久々の休日。バケツプリンの”午前スタイル”を敢行するため
「マミヤストア」へ買い物に出た「あかつき?」。
しかしその道中、様々な出来事が彼女の身に降りかかり…。
対馬は、
敷浪の不器用さとはまた違った感じで、表情やそぶりは普段とほとんど変わらないのだが、
あかつき?の机の前で
説明しよう。対馬がこの状態に
昼休みになり、昼食をとった後で本棟北館三階にある艦娘居住室を訪れた対馬は、
あかつき?の机の上に置かれたままの、小さながま口
今日仕事が休みのあかつき?は、バケツプリンの“午前スタイル”を
以前から楽しみにしており。
ついでに夕食後用のバケツプリンも
対馬は
昼休みも
バケツプリンを余裕をもって購入するために、
午前の、それ
そして、売り場で財布を忘れた事に気付いたのならば、とっくに取りに戻っている筈。
結果として導き出される答えは。
あかつき?は「マミヤストア」に
…
そういった経緯があって、対馬はこの場でこうしている。
しかしながら。ずっとここで困っていても、何の解決にもなるまい。
提督や平戸の仕事の
こんな時まず相談すべき相手は何かと思考が柔軟で
思考が柔軟すぎるという意見もちらほらと見受けられるが、
あれこれと細かいことを言ってはいられない。
場所は変わって、鎮守府本棟西館の二階に位置する図書室。
如月の受け持つ班は、今日は海上警備の当番ではなく、講義室で学科教習となっていた。
午前の内容は艦砲射撃の偏差の計算についてで、今までにそれなりの練度を積み実戦経験も多い
如月にとっては、もはや、癖になる程にこなしたと言っていい復習のようなものである。
まだ計算に慣れていない班員の覚えも打てば響くという感じで、
学習の手助けをする如月も教えていて楽しい。
おまけに昼食後は、午後遅くのレポートの発表までは時間割が空白な余剰の時間で、
班のメンバーは午前の授業の後いったん散開し、
如月の言葉を借りれば「それにしたってはっきり言って
考えものである。
物事にはメリハリのあることが
何か起こらないかしら。“ラブ”で“コメディー”的な、感情を
本日予定されている、この鎮守府でのイレギュラーなイベントは…。
大気の状態が不安定で、局地的、かつ突発的な大雨が予想されている事。
ボイラーの不調で、日中の温浴場の使用が制限されている事。
この二つが連鎖すれば何か面白いことが…。
そんなにうまくはいかないだろうなあと、
海上での訓練組は、そもそも
温浴場を使用するのは日が傾いてからだろう。
人一倍大切にしている自分のつややかな黒髪を、毛先に
無意識のうちにチェックしながら、
如月は図書室の閲覧席で、ほんの申し訳程度に参考書とノートを広げ
対馬が如月の
なんとなく
対馬は如月がごく自然なそぶりでポケットから取り出したレーダーの受信機的な何かを、
いつもの
「……。」
「あ、これ?気にしないで。ほら、あの子よく迷子になるから。」
如月はそんな対馬の様子には
ディスプレイの中であかつき?の
思わずあきれてしまう。あの子、何だってこんなところに…。
迷子にしても
顔を上げ、ぼんやりと対馬の方を
そういえば、今日は対馬ちゃんも私と似たような感じの学科教習だった
確か、提督への心のありようは…。
如月の頭の中でパズルのピースがかっちりとはまった音がする。
背筋が伸び、先程までとは目の輝きの違う如月である。
「
あの子が今いる場所と、これからあの子が行きそうな場所、地図にしてあげるから。
らっしゃいな。」
もちろん、
執務室の“アレ”に気が付かないなら気が付かないなりに、ちょっと後押ししてあげれば…。
如月は未使用のルーズリーフを一枚抜き取り、図形と注意書きで構成された
手早くサラサラとしたためると。
それを対馬に持たせ、にこにこと顔の横で上品に手を振りつつ図書室から送り出したのであった。
それでは、話をあかつき?の
手で悲鳴を押し殺しながらも、そこは駆逐艦の
目を見開いて、目の前のお化けをよくよく観察すると、なんとなく見覚えのあるような…。
「…って、対馬ちゃん?!」
降り出す寸前で小屋に駆け込んだあかつき?と違って本格的に降られたようで、
着ている制服は肌にぺったりと貼り付き、豊かな髪の毛もすっかり水を吸ってしまい、
普段のモフモフ感は見る影もなくなっているが。
確かに、対馬である。
「対馬ちゃん…。なんだって、こんな所に…。」
自分の事を
対馬はそんな事はまったく気にしていない様子で、いそいそと着ていた制服を脱ぎ去ると、
あかつき?に水がかからないよう、入り口近くで外に向かって水を絞り出す。
可能な限り制服の水気を処理して、
気をつけて広げ終わり、
スカートのポケットから取り出しておいた、雨水に濡らさないようにハンカチで包まれた
何やら小さなものを、
スポーツブラと換えゴム式の子供パンツの下着姿のまま、あかつき?に向かって差し出す。
「忘れ物。」
「これ…あたしの。」
包みの中身を確認してすぐには思考が噛み合わなかったが、理解できたとたん思わず
絶句してしまう。
あたし…馬鹿すぎる。
「財布届けてくれたのね。ありがとう対馬ちゃん。大変だったでしょ大雨の中。」
連続した
少しでも体を
それすらもどこかに置き忘れていた事に気付き、さすがにげんなりとしてしまった。
あかつき?の気づかいに対して対馬は、遠慮がちに小さく首を振って言う。
「天気は気まぐれだから…それに結構気温が高いから大丈夫。」
気が付くと、やはり通り雨だったらしくだいぶ
先ほどまでの激しさとは打って変わって、地面に広がった水たまりに雨粒が当たる、
しとしとと穏やかな雨の音がする。
対馬の場合はさすがにタイミングが悪すぎたようだ。
「
入口のそばまで行って外の様子を見ながらあかつき?はそう口にした。
手に握りしめているものを見下ろす。
対馬ちゃんがびしょびしょになりながら届けてくれた、あたしの大事な小銭入れ。
…だけど。
「雨が止んだら一緒に帰ろうか。対馬ちゃん
一人だと道わかんないし…。
それを聞いた対馬が普段通りの
小屋の奥から問いかけるように、あかつき?の方をじっと見る。
「せっかく財布、届けてもらったのだけど、もともと間に合わなかったかもだね。…ほら、あたし、おっちょこちょいだから。」
あかつき?は、いっそ晴れ晴れとした気持ちで背伸びをし、
「“午前スタイル”はまた今度の楽しみに取っておけばいいわねっ。立派なレディは自分の欲望に対して、がつがつしたりはしないもの…。」
そう言いかけてあかつき?は思わず息を飲む。
いつの間にか半裸のままの対馬が、すぐ目の前にまで
小屋に差し込む、徐々に活力を取り戻しつつある薄明かりの中、
対馬の肌の白さがいっそう際立つ。
「
対馬があかつき?の目をまっすぐ見つめ、真剣なまなざしで言う。
「一度始めたら“最後”まで。それ、とても大切なことだと思う。」
「そ、そう?」
普通に考えれば自分の努力をふいにされて
対馬の言動に
強く感じられる。
対馬の言葉の真意ははっきりとはわからなかったが、
たとえそれがお
自分の意志を応援されているような気がして、あかつき?はなんだか
雨が止む頃になると、水気を絞って乾かしておいた対馬の服も
どうにか着られる位にはなっていた。
そんな服を着て海防艦サイズの小さな体が冷えてしまわないか少し心配ではあったが、
気温もかえって蒸し暑い程で、
対馬がしきりに
こんな
不思議なものである。
雨に洗われてきれいに澄み渡った空気の中、お世話になった物置小屋を後に、二人で連れ立って、
一面の水たまりに青空が映り地面まで空になったような農道を、
水たまりへ足を突っ込まないよう、手をつなぎ助け合いながら進んでいく。
制服ではなく、素足にサンダル状態のあかつき?は、ぬかるみに足を取られると大惨事だ。
見かけ上は年上の筈のあかつき?の方が、対馬に支えられながら歩みがたどたどしく、
着ている白いワンピースの視覚効果もあって、まるでお姫様の様な
つくづく、靴下を
見知らぬ場所での同行人のいる心強さにはかなりのものがある。
しかも対馬は道筋をしっかりと覚えていたので、
あかつき?の頭の中には、まったく印象に残っていないような生垣の曲がり角なども
思ったよりもずっとすんなりと、見覚えのある場所まで戻ってきた。
大通りと
朝ここに来たのが、遠い昔のことのように思える。
浦島効果まで
だがしかし。
…もう、迷わない。道筋も、そしてプリンの獲得についても。
あかつき?は大きく深呼吸をすると、
アスファルトでしっかりと舗装された路面の上に、再出発の一歩を踏み出した。
一方、あかつき?と別れた後。
対馬は、先程までの
雲一つ無く晴れ渡った青空の日の光に照らされながら、鎮守府の本棟までたどり着く。
後半の授業開始まではまだ
へくちっと、対馬の口から小さく、くしゃみが出る。
困った。体を温めたくても、温浴場は整備中で使えない。
そういえば、執務室に当直用の小さなシャワールームがあった筈。
使おうと考えたことは”今までに一度もなかった”ので、どうしたものかと。(注)
その場でしばし、
「…借りても、いいよね。」
まるで”何者かに”導かれるかのごとく。
本棟の廊下を、歩みを進める対馬であった。
「正門」から「技術棟」へと至る大通りの、ほぼ中間付近。
もうすぐゴールが見えてくる。
あかつき?が財布を確認しようとポシェットの中をまさぐった
限界が来たのか片方のサンダルのひもがプチンと切れ、思わずよろめいてしまう。
あれだけ酷使をしたのだ。
適当に
あと少しだけ、もってくれよ…?あたしのサンダル。
切れた紐を結ぼうと屈みこんで、ふと、目の
コモンマーモセット?!
左右の白い房毛が印象的なのでなんとなく覚えていたのだが、
聞くところによると、子犬ほどの小型の猿であるからか臆病なので
成獣は非常に気難しく、あつかいに苦労するらしい。
迷子の
アスファルトの路上に座り込み、きょろきょろと周囲を見回している。
「何の
よくよく、予想外な状況と縁のある日である。
悪いが構っている暇はないのだ。いたずらに追い回しても無意味だろうし。
後で本棟の守衛さんにでも報告しておくのが最善だろう。
今のところは関わり合いにならぬよう、距離を取ってさっさと通り過ぎてしまおう。
警戒は怠らず。
相手にメンチを切っているように感じさせぬよう、横目に見つつ、そろそろと…。
首輪をしている。やっぱりどこかのペットが逃げ出したのかもしれな…。
思わず目を
お互いの視線が交差し、あかつき?はニコーッと満面の笑みでエテ公に微笑みかけ、
相手はそれに対して、知ったことかという意に介さない表情で返して、
一人と一匹の心が通じ合い…。
「あ、ちょっと待って。置いてきなさいよコラーッ!!」
逃げ出しやがった。
がま口財布を取り返すべく必死に追いかけたが、
艤装の助けのないまま、通常の人間と同等の脚力で追いつけるわけがなく。
ましてや木から木へと飛び移るので
相手は木々の間の暗がりへと姿を消した。
終着点を目前にしてのこの
ぐったりと気落ちして、ワンピースの
直接お尻から地面にへたり込んだあかつき?の
路面が乾いていたことがせめてもの救いである。
ここまで不測の事態が重なると、さすがにもう手に入る気がしない。
大型店舗に
長いこと放心したようにじっとしていたあかつき?は、
足元の影が長くなる頃になってようやくのろのろと立ち上がると
ちなみに。
お
無事にたどり着いていたとしても、
結局、骨折り損のくたびれ儲けであった事は、知らぬが仏だ。
夕食後、あかつき?は自室の机に
まことにもって、散々な休日である。
「ごめんね、対馬ちゃん。あたし頑張ったのよ、頑張ったんだけどね。」
そもそも頑張る程のことではない筈なのだが、どうしてこうなった。
そんなあかつき?に対して。
そうこうしていると、
あかつき?は部屋の扉をノックして入ってきた守衛係の艦娘に声をかけられた。
「えぇ…。」
何か悪い事でもしたかしらと、すっかり疑心暗鬼のあかつき?である。
妙な雰囲気で迎えられた守衛係は、内心、何事かと思いつつも職務を遂行する。
「あかつき?ちゃんに届け物、なんだけど…。」
あかつき?は守衛さんから、台車の上の大きな発砲スチロ-ルのケースを示される。
「生ものなんで、早く食べてくださいって。菜園とこのおばさんが。」
菜園?おばさん…?ああそうだ、朝会った…。すっかり忘れてしまっていた。
保冷用の氷の小袋に囲まれているそれは、
どこからどう見ても
恐らく朝のお礼だろう。思わず目に涙が浮かんできてしまった。
おばちゃんの名前は憶えている。
今度、菜園の事務所へ、きちんとお礼を言いに行こうと思うあかつき?である。
「
保管は頼めるが、席を見つけるのは難しいだろう。
「いえ、受け取ります。」
運んでもらった御礼を言って、この場に置いていってもらう。
守衛さんが帰った後、机の上に置かれたひとつだけの「カラメルバケツプリン(5Lサイズ)」を
よっこらしょ、と持ち上げて、あかつき?は隣に立つ対馬に話しかけた。
「待たせちゃってごめんね。はい、約束のバケツプリン。部屋まで持っていこうか?」
対馬はふるふる、と首を振る。
そばで見ていれば
「そのプリン、あかつき?ちゃんに食べてもらいたがってると思う。」
「それじゃあ…。」
あかつき?は、しばらく考えた後。
「
そう
ひとりで丸ごと一つを食べるよりも、嬉しそうな対馬である。
思い返せば。
なかなか内容の濃い一日であった。
あのお騒がせな猿は、やはり菜園で働く職員のペットだったらしい。
バケツプリンの
持ち主不明の落とし物として、たらいまわしにされていたあかつき?の財布が
飼い主の謝罪の手紙と一緒に本棟へと届けられ、そちらの方面でも無事解決を見た。
終わりよければすべてよし…。
そう思う、あかつき?であった。
次回、「おでかけ」
焼き肉食べに行きたい。
(注)時系列に着目すると、02.「シャワー」は…。
【追記】(2022-09-11)
目次のページの付録に、この回(07-2.「あかつき?の大冒険」後編)の続き的な話を
07-補1.「好き?嫌い?…キライ!?」前編 として投稿しました。
(07-2.の直後のお話になりますが、内容に直接的なつながりはありません。)
本編のネタバレ的な内容は含まれませんので、このまま続けて
07-補1.を読んでいただいて支障ありません。