【インフォメーション】(2022-09-11)
目次ページの付録の部分は投稿順に並んでいます。
読む順番には並んでいませんので、ご注意ください。
この回は、時系列的には
07-2.「あかつき?の大冒険 後編」の直後(正確には03.「シャワー」のあと)
のお話になりますが、内容に直接的なつながりはありません。
この二次創作中の初風さんが平戸ちゃんに、
あるいは平戸ちゃんが初風さんに
説明不足に感じたので、その部分を少し明確化してみました。
(それに伴い、01-2.と15-3.の該当箇所の調整も行いました。)
※今回投稿文(07-補1.(前編))への変更※
(2023-05-04)
・雑に感じる部分がありましたので、全体的に改稿しました。
「如月さーん。渡されたこれ、電池が入ってないんですけどー。」
とある場所で。
メイド服を身に着けた一人の艦娘が如月の姿を求め
ふと横を見ると、テーブルの上に書き置きの付された小箱が見つかった。
手書きではなく、プリンターからの出力だ。
差出人も、”これ”が指し示す対象もはっきりとしない書き置きであったが、
メイド服の艦娘は疑いもせず、素直に小箱の中身を取り出す。
それが、これから起きる惨劇の発端とも知らずに…。
「ねぇー、ねぇー。ゆーきゅーって、なんか甘美な響きと思わない?」
食堂で夕食を
自販機で購入してきた200mlパックのオレンジジュースをチューチューとストローで
吸いながら初風がそんなことを言い出した。
「ゆ―きゅー?有給休暇のことですか?」
お茶の葉を入れ替えるため、席を立ちながら返答する平戸の頭の中では、
早くも申請に必要な書類のリストが羅列された。
「許可が下りるわけがないでしょう?ただでさえ運営経費がかつかつで人手が足りない
んですから。」
初風の言葉を聞いたテーブルの向かいの如月が呆れたように言う。
如月の隣の席の敷浪はまだ食事中だ。必要に迫られれば素早く済ませられるのだが、
基本的に、食事はじっくりと味わいよく噛んで食べる性分なのだ。
初風が未練がましくポツリと言う。
「平戸ちゃんに頼んで、提督に直接お願いしてもらおっかな…。」
それを小耳に挟んだ周囲の皆はげんなりとする。
公私混同じみた発想だけでも、十分たるみすぎなのに、
恥を忍んで自分から、という部分まで他人任せとあっては
まさに筋金入りであった。
「提督が承諾しても、他の管理職の人たちから苦情が殺到ですよ?専制君主制じゃない
んだし、あなた、まがりなりにも秘書艦なんですから。有給申請してすんなり通るのは、
うちの鎮守府でたぶん平戸ちゃんくらいじゃないかしら。」
艦娘たちでにぎわう食堂の向こうのカウンターで、
盛り付け係の職員と会話する平戸に目を向け、頬に手を当てて
如月が考え込むように言う。
平戸は誰かがブレーキをかけないと、他の人の仕事まで
さっさとこなしてしまうからである。
「さすがに冗談だってば。あたしだって私用で提督に泣きつくほどガキンチョじゃないし?」
「…冗談に聞こえないところが問題なのよ。初風ちゃんの場合は。」
「あー、ひどーい。如月さんってあたしの事そんな風に思ってたんだぁ~。」
「その気がないなら余計なお世話かもしれないけれど。初風ちゃんに休まれるとみんな
困ってしまうんですから。頭の中で考えるだけにしておいた方が身の為だと思うわよ?」
にこにこ顔の如月にじっと視線を注がれながら、穏やかな口調で
如月からは何やら
すぐ隣りで竜田揚げのタルタルソースがけを噛みしめる、
この話とは全く無関係な敷浪の頬にまで汗が一筋流れ落ちたほどだ。
「は…はーい。」
あわよくば、という思惑を見透かされ観念したのか、
姿勢を正して素直に頷く初風であった。
如月はそのまま言葉を続ける。
「でも。まあ、休日は高望みかもしれないけど…。」
そこでいったん思わせ振りに言葉を切ったあと。
「近いうちに、気晴らしになるような何かが起こるかもしれないわね。」
たぶん、碌でもないことだろう。
こんな会話が始まったそもそもの事の起こりは
初風が事務室で、平戸との仕事の打ち合わせの最中ポツリと
ハイキングに行きたいと愚痴ったことにある。
周囲で耳にした職員の皆も心の中では同じ気分だったらしい。
平戸の所属する鎮守府周辺は、
「マミヤストア」に併設された大型ショッピングモールを除けば
娯楽施設と呼べるものなどほとんど存在しない片田舎なのだが、
自然環境だけならこれでもかというくらい豊かで、
草木の活気あふれるこの季節、遠出したくなるなと言う方が無理な話である。
とはいえ仕事柄、ローテーションで四苦八苦しながらやっとこさ仕事をこなせている状態だ。
職場のレクリエーションイベントでハイキングを企画など夢のまた夢。
うちの秘書艦は、また無茶な要望を…というのが大方の抱いた印象であった。
ならば。有給休暇を申請してごり押せば、という思考に初風は到ったわけだが、
マリー・アントワネットの「パンが無ければケーキを
そのままなぞっていることに気付いていないのが初風らしいといえば初風らしい。
それから数日後。
朗報は思わぬ方面からもたらされた。
「菜園」の奥地へと足を踏み入れたあかつき?、対馬の両名が
鎮守府本棟への帰還の道中、
菜園で働く職員の憩いの場と思われる
鎮守府の艦娘たちの間で広まり始めたのだ。
遠くから見ただけらしいが、なかなか具合のよさげな場所のようである。
本棟が建設される以前、この港の管理施設があった跡地に整えられたらしい。
「菜園」は管轄外であるが故、提督もその存在を知らなかったようだ。
これが朗報である理由は、目的地が近場に存在しているという点にある。
徒歩だと遠いが、自転車や原付を使えば昼休み中に行って帰ってこられないこともない。
休日の艦娘たちも協力して、気軽に参加できる疑似ピクニック環境を演出したのだ。
外部からの訪問者にあたるので本格的に活動を展開するのは
平日のお昼ならば、「菜園」で生活する職員の家族にもあまり影響はないだろう。
二十四時間ひっきりなしの仕事に従事していると、積極的に娯楽を開拓し、
柔軟に気持ちを切り替えて休める時に休まないとやっていられないのだ。
丘陵地帯の奥へ分け入るように続く、用水路に沿った農道をのんびり遡ると、
いつのまにやら用水路は小さな渓流へとつながり、
澄んだ水がさらさら流れ下る音と緑に満ち溢れた空間は、やがて沢を離れ、
ひらけた緩やかな登りへと転じていく。
行程が変化に富んでいるせいか、鎮守府の舗装された大通りを行き来するのとではだいぶ
印象が違う。吸い込む空気の質まで異なって感じられるのが実に不思議である。
「鎮守府にこんな所があったんですね…知りませんでした。」
坂道の頂上付近に見えてきた広場を見上げ、平戸はそう口にした。
正確には「菜園」に、なのだが。
管轄違いだが所在地的には「菜園」も鎮守府の一部なので、間違いではない。
そこが鎮守府の最高標高地点という訳ではないのだが、坂道の下から眺めると
白い雲が湧き立つ空との境界に位置しているように見えて
随分高くまで登ってきたような錯覚を覚える。
実行委員から教わった疑似ピクニックの会場までは、それなりに距離があった。
自転車を持っていない平戸は徒歩での往復になり、昼休みの終了時間に間に合いそうにな
いので、さてどうしたものかと迷っていたところ。
それは是非、参加してきなさいと、
夕張自慢のカスタムママチャリを半ば強引に押し付けられたので、手で引いてきている。
背の低い平戸は、サドルに腰掛けると足がなんとかペダルに届くくらいなので
こぐのに苦労しそうに思えたが、
帰路のほとんどが下り坂なので問題はなさそうである。
強度とか心配になってくるくらいフレームが肉抜きされているので、驚くほど軽い。
そこかしこに原動機らしきものと派手なマフラーが取り付けられているが、
本能がしきりに警鐘を鳴らすので、それらに手を触れる気はない。
普通に乗って帰るつもりだ。
広場の入口までたどり着いてみると想像していた以上に面積があり、
広場というよりも高原といった趣だ。
すでに到着していた職員や艦娘たちは
あたり一面の芝生の上にピクニックシートを広げて腰を下ろし
それぞれ思い思いの時間を過ごしていた。
昼休みということもあり、歓談しながら昼食をとっている姿が多い。
「おーい、平戸ちゃーん!やっほー。こっちこっちーっ。」
広場の入口に立ち、自転車を手で支えたまま風景を眺めていると、
遠くから声をかけられた。
広々とした芝の空間に一本だけポツンとネムの大木が植わっており、
青空にくっきりとシルエットを浮かび上がらせている。
その根本近くで初風が手を振っていた。
平戸は自転車に鍵をかけ、
やわらかな芝の上に足を踏み入れて歩み寄る。
「いやー、思った以上に早く要望が実現してびっくりだよ。普段の行いが良いと、
やっぱり違うわねー。」
ピクニックとハイキングは違うが、こういうことがやりたかったのだろう。
うきうきとはしゃぐ初風と一緒に、実行委員から手渡されたピクニックシートを
二人で広げ、芝生の上に腰を下ろした。
緩い下りになっている前方へ足をまっすぐ伸ばし、楽な姿勢をとりながら
平戸はすぐそばに植わっているネムノキを見上げる。
その場にしっかりと根を下ろしている感じがするので、
あとから移植されたのではなく、恐らく以前の施設に植わっていたものの転用だろう。
草原を海の方角へ向けてすがすがしい風が吹き抜け、
大木の枝葉をさらさらと揺らしていく。
開花の時期なので、
房毛のような形をした鮮やかなピンク色の花がそこかしこに踊っていた。
初風は秘書艦だ。
本人の仕事に対するやる気がどうあれ、本来ならばそうやすやすと
休暇を取ることはできない立場なのだが、
最近、どうにも調子がかんばしくなかった
この鎮守府が設立した当初から頑張ってくれていた温浴場のボイラーが、
とうとう完全にお亡くなりになったのだ。
度重なる応急処置も、限界に来ていたらしい。
ボイラーの入れ替え工事は、ほんの数日で完了するようなのだが、
それまでの間、温浴場を使用することはできない。
海上の警備活動で傷を負った艦娘の形態維持のために
最小限の設備は仮設で用意されたものの、
それ以外の通常の入浴用の分までは用意できず、
急遽、外部の入浴施設を、使用客の多い時間帯を避けて
貸し切らせてもらえることになったので、その下見兼、契約手続きの為、
これから鎮守府構外に出かける道中”ちょうど”通過するこの場所で休息を取る、
という名目で、時間を融通したのだ。
高台からの開放的な光景を楽しみながら世間話をしていると。
初風は伸び伸びとした気分になったのだろう。
マメ科の、特徴的な形をした落ち葉を地面から拾い上げ、
興味深そうに手でいじりながら、ふと思い浮かんだように口にする。
「好きな物事ってどうやって決まるんだろ。浮気っぽいからなぁ…。さすがにその辺
どうにかしなくちゃだけど、身持ちの固いあたしって想像つかないかも。男泣かせの
とんだ悪女だね、エヘヘ。」
親指と人差し指で落ち葉をつまんだまま、手のひらで左右の頬をおさえ、
あたし困っちゃうイヤンイヤン、と身をくねらせる初風。
…思考に飛躍がありすぎる気がする。
「好きな物事に関しては、読書の好みが決まる前にも乱読っていう時期があるそうですから。
気にすることないと思いますよ?色恋沙汰でそれは、さすがに洒落になりませんけど」
これは一般論だ。
そう言い切れる根拠が、自分の中には
平戸にはそれが十分わかっていた。
初風は思いつくままに話を続ける。
「嫌いなもんはいくらでも思いつくんだけど。運動とか、早寝早起きとか、衝突事故とか、
酢豚のパイナップルとか、衝突事故とか。」
「衝突は…嫌ですね。夜間とか霧の濃い日とか、とても緊張します。」
「秘書艦の役職っていろんな事柄に関わるけど、集中力が続いたことあまりないのよ。
あたしが好きになれる物事って何かあるのかなって…。あ、ここだけの話ね。」
もしかしたら初風ちゃんって…。
いや、考えるまでもない。
他の誰かを、私なんかと似たところがあるなんて、
思っていいわけがない。
話している二人の所へ歩み寄ってきた艦娘がいる。
「来た来た。待ってましたぁー。」
初風が待ちかねていたように万歳をした。
対馬だ。今日は休日のはずなので、イベントに協力しているのだろう。
シチュエーションが高原っぽいからだろうか。
大きなバスケットを手に持ち、コルセット型の胸当てが特徴的なスイスの民族衣装に
身を包んでいる。
支えるべき対象の方はぺったんこなので、胸当てとしての機能はあまり意味を成していない。
アルプスの少女ハ○ジ?お人形さんのようで可愛い。
平戸の視線が、平戸と向き合った自分の衣装に注がれているのに気付き、
対馬は現在の自分のいでたちに対して少し不満そうに言う。
「コスプレ衣装を押し付けられただけ。そんなことより…。」
バスケットを芝生の上におろして上蓋を開ける。
「お腹、すいてる?作ってみたから、よかったら食べて。海苔のついてる方が鮭。
ごまが昆布の佃煮。ランダムでわさび漬け。そんなに辛くないから大丈夫。」
付け合わせに沢庵の薄切り、
それと、タコさんウィンナーが添えられている。
「サンドイッチは、ハムとチーズとツナマヨの三種類。ピクルスを添えてお好きなの
からどうぞ。」
二人はいただきますを言った後、
勧められるままにバスケットの中から思い思いの食べ物を手に取った。
サンドイッチの薄切り食パンには、欠かさずきちんと粒マスタードも塗られている。
新鮮なレタスのシャキシャキとした触感が良いアクセントとなり、食欲を増進させる。
おにぎりはいずれも、崩れず一定の大きさにしっかりとまとまっていて、それなのに
米粒の間に適度に空気が含まれていて、一粒一粒にしっかりと存在感があった。
対馬も昼食がまだだったのか、お相伴でシートの上に腰を下ろし、
おにぎりをひとつ手にとって頬張っている。
あかつき?は当面、海上警備続きなので、
対馬と一緒にイベントへ参加できないのを残念がっていたが、
準備を手伝ってくれたようだ。
コスプレ衣装を用意したのは、どうやらあかつき?ではないらしい。
おべんとうの下ごしらえとか…まさに、家庭の台所を支える私の出番でしょ!
と張り切ってはいたものの、
実際は、タコさんウィンナーにフライパンで焼き目をつけただけ。
理由は言わずもがな、である。
結局たいした助けにはなれなかったあかつき?ではあるが。
対馬は準備の時の様子を、とても楽しげに平戸たちに話すので、
手伝いをしたあかつき?も十分報われたのではないだろうか。
「私がおにぎりを作ろうとしても、大きさが不揃いになってしまうか、かと思うと
力を込めすぎてお団子のように固くなってしまうんです。やっぱり私、手先があまり
器用ではないんですね…。私も対馬ちゃんのように、おいしいおにぎりを作ってみたい
です。コツとか、あるんですか?」
おにぎりの適度な塩加減と食感を堪能しつつ、料理の腕を褒める平戸。
そう聞かれた対馬は、しばらく自分の手のひらに目を落とし、
黙って見つめたあと、顔を上げて。
「器用さは…あまり、関係ないと思う。たぶん…慣れ?」
自分に対して問いかけるように首をかしげながら、そう答えた。
「あたしは、料理とかあまり興味ないかなぁ。」
平戸と対馬の話にいきなり割り込んでくる初風。
「あたしは食べるの専門。目の前にある食べ物を自分が我慢して他の人のために
用意する気持ちがいまいち、ピンとこないというか。」
対馬お手製のおにぎりをおいしそうにもぐもぐと頬張りながら
あっけらかんとそう言い切る初風。
初風ちゃん?!
思わず心の中で口を挟んでしまう平戸。
初風としては、先程までの個人的な好き嫌いの話の延長のつもりだろう。
他者の評価を行う意図は無い筈だ。
ただし、その会話をしたとき対馬がいなかったことを初風は失念している。
口はわざわいの元。
悪気が無いことはわかる。わかるのだが…。
初風の言葉が耳に入ったのか入らなかったのか。
これだけの近さで聞こえなかったということはまず、無いだろうが。
対馬は普段通りの、少し哀しげな表情のまま。
内心ひやひやとする平戸を
「初風ちゃん。ほっぺた。おべんと付いてる」
「ありゃ。ほんとだぁ、結構気がつかないもんだね、これ。へへ…ありがとう対馬ちゃん」
何事も無かったかのように教えてあげる対馬。
小さな体の対馬が、とても大人っぽく輝いて見えた瞬間であった。
「余はこの上なく満ち足りておるのじゃぞ。苦しゅうない」
「えーと。意訳すると、とてもおいしかったです。って言いたいみたいです。ごちそうさ
までした対馬ちゃん」
「お口に合ったのなら何より。お粗末さまでした…」
お腹もすっかり膨れて、食後の多幸感に身をゆだねながら。
そよ風に頬を撫でられつつ、ピクニックシートの上で仲良く並んで、
しばらくの間、ぼんやりとしていた三人だったが。
「えいっ!」
平戸は一人、奮起するように勢いよく立ち上がり、
くるりと振り返って二人に言う。
「名残惜しいですけど、私はそろそろ行かないと。」
「え…もうそんな時間?そういえば通常業務だもんね、平戸ちゃん。」
「お仕事、頑張って。」
「初風ちゃんと、対馬ちゃんもイベント楽しんでくださいね。」
「あたしにとってのメインイベントは、もう終わっちゃったけどね。あとは昼寝するだけ。」
「食べてすぐ寝たりすると、牛になりますよ初風ちゃん!」
平戸は初風を少しからかうような口調でそう言い残すと、
自転車をとめてある所まで一気に駆け下りて鍵を外し、サドルに腰掛ける。
大人用の自転車で、坂の上ということもあり、
高くから見下ろすような感じだが、心配するほどではない。
時間もまだ十分に余裕がある。
座席の位置が高く、足元に比較的風をはらみにくいので、無理に速度を上げたりしなけれ
ば服装の方も問題ないだろう。
車輪が数回転するごとに、カタン、カタンと小さな物音がするのを少し不安に感じながら、
平戸は本棟への帰路についた。
-後編へつづく-