浄化型。それはアークに所属するホロウたちに与えられた役職の一つだ。
浄化型がやることは単純だ。かつて世界を席巻したという人間……その末路である存在、魔人を刈る。ただそれだけだ。
しかし、ひたすらに戦闘だけをこなす彼らのことを“それだけしか出来ない存在”として評定してしまうのは
シヅキは意識を集中させる。イメージするのは、体内魔素が脈打つ感覚と魔素の流れ……それを操る。操って、放出する――
すると――
ボォ
周りの空気が一遍にくぐもるような音とともに、シヅキの目の前には真っ赤な炎の塊が浮かび上がった。
「少し離れろ」
「う、うん……」
トウカが1歩、2歩と後ずさったのを確認した後に、シヅキはその炎を自身から
「……まさか、
シヅキがそう尋ねると、トウカは頬を膨らませながら答えた。
「分かるって、それくらいは」
「中央と辺境で環境がちげえんだ。俺の常識とトウカの常識が一致してるわけねーだろ。確認は必要だ」
「……確かに。そうかもだけど」
尻すぼみに声が小さくなっていくトウカを置いて、シヅキは道の先を歩いていく。すぐに後ろから忙しない足音が近づいてきた。
乾いた大地を踏みしめながら移動するシヅキ。先ほどまで周りを回っていた真っ赤な炎は、シヅキよりも1歩か2歩先をフヨフヨと浮かんでいた。まるで、シヅキたちを導かんとばかりに。 ……いや、実際にこの炎は導いているのだ。
――これをアークでは篝火と称していた。もちろんただの炎ではない。これは
魔素の塊である篝火。当然魔素を動力に動いているため、外側から魔素が与えることで動かすことが出来る。オド内部にある管理部はこの篝火を操作し、浄化型や抽出型のホロウたちを任意の場所まで移動させる。そのようにして、ホロウを遠隔から導かす媒介装置としての役割を果たすのが篝火なのだ。
ではそもそも篝火とは一体なんなのだろうか? 突如としてシヅキの掌から現れた炎……その答えは至極単純なもので、その正体はシヅキの身体の一部に過ぎない。
浄化型は自身の体内にある魔素操作に優れた者たちだ。身体を構成する魔素を動かすことにより、一時的に身体能力を向上させたり、身体の一部を切り離すことができる。大鎌や篝火がまさにソレだ。文字通り身を削り魔人共を叩く……ソレが浄化型の本質である。
トウカがシヅキの顔を覗き込むようにして言った。
「……いつも気になっていたんだけど、篝火を出すのって疲れないの? 自分の魔素からモノを生成する感覚って私には分からなくて」
「別にまぁ。生成してるっつっても所詮は俺の一部だからな。篝火を消したら俺ん中に返ってはくるし、どちらかというと貸している感覚が正しい」
シヅキがそう言うと、トウカの表情が歪んだ。
「身体を貸すって……ちょっと、分かんない。なんか怖いな」
「好きでやってんじゃねーよ。慣れだ慣れ」
そうやって篝火を追いかけながら暫く歩き続ける。すると、白濁に染まった木々の連続は相変わらずだが、少しだけ地形に変化が見られるようになった。
「根っこが大きくなってる」
足元の木の根を跨ぎながらトウカが呟いた。
「根っこというより、樹自体がな。北側は植物の肥大化が顕著だ。道の整備だって間に合ってねーし歩き辛いったらありゃしねえ」
舌打ちをしつつ、シヅキは大木に蹴りをかました。ドンと音が鳴るとともに、白濁の葉が何枚か落ちてきた。
「それに……魔素の濃度が」
口元に手を添えるトウカ。さすがに吐きはしないだろうが、シヅキにも彼女の行動が理解できた。
やけに魔素の濃度が高い。身体中がジリジリと逆立つような感覚と意識のブレに襲われる。気を抜いてしまえばその場に倒れ込んでしまいそうだ。 ……そういうわけにもいかないが。当然のことだが、魔素の濃度が高いというのはいつもと状況が違うということだ。
――そして、状況が違うということは……
「っ……!」
一瞬間、トウカの身体が跳ね上がったかと思うと、彼女は背中に提げていた錫杖を抜いた。
「シヅキ!」
「ああ」
彼女が何を言わんとしているのかはすぐに分かった。シヅキもすぐに体内の魔素を脈立たせる。
「体内魔素の操作……急速はダメだから。適宜情報は伝えるからゆっくりね……!」
「……わーってるよ」
軽く舌打ちをしつつ、シヅキは頭の先の先にイメージを浮かべる。ソレはいつだって同じだった。
「シヅキから見て右方向。数は二人。武装は大剣とダガ……短剣!」
「ああ……こっちも準備できた」
トウカが叫ぶように言ったと同時に、シヅキの武装も完了した。手に握られたのは無骨で、禍々しい……漆黒に染まった大鎌だ。