今作はまあなんというか、パッと思いついて書いてみたものです。
途中から少し長くなりますが、お付き合いいただけると嬉しいです!
よろしくお願いします!
西暦2207年。
赤い石の導きに従い遭遇した別の宇宙から来た惑星、アケーリアス。それを狙うディンギルを撃退した武蔵は、アカギと共にバランへと向かった。
バランで護衛なく航行可能になるまでの修理を行なった武蔵は、まだ傷の残る艦体で一路地球へ向かって出港した。
別の宇宙へと帰してしまったアケーリアスの周期の狂いを直す手立ては無いが、地球に着くまで解析できない部分があるのも事実。今は少しでも早く地球に着く事が先決であった。
「艦体の修復率は8割ってところか……」
「戦闘ができるよう、武装、エンジンの修理と弾薬の補給は済ませていますけど、装甲部の修理が後回しになってますね」
はぁ、と2人同時にため息をつく。
「この状態だと奇襲受けてあたりどころが悪ければおしまいだな」
「バラン側がドックを早く開けろとか言うから仕方ないです。航行しながら直すしか」
「だな。そういえば」
彼女と目を合わせ、口を開く。
「柑奈は最近暇なのか?」
「……どうしてです?」
「いや、俺の部屋にずっといるなーって」
「義弥さんの部屋にいて、何か問題でも?」
「そうじゃないんだけど」
その時。
「お兄、艦長がなんか……」
扉を開けた美佳が固まる。
「あー…………お邪魔しましたー……」
引き攣った笑みを浮かべ、扉を閉めた。
2人目を合わせ、そしてすぐに扉を開ける。
扉を開けると、美佳はまだ扉の横の壁に背中をつけて立っていた。
「美佳ちゃん、用事なら、全然大丈夫だからね!」
「あ、いえ急ぎじゃないから……邪魔するのも良くないかなーって」
「大丈夫、邪魔とかないから!」
「だってほら、お兄と柑奈さんの事はみんな知ってるし、艦長も『暇そうな時でいい』って言ってたし……」
「今が暇そうな時だよ!」
「そうかなぁ……あたしにはそう見えなかったけどなぁ」
「とにかく! 私の事は気にせず家族水入らずで、じゃあ――」
足早に立ち去ろうとする柑奈の手を掴む。
「美佳ちゃん?」
「『家族』なら、柑奈さんもですよね」
「……ん?」
「そりゃあ妹よりお義姉ちゃんの方が優先ですよね」
「えっ?」
「なので、2人でごゆっくり。お兄は暇な時艦長のとこ行ってね。じゃ!」
さっさと用件だけ伝えて、美佳は駆け足で去っていった。
「……なんだったんだ」
2人の勢いに完全に置いていかれていた義弥の呟きは、柑奈にも聞こえていたのだろうか。
「失礼します」
開けられた扉に目を配ると、時間差で呼んでいた2人が同時に入って来た。
「なんだ、やっぱり一緒にいたのか」
「はい、まあ……」
「一緒に来たなら好都合だ。戦術長と技師長の用件は同じだからな」
近藤は手元の端末を触ると、モニターに図を出した。
「武蔵の航路図ですか」
「そうだ。ここを見てくれ」
柑奈に答え、図の端を指さす。
「遊星……?」
どの恒星系にも属さず、恒星間を彷徨う惑星が遊星である。
その多くは何らかの理由で恒星系から弾き出されたものだが、図の遊星は少し様子が違っていた。
「熱源が星の周りを回ってるんですか」
「気象長と航海長は、これが人工太陽なんじゃないかという予想を立てている。同時に、異星文明とのコンタクトの可能性も」
「しかしこのままの進路なら、この遊星と遭遇する事はありませんが……もしかして」
義弥の言葉に頷く。
「天の河銀河にほど近いとはいえ、銀河間空間を彷徨う遊星はそもそも珍しい。遊星を作る恒星系はここには無いからな。それに人工太陽を擁しているとなれば、恐らくこの遊星の発生は意図的なものだろう。本艦の修理用の材料も、バランで詰め込めた量が少なく残りも十分とは言えない」
「上陸すべきか……という事ですか」
「ああ。どう思う」
その問いかけにしばらく考え込む。
そして。
艦は進路を変えた。
進路を変えると同時に遊星の予想経路を観測したところ、天の川銀河に向かっている事が判明し、その出どころはさんかく座銀河ではないかとの予想が導き出された。
その星に近づくと、惑星は地球とほぼ変わらない大きさと、海を持つ事が判明した。
「大気組成も地球とほぼ同じ……」
棚橋が呟く。
「防衛システムの類は無いな」
「このまま降下する」
惑星の大気圏を抜け、惑星内の雲を抜ける。
「艦長、地表から何か伸びて来ます!」
「何か?」
「これは……」
艦橋の窓からも武蔵に向かうものが確認できた。
「地表から、というか……地表が伸びてるな」
それは遥か上空の武蔵へ、道を示すように正面の渓谷へまっすぐ伸びていた。
「どうしますか」
「進路そのまま。これに従おう」
泰平は舵をそのまま、まっすぐ伸びて来た地表に沿って渓谷へ進入する。
武蔵を案内するように伸びていた地面は武蔵が渓谷へ到達すると元に戻り、今度は地面が武蔵の艦体を支える柱のように伸びて武蔵を緩く固定した。
「慣性制御はそのまま、エンジンを切ります」
武蔵のエンジンが止むとほぼ同時に、崖の上に人が集まっているのが見える。
「艦長」
「ああ。共に話をしに行こう」
対話のために艦を降りたのは、艦長、戦術長、技師長、そして美佳と奈波であった。
左舷のハッチを開くと、崖の壁面から階段状に岩石が伸びて、落ちないよう柵まで形成されたタラップが完成した。
崖の上に到着した5人に頭を下げるのは、兵士と思しき帯刀した男性。
首につけた翻訳装置にも対応していない言語であったようだが、彼の言葉の途中から翻訳されるようになった。
「……皇女様に謁見していただく」
「皇女様……?」
「さよう。我々があなた方を歓迎するように、皇女様もまた客人を歓迎する」
こちらに、という言葉に従って彼についていくと、ものの5分程度で巨大な城が見えて来た。
地球の感覚では中世頃の建築技法であろうが、創作物の中でしか見られないような規模のものがそこにはあった。
「おっきいお城……」
「ここは王家の方々が住まう場所。くれぐれも、ご無礼の無いよう」
重い扉を開いた彼はそこから同行しないのか、腕で行き先を示すだけ。
「行こうか」
近藤の一言で、義弥達は城の中へと足を踏み入れた。
城の中に入って少し歩くと、出迎えと思しき女性が立っていた。
「ここからは私が。有事でない限り、王宮の中まで衛兵は入らない決まりなので」
彼女の優しい声に導かれ歩き出すと同時に、女性は気さくに彼らに声をかける。
「どちらからいらしたのですか?」
「宇宙を征く旅の途中なのです。今は帰路ですが」
「広い宇宙で我々の星と巡り合うとは、数奇なものですね」
「ええ、本当に」
「あなた方の乗り物は王宮から見ておりました。大きな乗り物でしたね」
「たしかに。こちらからも聞いてよろしいですかな」
「もちろん、なんなりと」
受け答えをしていた近藤は少し歩く速さを上げて彼女と並ぶ。
「我々の艦を誘導し固定してくれている岩盤、アレは」
「あれはこの星に代々伝わる力なのです」
「機械ですか?」
「きかい……? いいえ、この星を統べる者の血を引く人に与えられる力ですよ」
それを聞いた近藤は横目で後に続く部下達を見る。
皆一様に信じられない、と言った顔だ。
「力ですか」
「知りたいのであれば、皇女様やお嬢様に聞いていただくのが早いかと」
彼女が足を止めると、目の前には荘厳な雰囲気を醸し出す扉がそびえていた。
「どうぞ」
彼女はその華奢な腕で、ゆっくりとその扉を開ける。