鋼鉄の心:亡霊との戦い   作:アイゼンパワー

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また間が空いてしまった……申し訳ない……


番外編 軍の再編

 

 『本日、国民公会にて偉大なる元帥閣下により戦時体制への移行及び、第二人民共和制への移行とそれに伴う憲法の改訂が発表されました。元帥閣下によって提出された憲法改訂案は全会一致で通過し、緊急事態下にあるため国民投票無しで施行されます。』

 

 『国民の諸君、私のことを信じて欲しい。市民の諸君、軍の指示に従って欲しい。そして最後に、諸君、是非とも武器を取り、私と共に戦って欲しい。』

 

 元帥は憲法改訂に際してそう言った。

 信じ、従い、戦う。この言葉は以前の共和国のスローガン、すなわち自由、平等、博愛、正義、高潔にとってかわり、第一人民共和政の非公式スローガンであった連帯・結束・勝利と共にサンマグノリア第二人民共和政府のスローガンとなった。

 元帥閣下を信じ、元帥閣下に従い、元帥閣下と共に戦う、そうすれば自然に諸民族間の連帯、国民間の結束、そしてその結果としての勝利を得られるだろう。このような危急の時には正義も高潔さも役に立たない。自由など勝利がなければ保証されず、勝利しなければ平等も、博愛も失われるだろう。平等を、博愛を、自由を、高潔を、正義を守るためには戦わなければならない。

 

 「動員状況はどうだね?」

 

 元帥は会議室でそう問うた。

 

 

 星暦二一四九年八月。偉大なる第二サンマグノリア人民共和国はギアーデ帝国のおぞましい殺人機械の大軍を退けることに成功した。サンマグノリア大陸軍(グランダルメ)はこれを記念すべき戦役であるとし、八月攻防戦と名付けた。八月攻防戦の勝利と、その後の二か月に及ぶ大元帥の働きによりサンマグノリア国民の国防意識は上昇し、それどころか大サンマグノリア主義という未知の、そして野心に満ちた政治思想が生まれることになった。

 同年十月。サンマグノリア大陸軍はおよそ十年ぶりとなる一般市民からの徴兵を再開し、ギアーデ帝国の悪逆から祖国を解放するべく大陸軍の再編を開始したのだ。そのためにも大陸軍の上層部は国防庁にて会議を開いた。

 

 「極めて順調であります。先日の八十五区の戦闘に参加した市民による即席歩兵師団がすでに五十個師団配備されており、さらに二十個歩兵師団、二十個機甲化騎兵師団が訓練中であります。」

 

 そう将軍の一人が答えた。

 

 「素晴らしい。」

 

 大陸軍の再編成と徴兵がうまくいっているのは喜ばしい限りである。二か月にわたる政治的交渉、そして開戦後十年にわたる政治的改革の努力がついに実を結んだのだ。サンマグノリア市民はついに非合理的な人種差別を止め、国民すべてが一丸となって外敵にあらがうことができるようになったのだ。

 

 それでも問題は山積みだ。市民による即席歩兵師団の戦闘力は低く、規模に至ってはたったの六個歩兵大隊と師団というよりかは旅団といった方が正しいであろう規模である。しかも多くの歩兵がまともな訓練を受けておらず、いざ戦闘となれば多くの兵士が戦場に倒れることになるだろう。それでもないよりはずいぶんとましである。正規軍の部隊と共同で攻撃させればよい支援となるだろうし、防衛部隊としてそこまで重要ではないが、失いたくはない地区に駐屯させるのも良い。

 

 期待するべきは現在訓練中の正規軍師団である。最新鋭……といっても十五年は前の対戦車ライフルを担ぎ、装甲化された工業用強化外骨格を身にまとい、大地を闊歩する歩兵の姿を見ればどんな心配事も直ちに霧散するに違いない。それでも心配だというのであれば、かつて陸の王者として活躍し、今でも斥候型、近接猟兵型、戦車型程度なら軽く蹴散らせる重戦車……これもまた大昔の骨とう品である……があらゆる悩みと敵をおしつぶしてくれるだろう。十一個の歩兵大隊、一個重戦車大隊、そしてそれを援護するための三個砲兵大隊による歩兵師団はきわめて強力である。進軍速度は遅いが、あらゆる敵を確実に打ち倒すことができる。

 

 機甲化騎兵は再編成に伴い重機甲化騎兵師団と機甲化騎兵師団の双方と自動化歩兵による諸兵科連合師団として再編成された。高い機動力と攻撃力を誇り、攻撃戦の最先鋒となるであろうジャガーノートMk2を五百機編成した十個機甲化騎兵大隊、機動力はジャガーノートMk2に比べると低いものの自慢の厚い皮による高い防御力と大きな砲を備えたドレッドノートを五百機そろえた個重機甲化騎兵大隊、そしてその双方を護衛する十個自動化歩兵大隊。機甲化騎兵師団はこれらの大隊によって成り立っている。重フェルドレス、中フェルドレスをそろえた機甲化騎兵師団は多様な局面に対応可能であり、自動化歩兵の護衛により対人戦においても高い防御力を持つ。

 

 「問題は無人機どもの扱いだな」

 

 ほかの将軍がそう呟いた。

 開戦から十年がたち、元帥による政権の簒奪、そして先日の大統領令7001号の発布を経ても“無人機”師団はいまだに数多く存在している。十年前に収容された子供がようやく大人になり、そして今、前線に立っているのだ。

 

 「それについて一つよろしいでしょうか、元帥閣下。」

 

 隙なく着込んだ糊のきいた軍服を着た銀髪の少女が手を挙げる。

 老齢の軍人でいっぱいの会議室では彼女の高く、美しい声はことさらに耳目を集め、皆が彼女の発言を待っていた。

 

 元帥は黙って葉巻でミリーゼに立ち上がるように促すと、彼女はすぐにそれに従い、話し始めた。

 

「私の提案の前に一つ、我々に無人機がもはや必要ではないということでこの場にいる皆の意見が一致しているという認識で間違いありませんか?」

 

 長大なマホガニー製の会議机に手をつき、彼女は言う。

 

 将軍たちは皆ただ黙ってうなずいた。

 

 「しかし数十師団にもなる戦力をみすみす失うのは惜しい。そうでしょう?」

 

 ギアーデ帝国への進軍には膨大な数の障害が存在する。現サンマグノリア国境から旧サンマグノリア国境までの広大な縦深、殺人機械の数、戦闘属州が産出する膨大な人的資源、帝国が独占する先進科学技術などと数え切れないほど存在する。それらの問題を解決するにはどうすればよいか?答えは簡単である。

 

 すなわち数だ。

 

 「だが子供だ!」

 

 一人の将軍がミリーゼ准将が言わんとしていることを察し、こらえきれずに声を張り上げて反論したが、ミリーゼの刺すように冷たい視線によって黙らされてしまった。

 

 「子供だからなんだというのですか。我々はかつて子供だろうが老人だろうが皆前線へと追い立て、数えきれないほど殺してきたでしょう?」

 

 子供がなんだというのだろうか?少年兵が、いまさらなんだというのだろうか?これまで十年間我々はずっと子供たちを前線に押し付けてきたではないか。いまさらそれが何の問題になるというのだろうか。

 

 手段は目的によって正当化される、かつてとある革命家はそう言った。目的を正当化する必要があるとも革命家は言った。しかし今、サンマグノリア共和国の勝利という目的は完璧に正当化されている。であれば、少年兵の使用という手段は完璧に正当化される。無人機の中身が、“プロセッサー”が子供であることは問題ではない。

 

 「国際社会にひとたび復帰すれば非難の嵐は免れんぞ。」

 

 一人の将軍がそう静かにつぶやいた。

 

 「それは問題ではない。そもそも我らが少年兵を使わなければならなくなったのも帝国の責任に他ならない!」

 「そうだ、奴らが避難の嵐を浴びせてくるなら、その二倍にして返してやろう!」

 

 何人かの将軍はそう反論した。実際に大陸軍および共和国空軍は開戦劈頭の帝国による攻勢によってほぼ全滅しており、治安維持法がなければサンマグノリア共和国はとっくに銀色の津波の中でおぼれ死んでいただろう。これは致し方ないことである。この責任は全て、ギアーデ帝国にある。

 

 「さて、本題に入らせていただいても?」

 「ああ。」

 

 軽い論争が落ち着いた後、ミリーゼは元帥にそう聞き、元帥もまた答えた。

 そして彼女は答えた。

 

 「無人機師団を攻撃の先鋒として利用しましょう。無人機師団は数も多く百戦錬磨。正規軍による補給及び援護さえ受けることができれば精強な部隊として利用できるはずです」

 

 無人機師団の再利用である。成人した無人機はすでに徴兵されているが、未成年の無人機は市民権を付与し、一般市民として開放する予定であった。これは現段階で考えられる最も人道的な案であり、また合理的であるように思える案でもあった。だが数の不足は作戦の遂行において致命的な不足である。

 

 大陸最強国家たるギアーデ帝国に対してたった(・・・)の百七十個師団では如何に世界最強の大陸軍(グランダルメ)であっても、勝利を収めるの難しいと言わざるを得ないだろう。

 

 これは人道に悖る案ではあるが、軍の弱体化を防ぎ、尚且つ正規軍の温存及び強化を図れる案である。

 

 「それに、たとえ全滅したとしても誰の心も痛まない。それどころか喜ばしい……違いますか?」

 

 「確かに。全滅すれば多少証拠隠滅ができる。」

 

 一人の将軍がそう零した。

 

 「……少なくとも俺たちの心は痛まんな。」

 「……これしか無いかもしれんな。」

 

 元帥は顎髭を軽く撫で、口を開いた。

 

 「ミリーゼ君、素晴らしい案だ。だが差別主義的言動は控えたまえ。」

 「はっ、申し訳ございません。」

 

 ミリーゼはそう言うと、元帥に向かって軽く腰を曲げた。

 

 「それでは諸君、今回の会議はここまで。ミリーゼ君の案に沿って軍の再編は近日中に行われる。進軍ルートはすでに決定しており、補給のための大量の輸送手段も確保してある。二週間後に、我々はギアーデ帝国に対し正式に宣戦を布告。進軍する。それまでは計画の見直しをすること、あとは遺言書でも書いておくように。解散ッ!」

 

 元帥の一声で将軍たちは直ちに椅子から立ち上がり、参謀を伴って各自の執務室に戻って行った。ただ一人、ヴラディレーナ・ミリーゼを残して。

 

 無人機師団は今まで日夜戦ってきた。共和国は彼らのおかげで生き残ったのである。そんな彼らに、このような仕打ちを、恩を仇で返すような仕打ちをしても良かったのであろうか?こんな提案をした自分に嫌気がさす、なぜ私は、こんなことを言い出してしまったんだろう?今更とてつもない後悔が彼女を襲った。

 

 「……ただ……流血のみが」

 

 信じた人に裏切られる。それはどれほどの悲しみを人の心にもたらすのだろうか?

 ヴラディレーナ・ミリーゼは信じていた。シンエイ・ノウゼンというギアーデ人(・・・・・)のことを愚かにも信じてしまっていたのだ。彼を信じていたが故に保安局の調査要請を断り、彼を信じていたが故に共和国周辺の地図も渡した。彼が本当の飼い主の元へと逃げ去った今、彼女に残されたのは“裏切られた”という悲しみだけであった。

 彼女がしたことは、結局のところスパイを捜査の目から覆い隠し、地図を敵の手に渡した上に国家機密であるレギオン行動予測所へと潜り込めるようにしただけだ。

 

 将軍たちがいなくなり、がらんとした会議室の中でただ一人、席から立ったまま呆然とその場に留まる彼女を見て、元帥は言った。

 

 「まあ、気にするな。彼は良く偽装していたようだし、優れた詐欺師でもあるようだ。」

 

 元帥は言外に彼女を詐欺師に騙されるような愚か者とでも言っているようにミリーゼは感じた。そうだ、間違いない。自分は愚か者だ。父にも、叔父にも顔向けできないような愚か者だ。

 俯き始めたミリーゼを見て元帥は一つため息を吐いて、彼女が万全の能力を発揮できるようにするために少し助言をすることにした。

 

 「いいか、ミリーゼ君。偉人の言葉だ。アドバイスとして君に授けよう。」

 

 元帥は葉巻の煙を胸いっぱいに吸い込み、吐き出した。

 

 「“友情や愛情というものはすぐに壊れるが、恐怖は長続きする”」

 

 ミリーゼの空虚な心の中にその言葉は魔法のように溶け込んでいった。

 

 彼女は本来恐怖による支配を嫌っている。平等と博愛の精神を愛し、隣人を良く愛する模範的な聖女だ。だが元帥の長年の恐怖政治は“恐怖”というものの有効性をあまりにも良く示していた、友情や愛情の脆さも。

 恐怖故に反乱は起こらず、恐怖故に国は一つに団結することができた。そして愛情、友情で結び付けられていた彼女とシンの関係は容易く崩壊した。友情の崩壊と恐怖の功績は確実に聖女の心を蝕み始めていた。

 

 「ただ、流血のみが全ての問題を解決する。」

 

 聖女は、のちに流血姫と呼ばれることになる彼女はそう呟いた。




ディシジョン:軍の再編
八十六区全域において使用可能

 “無人機”の使用は共和国の恥である。しかしながら、我々は恥に直面し、無人機を再度使用しなければならない。使えるものは全て使わなければギアーデに勝つことはできない。

効果:プロヴィンスにおける人的資源の数だけ機甲師団を直ちに徴兵する。

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