灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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対 世界②

 

「てめェらが!!! 苦しんでるんじゃ……ねェよ!!!」

 

 息が上がる肺の中に発声へ消費する酸素が残っている筈なかった。シヅキは詰まり詰まりに、実に荒い声色で怒鳴り散らす。

 

「お前ら人間のせいだろォが……お前たちのエゴがかつての世界をぶっ壊して、灰色世界(ゴミ)を生み出したんじゃアねェのか!? ならそれは自業自得だろ!?」

 

 しかし、そうやって好き勝手に喚く一ホロウを魔人共が放っておく筈がなかった。大鎌で武装をした彼らはシヅキを襲う。何体も、何十体も、何百体も。それらの処理に右腕を酷使し続けた影響で、その刃には大きなヒビが入っていた。

 

 そんな事実にすら気づくことが出来ず、(ころ)し合いの最中、心身ともにボロボロなシヅキは思いの丈をぶち撒け続けた。

 

似非人間(ホロウ)は苦しんだぞ! アサギも、サユキも、リーフも、エイガも、コクヨさんも、ヒソラだってなァ! 俺たちは確かに(ころ)し合ったぜ…………でも、元を辿れば……元凶は人間じゃアねぇか!!! 俺たちは一度だって創れだなんて頼んでいねェのによ!!!!!」

 

 

『ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛! ! ! ! !』

 

 

「何言ってんのか……ワカンねェんだよ!!!」

 

 ひとしきり魔人を(ころ)しきり、ぽっかりと拓いた箱庭の一角に“世界”を捉える。

 

 

 ――もうシヅキを止める者は誰も居なかった。

 

 

「あああああァァァ!!!」

 

 右腕を振り上げ、ドス黒い“世界”に叩きつけるよう振り下ろす。しかしそこに一切の手応えはなかった。もはや“世界”とは融けきってしまい、粘度の高い液状の姿に変わり果ててしまっていたからだ。

 

「クソが! クソがよ!!!」

 

 それでもシヅキは構わなかった。コレが無意味で無価値な行動だと分かっていても、もはや自分を止める術はない。長い時間をかけ、自分の中に蓄積を続けてきた感情……今まで言語化も具体化もせずに、ただただ燻らせ続けてきた感情が爆発してしまったのだ。

 

 何度も、何度も右腕を叩きつけた。何度も、何度も、何度も。 

 

 

 ……その中でどうしても思い出してしまう光があった。思い出す度に心が締め付けられ……だから頭の片隅に鍵をかけていた筈だったのに。

 

 涙のせいで視界がグチャグチャだった。

 

 「クソ……クソぉ……トウカを……トウカだけでもよ! なんなんだよお前たちは……本当に人間の復活のために俺たちを創ったのか…………? ただ、俺とトウカをいたぶらせたかっただけじゃアねぇのか……?」

 

 ついにシヅキは膝から崩れ落ちてしまった。真っ黒な闇の液溜まりに座り込んだせいで、びしゃりと滴が跳ね、乱れた水紋が広がった。

 

「トウカに……愛されたかった」

 

 震える右腕を高々と上げる。重心が大きく変わることでぐらついた。それでもとうとうシヅキが倒れ込まなかったのは、せめてもの意地だったのだろう。この一撃だけは叩きこまないとならない……そのような。

 

 

「何も……かも…………消えちまえ」

 

 

 シヅキは真っ直ぐに右腕を振り下ろした。真っ黒な液溜まりの……どこが身体だったかも分からないソレに。

 

 

 ガシャン

 

 

 しかしソレが実現をする前に右腕(ヒソラ)(ひず)みに耐えかねて壊れた。そして間も無くして……

 

 

 ビシャ、ビシャ、ビシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

 

 幾重にも重なる水滴音が突如として聴こえてきたのだ。何が起こったのか分からないまま、シヅキの身体中に鋭い痛みが走りまくる。同時に特有の浮遊感に襲われた。

 

 見ると、先ほどまで足をつけていた地面があんなにも遠い。何故だろう、心の塔の頂上を見下ろせた。コレは……あぁそうか。

 

 シヅキはようやく理解することが出来た。あの液溜まりから生えてきた無数の枯れ枝に、己が身体を連れ去られてしまったということを。

 

「“絶望”か……………」

 

 ビシャビシャと自らより垂れ流れ続ける真っ黒な液体を眼に捉え、シヅキは満足げな表情を浮かべた。

 

 

 出来損ないの似非人間(ホロウ)の末路として、これ以上のモノはないだろうと。

 

 

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