【インフォメーション】(2022-07-03)
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(2022-08-12)
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(2022-07-21)
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(2022-07-04)
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夏。
鎮守府はすっかり濃い緑に包まれ、
明るすぎて、かえって暗く見えてしまうほどに、
雲ひとつ見当たらない空から強い日差しがジリジリと照り付ける中、
セミの鳴き声が至る所で、我こそはと競い合っていた。
「正門」から「鎮守府本棟」を経て、
「技術棟」まで続く大通りのアスファルトは、手で触れないほど熱くなっており、
水を張った
皆、仕事で忙しくしているのか、
屋外に人影は見当たらず、
あたりには、田舎特有の日中の静けさがただよっている。
いつもと変わらぬ時の歩みが。
今日も、ゆっくりと進み続けていた。
「枯れ木騒動」のあと。
平戸の処遇については、
あれだけのことがあったというのに、なぜか、不問に付された。
提督がそれとなく尋ねた時、
女科学者から返ってきた答えによると、水面下でいろいろとあったらしい。
むしろ問題とされたのは、
大規模作戦の折の、命令無視についてである。
軍隊の規律、いわゆる軍律というものは
一般的な法律とは性質が異なり、価値観の是非を論じるというよりも、
組織をいかに効率よく運用するかのためのもの、と言った方がよい。
階級による差別や、身内同士の
そのためでもある。
行為を実際に問題視するかは現場の判断にゆだねられることが多く、
平戸の場合も、そ知らぬふりで通せない事もなかったのだが。
艦娘という立場上、厳しい目で見る方面もそれなりに存在し、
あとで痛くもない腹を探られるのも面倒なので、
この際、はっきりとさせておいた方が得策、という判断から、
告発が行われた。
軍律上、艦娘に告発や捜査、浮き彫りにされた嫌疑の裁断に関する
権利は与えられていないので、
通常、所属鎮守府の提督が告発し、
他鎮守府の提督、あるいは本営の係長以上の文官を合わせた複数人の査問によって、
軍法会議の設置の有無が判断される。
平戸の罪状は、抗命という重い罪に当たっていたが、
告発者の提督自身による情状酌量のとりなしや、同時刻に行動を共にしていた
艦娘複数人の証言などにより、軍法会議の必要性は無しと判断され、
口頭による厳重注意と再発防止の誓約書の提出、
一年あまりの10%減給の決定が下り、ほぼ、事無きを得たのであった。
母港では。
平戸が大きな損傷を負った大規模作戦終了後からずっと、非日常的な
抑圧された雰囲気が漂っていたことも手伝って、ちょっとしたお祭りムードとなり、
平戸の無罪放免を記念する祝賀会の開催が、とんとん拍子で決定した。
祝賀会は当初、
食堂で行われる通常の立食パーティーとして企画されたのだが。
「舞台美術なら開発に任せて!」と、
夕張をはじめとする開発の面々が、のりにのってしまい、
鎮守府本棟裏手の運動場に、屋台まで繰り出してきたため、
それに便乗する形で、如月がパーティーでの
本格的な縁日パーティー開催の様相を呈し始めていた。
ちなみに。
私物の浴衣を持っていない艦娘もいるため、
如月は、「マミヤストア」に併設されているショッピングモールの服飾量販店の、
浴衣レンタルの協力まで取り付けてきており、
当日は、店側の好意で、着付けの担当者まで無償で手配してくれていた。
まさに「マミヤストア」様様、である。
何でもあるな!「マミヤストア」(宣伝)。
祝賀会の開催時刻が迫ると、
空調が良く効いて涼しい食堂のホールは、パーティーの参加者でごった返していた。
艦娘たちも、人間の職員も、皆、浴衣を着用している。
浴衣姿、ということで、素足に下駄をはいており、
艦娘たちや女性職員の浴衣の裾からわずかに覗く足のくるぶしが可愛らしく、見目麗しい。
食堂のカウンターの向かいの壁には、
「平戸ちゃん復帰おめでとう!!」と筆文字で書かれた横断幕が、でかでかと掲げられ、
周辺が、風船やら、ポンポンやら、折り紙製のわっかやらで綺麗に飾り付けられており、
その壁の前にしつらえられた演説台に立ち、秘書艦の初風が
マイクに向かって口を開く。
初風のいでたちは、
黒地に紫陽花の柄を染め抜いた浴衣で、
鮮やかな黄色の帯を締めている。
初風の性格を知る者から見ると、少し大人っぽく背伸びした印象ではあるが、
体の凹凸の少ない体型も相まって、案外、似合っていた。
馬子にも衣装…の評価は、少しばかり失礼か。
「あー、えっと。皆も知っての通り、つい先日、平戸ちゃんにかけられていた嫌疑がすべて
取り下げられ、晴れて無罪放免となったわけで。まったく。あいつらったら、こっちが
平戸ちゃんにやましいところなんて何もないって言ってんのに、根掘り葉掘りしつこい
ったらありゃしないのよ。かなりの根暗じゃなきゃ、あんな仕事、やってらんないわね
……コホン。至らない点もあるかもしれないけど、皆で頑張っていろいろ用意させて
もらったから、楽しんでいってね、平戸ちゃん。 あ、ちょっとそこ。まだ食べ始めるん
じゃないわよ。それ、あたしも目ぇつけてたんだから!」
はたしてこれが挨拶といえるのかどうか定かではないような、パーティー開催の
冒頭の挨拶がすんだ後、
今回の祝賀会の主役である平戸の、今後の抱負へと続いていく。
平戸は、浴衣を着る前には左右で三つ編みにしてハーフアップにしていた分の
長い髪の毛をひと房、こめかみのところから垂らしている。
オフホワイトの生地に、簡略化されたアケビの蔓と葉と実の柄の
白を基調とした浴衣を着用しており、
普段と少し違い、蒔絵の施された黒い小さな
アップスタイルの銀髪の色と、よく調和していた。
普段隠れているうなじが強調されているため、より、華奢な感じを受ける。
上半身を彩る水色の帯が、良いアクセントとなっている。
足元は活動しやすさに配慮してだろうか。
ベージュ色のハイカットのスニーカーという、浴衣には一風変わった組み合わせだ。
抱負の詳細は長くなるので割愛するが、
これまでの事を思い悩むよりも、
これまで皆から向けてもらえた好意に対する感謝と
これからの自らの向かうべき道への決意を強く感じさせる内容で、
意志表明の終わりに、腰の前で両手を重ねてかしこまり、
左右の髪を揺らしながら深く頭を下げた平戸に、
会場からは、なかなか拍手が鳴りやまなかった。
壇上で今後の抱負について表明しながら。
初風の挨拶のすぐ後ということもあり、平戸の脳裏には、ある物事も連想された。
本番中なのでその時は連想されただけだが、
それは、実際にはこんな出来事である。
平戸にかけられた嫌疑への、
最終的な結果が出るより少し前。
鎮守府本棟の廊下を初風と一緒に歩いている時に、
ちらちらと平戸の方を横目で見つつ、何か話したげにしていた隣の初風が
それとなく、
ひとりごとでも言う感じで話しかけてきた。
「あの、さ。平戸ちゃん。嫌疑が晴れるまでいろいろプレッシャーとかすごいと思うけど、
負けないでね。」
すぐに、弁解するように付け加える。
「あはは…。あたしみたいに、あっちこっちふらふらしがちな奴が言えるような事じゃない
わね、まったく。鏡見てものを言えって感じよね。」
平戸は、その時、査問対象という立場におかれていたため、
プライベートでも、うかつに発言は出来ない状況だったのだが。
「私なら、大丈夫です。皆がついていますから。」
査問に影響しないよう、言葉を慎重に選びつつも、
負担など感じているわけがないといった感じで、穏やかに微笑みながら、そう答える。
その言葉を聞いて、
初風は、他の物事はすっかり目に入らなくなったかのように。
顔を上気させつつ、
歩きながら隣の平戸の方をまともに直視していたが、
恐る恐るつぶやくように、こう、質問する。
「えーと、ね、平戸ちゃん。私たちって、友達、かな…。」
「とも…だち…?」
やっぱり駄目だったか。と、うなだれる初風。
予想外の展開であったかのように、
しばらくの間、足の運び以外の動きを停止させていた平戸であったが。
我に返って言葉を続ける。
「私でよければ、喜んで!そうあってほしいとは思っているんですけど、私なんかが
言い出していいのか分からなくて…。」
「全然そんなことないから!!むしろ、こっちからお願いしたいくらいだからっ!嬉しいっ!」
「私も嬉しいです。友達、ですか…。そうですか…ふふっ。こうして改めて口にしてみると、
なんだか、いい響きの言葉ですね。」
その後も、なんだか周囲の物事に対して上の空な感じの初風と二人で
談笑しながら廊下の歩みを進めていたが。
まさかそんなことはあるまい、といった様子で
少し前からそわそわとしていた平戸が、焦りだす。
「あ、え?初風ちゃん、前、前!」
「うっひゃぁあっ!?」
ドンガラガッシャンッ!!びったん。
最後の音がものすごく痛そうだったこともあり、
階段の踊り場のところまで一気に転がり落ちた初風のところへ、
大慌てで駆け寄る平戸。
「大丈夫?初風ちゃん…。」
「大丈夫。平気、みたい…。なんともない。」
鼻の頭をさすりつつゆっくりと身を起こした初風は、
階段に散らばった書類をあたふたとかき集め始める。
「うわーん。私ってば、こんなのばっかり。」
平戸と一緒に書類を集めながら。
そうは言っていても、なんだか幸せそうな表情の初風である。
意志表明が終わり、
お世話になった皆へ向けて感謝のお辞儀をした後、
平戸がふと、横へ目を
食堂の入り口のあたりで待機している司会の初風が、
片手の手のひらをメガホン代わりに、
声には出さず、口の動きだけで言葉を伝えてくる。
『とってもよかったよ、平戸ちゃん。』
その初風に向かって、とても嬉しげに。
笑顔を返す平戸であった。
平戸の発表が終わると、初風の乾杯の音頭と共に飲食が解禁され、
パーティーの主役である平戸は、真っ先に皆に取り囲まれる。
平戸は背が低く小柄なので、あっという間に黒山の人だかりに飲み込まれてしまい、
中がどんな様子なのかは、外からではまったくうかがい知ることが出来ない。
祝賀会の費用は福利厚生費から捻出されているため、
御馳走が実質タダで食べられるとあって昼食を抜いている艦娘もいるのか、
先に食べ物を確保しておこうと、
あらかじめ、置く場所の目星をつけないまま、両手に持った紙皿に大盛りに盛り付け
料理の乗ったビュッフェテーブルからはじき出された後で
両手がふさがり、箸を口にくわえたまま途方に暮れている艦娘の姿も
ちらほらと見受けられる。
初風…。うん、やるとは思っていた。
あまりにも”らしい”光景に、
提督は思わず微笑んでしまった。
パーティーの主宰は提督なので、来賓の相手などはすべて、
提督が引き受けている。
言うまでもなく。今回の祝賀会の一番の目的は、平戸の立場の表明だ。
身の潔白の証明後は、
社会的立場の変化、というか、そういった
及び腰にならず、堂々とはっきりさせておいた方が、
面倒なことを生じさせたりせずに済むので、
知り合いの他の鎮守府の提督にも、可能な限り声をかけて招待していた。
警戒、警備に関わる仕事は、平日、祝日の区別がほとんど無きに等しいので、
なかなか難しいところではあるのだが。
いずれの場合も、入場の際の身分証明の必要性はあるものの、
近隣の住人や菜園の職員も、パーティー会場への出入りは自由だ。
白衣の女科学者は、
祝賀会に顔を出す気はないらしい。
「私は遠慮しておくよ。せっかくの祝いの席に、査問で散々難癖付けた
無粋というものだ。」
提督にそんな感じで断りを入れてきたものの、
いなづまの経緯に関わる事で、艦娘たちの心の奥底に不安の象徴として刻まれている
自らの立場に配慮しての事だろう。
そのあたりのことは、提督も十分理解していたので、それ以上無理に勧めたりはせず、
祝いの言葉だけは受け取り、
平戸にも伝える
平戸は壇上での発表を終えた後も、
艦娘たちの輪の中からそっと抜け出し、
何かと気を払ってくれている。
取り越し苦労だろうとは思いつつも、提督はそのことが、どうにも気になる。
やっていることが、以前とたいして変化がないような…。
「今日は平戸のためのお祝いなんだから。俺の都合を気にせず、好きなようにあれこれ
楽しんでいいんだぞ?」
「いえ。立場上はまだ執務室の職員ですから。こういった部分は、しっかりとしなければ。」
提督も薄々気付いていた通り、平戸の律儀なところは根っからの性分で、
艦娘の持つ”迷い”から解き放たれた今でも、変わってはいないようだ。
提督を含め、周囲の皆をひきつけてやまない、
平戸が本来持つ魅力のひとつといえるのだろう。
いずれにせよ、
平戸が自らの進むべき道をしっかりと見据えての事ならば大歓迎だ。
まあ、いきなり性格がガラッと変わって、HIP HOP的な口調で会話を始められたりしても、
それはそれで慣れるのに苦労しそうではある。
やがて日も傾き始め、外の空気が涼しくなってくると、
鮮やかな橙色と濃紺のグラデーションに彩られた空を背景に、
屋外の縁日の裸電球に明かりが灯り始める。
提督は人と会う約束があるので、
祝賀会のメイン会場となっている食堂のホールから外に出て、
待ち合わせの場所を目指す。
待ち合わせの相手というのは、
提督と懇意にしている無精髭を生やした提督と、その秘書艦の羽黒である。
祝賀会開催の話を聞いた無精髭は、
自身の鎮守府の艦娘たちを伴い、
開催日とその翌日の、鎮守府周辺の海域の警備の肩代わりを
自ら買って出てくれたのだ。
そのおかげで、
この鎮守府に所属している艦娘や職員たちはほとんど欠けることなく、
祝いの席を楽しむことが出来ている。
無精髭の提督と秘書艦の羽黒は、現在、警備の仕事の最中で、
夜間警備への切り替えを
これまでの経過の報告と合わせ、祭りの様子を確かめに
いったん陸地へあがってくる予定だ。
提督は会が始まる前に、無精髭の提督と軽く挨拶をかわし、
その際に、今回世話になる御礼も、ひとこと、済ませてあるのだが、
それを聞いた無精髭
「こういう助太刀は別腹みたいなもんだからなぁ。関われるだけで気持ちがいいもんだ。
むしろ、おかわりしたいくらいだから気にすンな、気にすンな。」
だそうだ。
「枯れ木騒動」の折、
この鎮守府への強襲を試みた深海棲艦遊撃部隊を撃退した隊列に、
この男の配下の艦娘も加わっていたと聞く。
一連の事態の解決後、
撃退された敵艦隊に輸送船が含まれていたと知った時は、
提督は、さすがに背筋が寒くなる思いがした。
そのこともあわせ、平戸も一言お礼が言いたいそうなので、
二人は共に屋外へと出て、歩みを進めていた。
「鎮守府所属の可愛い艦娘を誘拐しようなんぞという不届きもんは、うちの羽黒たちが
バシィッと、しばき倒してくれたからなぁ。なかなか爽快な気分を味わわせてもらったぜ。」
平戸が「枯れ木騒動」で迷惑をかけた謝罪と、今回の海域警備の助力への感謝を述べ、
頭を下げるのを目にすると、
事も無げに、サムズアップのジェスチャーなどをしてみせ、
平戸に向かってウィンクしつつ、そう言い放つ。
「”しばき倒した”、だなんて…。せめて、”お仕置き”くらいに言ってくださいよ。もう…。」
顔を赤らめ、うつむき加減に苦言を呈する羽黒。
そのあと、両膝を抱え込むように屈んで目線を合わせ、平戸に話しかける。
「私、肝心な時には何もできませんでしたけど…。今日のこの鎮守府の安全は、
私たちに守らせてください。」
事件を思い返すように、平戸も答える。
「とても危ないところを、助けられたのですね。私が今ここで、こうしていられるのも…。
そのうえ、こんなに配慮までしていただいて。皆もとても楽しそうですし…。
私も、目いっぱい、楽しみますからっ!改めて、よろしくお願いいたします、羽黒さん、
髭の提督さん。」
無精髭はその言葉を聞き、
腰に手を当て、愉快そうに大笑いをした。
「前向きで
の秘書艦だよなぁ。おっと。こいつぁ、ちいとばかり余計なお世話だったか…。」
申し訳なさそうに目を逸らし、自分の後頭部を手で掻く無精髭。
恐らく、平戸の律儀さを見抜き、
平戸の目の前で平戸の持つ長所を関連付けて彼女の提督を冗談の種にするような
発言は控えたのだろう。
頑張っている平戸が提督に対して悪い事をしているかのように感じさせてしまう。
豪快そうでいて、見かけによらず結構細かいところまで気が利く、
独特な個性を持つ人物なのだ。
言われた側の提督個人としては、平戸もそこまで気にしないのでは、とも感じるし、
平戸の場合はそもそも秘書艦ではないのだが。
実務にも影響はなさそうだし、なんだか話がややこしくなりそうなので、
その場はそのまま説明せずにおいた提督である。
そんな無精髭の様子を見守る羽黒の方は、
なんとなく頬が緩みがちである。
彼女は無精髭の提督の、こういった心根の優しい部分に
惚れ込んだらしい。
左手の薬指にはまる指輪が、その証というわけだ。
…これが噂に聞く、リア充というやつか。若いって、いいよねっ。
この鎮守府の艦娘の指揮設備の扱いについて、
何らかの齟齬が生じてしまっていないか、お互いに確認しあった後。
祭りを離れ警備の場へと戻る、無精髭と羽黒を見送った、
平戸とその提督である。
-後編へつづく-