【 過 去 : 世 界 】
そして俺は再び、新築の建物の中の白衣の女の下へと
「階下へ降りるぞ。」
そう言われて俺は、通りかかったエレベーターの扉のそばで立ち止まる。
「悪いな。そこの階段と乗用エレベーターは”
女はリーダーに端末をかざし
階段を下りながら女は、これから向かう場所についての説明を口にする。
「我々担当技術者でも、あそこへは
システムの立ち上げの過程にあってな、軌道に乗れば「計測室」からの有線での調整が基本だ。」
何層も下った先で、部屋の壁に設置されている鋼鉄製の大きな扉にぶち当たった。
その場に立ち止まり、一言一言、はっきりと確認するように聞かれる。
「ここから先はいわゆる「封印庫」の領域になる。進めばいろいろな意味で、もう後戻りは
出来ない。」
俺は知らず知らずのうちに
「進むか?」
ここまで来て引き返すわけにもいくまい。言わずもがな、だ。
ゆっくりと
女が手に持った端末を操作すると、
俺の目の前で、警告音と共に扉を構成する3枚重ねの分厚い鋼鉄の板が複雑な動きを見せて開かれていく。
それからしばらく
果たして何度、同様の厳重なロックを
方向感覚は鋭い方なので、そろそろ海岸線に近いのではないかと推測する。
この建物の玄関口は比較的内陸に位置するので、
その位置辺りで最後の扉を抜けると。
異様な程に強固なつくりの感じられる広々とした空間に出た。
空気の流れ、音の伝わり方からも、その場のずっしりとした揺るぎの無さが
その先はこれまでにも増して、時の止まったような
空間の広さに対して、照明はこれまで通ってきた通路と同じくらいの数しか配置されていないので、かなり薄暗い。
空間の中で、俺は足元の床に何かしらの
模様の上には
四方を太く頑丈な鋼鉄製の、黄色と黒の
その支柱に
製鉄所の配線と配管の束を手で
排煙にまみれた内臓の
何とも形容のしがたいものがそこにあった。
何本もの鎖の末端は空間の天井の方へと延びて、闇の中にその姿を消している。
この空間には、お互いの距離に十分な余裕をもたせて同じような設備がいくつか点在しているようだが、そちらには、ここにあるような「物体」の姿は見当たらなかった。
俺のそばを通り過ぎながら、女科学者は鋭い
「引きはがしてだいぶ
この「物体」を
それは、生きとし生けるものの意識の根底に根差す恐れ。
視覚的に認識はされているが、
その「物体」は明らかに、概念と無との
その後またしばらくの間、暗闇の中を歩みを進めていると、
今度は、今居る空間のしっかりとしたつくりとはまた違う、ジャンクをかき集めて組み上げたような違和感のある設備が目に付くようになる。
やがて暗がりの中にほのかな明かりを感じ目を上げると。
それまでの冷え冷えとした荒々しさを感じる光景が嘘であったかのように。
暗闇の中に咲くはかない一輪の花のごとくに、その光景は存在していた。
照明の光と液体の満たされた
かなり小柄な少女の姿がふわふわと液体の流れに身を任せて浮かんでいた。
眠っているかのように身動きをせず、目は閉じられたままだ。
体には、何も身にまとってはいない。
こいつは…、一体。
「驚かせてしまったかね。」
水槽の前で立ち尽くす俺の横に立ち、
白衣の女が、俺が見ているものと同じものに目を向けながら口を開く。
「これは奴らの中で、より、人類に親和性の見込める、人に近い形状を持つ個体を
すらすらと口にされる目の前の存在に対する説明に、俺の思考はなかなかついていけない。
「
外見は
俺の頭の中に、あの作戦の
「正確にはインターフェイスの様なものだ。これ単体でも十分に自律的な
君が知覚したであろう「
へと効率的に介入するシステムとして機能する。」
こいつの言っていることはおおよその所は理解できた…。
危なっかしいものどころの話ではない。
先程の恐怖の感情の原因がはっきりとした。
しかし、それらのリスクを補って余りある程に、
この地下にあるものは深海棲艦に対する決定的な優位性につながるものでもあるという事だ。
そしてそういった
俺は誰に対してか
あるいはそれは、自分という存在自体に対する
つまるところ、あの時引き金の引けなかった俺に、
役立たずなら役立たずなりに、それならばこの娘を守り抜いて見せろ、ということだ。
白衣の女は、自分はもはや、やるだけの事はやったという
強く手を握り締めしばらくその場で身動きもできずにいた俺は、
どうにか自分の気持ちを押さえつけると、
水槽の中に浮かぶ少女を前に宣言するように、
これから何かに襲い掛かろうとするかのような野生じみた笑みがしつこく顔に張り付いたまま、
こう口にした。
「いいぜ、やってやろうじゃないか。見せてやるよ。半端者の持つ、可能性ってやつをな。」
《…その時うっすらと開かれていた少女の目に、二人は気付くことはなかった。》
次回、「資材倉庫」
忘れ去れない過去。