鋼鉄の心:亡霊との戦い   作:アイゼンパワー

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ドレッドノートにジャガーノート改が前線に配備された当時のお話です



番外編 新型機、前線に立つ

星暦2143年、北部戦線、第二十四戦区第三戦隊前線基地

 

「………なぁんだこりゃ…」

とある整備員は目の前に鎮座するデカブツに驚いていた。

 

フェルドレスらしからぬ…どちらかと言うと重機に近い太い脚、これまでのアルミ板とは違う分厚い装甲、そしてただ長いだけの57mm砲とは違う210mm砲

 

「あぁ、そいつぁ“ドレッドノート”だ。長砲身型ジャガーノートは全てこれに置き換えられる。従来品は全て後方に送ることになってるから、そこに置いてある報告書書いとけよ」

 

トラックの群れを率いて前線までやってきた白系種のトラック野郎は荷台の上に置いてあるクリップボードを指さし、そう指示した。

 

整備員はレンチを持ったままドレッドノートの周りをぐるぐると周り、関節や装甲の溶接部を叩いて強度を確かめる。

 

「関節…ガチガチだ、溶接もしっかりしてる。これまでとはまるで違う」

「当たり前だろ?コイツのコンセプトは“陸上の怪物”だ。レーヴェにフルボッコにされたってなんともねえぜ!」

「なんだって?マジかよ!コイツァすげえな、野郎どもに早く知らせてやらねえと!」

「でも一つだけ注意点がある。コイツの装甲材はグラウヴォルフの高周波ブレードに弱い、囲まれるとすぐに千切りにされちまうから気ぃつけるんだ。」

 

などと話しているうちにトラックが次々と到着し、クレーンが忙しなく動き、ドレッドノートを下ろしていく。

ドレッドノートの足が地面に触れる度に重厚な鋼鉄の音が響き、二つのカメラアイが太陽の光を反射する。コックピットの居住性は相変わらず最悪だったが、椅子にクッションがついたことは評価するべきだろうか?

 

次にトラックに乗ってやってきたのはこれまでのジャガーノートとよく似ている機体であった。姿形はよく似ているが、装甲材とその背に載っている砲は明らかに違った。

装甲材は銀色に光り輝き、57mmとはまるで違う長砲身大口径の砲。

 

「コイツは…?」

 

整備員が問う。

 

「えーと……あった。ジャガーノート改、装甲材が変更された上に砲も変更されている。エンジンもより高性能なものになっているから機動性も高いぞ!」

「具体的には?」

「レギオンの装甲を徹底的に解析して複製した新素材を使用した装甲、軽くて丈夫だ。砲は57mm滑腔砲から90mmライフル砲に変更、コイツは試験でレーヴェを真正面からぶち抜いた傑作だ。」

「レーヴェの正面装甲を?!」

 

ガレージでは騒がしく驚く整備員とそれに対して自分が作ったわけでも設計したわけでもないのに自慢げな顔をして説明するトラック野郎の会話が続いていた。

その間もトラックの群れは絶えずやって来てはその背に背負った荷物……ジャガーノート改やドレッドノート……を下ろし、去っていく。

 

「ふう……まぁこんなもんか。とにかくコイツらはすげえんだ!」

「そういやプログラムの未熟さについてはどうなったんだ?」

 

整備士はふと思い出したかのように問いかける。

従来のジャガーノートがあのように欠陥まみれで、機動性が低かった原因の一つに脚部駆動プログラムの未熟さがある。これが解決されないままであればどのように優れた機体だろうとデカくて硬くて火力がやたらでかい的になるだろう……それでも十分な気がするが。

 

「あー、それな。改善を諦めてプログラム制御じゃなくて機械式制御にしたらしい。乗り心地は若干悪化したが機動力は抜群だぞ!」

「機械式というと?」

「ほら、ギアボックスだとか油圧だとか……俺も技術者じゃないから詳しいことはわからん!」

 

それを聞いた整備員は少し肩を落とす。可動部品が増えるということは整備が面倒くさくなるということだからだ。

 

ちょうどその時、警報が鳴った。従来型のジャガーノートは全てトラックに乗って後方に行ってしまった。もうここにはまだ初期設定しか施されていない新型しかない。

 

「おやっさん!整備は?!」

 

そしてそこに飛び込んでくるのはプロセッサー達。

どう説明しようか……そう整備員が思い悩んでいると、トラック野郎が口を開く。

 

「おう!豚ども!てめえらのジャガーノートは全員戦争が怖くて家に帰っちまった。その代わりにそいつの兄貴姉貴が来てくれたぞ!元一般仕様ジャガーノート乗りはちっこいのに乗れ、長砲身型はでっかいのだ!」

「誰だお前は!」

 

もっともな質問である。建前上でも彼らは軍の備品、見ず知らずのトラック野郎の命令を聞くわけにはいかない。

それに対してラフな格好をしていたトラック野郎はズボンのポケットから階級章を取り出し、それと共に軍属証明書を掲げる。

 

「サンマグノリア共和国陸軍中佐、デヴァンコ・レダケイだ!さっさと乗って戦ってこい!」

 

上官とあればその命令に逆らうわけにはいかない。元ジャガーノート乗りはひらりとちっこいの…ジャガーノート改に乗り、長砲身搭載型ジャガーノートに乗っていたプロセッサーはでっかいの…ドレッドノートに乗り込み、前線を目指す。

 

『こちらハンドラー、ルウム・ダシエール。諸君らはおそらくもうレギオン群の方に向かっているであろうから最低限の説明をする。敵は大隊規模、戦車型(レーヴェ)斥候型(アーマイゼ)の混成部隊である。ポイント241より先は砲撃範囲に入るため注意せよ』

『元帥閣下!そんなことよりこれ、説明してくださいよ!』

 

とあるプロセッサーが元帥に向かって知覚同調(パラレイド)越しに叫ぶ。

 

『なんだ?不満か?』

『いえ、満足しております!大満足ですよ!!こんなにグリグリ動かせる機体なんて初めてだ!』

 

そう言って喜ぶプロセッサーは機体をジャンプさせながら前へ進んでおり、側から見るとまるで蟻がスキップでもしているようだった。

 

『うぉ、こいつぁすげえ。とんだじゃじゃ馬だ!』

 

そう零すプロセッサーはジャガーノート改のアクセルを全開にし、機体の持つ殺人的なまでの加速力を持って軽々と最高速まで達することができた。

その機動力は文字通り抜群で、ジャンプだろうが、スキップだろうがスライディングだろうがなんだろうがプロセッサーの腕さえあればなんでもできる。腕さえあれば、この機体は自分の要望に確実に答えてくれるだろう。

 

『ドレッドノートはどうだ?』

 

元帥がそう問いかけると、すぐに歓声に近い返答が返って来た。

 

『この装甲板はすごいですよ!いくらナイフを刺しても貫通しない!』

『プロセッサー16475番。お前に言いたいことはいろいろあるが、すぐフェルドレスにナイフを刺そうとするのをやめろ』

『うーん…でも一つだけ不満を挙げるとすると、ちょっとうるさくなりましたかね?』

 

そう、機械式制御にした欠点の一つが騒音の増大である。ギアボックスで歯車が回る音、シャフトが回って軸受けがすり減る音など様々な音が合わさり、騒音という形で出て来てしまうのだ。

もう一つの欠点はというと……

 

『…揺れが増えた気がする。気にするほどじゃないけどね』

 

揺れの増加である。歯車が回る際に発するトルクやらなんやらで、大昔に使用されていた内燃機関搭載車のように致し方なく揺れてしまうのだ。

 

『戦闘に入ればもっと驚くぞ?ともあれ、一旦停止だ。くれぐれも砲撃の中に突撃したりしないように』

『元帥閣下じゃないんだからそんなのわかってますよ』

 

プロセッサーは呆れをその言葉に滲ませる。元帥があろうことか砲撃が行われている中に飛び込み、敵を殲滅した。と言う話はすでに全戦線のプロセッサーの間に知れ渡っているのだ。彼らはその無謀さに驚き、そして生きて帰って来たことに二度驚いたのだ。

 

『ふっ、そう言われると弱いな……そうだ。あそこに戦車型(レーヴェ)がいるだろう?』

 

そう言いながら元帥はレーザー通信で位置情報をドレッドノート乗りのプロセッサーに送信。その戦車型(レーヴェ)は砲撃範囲から少しずれているのか、表面に細かい傷がついているのみで、他のレギオンとは違いほぼ無傷だった。

 

『そいつを狙って撃ってみろ』

『アイアイ……っと、狙撃システムが使いやすくなってる…よし』

 

そう言いながら210mm砲の長大な砲身を戦車型(レーヴェ)のいる方向に合わせる。

 

『照準よし、撃てッ!』

 

その時、不思議なことが起こった。唐突に戦車型(レーヴェ)がもんどり打って倒れたのだ。

遠くから観測していたからそう見えただけだが、近くに寄って見ると正面装甲に深い亀裂が入っており、砲弾一発で装甲を丸ごとかち割ったことがわかる。

 

『あの戦車型(レーヴェ)を、この距離から、一撃でッ!!』

 

そのプロセッサーは一言一言を噛み締めるように言い、顔には歓喜の笑みが満ちていた。

 

『丁度いい、砲撃終了。ジャガーノート改の攻撃性能も試してみるといい…サンドバッグもいることだしな』

 

それを聞いたジャガーノート改は一斉にレギオンに向かって駆け出す。

今日の敵は擱座した戦車型(レーヴェ)3機、万全の状態の近接猟兵型(グラウヴォルフ)二機にボロボロの斥候型(アーマイゼ)が五機だった。サンドバッグを一つでも多く獲得するためにジャガーノート改たちは駆け出す。

 

『オラ!喰らえこの屑鉄がッ!』

一人がまだ遠いと言うのに90mmをぶっ放した、57mm砲だったら貫通どころか命中させられるのかすら怪しい距離だ。

しかし砲弾は吸い込まれるように戦車型の正面装甲に命中。そして大穴を開けて敵の動きを止めた。

 

『こいつさえあれば何にも怖くねえ!』

 

一人は斥候型が放つ機銃の雨を浴びながらゆっくりと近づいていった。昔のアルミ装甲であれば蜂の巣どころではなく、形が残っていれば御の字と言った密度の弾幕であったが、ジャガーノート改はそれを余裕を持って弾き返していた。

 

『調子に乗るなよ!近接猟兵型が来てるぞ!』

 

元帥は警告し、すかさず狙われたプロセッサーは機体を操作し、避けた。

 

『ハハハハハハ!!近接猟兵型の攻撃を避けられたのは初めてだ!近接猟兵型と互角に機動戦をやるのも初めてだ!!』

 

一人のプロセッサーは笑いながら殺人的なGに身を任せ、近接猟兵型とブレードのみを用いた機動戦を展開していた。ミサイルが当たるはずもなく、刃も虚しく空を切る。圧倒的な速度をもって、ジャガーノートの宣伝文句通りレギオンを翻弄していた。

 

 

 

数十分後、戦場にはレギオンの影も形もなく、ただおもちゃのように弄ばれた銀色の金属塊がゴロゴロと転がるのみであった




デヴァンコ・レダケイ中佐の出番はこれだけです……なんかすいませんでした

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