灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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邪推と苛立ち

 

 

「これ、なんだけど……」

 

 トウカが手渡してきたのは一つの紙束だった。本、というには表紙が繕われていない。同じ大きさの紙に穴を開け、そこに紐を通しただけの代物だ。

 

 シヅキはそれをパラパラとめくり、その口を半開きにした。

 

「こいつは、ホロウの……リスト? なんのリストだ……」

「えっ、と……シーカーさんが、虚ノ黎明って26居るって、言ってたよね。どうやらその詳細、みたいな? 特徴とか、役割を示した記録みたいなの」

「1号が製造者、別名をメイカー。2号が使用者、別名をユーザー。3号が再生者、別名をリジェネレーター。4号が反復者、別名をリピーター。 ……なるほどな」

 

 随分とレイアウトが取り繕われたそのリストには、事細かく各ホロウについての情報が載せられていた。“号”という呼び方は現ホロウに対して扱われるものでは無いし、ホロウの名称が役職となっていることだって、監視者(シーカー)と合致する。虚ノ黎明を記したものというのは間違いなさそうだ。

 

 途中まで資料の大枠を読んだところで、シヅキはその顔を上げた。

 

「トウカ、これがどうかしたのか?」

「う、うん。 ……あのね? このリストに載っているホロウって、25体だけなの。項目の23が飛ばされてて……」

監視者(シーカー)が無いのか」

「そう! そうなの。もしかしたら、シーカーさんがそのページだけ抜いちゃったのかなって……他の理由が、あるかもしれないけど……」

 

「それが気になって」と付け足したトウカの視線がシヅキから逸らされる。自信がないというのもあるかもしれないが、困惑の表情に近しいとシヅキは思った。

 

 自らの記録を別で保管しておくという意図は何となく分かる。しかしそうするのであれば、リストごと持っていってしまえばいいのだ。何故わざわざ抽出する真似をしたのだろうか。

 

 以前のシーカーの発言を再び思い出す。

 

 

『君が僕を探し求めていたことを僕は知っている。君が求める願いは僕のものにほど近い。故に良い協力関係を築きたいと思っている。 ……虚命障害。元より僕一人ではもう、どうにも出来ない』

 

『だから君たちが、僕にとっての最後の希望。ホロウと生命の共存する世界は、僕と君たちで創る』

 

 

 …………。

 

 

 シヅキはゆっくりと瞬きをした後に、トウカの華奢な手を握った。

 

「ど、どうしたの? シヅキ」

「……あいつ、結局自分のことを全然喋って無ェんだよ。だから、確認しに行こうぜ」

「か、確認って……」

「そのままの意味だ。 ――すまん、俺の足元にある本持ってきてくれ。この右腕じゃあ切り刻んじまう」

 

 コクと頷き、真っ白の本をその片腕に抱きかかえたトウカ。それを見たシヅキは歩幅の小さな彼女に合わせるように、ゆっくりと出口へ向かった。

 

 

 

 ※※※※※

 

 

 

 シヅキたちがやって来たのは心の塔の中で最も大きな扉の下だった。高さは5m程あるだろうか? 重厚感のある、両開きの扉だ。

 

 彼はギュッと握り込んだ拳で殴るようにソレを叩いた。

 

「シーカー、話がある」

「………………なに」

 

 少し時間を置いてから返ってきたシーカーの声は、扉越しのくせにくぐもっていない。その事実に少し驚きはしたが、シヅキは一呼吸を飲んだ後に冷静な声色でこのように続けた。

 

「別に俺たちは、お前と駆け引きをしたいと思っていない。同時に敵対だってな」

「うん。それは僕も同じ」

「ああなら助かるよ。一つ確認したい事があるのだが……俺たちとお前は協力関係にあるだろう?」

「以前、僕たちはソレを結んだはず。君たちには“遊んでて”って言った」

「手がかりが無ェんだから、それを掴むまで俺たちを自由にしておくって意味なら分かる。正直言うと、急に眠りが深くなったトウカを気にかけられたから、俺は助かったよ。 ……いや、それすら息がかかっている可能性はあるか」

「…………何が言いたいの」

「お前、その手がかりってやつをよ。隠してるだろ」

 

 一息に言い放ったシヅキの言葉。ソレに対してシーカーはすぐに反応をしなかった。表情が分からないのだから、言い澱んでいるかどうかは不明だ。

 

 だからシヅキは、ただ寂しげに俯くトウカの手からその本を受け取った。

 

「何の根拠があって俺とトウカをこの塔に呼び寄せたのかが不明確だったり、虚ノ黎明のリストからお前の資料だけ抜き取られていたりよ……解せない点はいくつかあった。そして極め付けはこの本の『ホロウの存在目的』の項目だ」

 

 左手だけで器用に本を捲ったシヅキは、対象のページを扉の前に掲げた。

 

「人間は自らの存続の手段を探し、有効的な案は上がった。だが実行不可能だったから、代わりにホロウという存在を創ったのだろう? 『汚染魔素に対抗できる存在』としてな。ところがこの項目には『無条件に人間を崇高すること。人間が犯した大罪を美談として語り継ぐこと』と書かれている。 ……おかしくねェか? それこそその有効的な案を試行させる為に創ったという方がよっぽど自然だ。伝承で語られていたような、希望としてのな」

 

 長く言葉を連ねたシヅキは、口内の唾液をいっぺんに飲み込んだ。額にかいた不快な汗も拭いとる。そして最後に、彼の中の邪推を苛立ちと共に吐き出したのだった。

 

 

「お前、本当はどうすればいいのか知っているのだろう? 生命が生きられる世界の取り戻し方を」

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