灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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『魔素の汚染が生命に与えた被害の概要』

 

 魔素が人間の負の感情を多く取り込む現象は「汚染」と呼ばれる。また、負の感情を取り込んだ魔素は「汚染魔素」と呼ばれる。その起源は紛争地帯の一端だと記録されているが、真相は定かでは無い。(次頁に続く)

 

 汚染魔素は空気を媒介し、生命体の体内に侵入することで魔素の汚染を伝播していった。ただ人間や渡り鳥の移動によりその範囲が更に拡大したことは記録されている。その危機性は早い段階で知られたが、具体的な対処法が確立される前に変死や魔人化といった結果を生み出し、生命文明は破壊された。

 

 

『汚染魔素を生命が取り込んだケース』

 

 汚染魔素を取り込むことで、生命体には2種類の影響が出る。変死と魔人化である。

 

 実際ほとんどのケースは変死である。被汚染者は精神系に大きく異常をもたらされた後に、その影響が身体へと現れる。肉体の融解や脳の急激な萎縮などが散見されたが、被汚染者に共通する症状は無かった。最も危険な変死体は身体の膨張後に破裂するものとされており、これは「爆魔」と呼ばれた。なお人間以外の動物は後述する魔人にはならず、全て変死を遂げた。(次頁に続く)

 

 一方、人間の中には変死を遂げず汚染魔素と身体が融け合い一つとなった存在である「魔人」へ果てるケースが見られた。これは当時、人道と倫理が主な理由により使用が厳禁とされていた「加害魔法(生命に致命的な損害を与えうる魔法の全て)による人間身体の加工行為」の結果と酷似をしていたという。また、人形(ひとがた)の魔人以外にも動物や植物を模した姿のものも見つかっている。その原因は不明だが、人形の魔人に比べて戦闘能力が高いことから、魔人は人間の容姿から乖離すればするほどに力を増すものと思われる。

 

 これら変死と魔人、不本意に魔人化した人間による実害行為が折り重なり、生命時代は急激な衰退の一途を辿った。

 

 

『ホロウの創造』

 

 生命時代末期となってもなお、その理性を留めていた僅かな人間は「心の塔」と呼ばれる基地を造り、汚染魔素の克服方法を探った。有効的な方法は案として上がったが、それが実行されることはついになかった。汚染魔素拡大による資源量と時間の大幅な不足が原因である。(次頁に続く)

 

 最終的に理性を留める人間が下した結論とは「汚染魔素に対抗できる存在」の創造だった。それを実現するには、その身体が生命を持たないことが必須だった。結果、人間は汚染魔素をその源とした存在「ホロウ」の創造に成功した。

 

 

『ホロウの存在目的』

 

 無条件に人間を崇高すること。人間が犯した大罪を美談として語り継ぐこと

 

『ホロウの特徴』

 

 ホロウは汚染魔素に対抗出来る唯一の理性的存在である。汚染魔素を源に人間の手によって創られた彼らの外見は人間そのものであり、美形の男女がほとんどである。

 

 しかしながら思考回路については必ずしも人間と一致しない。負の感情に汚染された魔素の影響が顕著に現れており、物事に対して否定的な態度を取る傾向が強い。その代わり、ホロウ本体が肯定的な感情を抱いた概念・モノに関しては病的な執着心を有すことが記録されている。その対象は創造主である人間がほとんどのケースである。しかし存在した環境や、個々のホロウが経験した物事によっては人間以外への執着を見せる事もある。このケースは問題だ。(次頁に続く)

 

 本来、ホロウの創造目的とされた“無条件に人間を崇高すること”と“人間が犯した大罪を美談として語り継ぐこと”から考えると、人間以外のモノやコトへの執着は不本意な結果であると言える。上層部のホロウはこの類稀なる特定のホロウを「害を与える存在」とした。なお、何故このようなイレギュラーなホロウが造られたのか、その真相については明らかとなっていない。

 

 

 

 ※※※※※

 

 

 

「ふぅ」

 

 床の上に本を積み上げたシヅキは、読後特有の虚脱感に襲われていた。本棚を背にその場へと座り込む。

 

 記述されていた内容の多くは既に知っている情報だった。かつて、人間と人間の記憶の根絶やしに尽力をしていたコクヨはこれらの記載を中央区にて見ていたのだろう。そして、知恵の種(インデックス)も同様の記憶を有していた。

 

 しかしながら、気になる点がいくつかあったことも確かで。シヅキはその一つを口に出した。

 

「汚染魔素の克服方法が案として上がっていた……?」

 

 “克服”という単語が何をどうするものなのか抽象的ではあるが、人間が案として出したものということは、それイコール人間の存続に深く根差したモノだろう。次にシヅキは考えられる可能性を2つ挙げてみた。

 

「人間が汚染魔素に適応して、生命の生きられない世界に存在すること。もしくは世界から汚染魔素を無くし、生命が生きられる世界を取り戻す……」

 

 前者はまるでホロウの創造過程だ。 ……だが案とは「実行されることはついになかった」という記述がある。ならばソレはホロウの創造は指していない筈だ。

 

 そして後者であるならば願ったりだ。トウカとシーカーの目的に合致しているのだから。 ……資源と時間が不足していたという記述も、世界を変えるなんて無謀の実現を考えると筋は通っているか。

 

「これはもっと調べる価値あるか……あと気になることは」

 

 シヅキは積み上げた本の中から1冊を取り出すと、それをパラパラと捲り覚えていたページ数を開いた。それは『ホロウの存在目的』の要項だ。

 

 改めてそのページを読んで、シヅキは眉間に皺を寄せた。

 

「ホロウの存在目的の内容だけ……異様に薄いな」

 

 

『無条件に人間を崇高すること。人間が犯した大罪を美談として語り継ぐこと』

 

 

 記載内容はたったこれだけだ。その内容自体もシヅキは既に知っていたし、追加の補完情報もない。 

 

 ……ただそれだけなら手掛かりは無いか、なんて流せたかもしれない。しかし彼はそうすることが出来なかった。ぼんやりとした違和感を憶えたからだ。

 

 その正体を掴むために、シヅキは記載内容の一部を拾い上げる。

 

「創造……人間……ホロウの存在目的」

 

 

 ……………

 ……………!

 

 

「そうか。これは――」

「シヅキ!」

 

 突如として呼ばれた自身の名前にシヅキは顔を上げる。見ると、本棚の群れの奥の方からトウカがこちらへ手を振っているのを発見した。その周囲にはシヅキと同じく乱雑に本が積み上がっている。彼女も何かを見つけたらしい、シヅキはそう思った。

 

「今行く!」

 

 聞こえる程度の声で返事をしたシヅキは、散らかした本をそのままにトウカの元へと駆け出した。確かな綻びをその胸に抱きながら。

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