サンマグノリアの誇る“無人戦闘機”を開発した共和国工廠。
工廠の技術力は共和国内では並び立つものがいないほど高く、あらゆる方面の天才や秀才が揃い、優秀な技術者を多く抱える。
そのような場所が、ジャガーノート開発当初のように
「210cm砲を八基?!しかも来年度末までの納品?!?!」
訂正。ただの無茶振りではなく、弩級の無茶振りだった。
210cm砲、元帥が単位をmmと間違え、手が滑った故に発注されてしまった史上類を見ない巨砲。
彼らは知る由もないが後々発見されるレギオンの新種、
「できるか!こんなもの!!」
主任エンジニアは怒り狂って仕様書を丸め、地面に投げつけるが、仕様書がクシャクシャになったところで仕事が消えるわけではない。ただ設計図が読みにくくなっただけだ。
「でもこれができなけりゃ、俺たち……死んじまうかなあ…」
一人の技師がぽつりと漏らした。
時は星暦2141年、粛清の嵐の最盛期であった。
これを実現できなければ、物理的に首が飛ぶことはないと思うが、まず間違いなく解雇され、路頭に迷ってしまうだろう。彼らにはまだ養うべき家族、愛すべき子供がいるのだ。そのようなことは断じて避けたい。
「オラァ!全員立て!うだうだしてたって
そうして茨の道への扉は開かれた。
まずは仕様書に沿って電脳空間上でシミュレーションを行う。いきなり現実世界で作成するわけにはいかない。まず間違いなく成功する、そのような結果が得られてから初めて実物を組み上げるのだ。
最初に行われたシミュレーションの結果は散々だった。素材は鋼鉄、製法は鋳造、砲弾は鉛製。結果は砲身強度の不足により暴発。
2回目、素材は超硬合金、製法は同じく鋳造、砲弾は鉛製。結果は砲弾強度の不足により失敗。
3回目、素材は超硬合金、製法は鋳造、砲弾はタングステン合金製。結果は砲架の強度不足により砲身が脱落。
4回目、5回目、6回目…………………
そして1000回を越すシミュレーションの末、彼らは最適な結末に到達した。
火薬の圧力を一手に引き受ける砲身の素材は頑丈な合金。強すぎる反動を制御し、砲架からの脱落を防ぐ駐退機は希少かつ粘り強いモリブデン合金製。地面に足を据え、全ての重さを担う砲架はへたりにくく、金属疲労に強いチタニウム製。
ここまでで数週間。寝食を忘れてひたすらシミュレーションに打ち込み、どの素材がいいか、反動を逃すには構造をどう工夫すればいいか、弾丸を確実に送り届けるにはどうすればよいかについて語らったエンジニアの顔には疲労の色が隠せない。
しかし本当の地獄はこれからであった。
まず先述した素材についてだが、共和国国内ではほぼ取れない。それどころか世界全体でも希少な金属であり、これを八基も国内資源に限って建造するには個人所持物だろうとなんだろうとひたすらにかき集め、その全てを費やす必要があった。
これを元帥に伝えた結果、幸か不幸か……少なくともエンジニアに取っては幸であろう…であればいいな……元帥は製鉄会社との強いコネクションを持っており、見たことないほどの量を揃えた。
工廠の面々は目を点にし、両手を上げて喜んだ。なぜならこれほどの量があれば、何回か失敗してもリカバリーが効くからだ。
そして大仕事は始まった。どでかいパーツを工廠で一つ一つ金属塊から削り出し、煮えたぎる合金を型に流し込んで砲身を鋳造し、ネジすら専用の規格で新造し、前線からそれほど遠くない場所まで運んで組み立てる。
これらの工程にどうしようもなく時間がかかるのだ。
当然と言えば当然だろう。元帥は当初210mm砲のつもりで納期を設定しており、210cmになってしまったと気づいてからも納期を変更しようとしなかった。
これでは間に合わない。
そう気づいた技術者はまたもや寝食を忘れて仕事に励んだ。
夜が朝に見えるほど強力な電灯によって工事現場は照らされ、八基の工事が同時並行で行われた。
どでかいパーツの一つ一つが組み合わさり、徐々に、少しづつ大砲としての形をなしてくる。
そしてプロジェクトの開始からちょうど一年経った頃、完璧な状態で八基の210cm砲が納品された。数十回の射撃試験を経て、安全性と信頼性が確立された共和国の新たな象徴。
これは当時の工事責任者にして主任エンジニアに敬意を込め、人々の間では“主任砲”と呼ばれるようになった。
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サンマグノリア大百科
主任砲
(しゅ-にん-ほう)
【概要】
サンマグノリア共和国における文化世界遺産。
建造された星暦2141年当時において世界最大の砲であり、現在でもその記録を超えるものは存在しないし、これからもないとされている。
【開発】
開発の経緯
星暦2141年、巨大要塞群グラン・ミュールの完成が間近に迫っている中で迎撃砲の火力不足を嘆く当時の元帥であるルウム・ダシエールが210mm砲を発注したつもりで単位を間違え、210cm砲を発注してしまったことが開発を進めるきっかけであった。
発注された共和国工廠では主任エンジニアであるジャン・ピエール氏が大いに取り乱し、怒り狂う様子が見られたという。
発注の翌日には早速模型作成やコンピュータでのシミュレーションが行われ、数週間に渡って寝食をしない日が続いたという。しかしいざシミュレーションが終わって、試験段階に入ると発射のたびに巨大な衝撃波が発生し首都の近場では試験ができないことが発覚したため仕方なく前線地帯で実戦を兼ねた試験が行われることになった。
結果は大成功であった。レギオンの一個大隊を地形ごと丸々吹き飛ばすほどの威力を見せ、元帥はこの結果に満足していた。
【運用】
この類を見ない巨砲は主に対レギオンに使用された。
巨大な口径と長大な砲身のお陰で尋常ではないほど長い射程距離と正気の沙汰とは思えないほどの威力を持ったこの砲は度々共和国に襲撃を仕掛けるレギオンに対して強力な抑止力として働いた。
記録上、この巨砲が初めて実戦で使用されたのは星暦2149年の八月レギオン大攻勢であり、電磁加速砲型「モルフォ」によって形成された穴に殺到する形で密集していたレギオンをグラン・ミュール諸共に消滅させた。これによりレギオンによる攻勢は頓挫し、援護に駆けつけた共和国歩兵師団および機甲師団に追い立てられ、レギオンは共和国から撤退した。
【戦後】
戦後にはダシエール線、グラン・ミュール跡共々戦勝記念物として保存され、現在でも年に一回の戦勝記念日にのみ空砲を発射している。
【登場作品】
映画
『スピアヘッド隊:苦難の戦い』
特別偵察任務に出発した直後に“羊飼い”に襲撃されたスピアヘッド隊を支援するためにミリーゼ少佐が使用。徹甲弾を用いて“羊飼い”を文字通り押しつぶした。しかしこの使用については記録に残っておらず、捏造ではないかとする声も大きい。
『グレートウォール』
八月レギオン大攻勢においてグラン・ミュールを突破したレギオンを殲滅するために使用。共和国陸軍の全面協力のもと実物が登場し、実弾が発射されている。
ゲーム
『レギオン・ウォー』
キルストリークとして使用可能。加害範囲がゲーム性の都合上現実のものより小さくなっている。
『86-エイティシックス-』
反乱を起こした主人公の部隊を殲滅するために使用され、この砲の破壊が目標となっているミッションが存在する。
『ワールド・オブ・フェルドレス』
サンマグノリア共和国ツリーにて使用可能な計画フェルドレス「モンストレス-M210A1」の武装として登場
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