灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

27 / 135
変な子

 

 目の前に並ぶ2体を交互に見やった後、茶色の癖っ毛が印象的なホロウは露骨に怪訝な表情を浮かべた。

 

「……あなたたち、何があったのほんと」

 

 サポートが主な役回りの雑務型……その1体であるソヨは、心底呆れた声で訊いた。

 

「シヅキとトウカさん……2体がチームを結成してから数日が過ぎて、そろそろ慣れだしたかなー? なんて思っていたけど。蓋を開けてみたら、あらあらまあまあ」

「……チッ」

「あー! 今シヅキ舌打ちしたよね? いいのかなー? ソヨさんにそんな態度とっちゃって」

「うっせーよ黙れ。虫酸が走んだよ!」

 

 ドスの効いたシヅキの声はオドのロビー中に響き渡る。2Fの連絡通路から数体のホロウが覗き込んだ。

 

「……クソがよ」

 

 吐き捨てるように言ったシヅキ。彼が頭上を睨み付けると、すぐに野次馬たちは顔を引っ込めた。

 

「シヅキねぇ、もうちょっと低圧的な態度にしてくれない?」

「あ? 低圧?」

「高圧的の対義語。雑務型の中で流行ってるのよ。嘘だけど」

「……今日の任務はこなしてんだ。俺はもう帰んぞ」

「ちょっと、シヅキさぁ」

「……付き合ってやる義理はねーんだよ」

 

 漆黒のフードを目深にかぶったシヅキ。睨むようにしてソヨを見た後に、そそくさとロビー奥へと消えていってしまった。

 

「あー……もう」

 

 額に手を当てて、首を横に振るソヨ。シヅキを呼び止めることも諦めてしまったようだった。

 

「……ごめんなさい」

 

 そんなソヨを見て、小さな声で謝罪するホロウが1体。両手にギュッと握られた錫杖は小刻みに震えていた。

 

「初めにオドを訪れたときは、あなたたち……相性は悪くないかなって思ったんですけどね」

「あまり、良くなかったみたいで……」

「今のシヅキはちょっと会話出来ないみたいで。厄介なんですよ。あそこまで怒ってしまうと」

 

 そう言いながら、シヅキが消えていったロビー奥を一瞥したソヨ。視線を戻した先にあったトウカの表情は、今にも泣き出してしまいそうだった。

 

「私の、せいで」

「トウカさん……」

 

 すっかりと、どんよりしてしまった雰囲気。ソヨは自身の頬をポリポリと掻いた。

 

(どうしたものかなぁ)

 

 心の中で呟いたソヨ。こればかりは2体の問題であろう。雑務型という役職は、他の型のサポートはすれど、個人間の友好関係にまでは踏み込まない。

 

 トウカから提出される魔素は、他のホロウと比べて別段少なすぎる訳ではなかった。魔人を浄化して、魔素を回収する……そんなやるべきことはやっているわけだ。任務の遂行に支障は出ていない訳だから、ソヨとしては、2体の問題に我関せずの態度を取ってしまっても問題ないわけだが。

 

「……」

 

 改めてトウカを見た。白銀の髪が少しだけ掛かった琥珀色の瞳は、ひたすらに足元を見つめている。 ……というよりは前を見られないのかもしれない。本当にシヅキとのことについて落ち込んでいるのだろう。

 

(いい子なんだろうなぁ)

 

 それは、数回会話を交わした程度のソヨにでも分かることだった。そこに関しては演技でも何でもない、性格なんだろうなと。

 

 ――だからこそ、企みを抱きオドへとやって来た彼女の動機が気になるのだが。

 

ソヨは、トウカが溢してしまった“あの言葉”を思い出しながらそう思わざるを得なかった。

 

「ハァ」

 

 どこかの誰かのように溜息を一つ吐いたソヨ。兎にも角にも、対話しなければ分かるものも分からないだろう。

 

「……変な子が入ってきたなぁ」

「え」

「あ、やば。口に出てた」

 

 ソヨは口元にサッと手を当てたが、当然それは意味のある行為ではない。ソヨを見上げるトウカの表情は訝しげだ。

 

 そんなトウカを見て、ソヨは明るい口調でこう提案した。

 

「トウカさん、少しだけお話しましょうか」

「お、お話ですか?」

「ええ。 ……ですが、雑務型は個人間の問題まで踏み込むことはできません。プライバシーと呼ばれるもののせいで、です。なのでここは業務をサボろうかと思います」

「え……?」

 

 呆気にとられたようで口を半開きにしたトウカ。それをを気にすることもなく、ソヨはトウカの手を強引にとった。そしてニッと笑う。

 

「ガールズトークでもしようか! トウカちゃん」

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。