波動実験艦武蔵 ―魔法使いの惑星―   作:朱鳥洵

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Chapter6 約束の証

 再び渓谷に収まった武蔵では、修理作業が行われていた。

 艦の損傷を見た皇女とリーリャによって、修理のための資材の採掘と滞在が許されたためであった。

「奈波」

 慌ただしく動く他のクルーと違って、戦闘の翌日ともなれば医務室は暇なもの。

 留守番をしていた奈波のもとに、美佳が顔を出した。

「どう?」

「まだ寝てるよ」

「そっか。キズは?」

「昨日見たばっかりなんだからまだ治らないって。傷口も広がっちゃってたし」

「だよねー……」

 露骨に暗い顔をする彼女に嘆息する。

「入ってもいいよ。落ち着かないんでしょ?」

「本当? やった!」

「分かりやすいなぁ……」

 美佳にはその言葉は聞こえなかったのだろうか。

 駆け足である一つのブースに向かった美佳は、カーテンを開けて中に入る。

 そこには、バイタルを測るための機器と点滴を受けたまま静かに寝息を立てるサーリャがいた。

 傍には、その姉であるリーリャが座っている。

「あれ、リーリャさんも来てたんですね」

「妹の様子を見に来たらダメだった?」

「そんなつもりじゃ……」

「ううん、ちょっと意地悪してみただけ。ごめんなさいね」

 笑顔を見せる彼女の様子に肩の力が抜ける。

「ちょっと怖かったです」

「ごめんって。後で何かしてあげるから」

「何ってなんです?」

「うーん……何にも考えてないけど……晩ご飯とか、一緒にどう?」

「いいですね。昨日今日と忙しくてゆっくりできなかったし」

「こんな時に妹まで診てもらって、本当に迷惑かけてるわ」

「それは気にしないでください。サーリャちゃんのためですし」

「昨日はお互いに色々あって話せなかったから、ゆっくり話せて嬉しいわ」

 リーリャに促されるまま隣に座った美佳は、穏やかな寝顔のサーリャを見ながら口を開く。

「昨日、武蔵を助けてくれたのはサーリャちゃんとリーリャさんでしたね」

「私はよく分からなかった。サーリャがやろうとしてる事は分かっても、それが本当にできるなんて」

「……助けるつもりが、助けられちゃった」

「この子の意思でやった事だから。立ち上がってくれたあなた達だけに頼っちゃダメだって」

「でも」

「元々体力無いのよ、この子。4年もあの部屋から出てなかったし、急にあんなことしたら体力無くなるに決まってるでしょう」

 美佳が言わんとする事が分かったのか、リーリャは少し早口で割り込んだ。

「そういうものですか……」

「そう。だからサーリャがこうなったのは自業自得。疲れたって言ってたし、そんなものよ。目が覚めたらわがまま言ってくるんじゃない?」

「わがまま言う子には見えませんけどね」

「なにかあったら自分にはどうにもできないから美佳に止めてもらうって事がわがままだったでしょう。言ってくれれば色々考えたのに。バカなんだから」

 横目で見るリーリャは、お姫様というより地球でもよく見る姉の顔をしていた。

「ふふっ」

 初めて見た時の印象とは似ても似つかないその顔に思わず笑いが溢れる。

「な、何……?」

「いえ、なんというか……リーリャさんの色んなところが見られるなって思って」

「色んなところ?」

「最初に見た時は、もっと堅い人かと思ってました。冷たい人なのかなって。でもそんな事なくて」

 少しだらしなく足を投げ出して、美佳は天井を仰ぐ。

「宇宙は広くて色んな人がいるし、色んな場所があって、色んな星がある。でも、リーリャさんはやっぱりお姉ちゃんなんだって今は思います」

「なによ、それ」

 頬を膨らませてそっぽを向く彼女は、これまでになく可愛らしく見えた。

「お姉様も、ミカの事大好きなのね」

 2人同時に目を向けると、天井を見たまま満面の笑みを浮かべていたサーリャが目を合わせた。

「……おはよう、サーリャ」

「うん、お姉様。よく眠れた」

 椅子から立ち上がったリーリャは妹の瞳をじっと見る。

「……やっぱり」

 目覚めたサーリャの目は、やはり左目が青色のまま。

「何かおかしい事はない?」

「……? 何かあるの?」

「いいえ、長く寝ていたから。大丈夫なら良かった。美佳、食事を持ってきましょう」

「えっ、あ、はい」

 困惑したままの美佳の手を引き、リーリャは医務室を後にした。

 廊下を少し歩いたリーリャは立ち止まり、壁に背中を預ける。

「サーリャは分かってないけれど、いつか分かる」

「どうしたんです?」

「あの子の目。片方だけ戻らないの」

「片方だけ……」

「多分あの子だけが、何か違う力に目覚めてる。星の物質に影響を与えるのは私にもお母様にもできるけど、あの戦いの時にサーリャは気になる事を言っていた」

「何を?」

「この乗り物が動いている事、敵の位置までもあの子は分かっていたようだった。何かしようとしてる、とか」

「戻らない目は、その力が出ている証……っていう事ですか」

「多分。近いうちに、あの子も分かる」

 言葉を失う美佳の肩に手を乗せる。

「1日眠っていたのよ。あの子もお腹空いてるから、持っていきましょう」

「……はいっ」

 

 

 目が覚めたサーリャは検査の結果健康体である事が分かり、その日のうちに城に戻る事になった。

 食欲も旺盛で、瞳の色を除けば何も変わらない。

「ミカ、お姉様。ちょっとだけ寄り道していい?」

 帰路、3人はサーリャの希望で少し離れた丘にやってきた。

 背中を見つめる2人の前で、少女は深く息を吐いて目を開ける。

「はぁ……あぁぁぁぁぁ!」

 前に出した手を空に向ける。

 すると、彼女の目の前数キロにわたって大小様々な岩石が浮き上がり、そのまま遥か遠くまで飛んでいった。

 これまでにあった地形の変動などはなく、彼女自身も至って普通に立ったまま。

「サーリャ、今何を」

「この星の周りに何があって、どこに進んでいて、何が近づいているのか。なんとなくだけど、分かる気がする」

 美佳、リーリャと向かい合って話す彼女は、少しだけ大人びて見えた。

「でも、少ししか分からないの。だからもっと分かるために、もっと空に上げなきゃいけなかった」

「そう……」

 不安を滲ませるリーリャに、サーリャは抱きつく。

「これでやっと、いつでもお姉様たちの役に立てる」

「えっ?」

「またあの部屋に戻っても、今度はわたしもお姉様やお母様を助けられる。やっと、何かできる……」

「……サーリャ」

「なに?」

「あなたはもう、あの部屋に戻らなくていい。これからは一緒に、同じ場所で過ごしましょう」

 しばらく言葉の意味を飲み込めない様子のサーリャだったが、ようやく理解して目を見開いた。

「本当に?」

「そう、本当」

「……でも、また……」

「大丈夫。もう、あんな風にならない」

「なんで、そう思うの?」

「さっきのを見て、そしてあの戦いの時のサーリャを見てそう思ったの」

「ありがとう、お姉様。……信じてくれて」

 抱きつく妹の頭を撫で、リーリャは微笑む。

「帰ろ、一緒に」

「うん」

「もちろん、美佳も一緒にね」

 手を繋いで歩き出した3人の前には荒涼とした地面ではなく、緑あふれる大地が広がっていた。

 

 

 その夜のこと。

 城に招かれたのは美佳だけではなく、近藤、有賀、柑奈、奈波も交えての食事会が開かれた。

 アスラの食事は地球のものとそう大差ない。食事そのものへの抵抗は無いが、皇女から直々の招待なのもあって美佳以外の表情は固かった。

「サーリャちゃん、今日は本当によく食べるね……」

「ん?」

 昼に目覚めた時にも成人2人分ほど平らげていたが、夕食もサーリャ1人だけがかなりのハイペースで進めていた。

 キョトンとした顔で首を傾げる彼女の口元についていたソースを拭ったリーリャは、あくまで笑顔のまま首を横に振る。

「まったく、はしたないでしょ」

「ぅ……ごめんなさい」

「もう……。足りなかったら後で何かあげるから」

 どこにでもいるような普通の姉妹の会話。

 ようやくそれができるようになった事に美佳は安堵の顔を見せた。

「皆さん、此度は本当にありがとうございました」

 食器を置いた皇女が話し始めると、全員が一度手を止める。

「いえ、こちらこそ」

「たまたま立ち寄っただけのこの星を守っていただいた事は、本当に……それに」

 皇女はそのまま、美佳へと目を向けた。

「……私?」

「貴女のおかげで、サーリャもこのように皆と過ごせるようになりました」

「……私じゃなくて、リーリャさんとの力です。私は何も」

「ここにお呼び立てしたのは、娘たちから聞いた方々です。もし、お時間があるのなら」

 チラッとサーリャを見て、彼女は続けた。

「美佳さんはご存知の通りですが、サーリャはまだ王族の儀を行っておりません。しかし、この子はこの度暴走を起こす事も無くなり、楽観的ですが今後も起こらないと予想しています。そこで、近いうちに儀式を執り行う予定なのです」

「本当ですか……!」

 弾んだ声で返した美佳に頷く。

「もしお時間があるのなら、是非ご参加いただけないでしょうか」

 近藤は有賀達の顔を横目に見て、皇女に笑いかけた。

「艦の修理はまだしばらく時間を要しますし、我々ももう無関係ではない……日程が決まったらお知らせください」

 

 

「本当は、準備なんてもうできてる」

 美佳に手伝ってもらいながら部屋の片付けを進めるリーリャが、ぼそっとつぶやいた。

「すぐにやらないのは、サーリャがまた暴走しないか確かめるため。公務ではないけれど、明日から私やハルと一緒の外出は増えるわ」

「……またああなったら、逆戻りですか」

「私は何があってもあの子の隣にいる。だからこうして部屋を変えるために片付けしてるんだから」

「きっと大丈夫。サーリャちゃんなら」

 部屋の移動は明後日になるとの事だった。

「お嬢様、荷造りできたものは運んでしまいますね」

「……ハル。サーリャの様子は」

 その問いに視線を落とす。

「こわい、と。自分だけに出た力が」

「そう……」

「ご自身で克服していただく他ないことと言え、これまでの事を考えると……」

 それを聞いていた美佳の手も止まる。

「サーリャちゃん……」

「美佳には悪いけど、こればっかりは私達にも何もできない。だから、近くにいる事を選んだの」

 リーリャの声は、彼女には力強く聞こえた。

 

 

 それから約1週間ほど、サーリャはリーリャ、ハル、そして美佳、奈波と、パートナーや人数をその日ごとに変えながら外出するようになった。

 サーリャの体力を鑑みて休憩を挟み、城下街や海、山など様々なところを見て回った。

 時折椅子に座りながら空をじっと見つめて止まることもあったが、地形が変化したり他者に害を与える暴走も起こす事はなく、蕾の花を咲かせるなどの小さな力の使用もできるようになっていた。

 外出の終わりにはアスラの城に出入りしている医師に変わりがないか確認する。

 同じ頃にリーリャの部屋の移動も完了し、サーリャと同室になった。

 能力の暴走による崩落を警戒して行われていた意図的な空き部屋も、倉庫の移動や使用人の雇用によって数週間経たずに埋まる予定だ。

 サーリャを取り巻く環境は瞬く間に変化していった。

 それと同時に、夜になるとリーリャと美佳に不安を吐露する事も増えていた。

 だがサーリャは決まって言うのだ。

「これまでは誰にも言えなかったけど、やっと言えるようになったの。お姉様とミカのおかげで!」

 その時に見せる笑顔は眩しく、少しの翳りもないように思えた。

 1週間以上こうして各地を歩いたサーリャは一度も能力が暴走する事はなかった。

 瞳の色は変わっていないが、どうやら岩を動かす時や物理的に力を働かせる際は必ずもう片方の目の色が変わるようで、常に青くなった瞳は星の物質に触れたものや、アスラから取られた資材の”感覚”を感じる別の能力だろうという結論に至った。

「奈波、肩の傷は……」

「もう今見てるって。おとなしくしてて」

「うぅ……はい……」

 親友に睨まれ引き下がる。

「ミカは心配性ね」

「こら、動いたら見れないでしょ」

 笑いながら上機嫌に身体を揺らしていたサーリャもまた、姉に注意されて少ししょんぼりした顔を見せる。

「んー……外に傷跡はない……中も……うん、大丈夫だね」

 外した包帯を直すことはせず、奈波はサーリャに笑いかけた。

「もう大丈夫。治ったよ」

「ありがとう、ナナミ」

「リーリャさんも、手見せてください」

「えっ、いや私は……」

「しのごの言わない」

 奈波は引っ込みかけた手を掴んで寄せ、巻かれたままの包帯を外した。

「動かしてみてくれますか?」

 言われたまま、リーリャは手を握ったり開いたりランダムに動かす。

「痛いとか、違和感あったりします?」

「いえ、特には」

「……なら、リーリャさんももう大丈夫かな」

「良かった! 間に合ったね!」

「本当、良かった……」

 安堵の顔。

 それを見て微笑んだ美佳は軽く2人の肩を叩いた。

「じゃあ、明日に備えないとね」

 

 

 ある木の下に並んだ有賀達は正装である軍服を身に纏っていた。

 隣には皇女や衛士達、背後には少し距離を置いて選ばれた市民が並んでいる。

 まだ若いその木は、周りにそびえる巨木と比べると迫力は劣るがしっかりと大地に根を下ろしていた。

 やってきた馬車に乗っていたサーリャは王族の正装であるドレスを着て、それより少し身軽な衣装のリーリャの手を取って馬車を降りる。

 本来ならリーリャの役目はハルのような人物の仕事らしいが、リーリャは自ら望んで引き受けたのだそう。

 ハルは皇女や衛士と並んでその様子を見つめている。

 しっかりとした足取りで彼らの前に立ったサーリャは一礼をして振り返り、目の前に立つ木のすぐ横の地面に手を伸ばした。

 僅かに輝いた地面からは芽が伸び、根を張ってサーリャの腰の高さまで成長したところで彼女は手を離した。

 振り返ったサーリャはまた一礼すると、美佳を見て小さくウインクをする。

 彼女の前に用意された台に立ち、深呼吸して口を開いた。

「わたしは今日やっと、この儀を終えることができました。これで本当に、ようやく胸を張ってお母様の娘だと言うことができる」

 これが初めての演説だとは思えないほどにしっかりと、彼女は言葉を紡いでいる。

 始まる前に会った美佳は彼女から、「何を話すか全然考えてない!」と言われていたが、とてもそれを感じることはない。

「……まず、お母様、お姉様、ハル。そしてミカには謝らなければいけない。4年前、そして少し前にとても迷惑をかけてしまったこと。ずっと気を遣わせたこと。ミカは特に、急に色んなことに巻き込んだことも」

 美佳を一瞥してさらに続ける。

「先日このアスラは敵の襲撃を受けた。目的は多分、わたしとこの星。それに皆を巻き込んだ事は、わたしはこれから長い時をかけ償い続ける罪だと思っています。それと同時に、感謝したい人たちがいます」

 サーリャは美佳達に目を向け、手招きして彼女の後ろに並ばせた。

「彼らは違う星からやってきて、先日の襲撃にあってアスラを守るために戦ってくれた方々です。そして」

 美佳の手を取った彼女は、強引に引っ張って隣に立たせる。

「サーリャちゃん……⁉︎」

「このミカのおかげで、わたしはここに立っている。偶然立ち寄っただけのこの星のために、偶然出会ったわたし達のために尽くしてくれた事は感謝してもしきれません。乗り物が直ったら故郷の星に帰ってしまうミカ達だけど……わたしの大切な人になりました」

 サーリャは手を握ったまま横目で美佳の顔を見て、また向き直る。

「色んなものと、たくさんの人への感謝、そして贖罪と共にわたしはお母様やお姉様の隣に立てるようになりたい」

 

 

 一連の儀式を終え、サーリャが芽吹かせた苗木の前に立っていた美佳の視界が突然遮られる。

 背後から手で隠す、地球でも馴染みのある古典的ないたずら。

「誰?」

「さぁだれでしょう〜」

「……サーリャちゃん、声出すと分かっちゃう」

「むぅ……耳がいいんだから……」

 パッと手を離したサーリャは少し不服そうに頬を膨らませていた。先ほどまで着ていたドレスではなく、いつもの服で。

 その背後から歩いてきたリーリャもまた、いつもの装いに戻っていた。

「もう大丈夫なの?」

「うん。色んな事はもう終わったから。あとはお母様とハルにお任せ」

「そっか」

 しばしの沈黙。

 じっと低い木を見つめていたサーリャの隣に立ったリーリャは、木を見ながら問いかける。

「そういえば、どうしてこの高さなの?」

「えっ?」

「今回は儀式が遅れたからもっと高く、私と同じくらいにしてもいいはずだったのに」

「そうだったんだけど……わたしは、まだこのくらいだから。お姉様と比べたらまだまだ。だからこれから、お姉様の事を追いかけて大きくなるの。お姉様と一緒に」

「私としては、早く追いついてほしいんだけど」

「まだ無理。ずっとお姉様に助けて貰ってるんだもん」

 にひひ、と笑う彼女は姉と美佳の手を握った。

「ミカは、いつまでいられるの?」

「……そうだなぁ」

 チラリと背後の渓谷から顔を出す武蔵の艦橋を見る。

「あと1週間と少し……くらいかな」

「そうなんだ……」

「修理が終われば、地球に戻らないと」

「うん」

「それまでは、まだ会えるよ」

「……うん」

「最後の日には、またみんなで皇女様やサーリャちゃん、リーリャさんに挨拶しないとね」

 瞬間、彼女は美佳に抱きついた。

「どうしたの?」

「…………」

「サーリャ……ちゃん……?」

 困惑しながらもその身体を抱きしめた美佳は、その美しく柔らかい髪を撫でる。

「すぐにいなくなるわけじゃないんだから……一緒に、色んな事しよう。いっぱいね」

「うん、一緒に」

 笑ってみせたその顔は、微かに寂しそうに見えた。

 

 

 武蔵の修理作業そのものは順調ながら、損傷が大きく広範囲に渡っていた事により作業が長引いていた。

 それでも甲板科の努力によって儀式の日から約2週間で外装の修理がほぼ終わり、さらに1週間ほどで修復された隔壁等の機器確認までを終わらせていた。

 船務科は停泊時の任務が減少するために各科の雑務に駆り出されるのが常だが、美佳や一部のクルーは特例的に免責されている部分があった。

 サーリャとリーリャに対する傷の検診も終わり、サーリャも次第に力の制御ができるようになり始めている。

 ここ1週間は、城に来ていた美佳が武蔵に戻る時はサーリャも同行して武蔵の修理状況を見るのが日課となっていた。

「ミカ、そろそろ”むさし”の修理も終わるね」

「うん。みんなのおかげで」

「…………」

 並んでベッドに腰掛けていたサーリャは、少し俯いて美佳に身体を預けた。

「寂しくなるね」

「うん、私も寂しい」

「いつ出るの?」

「3日後、かな」

「見送りに行くね。みんなで」

「ありがとう」

「まだ、ありがとうは早いよ」

「何回言ってもいいんだよ、こういうのは」

 頭を撫でると、彼女は美佳の肩に頭を乗せて目を閉じた。

「今日は街に行ったんだっけ」

「ハルと一緒に行ったの」

「疲れたでしょう」

「うん。でも楽しかった。美佳が来てから、楽しいこととか嬉しい事が増えた気がする」

「これからも続くよ。私が戻っても、きっと」

「だといいな……」

 少し声色が下がったサーリャを抱きしめた美佳は、勢いそのままにベッドに倒れ込む。

「今日は私もここで、サーリャちゃんと一緒に寝ようかな」

「お姉様、そろそろ帰ってくるよ」

「いいよ。リーリャさんも一緒に3人で、楽しい話もいっぱいしよっか」

「……うん……!」

 

 

 3日後。

 艦長や有賀、柑奈らと共に城を訪れていた美佳は、皇女、リーリャ、サーリャ達に感謝の意を述べて城を後にした。

「ミカ!」

 背後から呼び止める声に振り向くと、サーリャとリーリャが向かってきているのが見える。

 その勢いのまま美佳に抱きついたサーリャは、少しの間そのまま動かなかった。

「……元気でね」

 やっと絞り出した声は、か細く聞こえた。

「サーリャちゃん……うん、サーリャちゃんも、元気で」

 抱きしめ返した美佳の肩を叩いたリーリャは彼女に笑顔を見せる。

「ありがとう、美佳」

「はい。こちらこそ、ありがとうございます」

「……ほら、サーリャ」

 頷いたリーリャは、嘆息しながら妹の頭に手を置く。

「……うん」

 小さく返事をしたリーリャは身体を離すと、身につけていたネックレスを外して美佳の首にかけた。

「これ、美佳に渡したくて」

「今日だけつけてたのはそういう事だったんだ……」

 先端には綺麗に整形された青い宝石がつけられている。

 その中心部にはほのかに緑色の領域があった。

「不思議な石……」

「それはね、願い事をしてから渡すと、その人の願いが叶うの」

「じゃあ、これには」

「わたしの願いが入ってる。わたしだけじゃなくて、お姉様のも」

 チラリとリーリャを見ると、彼女は小さく頷いた。

「ありがとう、サーリャちゃん」

 今度は美佳から、その華奢な身体を抱きしめる。

「今は、私からは何も返せないや……」

「いらないよ。わたし達の願いが美佳に届いて、守ってくれると思うから」

「願い事は……」

「地球では違うの? 願い事はね、言ったら叶わないんだよ」

「聞いたことあるかも、地球でも」

「じゃあやっぱり、わたしたちは似たもの同士の星の住人なんだね」

 2人笑い合う。

 サーリャの身体を離した美佳は、2人に頭を下げて踵を返した。

「また、会えるかな」

 サーリャの問いに立ち止まり、少し堪えた声で。

「また会えるよ。私達が星の海を旅する限り」

 美佳が渓谷に歩き去ってからしばらくして、修理を終えた武蔵が風を吹き荒らしながら浮上する。

 その巨体ながら、それはエンジンから炎を噴いて恐るべき速さで加速して見えなくなった。

 視界を遮る涙を拭いて、サーリャはしばらく武蔵が見えなくなった空を見上げていた。

 

「……さよなら、ミカ。きっと、また会おうね」

 

 

      ――波動実験艦武蔵 魔法使いの惑星――

             ――完――




 全6話、Chapter6までありがとうございました!
 これをもって、西暦2207年までの波動実験艦武蔵の物語は一旦終わりとなります。
 武蔵のお話はまだ終わりませんが、恐らく現時点でこれ以上投稿はしないと思います。
 今計画しているものは2208年から2220年程度までの時間の予定で作ろうとしているのですが、原作「宇宙戦艦ヤマト2205」の後章がまだ未公開である事や、そもそも武蔵の時間が本編を追い抜いていることが理由です。2207年や2208年までの作品が公式から出たらまた書くかと思います。

 長い作品でしたが、読んでいただきありがとうございました!
 ヤマトシリーズの二次創作は一端お休みしますが、一応ハーメルンへの投稿は色々考えているのでよければ見ていただけますと幸いです!
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