【インフォメーション】
※今回投稿文(17-3.)への変更※
(2022-09-10)
・如月さんの挙動の説明で、
違和感の感じられた部分をさらに修正。
(2022-08-12)
・気になった箇所を微調整。
(2022-07-21)
・「懐」を「足元の紙袋」に訂正。
「懐」だと、さすがに四次元ポ○ットになってしまいますね…。
・如月さんの挙動の説明で、
違和感の感じられた部分を修正。
(2022-07-05)
・さらに微調整。
(2022-07-04)
・気になった箇所を微調整。
お面屋、射的、金魚すくい、千本引き、型抜き、スマートボール、ヨーヨー、輪投げ…。
食品関係では、綿あめ、タコ焼き、フランクフルト、かき氷、チョコバナナ、焼きそばなど。
運動場に組み上げられた縁日の屋台は、代表的なものが一通りそろっており、
そのどれもが本格的だ。
提督は、運営資金からだいぶ奮発したし、
子供会の縁日によくあるようなクーポン制で、際限なく利用できるわけではないが、
夕張をはじめとする開発の面々が、相当、力を入れたらしい。
すっかり日も落ち、裸電球の明かりが屋台に並べられた品々を、浮き出させるように
鮮やかに彩っている。見事な臨場感だ。
「綺麗ですね…。キラキラと輝いて、まるで宝石のよう。」
うっとりとした表情でそう言う平戸の姿も、淡い陰影が際立ち、
体の輪郭と顔にかけた眼鏡を黄みがかった光の反射がくっきりと浮かび上がらせ、
まるで絵にかいたような光景である。
これは、祝賀会打ち上げの内容にかなり色を付けてやらねば…などと提督が考えながら。
平戸と並んで、甘い香りや、食べ物の焼ける香ばしい匂いと音の満ちる、
屋台の並んだ通りの賑やかさの中を歩いていると。
通りの向こうで、菜園の職員らしき初老の女性と親しげに話しこむ
あかつき?と対馬の姿が見えた。知り合いなのだろうか。
やがて、話が終わったのか、あかつき?と対馬はおばちゃんにお辞儀をすると、
笑顔のおばちゃんに手を振られ見送られながら、
通りを提督たちの方へ向かって歩いてくる。
無意識下で、対馬の保護者的な感覚もあるようだから、自分から言い出したのだろう。
あかつき?は、対馬の分の金魚やら、おかずの乗った紙皿やらまで持ってあげていて、
両手がふさがっているため
隣を歩く対馬に、鰹節とソースのたっぷりかかったタコ焼きを食べさせてもらっている。
その様子は、
かえって、対馬があかつき?を餌付けしている様に見えなくもない。
「ん~、おいひい。はへ?て-とく。ひらほちゃん。」
幸せそうに口をもぐもぐとさせながら、あかつき?が声をかけてきた。
開発の職員の手作りなのに、随分と本格的なつくりのタコ焼きだ。
「お、楽しんでるな。やっぱり、縁日といったらこの感じだよなあ。」
提督の頭の中に、
懐かしく思い起こされた。
「……。」
物静かな対馬の方は表情を変えないまま、
軽く頭を下げて挨拶したあと、
周囲の屋台を見渡す提督の顔を、じっと見上げてくる。
頬の血色がよいので、けっこう、気分が高揚しているようだ。
少し恥ずかしげな表情に見えなくもないが、
普段と違う格好をしているからということもあるのだろう。
対馬の浴衣は、藍地に、水色と赤の花、葉の緑の朝顔柄、
ピンク色の帯を締め、
あかつき?の浴衣は、ピンク地に橙色のクマのぬいぐるみの柄で、
黄色い帯を締めている。
あかつき?が手からぶら下げている透明なビニール巾着の中で、
二匹の赤い金魚が元気に泳いでいた。
「かわいい。飼うんですか?」
「近くの川に放してあげようと思って。なんせ、”金魚救い”って言うくらいだから?」
ドヤ顔で言い放つあかつき?に対して。
平戸は、袋の表面をやさしく人差し指でつついて金魚の反応を楽しみながら。
「金魚は品種改良されていて、自然界では生きていけないみたいですから。
誰かが面倒をみてあげないといけないみたいですよ?」
「そうなんだ…。んー。それじゃあ今度、金魚鉢とかショッピングモールで
買ってこないとだね。」
対馬も、その話に乗ってくる。
「あと、水草も…。大切に育てれば、根付いて水族館みたいになるかも…。」
「今度、一緒に買いに行きましょう!私に
お礼もしたいですし…。」
「お礼とか、水臭いこと言わなくてもいいってば。あたしたちが、平戸ちゃんを助けたくて
やったことだから。」
「…無事でよかった。」
二人の首を両腕でかかえこみ、抱きつく平戸。
「わわっ、いきなりどうしたの平戸ちゃん。」
「ソース、付いちゃう。」
どのような物事に対してもそうであるように、今回も表情が全く変わらないまま、
タコ焼きののった経木を頭の上に掲げる対馬。
「ありがとうございます…。あの時、とても怖くて。でも。たくさんの声が聞こえて、
はげまされて…。私、ここでみんなに会えて、本当に良かった…。」
おっちょこちょいを自認しており、普段、こういった直球の感謝のされ方に
慣れていないあかつき?は、顔を赤くして戸惑い気味だ。
「なんか、恥ずかしいね…。この感じ。心の中がムズムズして。」
「平戸ちゃん感動しすぎ…?」
そう言いつつも、
平戸の気持ちが収まるまでつきあってくれた、あかつき?と対馬である。
「…気付いておられますかな?ご主人様。そして、平戸殿。」
提督たちへ手を振りながら、まだ見ていない屋台へと向かった、
対馬とあかつき?の二人の後を追うように、ゆらりと。
コンデジを片手に、
物事の道理を見抜いているような顔つきで話しかけてきた。
空色に市松模様を染め抜いたシンプルなデザインの浴衣を着用し、
くすんだ赤の帯を締め、
おでこには、古風な狐のお面を組紐で
パステル系のはなやかな青を渋めの和色が引き締めており、なかなか趣味がいい。
だが、その後に続く言葉が
「如月氏が、この催しの正装をしきりに浴衣にこだわった理由。フフフ…。」
如月の名が出た時点で何となく話の帰結する先が見えていたが、
提督は先を促してみる。
「今でこそ、立派な
風呂場で着用するための下着の一種。そして。下着の下に、当たり前のように下着を
着用するなど、明らかに辻褄のあっていない行為なのですよっ…!」
何を言わんとしているのか察した平戸の表情が、
思考の着地点を見失ったかのように脱力する。
「如月氏は”わかっておられる”御仁ゆえ、ひとことたりとも、それを促すような言動は
されませぬが。ここにいる艦娘たちの中には、確かに”存在する”のですぞ!
普段の制服と同じように浴衣を着こなす艦娘たちの中、胸の高鳴りを押さえてひっそりと
恥じらいつつ、 ”薄布一枚” で、この場を楽しむ艦娘がっ! この漣の鑑識眼にかかれば、
それを見抜くなど
向こうがその気ならしめたもの。ベストショットを狙いつつ、あわよくば。このお祭り四点
セットの着用を…グヘヘ。」
漣が足元の紙袋の中をまさぐり
「 通報 。」
「あ…、
冗談ですとも。」
漣の背後に、鳩羽色にネイビーの千鳥模様が斜めに入る浴衣を身に着け、
黄色い帯を締めた陽炎の姿が仁王立ちになり。
「このカメラは没収ね。中身ももちろん、即消去。」
「御無体なぁ~。」
陽炎に
涙目の漣であった。
まあ、もともと漣はこの催しの撮影係なので、
これも、恒例のパフォーマンスだろう…と思いたい。
如月の
あいかわらずの我が道を行くせわしなさで、
平戸も、話しかけるタイミングがつかめなかったようだ。
平戸の様子が、少し変だ。
漣の話を耳にしてから、しきりに浴衣の着崩れを気にするようになった。
しかも、
平戸はきょろきょろと、先程からさかんに周囲を見回している。
誰かの姿を探している感じだ。
「敷浪さん!」
目的の相手を見つけられたようで、平戸は相手のそばへと駆け寄る。
その先には、ベンチに腰掛ける如月とそのそばに立つ敷波の姿があった。
敷波の浴衣は、
焦げ茶色に、ススキの染め抜き。
橙色の帯を締めている。
「あ、平戸。」
声をかけられた敷浪は、
平戸に向かってやわらかくほほ笑みかけると、向こうからも歩み寄ってくる。
普段落ち着いていて、物事に対してさばさばとした気質の敷浪には珍しい。
平戸の復帰を祝うこの場で平戸に声をかけられることが、よほど嬉しいらしい。
あとに残された如月は、にこやかに。
敷浪の後ろ姿を目で追いながらも、少し寂しげだ。
縁日の明かりを背景に、
すらりと背の高い敷波と小柄な平戸の二人のシルエットが向き合う。
「本当、ここまでよく頑張ってきたね、平戸。あたしにもわかるよ?平戸が”迷い”から
抜け出せたことが。あたしにとって、こんなに嬉しく感じることはないんだから。何だか
もう、すっかり、置いてきぼりを食らった気がするくらい…。」
自分を超えてその先へ歩みを進めていく、
教え子の背中を見守る恩師の様な心持ちなのだろう。
「置いてきぼりだなんて…。私なんて、皆から与えられてばっかりで、自分の力で今の
自分を見つけ出せた訳じゃないですし。まだまだ、自分の事すらはっきりとはわかって
いませんから。これからも私の知らないことをいろいろ教えてください、敷浪さん。」
今の二人の間に割り込むのもはばかられたので、
提督はベンチに座る如月のそばへと歩み寄る。
「良いものだな…。」
「ええ。とても、似合いの二人だと思いますよ?こっちが
如月のトレードマークともいえる
裸電球のあかりを反射して、きらりと光る。
話しながらベンチの方へと歩いてくる二人を迎える、提督と如月であった。
提督は体がでかく、かさばるので、無礼講であることを口実に席を譲り、
如月と平戸の二人がベンチに腰掛ける。
敷波は何か口にするものをと、
平戸が声をかける間もなく率先して仕入れに行っている。
「浴衣、似合ってるわよ平戸ちゃん。かわいい。」
「あ、ありがとうございます…。如月さんも、とても大人っぽくて素敵です。」
如月の浴衣は梅の柄を染め抜いた、わさび色、
ベージュの帯。
全体的に落ち着いた感じにまとめられていた。
人間と艦娘の往来でにぎわう縁日の光景に目を
如月は言葉を続ける。
「浴衣ってね、江戸時代の初め頃、盆踊りと一緒に広まったのよ。服装のコーディネートに
気合を入れて、綺麗におめかしした二人が、踊りの場で相手を
素敵でしょ?」
ちょうどそこで、食べ物を手に敷浪が戻ってきたので、
皆で礼を言って受け取る。
平戸と如月の二人は焼き立てのフランクフルトを、提督は経木に乗ったタコ焼きを、
敷波はレジ袋の中の焼きそばのパックを選んで、さっそく口にした。
見た目だけでなく無茶苦茶旨いな。このタコ焼き。作り方をご教授願いたいくらいだ。
タコ焼きの味わいに深みを与えている鰹のうまみと、
外はカリッと中はフワッと感を楽しみつつも。
如月の、浴衣に関する雑学披露を耳にした直後であるからか、
提督の頭の中にはどうしても、こんなことが思い浮かんでしまう。
…先程聞いた ”如月の思惑” についての話が、漣の単なる思い込みによるもの
ではないとすれば。
満足感の獲得法が、心の中に秘められた恋愛感情の観察という
やけに手の込んだ上級者向けであるだけでなく、
ラブコメ的ハプニングを誘発させるという、騙し討ちっぽさもそこに含まれているのだ。
騙し討ちが悪いこととは言わないが、そのせいで本来グレーゾーンに位置づけられる
物事まで真っ黒に感じられてしまう。
如月のする事だから、生じた物事に対するフォローまで考えてであろうが。
この分だと、縁日の構想も、如月が事前に開発に根回しをしていた可能性も…。
はは…。
確定するのは尚早だ。
如月だって、真摯に、お祭り気分を演出したいだけかもしれないじゃないか。
そんな提督の心の中のもやもやを余所に、
穏やかな満足の表情を顔に浮かべ、如月がそれとなく呟いた。
「縁日。皆、楽しんでくれているみたいで何よりですね。企画案の周知用の写しに
縁日の項目を加えておいて、やっぱり、正解だったかな…。」
図星じゃねーかっ…。
思わず頭の中で、口を挟む提督。
立ち食いをしている提督の横で
食べかけのフランクフルトを手に、ベンチに腰を下ろしている平戸も、
一瞬、体の動きがピタッと止まり、固まったところを見ると、
そのあたりの事を理解したようだ。
ベンチには座らず道路のそばに立って
焼きそばを口にしながら縁日の光景を楽しんでいた敷波が、
後ろを振り返って、心底感心したように言う。
「あんたがきっかけにしては、今回のは随分、素直ですっきりとした仕上がりじゃない?」
「あー、どういう意味かしら?それ。そんなんじゃあ、まるで私が ”よこしまな” アイデア
の塊みたいじゃない。傷つくなぁー、もう。ぷんぷん。」
しれっと、自分で認めてみせる如月である。
ベンチから立ち上がって敷波に詰め寄り、ぐいぐいツッコミを入れる如月に、
不器用な言葉遣いでなだめながら苦笑いをする敷浪。
あらかじめ漣の話を耳に入れておかないと、
全体像を把握することは、まず無理だろうが…。
いやいや、敷浪さん。
結果はどうあれ、
発端となる動機自体は結構、不純ですから。これ。
場の空気がなじんで、しばらくたった頃。
前方の少し離れたところに立ち、提督と会話する敷波に目を向けたまま、
如月は、半ば上の空のように口を開く。
「…平戸ちゃん?」
呼びかけられた言葉の、考え抜かれた淀みのなさから察するに、
隣に腰を下ろしている如月は平戸に対して、何か改まった話があるようだ。
そのまましばらく間があいたが、無理に話をせかさず、
平戸は、黙って相手の顔を見たまま話の続きを待つ。
続く言葉は、簡潔で、短いものであった。
「今回の事でよくわかったのよ。私、頑張るから…。平戸ちゃんを頼らなくても、自分だけ
で何とかできるよう、努力するから。」 (注1)
それだけでは何のことを指す言葉なのか、平戸にはいまいちはっきりとは
わからなかったが、
如月が、自分自身を納得させるために行っている会話だと判断し、
平戸はむやみに詮索しようとはしない。
「そうですか…。私が如月さんの何かのお役に立てるのでしたら、それはとても嬉しい
ことですけど…。いつでもお気遣いなさらずに…。頑張ってくださいっ!」
平戸の、その返答を聞くや否や。
如月は打って変わって、生き生きとした積極的な表情になり。
「うんっ!私、頑張るからっ!」
いきなり、こちらへと顔を向け、ズイッと近づけられた如月の瞳に、
瞳の中に映る自分への好戦的な炎が燃え盛っているのを確認し。
汗を一筋流しつつ、
返答のしかたを少し誤ったかな…、と感じた平戸であった。
敷波たちと別れた後、
お腹も満たされたので、少し体を休めたくなり。
平戸と提督の二人は祭りの会場を離れ、道路脇の自販機で購入した飲み物を手に、
船揚げ場のそばにある静かな松林のベンチまで、
取り留めもない世間話をしながらぶらぶらと足を延ばした。
街灯に照らされる夜道の、涼しく、穏やかな潮風が肌に心地いい。
あの松林の思い出のベンチは、「枯れ木騒動」の大混乱の真っただ中に位置していたので
さすがに望み薄だろうと思っていたところ、
事態の終息後、地面に空いた大穴の埋め戻しの作業中、
すぐそばの雑木林の中まで、ほとんど無傷ですっ飛んでいたのが見つかり、
今は、元通りの位置に安置されている。
この鎮守府が徹底した倹約指向でなかったならば、
恐らく、提督の耳に入る前にさっさと処分されていたであろうから、
ひっ迫した財政事情が良い方向に働いたと言えるだろう。
その時は何だか、妙な喜び方になってしまった提督である。
ベンチに腰を下ろしながら、
目の前に佇む平戸に向かって提督は言う。
「そうか…いなづまが、力をかしてくれたのか。」
「はい…。あのひとの呼びかけが無かったら、今頃私は…。」
そう言いながら、
平戸は提督の隣に腰を下ろす。
道中の会話で平戸の口から、
いなづまの事について耳にした時。
いなづまが、自身の目的を果たせていたと、提督がはっきりと確認できたのは
これが初めてであったので、提督は大きな安堵感を感じはしたが、
これで提督としての使命を果たし終えた、という感覚までは感じられなかった。
いなづまに示してもらった、艦娘たちのために力の及ぶ限り尽力するという、
今を生きる目的があったからでもあるだろうし、
それだけ、提督がいなづまを信じる気持ちが強かったということもあるのだろう。
「また…、あいつに助けられたな…。」
いなづまに対しては、いくら感謝してもしきれない提督である。
「わかっています。あのひとのことは、他の皆には話しません。あのひとも、それを
望んではいないようでしたから。…提督と、私だけの秘密ですね。」
平戸は隣に座る提督を見上げ、少しはにかむようにほほ笑む。
いなづまが、自分という存在が艦娘たちの生きる目的の
望んでいないことは、
たとえほんのひとときであっても、
直接、意識を共有できた平戸は十分に理解できていた。
そこまで話したところで、
会話の内容が「枯れ木騒動」関連ということもあり、
なんとなく、言い出しやすくなったのだろう。
平戸は提督に伺いを立てるように、ある一つの提案を、そっと切り出す。
「私、提督からも、たくさんのものをいただきました。ですから、あの…、
これからも時々、お夕食の準備をさせていただいても、よろしいでしょうか…?」
もう、以前のように、
悪夢に悩まされて睡眠を恐れての事でも、
艦娘の持つ“迷い”によって、望まぬ選択を強要されての事でもない。
自らの欲求を模索することにより導き出された、
結果の一つであろう。
もちろん、提督は快諾した。
ド、ォー…ン…。
体の奥底まで震わせる破裂音と共に、鮮やかな光が夜の帳を彩る。
「花火、ですね。」
「ああ、そういえば。もうそんな時刻か…。」
無精髭の提督率いる艦娘たちが海上警備の合間に、
「開発」が用意した、
”忌雷型ワンタッチ打ち上げ花火” の海上への設置も引き受けてくれていた。
そのおかげで、夕張たちは縁日の演出に専念できているという訳だ。
なかなか、粋な計らいである。
しかし…。普段、何を”開発”しているんだ。うちの「開発」は。
?!四尺玉、…だと?
「大きい…!綺麗ですね…。」
祭りが最高潮を迎える中、次々と打ちあがる花火を見上げる平戸の笑顔も、
夜空に光が瞬くたびに、松林の薄闇の中に浮かび上がる。
目の前に海の開けたこの場所は、図らずも絶好のロケーションだ。
しばしの間、
花火の美しさに見とれた提督と平戸の二人であった。
そこで話をやめておけば、”良い話”で終わったのだが。
提督が、余計な事を平戸に尋ねたのがいけなかった。
「秘密といえば…。もしひとつだけ選ぶとしたら、平戸のやりたいことって
どんなことなんだ?」
しばらくの間、きょとんとした顔をしていた平戸は、
提督に向かって抗議する。
目の端に、涙さえ浮かべていた。
「提督には、デリカシーというものが無いんですかっ!」
「いや、すまん。無理に聞き出そうという気はなくてだな…。」
なんでそんなに恥ずかしがるのか、いまいちよく分からず、
平謝りの提督である。
以前、同様の質問を投げかけた時は、落ち着いて答えを返してくれたのに、
今までには無かった反応だ。
自身の欲求を、より明確に把握できるようになった反動かなにかだろうか。
「年頃の女性に対してはもう少し、そのあたりへの配慮というものを…。と、特に ”下着”
に関する質問は厳禁ですから。いいですかっ?」 (注2)
下着?…俺、女の子の下着について何か質問しただろうか。
「提督?」
「…はい。」
夏の空にかかる天の川を、光と音で飾る花火の演出が続き、
ベンチに座る二人の、にぎやかな会話もそれに加わる中、
船揚げ場の夜は、いちだんと
祝賀会明け以降、平戸は事務関係の仕事をはなれて海上警備へと立ち戻り、
以前と比べると、あまり執務室で見かけることがなくなったのは、提督としては
少し寂しいところであったが、
その分、初風が秘書艦の仕事を頑張ってくれている。
初風
駆逐艦なのだから、
確かに海防艦より大きくあってしかるべきではある。いろいろと。
あ、いや初風。この独り言はそういう意味では…確認書類増やすのやめてぇ~っ?!
大規模作戦の後、
作戦全体としては、上々の結果だったことを受けて
これまでも、ちらほらと噂が立っていた通り、
深海棲艦への攻勢を畳み掛けるべく、二次作戦の日時がすぐそこまで差し迫っていた。
提督は、派遣する艦隊の編成作業や、
艦娘たちの意見を聞き、それに応じた装備の手配にかかりきりになり、
艦娘たちや、鎮守府の職員たちも、自らの選んだ役割を果たそうと、
鎮守府は、緊張感を伴う活気で満たされる。
そして、二次作戦当日。
当該海域。
戦況を分析しながら、敷浪が呟く。
「砲撃の量も結構なものだけど…。水中が厄介ね。水上の進路に集中できない。」
すると。
船速を上げつつ、隊列から少し前方へと
進み出た平戸が言う。
「私が先行して周辺に爆雷を撒き、船団の進行ルートを確保します。援護を。」
「…平戸ちゃん?」
如月が、敵軽巡と忙しく交戦しつつ、
意識を共有して、いぶかしむように尋ねると。
平戸は、前方をしっかりと見据えながらそれに答えた。
「大丈夫です!私は、もう大丈夫!」
平戸は如月たちの心配を
顔に笑顔を浮かべた後、言葉を続ける。
「皆だけを生かそうとしたりはしません。私も、皆と一緒に
やりたいことがあるから!」
「…そう。」
如月が、そして二人の様子をうかがっていた敷浪たちも。
交戦しつつ、安心したように微笑む。
旗艦の敷浪が、威勢のいい掛け声を上げた。
「さあて。もうひと暴れ、してやりますか!」
「「「「「はいっ!」」」」」
艦娘たちの重なり合う声が、
それに込められた思いを受け取る、新たな者を探し求め、そこへ届かんとするかのように、
広い海原をどこまでも。遠く、深く、響き渡っていった。
某日。年の暮れ。
首都近郊の、とある場末の酒場にて。
「なあ、もし仮に、だ。俺がいなくなったら、いなづまは、あいつらはどうなる。」
「気になるのか。」
また、いつものにやにや笑いである。
提督は、相手をするのも
「どうなるも何も、普段通りだろうな。何も変わらんよ。今では世界中に散らばる、
多くの艦娘たちの海上での深海棲艦への干渉によって、海底の怨嗟から新たに自然発生
する艦娘たちの中のお前に対する好意は、本来の形である、人類全体への好意へとすでに
推移しつつある。艦娘と深海棲艦の意識は、根幹部分で、常に同期し続ける性質を持って
いる。恐らく。お前の鎮守府に所属している艦娘たちの、お前への認識も、感覚としては、
通常の人と人との関わりの域を出ることはないだろうな。」
一拍置いて、
女科学者はグラスを口にしてから聞いてくる。
「残念か?」
「
正直なところ、提督はかえって安堵していた。
あいつらはもう、一人一人別々の、個としての存在だ。
俺という存在に、いつまでも縛られ続けるべきではない。
そう思うと妙に物悲しいような、うれしいような。
一風変わった感覚にとらわれてくる。
「娘を嫁にやる父親の感覚ってのは、こんな感じなんだろうな。」
そんな
聞いていた相手は、心底あっけにとられたような表情を見せた後、
極上の冗談を聞いた時のように大笑いを始めた。
「これは…傑作だ。何を似合わないことを!」
「似合わなくて悪かったな…。」
憤慨したようにそうつぶやく提督であったが。
背中を丸めてカウンターに突っ伏し、体を震わせて息も絶え絶えに笑い続ける
古馴染みの初老の女の隣で、
氷の解けかかったウイスキーのグラスを傾けつつ。
なんとなく。
“してやったり” という気持ちになる提督であった。
近未来。
突如として出現した異形の艦船群によって、人類は制海権を喪失。窮地に立たされた。
海上、そして空路の通商ルートを分断され、孤立したかに思われた各国は、
「艦娘」と呼称される新技術でこれに対抗。
拮抗した武力は、戦況の膠着状態を生み出して久しい。
人を拒絶する「深海棲艦」、
そして、心揺らぎながらも人と共にあろうとする「艦娘」。
両者は呼応し、混ざり合いながら、
人間との距離を測り続ける。
人類、そして艦娘の
共に歩む旅路が、その内に秘める可能性は…未知数である。
【 おわり 】
拙い文章を最後までお読み頂き
ありがとうございました。
至らぬ点も、多々あったかと思いますが
この場をお借りして、原作者様と読者様に感謝を。