White Alteration   作:烊々

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 最初の地の文だけは一人称視点で、レムの独白です。



後編

 

 

 幼い頃から、物事の終わりを見るのが好きだった。

 好きなアニメや漫画の最終回とか。

 別れとか、喪失とか。

 死とか。

 物事は終わる時こそが一番美しいと思っていた。

 だからこそ、永遠の繁栄を意味する守護女神の存在は、わたしにとっては好ましくなく、信仰する気にはなれなかった。

 そんな時、学校で暇つぶしに研究していた考古学で犯罪神様について知った。

 ゲイムギョウ界に滅亡を齎す邪神。

 わたしにとって、理想とする神そのものだった。

 

 

 

 

 ロムとラムのお絵かき用のスケッチブックに、計算式をびっしりと書き込むレム。

 

「うーん、やっぱり足りないなぁ」

 

 レムが導き出した計算だと、ほぼ全てのルウィー国民を生贄にして得られるエネルギーと、自身の中にあるロムとラムのエネルギーを足しても、犯罪神復活には至らない、という答えが出た。

 

「お姉ちゃん……ホワイトハートを捧げなきゃいけないね」

 

 別の式に変えたり、別のエネルギーの抽出方法を考えたりと、試行錯誤を繰り返し何度計算し直しても、やはりブランの分のエネルギーがなければ足りないと確証を得たレムは、スケッチブックを閉じる。

 

「それに、余裕ぶってもいられない。このままじゃお姉ちゃんに勝てないし、早くロムちゃんとラムちゃんの力を使いこなせるようにならなくちゃね」

 

 閉じたスケッチブックを無造作に放り投げ、ルウィー教会地下の修練場に向かうレム。

 

『…………ゃん! レムちゃん!』

 

 すると、レムの頭の中に、ロムの声が鳴り響く。

 

『こんなことはやめよう、レムちゃん……! 今ならお姉ちゃんも許してくれるよ……!』

「うるさいなぁ。わたしはあなたたちの妹でも家族でも何でもないってのに、姉を気取らないでくれる?」

『犯罪神が復活したら、レムちゃんだって死んじゃうんだよ……⁉︎』

「わたしはそれを望んでるんだよ」

『……レムちゃん、寂しいのね』

「……はぁ?」

 

 ラムの一言で、レムの表情が歪む。

 

『大好きな人がいないから、そう思っちゃうんでしょ? なら、わたしたちが本当にレムちゃんのお姉ちゃんになってあげるわ! ならもう寂しくなんて……』

「……っ、うるさい、うるさいうるさい! わたしの心に入り込もうとするな‼︎」

 

 苛立ちのままに頭を掻きむしり、強引にロムとラムからの呼びかけをシャットアウトするレム。

 

「……わたしが孤独? いいや、わたしだけじゃない。人は死ぬまでみんな孤独なんだよ……! だから、みんな死んで、滅んで、溶け合って一つになれば寂しくなんかない……!」

 

 

 

 

「……ここは」

 

 レムの猛攻を受け、命からがらルウィーを脱出したブランは、その後の記憶がなかった。

 どうやら、国を出たところで意識を失っていたようだ。

 

「目が覚めた?」

「ネプテューヌ……」

 

 ネプテューヌがいる、ということはプラネテューヌ教会であることがわかった。

 

「……私、何日寝てた?」

「丸二日……ベールから聞いたよ。レムちゃんのこと」

「やっぱり……」

「うん……わたしたちの記憶といーすんが調べてくれたデータが食い違ってた」

「……でしょうね。レムが自分のことをベラベラ喋ってくれたから、あなたにも教えておくわね」

 

 ブランは、レムの正体とレムの引き起こした認識改変、そしてロムとラムが吸収されてしまったことを話した。

 

「そんな……ロムちゃんとラムちゃんが……!」

「あの子たちの善意を踏み躙るなんて、許せるわけないわ」

「……それにしても、自分たちのとこの女神と候補生がこんなことになってるのに、ルウィーはやけに平穏だね」

「そうなるようにレムが人々の認識を弄っているからよ」

 

 その時、ブランの携帯端末から着信音が鳴り響く。

 ロムからの着信だったが、通話をかけてきたのがロムではないことは明らかだった。

 

「……わたしよ」

 

 ブランは若干の苛立ちを含んだ声で応答する。

 

『はぁ〜い、お姉ちゃ〜ん』

 

 携帯端末からは、レムの軽薄な声が聞こえた。

 

「何の用?」

『わかってるくせに。早く帰ってきてくれないと寂しいよぉ』

「黙りなさい」

『まぁ、冗談は置いといて、わたしみたいな危険人物を自分の国に残して逃げて、守護女神としてそれでいいわけ?』

「……っ」

『だから、身体休めたら早く帰っておいでね。わたしは逃げも隠れもしないから。今度こそお姉ちゃんを完全に叩き潰してあげるよ』

「……上等だ」

 

 ブランは通話を切り、携帯端末が軋むほど強く握りしめる。

 

「ネプテューヌ、頼みがある」

「……何?」

「もし私がレムに負けるようなことがあったら、ノワールとベールと一緒にルウィーを滅ぼして、プラネテューヌ、ラステイション、リーンボックスの三国で占拠してほしい」

「……っ、そんなことしたくないよ!」

「そうしなければ、ルウィーの国民は犯罪神復活の生贄にされるわ。それに、負ける気なんてさらさらない。けど、覚悟も無しに戦うことはできない」

「なら、わたしたちも一緒に戦う!」

 

 ネプテューヌの提案に対し、ブランは首を横に振る。

 

「気持ちは本当に嬉しい。けど、それはできないわ」

「どうして⁉︎」

「これはルウィーの問題よ。あなたたちに助けてもらって事態が解決したとしても、ルウィー国民から私への信仰が揺らいでしまう」

「……」

「それに、大事な妹を自分で取り戻せないで、何がお姉ちゃんよ」

「……そっか。ならもう止めないよ。これ以上はブランの覚悟に泥を塗ることになるしね」

「助かるわ。さて、身体は問題なく動くし、私はもうルウィーに戻るわね」

「うん、わかった」

 

 ブランは枕元にネプテューヌが用意していた栄養ドリンク『ネプビタン』を一気に飲み干し、立ち上がって上着を羽織る。

 

「ブラン、これ!」

 

 ネプテューヌからブランに『あるもの』が投げ渡された。

 

「これは……」

「一緒に行けないなら、これぐらいはさせてよ。ロムちゃんとラムちゃんを取り戻すために、きっと、いや絶対に役に立つから」

「……ありがとうネプテューヌ」

 

 ブランはホワイトハートに女神化し、窓を開ける。

 

「じゃあ、行ってくる」

 

 そしてプラネタワーの窓から飛び降り、そのまま空を翔けルウィーへと戻る。

 

「……ブラン、信じてるからね」

 

 どんどん小さくなっていくブランの背中を見つめながら、ネプテューヌは呟いた。

 

 

 

 

『わたしはアリオ高原で待ってるよ』

 

 通話の最後にレムが言ったダンジョンに到着したブラン。

 

「……待たせたな」

 

 レムは言ったとおり、逃げも隠れもせず、アリオ高原の中心部に立っていた。

 

「一人で来たんだ?」

「まぁな。お前の逃げも隠れもしないって言葉は嘘じゃないって思ったからな」

「ふーん……」

 

 これは一種の駆け引きでもあった。

 レムはあえて、まだルウィー国民には何もしていなかった。たとえ認識改変をしていたとしても、先にレムがルウィー国民たちに悪虐の限り尽くしてしまえば、他の国の女神の手を借りたとしてもルウィー国民の信仰が揺らぐことがなくなってしまうからだ。

 ブランもレムの考えは承知で、そしてレムが行動を起こしていないとわかっていたため、ここで他の女神の力を借りれば、事態を解決してもルウィー国民から信仰が落ちてしまうと判断した。加えて、正面から正々堂々と自身を迎え討とうとするレムに対し、他の女神の力を借りるのは守護女神としてのプライドが許せなかった。

 

「それに、ロムとラムの力を使いこなした自分を、正面から私相手に試してみたかったんだろ?」

「研究の成果を実証したかっただけだよ」

「じゃあ、そういうことにしといてやる」

 

 レムは、ロムとラムのシェアクリスタルを現出させ、それらを使用し、ホワイトシスターレムへと変身する。

 

「変身完了……!」

「準備は済んだな? なら、行くぞ」

「うん、どうぞ」

 

 ブランは地面が抉れるほどの力強い足踏みで、一直線にレムに突撃する。

 

「『テンツェリントロンペ』!」

 

 回転の勢いをつけた戦斧の一撃を、レムに向けて放つ。

 レムは魔法防壁で身を守ろうとするも、防壁は戦斧にガリガリと削られていき、どんどんブランとレムの距離は縮まる。

 

「ここは、私の距離だ!」

 

 防壁を突破したブランが、もう一度テンツェリントロンペの構えに入る。

 

「それはどうかな、出でよ『氷剣アイスカリバー』」

 

 レムは氷の大剣を手に持ち、ブランの戦斧に打ち付けて防御する。

 

「パワーなら私の方が上だ!」

「だろうね。ならこういうのはどうかな……!」

 

 瞬間、アイスカリバーは砕け、飛び散った氷の破片が軌道を変えてブランに襲いかかる。

 

「ちぃ……っ」

 

 ブランは一旦距離を取り、そのまま旋回、レムの背後を突こうとする。

 

「……甘いよ」

 

 しかし、レムは予め展開していた『ノーザンクロス』の魔法陣でブランを拘束した。

 

「ぐっ……」

「……『アブソリュートゼロ』」

 

 身動きの取れなくなったブランに、レムは容赦なく必殺魔法を撃ち出す。

 

「だぁぁっ!」

 

 ブランは、力尽くでノーザンクロスの拘束を振り解き、戦斧でアブソリュートゼロの魔法氷塊を弾き飛ばす。

 

「……ちっ、しぶといね」

 

(こいつ……強え……っ!)

 

 肉体を女神に作り替える前のレムという少女を知る者は多くはない。

 数少ないレムを知る者は、ルウィー屈指の名門学校を主席で入学、卒業という経歴を持つレムのことを『天才』と評していた。

 その後、彼女が犯罪神信仰に倒錯していったことを知る者はいないが、犯罪組織の科学者としてその頭脳で組織運営と拡大に貢献していた。

 しかし、レムにとって勉学とは必要な知識を入力、出力するだけの作業に過ぎない。レムの真の才能は、魔法とシェアエネルギーの扱いだった。

 しかし、『扱うこと』だけに才能があったとしても、肝心の魔力を大して生まれ持っておらず、また、女神ではないため当然シェアエネルギーも持つこともない。運動神経もお世辞にも良いとは言えず、要は、肉体が才能に適応していなかったのだ。

 ゲイムギョウ界には、こういった人間はかなり多く存在する。アイエフやコンパ、その他メーカーキャラといった自身の才能に肉体が適応していることにより戦闘能力が高い人間は稀で、才能があっても肉体が適応していない者、肉体は適応していても才能がない者、才能もなければ肉体も適応していない者が殆どであり、レムもその中の一人だった。

 しかし、レムは自身の肉体を捨て人工女神となりシェアエネルギーを扱う資格を得た。更に、ロムとラムを吸収したことにより膨大な魔力も得た。

 自身の才能を100%……否、150%活かせる肉体と力を手に入れたレムは、それからたった二日で女神ホワイトハートと渡り合えるほどの実力を手にしていた。

 

「……『ツェアシュテールング』!」

「『アイスハンマー』!」

 

 ブランの力強い斧の一撃を、魔力を込めた一撃で相殺するレム。

 

「ちっ……『ゲフェーアリヒシュテルン』ッ!」

「『アイスキューブ』……!」

 

 斧で打ち出された氷弾幕に対しては、同じく氷弾幕で迎撃する。

 ここまでの戦闘は、ほぼ互角。

 

(正直、またロムやラムのフリして私の動揺を誘うんじゃねえかと思ったけど、正面から正々堂々の戦いでここまでやれるようになってるとは思わなかったぜ……)

 

 ブランはレムの実力に対し、素直に感心していた。

 

(惜しい才能だな。敵でなきゃ、ルウィー教会で私のために活かしてほしいぐらいだ)

 

「考えごと? 余裕だね」

「……思ったよりやるな。お前」

「それはどうも」

「出し惜しみできる相手じゃねえな。ここからは本気で行くぜ……!」

 

 ブランは、以前妨害されたこともあり、少し距離を取ってから、ハイパーシェアクリスタルを掌の上に現出させる。

 

「ネクストプログラム、起動‼︎」

 

 対するレムは、焦る様子を見せなければ、ブランがネクストフォームへ変身することを妨害する様子も見せない。

 

「来たね、ネクストフォーム。じゃあ、お互い奥の手を見せ合うとしようか」

 

 レムが両手で印を結ぶと、シェアエネルギーが収縮されていく。

 印の中心に集められたシェアエネルギーは渦巻きながら、濃度を増し、高い質量を持ち、膜を張り始める。

 

(レムの奥の手……あれは……!)

 

 そして、シェアエネルギーの奔流の膜がドーム状に展開され、レムとブランを包み込んでいく。

 

「……『シェアリングフィールド』」

 

 繰り返すが、レムはシェアエネルギー操作の天才であった。

 女神の力を手に入れてからだった二日でシェアリングフィールド発動の域に辿り着いていた。

 天王星うずめが行うような完全にシェアエネルギーだけでフィールドを構築するのではなく、魔術を用いてシェアを操作してフィールドを構築するレムなりのやり方である。

 

「わたしの世界へようこそ」

 

 シェアリングフィールドは、敵のステータスを大幅に下げ、自身や味方のステータスを底上げする。ネクストフォーム対策としてはこれ以上ない一手であった。

 

「驚いたな……けど、こんなもんで私を止められるとでも思ってんのか?」

「それはわたしのセリフだよ。シェアリングフィールドの優位性を覆せるかな?」

 

 ブランはネクストフォームへ変身を、レムはシェアリングフィールドの展開を完全に終える。

 両者が行きを整え直したと同時に、シェアリングフィールド内に、白と青の軌道が疾る。

 圧倒的なステータスの優位を誇るブラン相手に、溢れるほどの魔力でステータスを底上げして対抗するレム。

 両者一歩も譲らぬ激戦が繰り広げられる。

 

(……何故だ)

 

 ……ように見えたのは、最初の数十秒だけであった。

 次第にレムはブランの動きについていけなくなっていき、拮抗が崩れていく。

 

(何故だ! 理論上なら、シェアリングフィールドがあればわたしの戦闘力はお姉ちゃんがネクストフォームであったとしても劣らないはず! なのに何故……わたしはここまで追い込まれている……⁉︎)

 

 ブランにあってレムにないもの。

 

(レム、確かにお前は天才だよ……)

 

 それは、戦いと戦いと戦いの果てに手に入る、才能だけでは覆らない、所謂戦闘勘。

 

(……けど、私はな! ただの天才程度なんかよりも、もっと強くてやばい奴らと戦ってきたんだよ!)

 

 ブランは、レムの魔法を掻い潜り、接近して右腕を伸ばす。

 

「……このぉ!」

 

 レムの右手から放たれた魔法光線を、ブランは最低限の動きで回避する。

 まるで、レムが悪あがきで撃ち出すのを予測していたかのように。

 

「……っ!」

 

 そして、ブランはレムの胸ぐらを掴み上げた。

 

「捕まえたぜ……!」

 

 そのまま、レムの額に思い切り頭突きをぶつける。

 

「これはお前が騙したロムの分……!」

 

 続いて、よろけたレムの腹に膝蹴りを入れる。

 

「そして、これはラムの分……!」

「ぐふぅ……っ」

 

 レムの弱点は更に存在する。

 それは、戦闘による痛みへの耐性の無さ。

 衝撃と激痛で、正常な思考が間に合わない。

 

「最後は……可愛い妹ができたと思って嬉しかった私の分だぁーっ‼︎」

 

 ブランがレムを思い切り殴りとばすと、シェアリングフィールドが解除される。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 最早、勝敗など明らかだった。

 

「……トドメだ」

 

 ブランは精神を研ぎ澄まし、自身のシェアエネルギーを高めていく。

 対するレムは、痛みに加え自身の奥の手が完全に通じなかったことのショックで思考がぐちゃぐちゃになり、魔力を練ることもできない。

 

「……っ、良いのかなぁ! わたしを殺せば、わたしの中のロムちゃんとラムちゃんも死ぬって言ったよねえ‼︎」

 

 できることといえば、ロムとラムを人質にブランの攻撃を止めようとすることぐらい。

 

「あぁ、わかってるさ」

 

 しかし、ブランは止まらない。

 戦斧を消滅させ、別の武器を顕現させる。

 

(あれは……刀……?)

 

 ブランが取り出したのは、刀身が紫に光る一本の刀だった。

 これこそが、ブランがネプテューヌから託された『あるもの』の正体。

 

「介錯のつもりぃ? 酷いお姉ちゃんだねぇっ!」

 

 レムの言葉など気にも止めず、ブランは高めたエネルギーを刀に移し、技を放つ。

 技の名は……

 

「『次元一閃』ッ‼︎」

 

 ネクストパープルの最強必殺技、次元一閃。

 目にも留まらぬ勢いで繰り出される、居合いの一太刀。

 

「ぐっぅうああああああっ‼︎」

 

 一閃をまともに食らったレムの身体にブレがはいる。

 

「あぁ……っ! なに……これぇ……っ⁉︎」

 

 そして、ロムとラムがレムから分離した。

 

「お姉ちゃん!」

「お姉ちゃん……!」

 

 次元一閃は、物事の概念すらも斬り裂く技。

 ブランは、その力でレムからロムとラムを見事に切り離したのだ。

 

「……次元一閃、やろうとすれば私にもできるもんだな」

「よくも……! よくもわたしの力を……っ!」

「お前なんかのじゃねえ。私の妹たちだ。誰にも渡すかよ」

「ぐ……うああああぁぁぁぁっ‼︎」

 

 レムは、次元一閃後に発生するシェアエネルギーによる爆発に呑まれていった。

 

「……これが、守護女神だ」

 

 言いながら、ブランは右腕を掲げ、自身の勝利を示した。

 そして、次元一閃の影響で、ゲイムギョウ界に広がる認識改変は解除されていった。

 直後、技の反動で変身が解け、体力が尽き倒れそうになったブランを、ロムとラムが左右から抱きついて支える。

 

「お姉ちゃん、助けてくれてありがとう……!」

「とってもカッコよかった!」

「当たり前じゃない。お姉ちゃんはね、どんなことがあってもあなたたちを絶対に助けるし、あなたたちのためならどこまでもカッコよくなれるのよ」

 

 両手でロムとラムの頭を撫でながら、アリオ高原からルウィーの夕焼けの街並みを眺めるブラン。

 

「とんだ年末イベントだったわね。クリスマスイヴまでに片がついてよかったわ」

 

 

 

 

 その日の夜。

 ルウィー教会の医務室にて。

 

「……どうしてわたしを助けたの?」

 

 目を覚ましたレムが、ブランたちに問いかける。

 

「ロムとラムに感謝しなさい。あなたのために回復魔法をかけ続けてあげてたんだから」

「あのまま死なせてくれればよかったのに」

「そう言うと思ったから、罰として助けてあげたのよ」

「……罰、か」

 

 すると、ロムとラムがレムの前に立つ。

 

「レムちゃんは悪い子だね!」

「うん、悪い子……!」

 

 そして、ビシッとレムに指を差しながら言う。

 

「そんな悪い子なレムちゃんは、わたしたちが良い子にこーせーさせてやるんだから!」

「うん! 更正させちゃうもん……!」

「……は、はぁ……」

 

 拍子抜けたような溜息を漏らすレム。

 

「あなたは、私たちの妹でもなんでもなかった。けど、私たちはあなたをルウィー教会に迎え入れることにしたわ」

「……正気? わたしが何したかもう忘れたの?」

「忘れてなんていないわ。言ったでしょ、これは罰。あなたが独りで破滅に向かおうとするのを、これから私たちが徹底的に邪魔してあげる」

 

 ルウィーの女神たちは、レムを赦すことを選んだ。

 

「あと、思想は置いといて、優秀な人材を失いたくなかったのもあるわね。これからはルウィーのために働いてもらうわよ」

 

 言いながら、ブランがレムの頭を優しく撫でる。

 

「……全く、これだから女神は嫌いなんだよぅ……」

 

 ポロポロ、とレムの瞳から涙が零れ落ちる。

 自身が忘れてしまった暖かさに触れ、レムの凍てついた心が溶け出したかのように。

 

「ぅ、ぅぅぅうう! うわぁぁぁん! ぁああああん!」

 

 そして、ブランに抱きついて、赤子の時以来に大声を上げて泣くのだった。

 そんなレムを、ブランだけでなく、ロムとラムも優しく撫でてあげるのだった。

 

(……これで、一件落着ね。それにしても……)

 

 ブランは、意識を失い死に向かっていたレムを治療していた時のことを思い出す。

 

 

ーー

 

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ーーーーーー

 

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『レムちゃんを助けるわよ!』

『助けるって……レムが何をしようとしたかもう忘れたの?」

『だってレムちゃん、ずっと泣いてた……』

『わたしたちね、レムちゃんの中で、レムちゃんの記憶をずっと見てたんだ』

『……記憶?』

『レムちゃん、ずっと独りで寂しかったんだよ。レムちゃんのお父さんもお母さんも、レムちゃんが生まれてからすぐに死んじゃって……誰も頼れる人がいなくて、ずっと独りで頑張ってて』

『犯罪神を信じるなんて悪いことだけど、誰も頼れなくてずっと寂しかったから、そんなことになっちゃったんじゃないかな……って』

『わたしたち、レムちゃんと本当にお友達になりたい……!』

『お友達になって、レムちゃんに心から笑って欲しい!』

『……わかった。応急手当ての手配はする。その後、レムはあなたたちに任せるわ』

『ありがとうお姉ちゃん!』

『ありがとう……!』

 

 

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ーーーーーー

 

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ーー

 

 

 レムの救護は、ロムとラムからの提案だった。

 道を外した者をただ排除するのではなく、歩み寄り、救済し、共に未来へ歩もうとする意志。

 それは間違いなく、確かな守護女神としての資質。

 

(……ちゃんと、得るものはあったようね)

 

 新しい妹などは存在せず、ある狂人の野望があった。

 しかし、その野望は白の女神が打ち砕き、候補生がその狂人を理解して救おうとした。

 レムが犯罪神信仰を完全に捨て、心の底から笑顔になれる日も、そう遠くないかもしれない。

 

「レムちゃんレムちゃん、身体が治ったら、わたしたちに魔法の使い方教えて!」

「レムちゃん、魔法を使うのとっても上手かったから……!」

「え、うん……いいよ」

「「わーい!」」

 

 ロムとラム、二人の候補生は、レムという存在の誕生によって、確かに成長することができたのだった。

 





 終わりです。ありがとうございました。

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