平戸ちゃんのお話   作:伊村ハク@駄文存在

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 【主な登場人物】

   ・平戸 艦娘側の主人公。海防艦。
       常に顔につけている眼鏡がトレードマーク。
       船舶だった頃の記憶に、心を強く縛られている。


   ・提督 人間の側の主人公。
       弱小鎮守府の経営維持に、日々、邁進している。
       人間の軍隊に所属していた頃、深海棲艦にとどめを
       刺すことが出来ず、所属部隊を壊滅へ追いやった経歴を持つ。
       体のでかさにコンプレックスを感じている。


   ・初風 駆逐艦娘。
       平戸の鎮守府で”秘書艦の役職”を与えられている。
       頑張ってはいるのだが気分屋なところがあり、
       やる事なす事、どうしても詰めが甘くなってしまう。
       一人称は”あたし”。


   ・敷浪 平戸の鎮守府唯一の改二。
       口下手で無口だが、面倒見はいい。
       ベテランなだけあって、戦闘指揮の巧みさには定評がある。
       平戸にとっては恩師的な存在。


   ・如月 艦娘たちの母親役。敷浪と並ぶ鎮守府の古参。
       思考が”柔軟すぎる”のが玉にキズ。
       考えている事と表情が一致していない時があり、
       ちょっと、怖い。


   ・対馬 平戸と同じく海防艦の艦娘。
       非常に物静かな性格をしており、如月とはまた違った感じで、
       表情から心の内が読めない。一人称は不明。実は常識人枠?


   ・あかつき? ちょっと作者!アカツキだかイカズチだか
          いい加減、はっきりしてよねッ!


   ・白衣の女科学者 本営の中枢を構成する幹部の一人。
            艦娘のシステムの一連の流れを軌道に乗せた功労者。
            平戸の提督とは大学時代の同期。


   ・いなづま プロトタイプ。
         自然発生ではなく、人工的に構築された艦娘。
         現在は、その姿が見当たらないようだが…?


   ・無精髭の提督 平戸の提督と懇意にしている。
           口は悪いが、結構細かいところまで気が利く。


   ・羽黒 重巡洋艦。無精髭の提督の秘書艦娘。


   ・???? 詳細は不明。
         本営と深海棲艦双方につながりを持ち、暗躍している。
         現在、とある計画を続行中。





第三章
          10-1.「 作 戦 会 議 」 前編


 

 

 / ”あたし”には、なんにもなかった。/

 

/ 海上警備の皆に比べると運動はダメ。かといって、学業もいまいちパッとしない。

全体的に、()もなく不可(ふか)もなく。

自分の居場所をなかなか見定めることが出来ず悩み始めていた”あたし”に。

いろいろな事柄(ことがら)に広く浅く関わることのできる”秘書艦(ひしょかん)役職(やくしょく)”を与えてくれたりして、

何かと、興味の持てそうなものを見つけさせようとしてくれる提督には、感謝してる。

 

時間は気にしなくてもいいから、自分自身の本当にやりたいと思う事を気長に探せばいい、

とは言ってくれるけれど。

だけど、何をやっても興味が長続きしない。熱しやすく冷めやすい、それを絵に描いた様な。

自分でもわかってる。昔っから人一倍そうなのだ。”あたし”は。

 

そういった性分が、根無し草のようなふらふらとした傾向にさらに拍車をかけ、

もしかしたら自分には、(ただ)漠然(ばくぜん)と存在していることしか出来ないんじゃないか。

そんな気もしてきて。

 

そんな時、それに気付(きづ)いた。

これなら”あたし”にも出来るかもしれない。

気分に流されない自分を、見つける事が出来たかもしれない…。/

 

 

 

 

 

 対馬は、焦燥感(しょうそうかん)を感じていた。

 

「んぅ…。」

 

食堂の(つく)()きの補佐をすることを条件に、食堂の調理担当者から

料理の手ほどきを受けているのだが、

対馬は生来(せいらい)、手先が不器用なところがあり、(もう)(わけ)()い事に、

なかなか腕前(うでまえ)上達(じょうたつ)できないでいる。

 

彼女の目の前の調理台には、もはや廃棄処分を待つだけの失敗作の収まった

小鍋(ミルクパン)が、(すで)に三つ(ほど)積み上げられていた。

 

食堂のホールでは、この(あと)もうしばらくすると艦娘たちの集まりが始まる。

”秘書艦の役職”にある初風が集まってくる艦娘たちに声をかけ、席への誘導を

行っているのが聞こえてきた。

 

対馬もそれに参加するので、このままでは、また調理担当者に負担をかけてしまう。

対馬の(あせ)りの”一つ目”が、それである。

 

昼番の海上警備から帰港した艦娘たちへの夕食の盛り付けの手伝いから

戻ってきた平戸が、

その対馬の様子を見て、しばらく思案(しあん)すると。

 

「コツを(つか)めば、思った以上に素早く作れますよっ!一緒に頑張りましょう!」

 

そう言って、対馬のそばの業務用ガスコンロの前に立ち

手際(てぎわ)よく調理を始めた。

 

 対馬の(あせ)りの、”もうひとつ目”は…。

平戸も最近、食堂の調理室で料理の勉強を始めた。

 

今日はいろいろと予定が立て込んでいるので、少し早めにここに来て、自発的に

食堂の手伝いをしているだけなのだが、

普段は、提督の夕食の給仕を終えた後で対馬と合流し、

ある程度、混雑が収まり落ち着いた調理室で一緒に指導を受けている。

提督の食生活が、どうにも見ていられない、というのがその理由らしい。

 

大抵(たいてい)のことは”そつなく”こなしてしまう平戸に、そこまでされてしまうと。

対馬の(がわ)としても、心の中でどうしても”(あせ)り”を感じてしまうのであった。

 

 本日の(つく)()きの手伝(てつだ)いは。

定食の()(もの)として、小さなアルミカップで(きょう)される

一口(ひとくち)マカロニグラタンの、ベシャメルソースの作成。

白いペースト状の部分、ホワイトソースをあらかじめ作って、冷蔵庫の中で

一晩寝かせておくのである。

二度手間(にどでま)三度手間(さんどでま)を必要とされる春巻(はるま)きやコロッケにくらべると、楽なものだ。

 

「これを、こうして…。」

 

対馬が横で見守る中、

平戸は木べらを手に持ち、弱火にかけた小鍋(ミルクパン)の中で薄力粉を()げない程度に、

とかした無塩バターでいため、

その後、牛乳を徐々に加えてペースト状にのばしだす。

 

グラタンのソースは普通に作っていると、どうしても所々(ところどころ)”だま”になってしまうので、

こだわるならば、舌触りをよくするために()()裏漉(うらご)ししたりするのだが。

 

平戸は、加える牛乳を最後の一回分だけ残して、

小鍋(ミルクパン)の中の、ある程度、量の増えたソースの水分を、

()がさないように十分に気をつけつつ、ぎりぎりまでとばすと、

 

いったん火を止め。

(ねば)りを増し、固めになった鍋の中身を、気合を入れて、

木べらで力を込めて一気にかき回し始めた。

 

作業が終わると、なるほど。ソースの”だま”はあらかた(つぶ)れ、すっかり

なめらかになっている。

 

この方法ならば時間をかけずとも、攪拌(かくはん)の過程で”だま”の(ほとん)どをつぶすことができ、

かなり舌触りの良い仕上がりとなる。

あとは、残しておいた一回分の牛乳を加えながら、再度弱火にかけて適度にゆるくすれば完成だ。

 

「”だま”がつぶれないならば、力が加わって、自然につぶれるような状態にしてやればいい、

という訳ですね。理屈は、とても単純なんです。」

 

鍋の中の、つやを()びたソースに仕上げの味付けを(ほどこ)しながら、

こころもち、得意げに説明をする平戸。

それを、ひやひやとしながら見守る対馬である。

 

平戸ちゃんの事だから、間違(まちが)いはないと思うけど…。

 

コショウは()いのだ。塩が…。

ベシャメルソースの塩加減というものは、幾分(いくぶん)、異次元の領域へと片足を突っ込んでいる

ようなところがある。

 

レシピ通りの分量で作っても大抵(たいてい)思った通りにはいかず、それ以前に、適量(てきりょう)、としか

書かれていないことも多いので、

結局、味見をしながら調整することになるのだが、

それまでまったく味がしないと思っていたら、その次はいきなり塩辛(しおから)くなったりするのである。

しかも、塩を加えすぎると元に戻す手立(てだ)てが一切(いっさい)ない。

ソースが仕上(しあ)がり、ひとさじ、すくって味見をしてみる平戸。

 

「……しょっぱい。」

 

大方(おおかた)の予想通り、塩を加えすぎて。

食べ物を粗末(そまつ)に扱うことには滅法(めっぽう)、厳しい調理担当者に背後で腕組みをされながら

ソースを作り直すことになり、

どのような場合も、大慌てでこなしては良い結果を生まない。

(きも)(めい)じた二人であった。

 

 

 

 「こんな時間に何してるんだ?お前ら。」

当直(とうちょく)の見回りで本棟西館一階の廊下を歩いていた提督は、

夕食時間終了後の結構(けっこう)遅い時間になっても明かりが(とも)ったままの食堂を不思議に感じて、

中に集まっていた艦娘たちに声をかけた。

 

聞くと、本営からの大規模作戦への参加の要請(ようせい)(さい)して、派遣する艦娘の選定に

提督が頭を(なや)ましていることが皆の間に広まり、

こうして皆の時間が取れた日に集まって、自分たちでも話し合いをしていたそうだ。

 

「お前たち…。」提督は思わず、ほろりとする。

 

そんな事は当然、鎮守府の(おさ)の考えるべき仕事の範疇(はんちゅう)であるのに、それにも関わらず、

こうして自分達もその労力の片棒(かたぼう)(かつ)ごうとしてくれている。

まさに提督冥利(みょうり)()きるというものだ。

 

最近になって平戸が時々、

「提督、今日のお夕飯(ゆうはん)の給仕は、お休みさせていただいてもよろしいですか?」

と、申し訳なさそうに(ことわ)りを()れてくる事があったので、

少しでも平戸が体を休めればと快諾(かいだく)していた反面、どこか体の調子でも悪いのではと

心配もしていたが、杞憂(きゆう)であったようだ。

(とう)の平戸は食堂の調理室から借り出した湯のみを皆に(くば)り、

旅館でよく見る大きな6号急須(きゅうす)(いそが)しく緑茶をついで回っている。

 

平戸が提督の姿に気付(きづ)き、お茶をくみに来ながら申し訳なさげに言う。

「すみません、提督。お休みをいただくと言っておきながら…。」

 

「就業時間外なんだから、俺に気兼(きが)ねする必要はないからな?艦娘同士の話し合いを

禁じる鎮守府なんてのも聞いたことがないし。お、茶柱(ちゃばしら)だ。幸先(さいさき)がいいな…。」

提督が礼を言って湯のみの中の温かいお茶をすすると、安心したように(ほお)(ゆる)める平戸。

 

「お気遣(きづか)い、ありがとうございます、提督。」

そう言って、平戸は自分の席へと戻っていく。

 

目を閉じて、気持ちに安らぎを与える温かい湯の温度が、()()へと落ち込むのを感じながら。

気遣(きづか)いなどと水臭(みずくさ)いことを言わず、もっと伸び伸びと

自分のやりたいことを模索していってもいいんだぞ?平戸。

そう思う、提督である。

 

 

 

 食堂を見渡すと、30人程であろうか。

夜間の海上警備に出払(ではら)っている艦娘以外の、(ほとん)どの者が食堂に集まっているようである。

 

作戦で担当する任務の概要(がいよう)は、「対潜警戒」。

(すで)に行われた何回かの集まりで、任務に推薦する六人の、おおよその人選は固まっているらしい。

 

まずは、この鎮守府における唯一の改二にして古参(こさん)筆頭(ひっとう)である敷浪。

彼女は戦力的にも、現場での采配能力(さいはいのうりょく)的にも絶対に外せない。

 

次に、敷浪の采配の機微(きび)を知り()くし、補佐役として細かい部分まで配慮が行き届く、

同じく古参の如月。

残りの駆逐艦からも、ベテランといえる二人が名乗(なの)りを()げていた。

 

そして、潜水艦戦闘の専門家といえば海防艦。

この鎮守府には平戸と対馬の二隻しか所属していないが。

幸いなことに、二人とも改にまで成長できていた。

 

「ふむ…。」

 

平戸の本格的な戦闘への投入(とうにゅう)については、少し気になる点があるものの。

現状、これ以外の選択肢は()()まい。

 

(とう)の平戸が、本営で話を耳にしてからというもの、

少しでも皆の助けになりたいと、作戦への参加にかなり積極的であった。

恐らく提督が待機を命じても、そう簡単に譲らないだろう。

 

この(あた)りまでは提督が頭に思い描いている結論と、ほぼ、同じであった。

問題は、ここからなのだ。

 

この人員ならば、任務遂行に必要な能力値の最低限のラインには達しているであろうが、

それだけでおいそれと、大事な艦娘を高難度の作戦海域へ放り込むわけにはいかない。

 

もし仮に、このまま任務を決行したとして、

遭遇した敵艦隊が高位クラスの潜水艦で()められていたならば、無理がたたり、

最悪、轟沈(ごうちん)の可能性もつきまとう。

 

艦娘が深海棲艦の意思に(やぶ)れ。

海上との結びつきに対する信念を乱されて、暗く冷たい海底へと

沈んでいく「轟沈(ごうちん)」は。

艦娘たちの命綱(いのちづな)となるべき鎮守府の(おさ)として、

決して引き起こしてはならぬ事象である。

 

 

次回、「作戦会議」中編。

うん。知ってた。

 

 

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