平戸ちゃんのお話   作:伊村ハク@駄文存在

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 【前回のあらすじ】
久々の休日。バケツプリンの”午前スタイル”を敢行するため
「マミヤストア」へ買い物に出た「あかつき?」。
しかしその道中、様々な出来事が彼女の身に降りかかり…。




        07-2.「あかつき?の大冒険」後編

 

 

 対馬は、困惑(こんわく)していた。

敷浪の不器用さとはまた違った感じで、表情やそぶりは普段とほとんど変わらないのだが、

あかつき?の机の前で茫然(ぼうぜん)と立ち尽くす姿は、あきらかに戸惑(とまど)いである。

 

 説明しよう。対馬がこの状態に(おちい)る、ほんの一時(いっとき)前。

昼休みになり、昼食をとった後で本棟北館三階にある艦娘居住室を訪れた対馬は、

あかつき?の机の上に置かれたままの、小さながま口財布(さいふ)を目にする。

 

今日仕事が休みのあかつき?は、バケツプリンの“午前スタイル”を敢行(かんこう)すると、

以前から楽しみにしており。

ついでに夕食後用のバケツプリンも確保(かくほ)してあげる、と対馬と約束していた。

 

対馬は手渡(てわた)す代金を手にあかつき?のもとを訪れたわけなのだが、

昼休みも(なか)ばを過ぎたこの時間になっても、部屋の中にあかつき?の姿は見当たらない。

 

バケツプリンを余裕をもって購入するために、

午前の、それ(ほど)遅くはない時間に出掛けた(はず)である。

そして、売り場で財布を忘れた事に気付いたのならば、とっくに取りに戻っている筈。

 

結果として導き出される答えは。

あかつき?は「マミヤストア」に(いま)だ到達せず、ということ。

 

(さっ)した。

 

 そういった経緯があって、対馬はこの場でこうしている。

しかしながら。ずっとここで困っていても、何の解決にもなるまい。

 

提督や平戸の仕事の邪魔(じゃま)はできないので、

こんな時まず相談すべき相手は何かと思考が柔軟で(ふところ)が深く、いざという時、

(たよ)りになる如月であろう。

 

思考が柔軟すぎるという意見もちらほらと見受けられるが、迷子(まいご)は結構なおおごとである。

あれこれと細かいことを言ってはいられない。

 

 

 

 場所は変わって、鎮守府本棟西館の二階に位置する図書室。

如月の受け持つ班は、今日は海上警備の当番ではなく、講義室で学科教習となっていた。

 

午前の内容は艦砲射撃の偏差の計算についてで、今までにそれなりの練度を積み実戦経験も多い

如月にとっては、もはや、癖になる程にこなしたと言っていい復習のようなものである。

 

まだ計算に慣れていない班員の覚えも打てば響くという感じで、

学習の手助けをする如月も教えていて楽しい。

 

おまけに昼食後は、午後遅くのレポートの発表までは時間割が空白な余剰の時間で、

班のメンバーは午前の授業の後いったん散開し、慢心(まんしん)はあまりよろしくないが

如月の言葉を借りれば「それにしたってはっきり言って(ひま)」であった。

 

大事(だいじ)無く平穏無事に物事が進むのは、まことに結構なのだが、あまりに平穏すぎるのも

考えものである。

物事にはメリハリのあることが肝要(かんよう)なのだ。

 

何か起こらないかしら。“ラブ”で“コメディー”的な、感情を()さぶってくれる何かが。

 

本日予定されている、この鎮守府でのイレギュラーなイベントは…。

大気の状態が不安定で、局地的、かつ突発的な大雨が予想されている事。

ボイラーの不調で、日中の温浴場の使用が制限されている事。

この二つが連鎖すれば何か面白いことが…。

 

そんなにうまくはいかないだろうなあと、溜息(ためいき)をつく。

海上での訓練組は、そもそも荒天(こうてん)など気にしていては訓練にならないだろうし、

温浴場を使用するのは日が傾いてからだろう。

 

人一倍大切にしている自分のつややかな黒髪を、毛先に(いた)みが見られないか

無意識のうちにチェックしながら、

如月は図書室の閲覧席で、ほんの申し訳程度に参考書とノートを広げ

()()めのない思考の海に()ぎ出していた。

対馬が如月の(もと)へと迷子のあかつき?の相談に訪れたのは、丁度(ちょうど)そんな時である。

 

 

 

 なんとなく相槌(あいづち)(うわ)(そら)な如月に、一通り事情を説明し終えた後。

対馬は如月がごく自然なそぶりでポケットから取り出したレーダーの受信機的な何かを、

いつもの(うれ)いを()びた悲しげな表情は変わらぬまま、静かに首をかしげることで問いかける。

 

「……。」

「あ、これ?気にしないで。ほら、あの子よく迷子になるから。」

今更(いまさら)ながらに。相談する相手を間違えたかもしれないと感じる対馬である。

 

如月はそんな対馬の様子には一切頓着(いっさいとんちゃく)せず、手元の画面をのぞき込む。

ディスプレイの中であかつき?の所在(しょざい)を示すアイコンは菜園のど真ん中を指し示していた。

 

思わずあきれてしまう。あの子、何だってこんなところに…。

迷子にしても大盤振(おおばんぶ)()いが()ぎる。

 

顔を上げ、ぼんやりと対馬の方を見遣(みや)る。

そういえば、今日は対馬ちゃんも私と似たような感じの学科教習だった(はず)

確か、提督への心のありようは…。

如月の頭の中でパズルのピースがかっちりとはまった音がする。

背筋が伸び、先程までとは目の輝きの違う如月である。

 

()(ほど)。おおよその状況は把握できたから、心配しなくても大丈夫。ちょっと待っててね、

あの子が今いる場所と、これからあの子が行きそうな場所、地図にしてあげるから。(むか)えに行って

らっしゃいな。」

 

もちろん、風邪(かぜ)をひかせるつもりは毛頭(もうとう)ない。

執務室の“アレ”に気が付かないなら気が付かないなりに、ちょっと後押ししてあげれば…。

 

如月は未使用のルーズリーフを一枚抜き取り、図形と注意書きで構成された簡便(かんべん)な地図を

手早くサラサラとしたためると。

それを対馬に持たせ、にこにこと顔の横で上品に手を振りつつ図書室から送り出したのであった。

 

 

 

 それでは、話をあかつき?の(がわ)へ戻そう。

 

手で悲鳴を押し殺しながらも、そこは駆逐艦の(はし)くれ。

目を見開いて、目の前のお化けをよくよく観察すると、なんとなく見覚えのあるような…。

 

「…って、対馬ちゃん?!」

 

降り出す寸前で小屋に駆け込んだあかつき?と違って本格的に降られたようで、

着ている制服は肌にぺったりと貼り付き、豊かな髪の毛もすっかり水を吸ってしまい、

普段のモフモフ感は見る影もなくなっているが。

確かに、対馬である。

 

「対馬ちゃん…。なんだって、こんな所に…。」

 

自分の事を(たな)()げて、とはこのことを指すような言葉であったが、

対馬はそんな事はまったく気にしていない様子で、いそいそと着ていた制服を脱ぎ去ると、

あかつき?に水がかからないよう、入り口近くで外に向かって水を絞り出す。

 

可能な限り制服の水気を処理して、(かわ)いた(わら)の上になるべく(ほこり)がつかないよう

気をつけて広げ終わり、

スカートのポケットから取り出しておいた、雨水に濡らさないようにハンカチで包まれた

何やら小さなものを、

スポーツブラと換えゴム式の子供パンツの下着姿のまま、あかつき?に向かって差し出す。

 

「忘れ物。」

「これ…あたしの。」

 

包みの中身を確認してすぐには思考が噛み合わなかったが、理解できたとたん思わず

絶句してしまう。

あたし…馬鹿すぎる。

 

「財布届けてくれたのね。ありがとう対馬ちゃん。大変だったでしょ大雨の中。」

 

連続した諸々(もろもろ)の衝撃からようやく我に返って、対馬にハンカチを返しつつ、

少しでも体を()いてもらうため肩から下げたポシェットの中の自分のハンカチを探すが、

それすらもどこかに置き忘れていた事に気付き、さすがにげんなりとしてしまった。

 

あかつき?の気づかいに対して対馬は、遠慮がちに小さく首を振って言う。

「天気は気まぐれだから…それに結構気温が高いから大丈夫。」

 

 気が付くと、やはり通り雨だったらしくだいぶ雨脚(あまあし)が収まってきており、

先ほどまでの激しさとは打って変わって、地面に広がった水たまりに雨粒が当たる、

しとしとと穏やかな雨の音がする。

対馬の場合はさすがにタイミングが悪すぎたようだ。

 

()んできたね…。」

入口のそばまで行って外の様子を見ながらあかつき?はそう口にした。

 

手に握りしめているものを見下ろす。

対馬ちゃんがびしょびしょになりながら届けてくれた、あたしの大事な小銭入れ。

…だけど。

 

「雨が止んだら一緒に帰ろうか。対馬ちゃん此処(ここ)に居るならもうお昼回ったみたいだし…。」

一人だと道わかんないし…。

 

それを聞いた対馬が普段通りの(さび)しげな表情で、

小屋の奥から問いかけるように、あかつき?の方をじっと見る。

 

「せっかく財布、届けてもらったのだけど、もともと間に合わなかったかもだね。…ほら、あたし、おっちょこちょいだから。」

 

あかつき?は、いっそ晴れ晴れとした気持ちで背伸びをし、

「“午前スタイル”はまた今度の楽しみに取っておけばいいわねっ。立派なレディは自分の欲望に対して、がつがつしたりはしないもの…。」

 

そう言いかけてあかつき?は思わず息を飲む。

いつの間にか半裸のままの対馬が、すぐ目の前にまで(せま)って来ていた。

小屋に差し込む、徐々に活力を取り戻しつつある薄明かりの中、

対馬の肌の白さがいっそう際立つ。

 

(あきら)めちゃ、駄目(だめ)。」

対馬があかつき?の目をまっすぐ見つめ、真剣なまなざしで言う。

 

「一度始めたら“最後”まで。それ、とても大切なことだと思う。」

「そ、そう?」

 

普通に考えれば自分の努力をふいにされて(しゃく)にさわった、といった所だろうが、

対馬の言動に苛立(いらだ)ったような様子は見られない。むしろ、あかつき?に対する誠意のようなものが

強く感じられる。

 

対馬の言葉の真意ははっきりとはわからなかったが、

たとえそれがお土産(みやげ)のバケツプリン目当てだったとしても。

自分の意志を応援されているような気がして、あかつき?はなんだか(うれ)しかった。

 

 雨が止む頃になると、水気を絞って乾かしておいた対馬の服も

どうにか着られる位にはなっていた。

 

そんな服を着て海防艦サイズの小さな体が冷えてしまわないか少し心配ではあったが、

気温もかえって蒸し暑い程で、

対馬がしきりに(すす)めるので出発することにする。

 

こんな粗末(そまつ)なあばら家でも、しばらく休息して慣れると名残惜(なごりお)しい気がしてくるので

不思議なものである。

 

雨に洗われてきれいに澄み渡った空気の中、お世話になった物置小屋を後に、二人で連れ立って、

一面の水たまりに青空が映り地面まで空になったような農道を、

水たまりへ足を突っ込まないよう、手をつなぎ助け合いながら進んでいく。

 

制服ではなく、素足にサンダル状態のあかつき?は、ぬかるみに足を取られると大惨事だ。

見かけ上は年上の筈のあかつき?の方が、対馬に支えられながら歩みがたどたどしく、

着ている白いワンピースの視覚効果もあって、まるでお姫様の様な(おもむ)きである。

つくづく、靴下を()いていなくてよかったと思うあかつき?であった。

 

見知らぬ場所での同行人のいる心強さにはかなりのものがある。

しかも対馬は道筋をしっかりと覚えていたので、

あかつき?の頭の中には、まったく印象に残っていないような生垣の曲がり角なども

(いく)つか通過して、

思ったよりもずっとすんなりと、見覚えのある場所まで戻ってきた。

 

大通りと脇道(わきみち)の合流地点まで対馬に送ってもらい、そこで別れる。

朝ここに来たのが、遠い昔のことのように思える。

浦島効果まで付与(ふよ)してくるとは、さすがは伝説の地、である。

 

だがしかし。前途(ぜんと)にいかな困難が立ちふさがろうとも、目的の場所まではもう目と鼻の先だ。

…もう、迷わない。道筋も、そしてプリンの獲得についても。

 

あかつき?は大きく深呼吸をすると、

アスファルトでしっかりと舗装された路面の上に、再出発の一歩を踏み出した。

 

 一方、あかつき?と別れた後。

対馬は、先程までの土砂降(どしゃぶ)りが嘘であったかの様に

雲一つ無く晴れ渡った青空の日の光に照らされながら、鎮守府の本棟までたどり着く。

 

後半の授業開始まではまだ幾分(いくぶん)、時間がある。

へくちっと、対馬の口から小さく、くしゃみが出る。

屋内(おくない)に入り気持ちが落ち着くと、体が冷えてきた。

 

困った。体を温めたくても、温浴場は整備中で使えない。

そういえば、執務室に当直用の小さなシャワールームがあった筈。

使おうと考えたことは”今までに一度もなかった”ので、どうしたものかと。(注)

その場でしばし、逡巡(しゅんじゅん)する。

 

「…借りても、いいよね。」

 

まるで”何者かに”導かれるかのごとく。

本棟の廊下を、歩みを進める対馬であった。

 

 

 

 「正門」から「技術棟」へと至る大通りの、ほぼ中間付近。

もうすぐゴールが見えてくる。

 

あかつき?が財布を確認しようとポシェットの中をまさぐった丁度(ちょうど)その時、

限界が来たのか片方のサンダルのひもがプチンと切れ、思わずよろめいてしまう。

 

あれだけ酷使をしたのだ。(いた)(かた)あるまい。

適当に(ひも)を結んでおけば、しばらくは大丈夫。

 

あと少しだけ、もってくれよ…?あたしのサンダル。

切れた紐を結ぼうと屈みこんで、ふと、目の(すみ)に何か動くものを感じ顔を上げると…。

 

コモンマーモセット?!

 

左右の白い房毛が印象的なのでなんとなく覚えていたのだが、

聞くところによると、子犬ほどの小型の猿であるからか臆病なので

成獣は非常に気難しく、あつかいに苦労するらしい。

 

迷子の(よう)だが体が弱っている様子はない。

アスファルトの路上に座り込み、きょろきょろと周囲を見回している。

 

「何の脈絡(みゃくらく)もなしに…。いったいどんな風の吹き回しよ…。」

よくよく、予想外な状況と縁のある日である。

 

悪いが構っている暇はないのだ。いたずらに追い回しても無意味だろうし。

後で本棟の守衛さんにでも報告しておくのが最善だろう。

 

今のところは関わり合いにならぬよう、距離を取ってさっさと通り過ぎてしまおう。

警戒は怠らず。

相手にメンチを切っているように感じさせぬよう、横目に見つつ、そろそろと…。

 

首輪をしている。やっぱりどこかのペットが逃げ出したのかもしれな…。

思わず目を()らす。

 

先程(さきほど)よろけた拍子(ひょうし)に手からすっ飛んで行ったあかつき?の財布を両手でもてあそんでいた。

お互いの視線が交差し、あかつき?はニコーッと満面の笑みでエテ公に微笑みかけ、

相手はそれに対して、知ったことかという意に介さない表情で返して、

一人と一匹の心が通じ合い…。

 

「あ、ちょっと待って。置いてきなさいよコラーッ!!」

逃げ出しやがった。

 

がま口財布を取り返すべく必死に追いかけたが、

艤装の助けのないまま、通常の人間と同等の脚力で追いつけるわけがなく。

ましてや木から木へと飛び移るので翻弄(ほんろう)されて息切れをしている間に、

相手は木々の間の暗がりへと姿を消した。

 

終着点を目前にしてのこの所業(しょぎょう)

ぐったりと気落ちして、ワンピースの(すそ)を手で押さえることもなく

直接お尻から地面にへたり込んだあかつき?の心情(しんじょう)も無理からぬことであった。

路面が乾いていたことがせめてもの救いである。

 

ここまで不測の事態が重なると、さすがにもう手に入る気がしない。

大型店舗に程近(ほどちか)く、都会ほど多くはないがそれなりに人通りもある中、

長いこと放心したようにじっとしていたあかつき?は、

足元の影が長くなる頃になってようやくのろのろと立ち上がると家路(いえじ)についた。

 

ちなみに。

目当(めあ)てのバケツプリンは、さすが人気商品だけあって昼休みの時点で完売。

無事にたどり着いていたとしても、

結局、骨折り損のくたびれ儲けであった事は、知らぬが仏だ。

 

 

 

 夕食後、あかつき?は自室の机に()()していた。

まことにもって、散々な休日である。

 

「ごめんね、対馬ちゃん。あたし頑張ったのよ、頑張ったんだけどね。」

そもそも頑張る程のことではない筈なのだが、どうしてこうなった。

 

そんなあかつき?に対して。

(なぐさ)めるかのように、対馬は何も言わずあかつき?の頭をやさしく()で続ける。

そうこうしていると、

あかつき?は部屋の扉をノックして入ってきた守衛係の艦娘に声をかけられた。

 

「えぇ…。」

 

何か悪い事でもしたかしらと、すっかり疑心暗鬼のあかつき?である。

妙な雰囲気で迎えられた守衛係は、内心、何事かと思いつつも職務を遂行する。

 

「あかつき?ちゃんに届け物、なんだけど…。」

あかつき?は守衛さんから、台車の上の大きな発砲スチロ-ルのケースを示される。

 

「生ものなんで、早く食べてくださいって。菜園とこのおばさんが。」

菜園?おばさん…?ああそうだ、朝会った…。すっかり忘れてしまっていた。

 

(かが)みこんで、内容物を確認済みの、テープで簡単に止めてあっただけの(ふた)を開けると。

保冷用の氷の小袋に囲まれているそれは、

どこからどう見ても(まぎ)れもない、「カラメルバケツプリン(5Lサイズ)」×1である。

 

恐らく朝のお礼だろう。思わず目に涙が浮かんできてしまった。

(くだん)のおばちゃんは受付で品物を渡した後、もう帰ってしまったらしい。

 

おばちゃんの名前は憶えている。

今度、菜園の事務所へ、きちんとお礼を言いに行こうと思うあかつき?である。

 

何処(どこ)に置く?食堂の冷蔵庫?」

丁度(ちょうど)、昼番の艦娘も帰港して、食堂は一日の中で一番混み合っている時間帯だ。

保管は頼めるが、席を見つけるのは難しいだろう。

 

「いえ、受け取ります。」

運んでもらった御礼を言って、この場に置いていってもらう。

 

守衛さんが帰った後、机の上に置かれたひとつだけの「カラメルバケツプリン(5Lサイズ)」を

よっこらしょ、と持ち上げて、あかつき?は隣に立つ対馬に話しかけた。

 

「待たせちゃってごめんね。はい、約束のバケツプリン。部屋まで持っていこうか?」

 

対馬はふるふる、と首を振る。

そばで見ていれば薄々(うすうす)とわかる。こんな血と汗と涙の結晶を、受け取れはしない。

 

「そのプリン、あかつき?ちゃんに食べてもらいたがってると思う。」

「それじゃあ…。」

 

あかつき?は、しばらく考えた後。

一緒(いっしょ)に食べよっか。」

 

そう(さそ)われて。

ひとりで丸ごと一つを食べるよりも、嬉しそうな対馬である。

 

 

 

 思い返せば。

なかなか内容の濃い一日であった。

 

あのお騒がせな猿は、やはり菜園で働く職員のペットだったらしい。

バケツプリンの(けん)から数日後、

持ち主不明の落とし物として、たらいまわしにされていたあかつき?の財布が

飼い主の謝罪の手紙と一緒に本棟へと届けられ、そちらの方面でも無事解決を見た。

 

終わりよければすべてよし…。

(いや)、もうちょっと素直(すなお)に事が運んでくれてもよかったんだけどね。

そう思う、あかつき?であった。

 

 

次回、「おでかけ」

焼き肉食べに行きたい。

 

(注)時系列に着目すると、02.「シャワー」は…。

 

 

【追記】(2022-09-11)

目次のページの付録に、この回(07-2.「あかつき?の大冒険」後編)の続き的な話を

07-補1.「好き?嫌い?…キライ!?」前編 として投稿しました。

(07-2.の直後のお話になりますが、内容に直接的なつながりはありません。)

本編のネタバレ的な内容は含まれませんので、このまま続けて

07-補1.を読んでいただいて支障ありません。

 

 

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