常識という事も多々ある。

 ましてリンカはシンオウ出身かつ、カロスとのハーフのようだ。自分の知らない知識があっても何ら不思議ではない。

 

 問題はサイホーンが習得していないはずの技をあの場で再現してみせた事。

 あの後サイホーンに同じ技を指示してみたが使える気配はなく、あの場限りのものであった事が窺える。

 成長(レベルアップ)して技を覚えたり、技マシンや人を通して習得したりといったものとはまた違う第三の方法。限定的な状況による力の覚醒とでも言おうか。

 こんな真似が出来るのは恐らくリンカ由来の力が関係しているのだろう。

 

 コーヒーを飲みながらオーキドから送られてきた書類に改めて目を通す。書かれているのはシンオウにいた頃のリンカの状況と能力についてだ。

 ヨスガシティ出身で母親がカロス生まれのハーフ。家柄も良く、いわゆる令嬢という立場にあたる現七歳。母親は体が弱くリンカが生まれた時に逝去した為、家族は父親のみ。

 形式上サイキッカーとあるがその実態はより強力な力を持つ『先祖返り』。それ故か野生のポケモンを引き寄せやすく好かれやすい体質の持ち主。強力なサイコパワーを扱う事が出来る。

 ある日にポケモンの手によって誘拐され、翌日心情(シンジ)湖にてナナカマド博士が保護。

 保護されてからはそのままナナカマド研究所へ引き取られたが何度も逃走を図る為、環境を変えるためにカントーのオーキドへとリンカを託す。

 他にも細々(こまごま)としたものはあるが以上が要点だ。

 

 気になる事は色々あるがとりあえず二点。

 一つは能力の詳細が書かれていない『先祖返り』。そしてもう一つが──

 

「何故、母親と名が同じなのだ」

 

 ──リンカという名が母親にも付いていた事。

 注釈が書かれているから書き損じではないだろう。間違いなく母と子で『リンカ』という名を共有している。

 通常、自分の子に家族と同じ名前を付けることは殆ど無い。

 名前というのは人を区別する為のものだ。家族間で全く同じ名前だと不便が生じるだろう。

 リンカの家庭の場合は母親が逝去しているのでその問題は起きないのかもしれないが、それでも同じ名を付ける事に疑問は残る。

 

 ──情報が足りない。

 オーキドは詳しい資料と言ったが、書かれている事は凡そリンカの出生や両親、そして警察から見た事件の見解程度。『先祖返り』──恐らくはスピアーたちに彼女を守らせていた能力も含む──についても一般の超能力者(サイキッカー)より強い力を持つ事くらいしかわからず、知りたい内容が書かれていない。

 

「……やはり現地に赴く必要があるか」

 

 送られた資料に知りたい情報が無い以上は自ら出向くしかないだろう。

 その間、トキワジムやロケットコンツェルンのトップが空白になるが、そこはアポロに任せればいい。ジムリーダー代理の資格はクリアさせているし運営能力も問題無い。余程の相手(バッジ六つか七つ持ち)が来なければ支障なく活動出来るはずだ。

 

 頭の中で遠征の大まかな計画を立てる。

 地理的にも最初はリンカの故郷であるシンオウを訪れるのがいいだろう。神話の中に確かそれらしい伝承があったはずだ。そこで『先祖返り』について詳しく調べる。元々が神話の存在という事もある故に信憑性に難がありそうだが、手がかりの一つにはなるはずだ。

 出来ればナナカマドにも接触して当時のリンカの様子についても聞いておきたいが、相手が博士ということもあり少々難しいかもしれない。事前にアポを取りつけておく必要がある。これはオーキドの名前を出せば不可能ではないだろう。カロスについてはその後だ。

 

 一度思考を止めて資料をデスクに置く。

 あまりにもリンカについてわからない事が多い。訳ありなのはわかっていたが、想像以上に拗れていそうだ。

 もしや自分は厄介事の種を拾ってしまったのではないかという考えが頭に浮かび──否、と否定する。

 

 本来であれば自分の元に来るはずの無かった機会が何の因果か巡ってきたのだ。拾わない理由が無い。

 多少の面倒は許容しよう。元より力ある者は厄介事を抱える運命にある。あの少女はそういう星の元に生まれたという話だ。

 

 それに力の解明と利用さえ出来れば何も問題を解決する必要は無いのだ。仮に解決が必要なプロセスなのであれば取り組むのも吝かでないが、あくまでも手段の一つでしかない。目的はあくまでもリンカの持つ力がロケット団に使えるかどうかの調査だ。

 自分は善人ではない。無償の愛など持ち合わせていない。実の息子に対してさえそうなのだから、他人の子どもに与える愛など存在しているはずが無い。

 相手をよく知ることで望みを理解する。そうする事で相手を御しやすくなるというだけの事。知っておいて損は無い。

 情には流されない。考えるべきは自分に、ロケット団にとって益があるかどうか。それだけだ。信念は揺らがない。

 

 なのに、心のどこかに彼女の姿があるのは、自分が終ぞ持ちえなかった本物の才能を見た故か。

 あの時垣間見えた彼女の未来の姿を思い浮かべ──振り払う。

 

 自分のやるべき事は変わらない。

 自分を信じて着いてくる者達に報いるべく前へと進む。

 全ては我がロケット団の為に。カントー征服という野望の為に進み続けるのだ。

 

 




この辺から本格的にオリジナル要素入り始めるので苦手な人はここらで止めといた方がいいです。


『ジムリーダー代理』
本来のジムリーダーに変わってバッジ授与を代行する役目。
そこのジムリーダーと同格である必要は無く、代理が成り立つ実力があれば試験をパスする事が出来る。
ただし代理が授与出来るのは六つ目までであり、それ以降は本来のジムリーダーとバトルして勝ち取る必要がある。



ついでにちょっとアンケート
要するにそれが何なのか、どういう効果を持つのかネタバレにならない程度の説明が欲しいかって感じです。

今後オリジナル要素が出た時にフレーバーテキストが欲しいか

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