『立て、国民よ!祖国は諸君らを必要としている。諸君らの力をもって悪しき帝国、人間のクズにして、野蛮なるギアーデから愛する家族と友人を、偉大な革命の成果を守り抜くのだ!』
テレビからは元帥の演説が延々と垂れ流され続ける。
星暦2149年中頃。国防庁はレギオンの異常な動きを察知し、これを大攻勢の予兆と認定。ギアーデ帝国の脅威に立ち向かうべく、愛国心を歌い上げ、軍に参加することや予備役への登録を促すポスターが街の其処彼処貼られていた。
曰く『サンマグノリア軍は君を欲している!』
曰く『「もし僕が大人だったら、陸軍に入っていたのに!」大人らしくそうしよう!』
曰く『君はもう予備役に登録したか?』
うんざりするほど色々なバリエーションがあって、どんなに見ようと見飽きることはないだろう。
「まったく、こんなに豊富なアイディアが湧くなら収容所の合成食料の味をもうちょっと良くしてくれよ……」
一人の青年はそう独り言をこぼし、新聞を広げながらテーブルに用意していた朝食を食べる。
『諸君の父、諸君の夫、諸君の息子はなぜ死んだ!ギアーデという悪に立ち向かって死んだのだ!ギアーデに立ち向かう努力を絶やしてはならない、努力が絶える時はサンマグノリアの滅ぶ時となるだろう!』
彼はプロセッサー…正確には
手元には大金があるし、戦功勲章のおかげで年金ももらえる。家を買ったってまだ余る。それもそうだろう、報奨金も合わせた税金控除済みの5年分の給料は膨大な額だ。ちょっとやそっとでは使いきれないのだ。
今は割り当てられた兵器工場で白系種の作業員に混ざって勤務しつつ、日々を過ごしている。
市民になってからは面倒なことも増えた。収容所にいた頃は何を言おうが自由だったが、壁の中では下手なことを喋ってしまえば命はない。戦時治安維持法とかいう七面倒くさい法律のせいでどうも窮屈だ。
豚だった頃はこんなことを気にするする必要はなかった!
前線で戦っていた頃は市民としての生活に固執していたが、今思うとプロセッサーとしての生活も悪くなかったのかもしれない。
「…ごちそうさま」
一人で飯を食うのもまた寂しい。プロセッサーだった頃は戦隊の仲間達と一緒にワイワイ騒ぎながら食べていたものだ、あの時は騒がしいと思っていたが、静かになると寂しくて仕方ない。
他の奴らは今はなにをしているのだろう。自分みたいに割り当てられた勤務先に通いながら夜間学校に通って、失われた青春を取り戻しているのだろうか?伝え聞くところによると、祖父母の凍結されていた資産で不動産を買い漁ってひと財産築いた奴もいるらしい、全く羨ましいことだ。
『よおシン!……今日か?』
「ん。」
パラレイドにハンドラーから一方的に通信が来ることも無くなった。と言うよりも軍用回線からは完全に切り離され、繋がらない。考えてみれば当たり前だけど。
『暇ならみんなで飯食いに行かないか?』
「いや、昼はやめとく」
『えー!俺もうみんなにシンもくるって言っちゃったよ!』
「夜なら空いてるけど、どうする?」
彼は薄いコートを纏い、制帽を被りながら言い放った。
『じゃあそうしよう、他の連中にも伝えとくよ。後でな、シン
ーーー
『ギアーデに死を!ギアーデ帝国主義者の悲鳴と哀歌を持って、ギアーデ国民の死によってのみ我らの復讐は果たされる!ギアーデに死を!』
『我らがこの十数年に渡り体験した苦難は単にギアーデ帝国に責任があります。ギアーデ帝国に対する復讐は果たされなければなりません。ギアーデに死を!』
『立ち上がれ!偉大なる国土よ!立ち上がれ!最後の戦いに!呪われし蛮族、ギアーデのクズ共に対する戦いへ!ギアーデ帝国主義者に復讐を!サンマグノリア共和国に勝利と永遠の栄光を!』
繰り返される街頭放送と演説は愛国心を掻き立てることには失敗したが、共和国人の復讐心を掻き立てることに成功した。反ギアーデ感情は共和国の隅々まで行き渡り、ギアーデ人ですら自らの祖国を心の底から嫌うようになった。
シンが少し右に目をやると、いつもの様に極右が“国家的復讐”について歌い上げているのが見えた。もちろん、ネズミの様な目をした手柄目当ての警察がその周りを巡邏しているのもセットでだ。
「共和国はギアーデに対する国家的復讐を遂げなければならない!帝国主義のクズがもたらした被害はもはや個人単位では精算不可能である、故に我々共和国市民は一つとなって、国家による国家への復讐を遂げなければならない!復讐を!」
共和国の緊張度は日々上昇し、治安も悪化しつつある。何か一つのきっかけがあれば国民の不安や不満は破裂するだろう。もちろん、外側に向けて。
しかしシンは政治に興味がある人間ではなかった。たとえ本当に不満や不安が破裂しようとも、それが内向きであろうが外向きであろうが、どうでも良かったのだ。
そう考えながら歩いていると、いつのまにか目的地へと到達していた。対レギオン行動予測所である。
「ノウゼン准尉、身分証を。」
「ん。」
「ボディチェックを」
「……どうぞ。お兄様がお待ちです。」
お兄様がお待ちです……か。
ドアを抜けて進み、地下へと降りる。地下へ降りてから迷路の様に入り組んだ通路を抜けると、いきなり開けた空間と白銀の鉄塊が目に飛び込んできた。
『シン……!』
感情のない、しかし嬉しそうな声が聞こえてきた、兄の声だ。
白銀の棺桶に入った兄の、声だ。
「待っていたぞ。」
巨大な白銀の棺桶を見上げていたのはシンだけじゃなかった。
白衣を身に纏った、病的に細い男もまたそこに立って白銀の塊を見上げていた。シンを一瞥することもなく、ただ
「ピエールさん。」
「シンエイ君。今日、君のお兄様はどうも不機嫌らしい。あらゆるシステムに侵入する試みは失敗した、対話の試みもだ。君の方から働きかけてくれんかね?」
いや、そんなことはしない。兄の屈辱は今日で終わりだ。
「はい、ピエールさん。」
「ピエール所長と呼んでくれると嬉しい、シンエイ君。」
ボディチェックでチェックされない箇所が一つだけある。
今日はそこに爆薬を隠し持ってきた、近しい仲間にはこの後のことも伝えてある。
「ではいつもの様に、同調を開始してくれ。」
一人になった時が、実行の時だ。
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