灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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事の崩壊

 

 

『ホロウの創造における課題』

 

 生命時代の崩壊後、人間の代替としてホロウの創造が計画された。この時大きな課題として上がったことに、各ホロウの“存在可能性”の設定があった。存在可能性とは、あるホロウが造られた瞬間から基準となる年月が経過した時に、そのホロウがまだ存在を続けている可能性のことである。

 

 魔素にて身体を構成するホロウには生物が有す“肉体”の概念が存在しない。よって肉体の衰えによる死は起こり得ない。これは魔法により肉体と魔素の配分が大きく改造された生物兵器、魔人の寿命が数百年という単位であった記録が根拠にある。

 

 よって、未来会議においてホロウの存在可能性の設定は早い段階で議題として上がった。この時、大きく分けて3つの論点について話し合われた。

 

 初めに「本当に存在可能性を設定するのか」というところから。次に「存在可能性の設定をどう実現するか」を。最後に「設定した事実を公開するかどうか」である。

 

 大きく物議を醸した論争だったが、最終的に人間はホロウの存在可能性を設定した。その方法とは“個の崩壊”を意図的に起こすことである。

 

 魔素は大きなエネルギー源という側面を持っているが、その源は人間の心であり記憶である。不特定多数の魔素が混ざり合うことで、魔素は肉体と精神(に類似するモノ)の両方を形成する。そして、ホロウはこの不特定多数の魔素をある種の力として曖昧に捉え、創造主への崇高を本能の主軸として存在を続ける。言い換えれば『たくさんの魔素が混じり合い、一定以上の思考が制限された人間の後継種』がホロウだ。

 

 ただし、この魔素を混ざらせることでの肉体と精神の形成には大きな問題があった。それは“個の崩壊”という特定の現象が起こる個体が存在したことだ。

 

 混ざり合った魔素をホロウが曖昧に捉えること……つまり、その魔素の中に包含される数多の人間の心と記憶を読み取ろうとしないのはホロウの性質だ。とても個の手に負えないソレには触れようが無いからだ。深海や宇宙への理解がほんの極一部に留まっていた人間にも同じことが言えよう。

 

 しかし混じり合っているとはいえ、魔素とは心であり記憶だ。例えば、感情が大きく動かされる事象や過去の記憶を刺激する経験に対峙をした時……不特定多数の魔素は大きく揺れ動く。意図をしない記憶の懐古や既視感、感情の発露が行われるのだ。

 

 この事象は魔素を曖昧な力として捉え、その上に自らが有した記録(きおく)(人間のソレと分類わけする意図により“記録”と表記される)と心を形成するホロウにとって大きく有害なモノ足りうる。ホロウが有した記録(きおく)と心……つまりホロウの“個”が数多(あまた)の人間のソレに侵蝕されてしまうのだ。 ――コレは便宜上、“個の崩壊”と呼ばれた。

 

 その症状は悪夢と眠りによって体現される。数多の人間の負の記憶、或いは個のホロウが想定する最悪の未来を、ホロウは悪夢という形で体験する。

 

 この悪夢を見る周期と長さは、時間或いは刺激的体験により悪化の一途を辿る。特に、ホロウが有す性質である“肯定的にとらえた物事について病的に執着心を抱く”事との相性は非常に悪い。この性質によりホロウは刺激的体験を達成し、個の崩壊が促される。

 

 そして一定以上の“個”が侵食をされ、自我を保つ事すら曖昧となった段階で、ホロウは世界に存在が出来なくなる。これは彼らにとっては事実上の死と言えよう。

 

 ――さて。未来会議において人間は、個の崩壊が意図的に起こるようホロウを創り上げることにした。時間経過、或いは“個”の増長が一定の基準に達した瞬間、個の崩壊が確率100%で起こるように魔法をかけたのだ。少量の時を司る魔法である“星魔法”の応用によるものである。

 

 そして、最後の議題である「設定した事実を公開するかどうか」では満場一致にて全ホロウへの秘匿が決定された。秘匿された故に、なぜそのような結論に至ったのかは永遠に闇の中である。

 

 

 …………ただ、肝心なる秘匿された事実とは、今資料の通り明るみとなってしまった。目の前の君はこれからどのような行動をとるのだろうか。せめて後悔のないようにと、我々“不特定多数の魔素”は切に願う。

 

 

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