灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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特殊作戦

 

 状況や環境がいくら変わろうが、時間は徹底的に淡々と過ぎていく。シヅキが気がついたときには翌日が今日となっていた。

 

「……眠ぃ」

 

 ベッドから起き上がり、部屋に備え付けられた鏡で姿を映し出すと、すっかりと眼元が充血した自身が居た。込み上げてきた重苦しい溜息を躊躇いなく吐き出す。

 

「今日は、どうすっかな」

 

 ヒソラから告げられた療養期間は今日までだった。つまり、魔人刈りへと逃避をすることは叶わず、胸の中に溜まったこのわだかまりとは、否が応でも向き合わなければならない。それはあまりにも憂鬱なことだった。

 

(部屋に篭るか、適当にどっか出かけるか……)

 

 辟易(へきえき)とする二択に悩まされていた時だった。身体の中に小さな違和感を憶えた。

 

「! ……魔素が流れ込んできやがった」

 

 誰かからの通心(つうしん)だ。流れ込んできた魔素を変質させて、言語へと変換する。

 

(アークの管理部からの一斉送心(そうしん)だ……なんだ?)

 

 そこにはこう示されていた。

 

 

『キンキュウ トクシュ サクセン ガイヨウ ツタエル ダイホール シュウゴウ』

 

 

 眉を潜め、シヅキは呟いた。

 

「特殊作戦? ……んだよ、それ」

 

 困惑しながらも、シヅキは普段着である黒の外套(がいとう)を身に纏った。

 

 

 

※※※※※

 

 

 

「再び、至急の召集となってしまったことを謝罪する。浄化型のコクヨだ。事は一刻を要するのだ。まずはそのことを理解して欲しい」

 

 大ホールの壇上にて、集まった数十という規模のホロウを前に、コクヨが淡々と言葉を連ねる。それはちょうど前回の“絶望”による被害報告の時と同じであった。

 

 ――ただ、前回と異なるのが。

 

(ホールの後ろで立っているホロウ共……あれは上層部の連中だよな?)

 

 アーク関係者に支給される制服を、さらに仰々しくしたモノを着たホロウ達。彼らの殆どをシヅキは見たことがなかった。 ……でも、何となく分かるのだ。どことなく横柄さを感じる彼らの眼は、権力者の持つソレではないだろうか。

 

 シヅキ以外のホロウにも気付いている者が多いのだろう。ホール内の空気は緊張の糸で張り詰めていた。

 

(普段は碌に顔を出さねえくせして、何で今日は)

 

 漠然とした嫌な予感を抱きつつ、シヅキはコクヨの言葉へと耳を傾ける。

 

通心(つうしん)でも記載した通り、オドは特殊作戦を決行する。今から事の経緯、具体的な作戦の内容等を話す故、心して聴くように」

 

 コクヨがそう言うと、眼鏡をかけたホロウ――“絶望”と対峙した時にシヅキとトウカの救援へとやってきた1体――が複数枚の資料らしきものを手渡した。ソレを受け取ったコクヨは資料を一瞥した後に、淡々と話を始めた。

 

「先日、獣形(けものがた)の魔人である、通称“絶望”の浄化と、奴が有す魔素の抽出に成功したことは知らせたな。昨日解読型のホロウから連絡があり、魔素から過去の人間の記憶情報を解読したと報告があった。その結果……」

 

 スッと空気を吸ったコクヨはこう言ってみせた。

 

「棺の滝の奥にある未開拓地、“から風荒野(かぜこうや)”周辺が人間の大きな生活拠点となっていたことが明らかとなった。更に、ここはかなり大規模な施設群がひしめいたらしい。大都市の跡地である……ということだ」

 

 このコクヨの言葉に対し、ホール内が一時ざわめいた。

 

「大都市の発見……」

「人間が密集していたってことは……魔素が充満している可能性が高い、ってことだよね?」

「それって大収穫のチャンスじゃないか?」

「でも……強い魔人がたくさんいるんじゃ」

「そうなるだろうなあ」

 

 シヅキの周りからも、そのような声が重複して聞こえてきた。概ねシヅキが直感的に思ったことと同じである。

 

「静粛にしろ! コクヨ隊長と上層ホロウの方々の前だぞ!」

 

 不機嫌そうに眼鏡をかけたホロウが呼びかけて、ざわめきは沈んでいった。

 

 それから間も無くして、コクヨが再び言葉を発する。

 

「皆が口にしていた通り、人間が密集していた地帯には、人間の記憶が残っている。つまり、人間の復活の手がかりとなる記憶情報が眠っている可能性は非常に高い。調べる価値は十分にある。 ……さて、本題だ」

 

 コクヨが後ろを振り向き、軽く会釈をすると後ろに整列をしていた上層部のホロウ達が一斉に前進した。壇の先端に整列する。

 

「上層部のホロウと話し合った結果、我々オドのホロウは特殊作戦を決行することにした。具体的には、から風荒野の制圧と、そこに存在する魔素の回収だ。当然、それ相応の魔人が存在するだろう。植物形状の魔人が在る可能性もある。この作戦には大きなリスクを伴うが、我々は取るべきだと判断した。全ては、人間の為だ」

「人間の、為…………」

 

 シヅキの隣に立っていた女性ホロウが小さな声で呟いた。

 

(人間の……為か)

 

「あの! 差し出がましいですが、一つ……いいですか?」

 

 その時、挙手とともに恐る恐るの声が上がった。気弱そうな男性ホロウの声だ。

 

「許可する。言ってみろ」

 

 コクヨが答えると、男性ホロウはやはり気弱な声で続けた。

 

「確か、から風荒野付近にはノイズの渦巻きが発生していて侵入が不可だった筈ですが、それはどうするおつもりでしょうか?」

 

(……? ノイズの渦って、薄明の丘で発生していたっていうアレか?)

 

 少し前にあったヒソラの発言を思い出す。彼が言うのは、薄明の丘にはノイズの渦が原因で侵入ができなくなったというのだ。それと同じ現象が別地点で起きていたのだという。

 

「ああ。そのことを加味して話を続けよう。 ……知っている諸君も多いと思うが現状、から風荒野周辺にはノイズの渦が発生している。中へと強引に入ろうとすると、外側へ弾かれてしまうことは既に実証済みだ。故に、まずはこのノイズの渦を破りたいと考えている。特殊作戦の決行はそれからだ。そこで、ノイズの渦……通称、“結界”を破る為に、調査団を結成し、先行的にその調査にあたりたいと考えている」

 

 コクヨはそう言った後に、シヅキを含めたホロウ全体を俯瞰するように見た。 ……そして、一呼吸を開けてこう言ってみせた。

 

「既にメンバーは決定している。悪いが、拒否権はないものと考えて欲しい。調査にあたるのは明日からだ。棺の滝周辺を制圧した後に、簡易的なキャンプ地とする。その他、細かい情報はワタシの話の後、通心にて送るため、そのつもりで居て欲しい」

 

(明日? ……えらく急だな)

 

 そのように考えたのは言うまでもなくシヅキだけではなかった。案の定、再びホロウ達がざわついたが、今度は制止の声以前に収まった。

 

 再びコクヨが言葉を紡ぐ。

 

「それとは別に、たった今から調査団のメンバーの対象を、発表する。リストを配るので皆一度、眼を通して欲しい。 ……では、頼む」

 

 コクヨが1体のホロウに目配せをして、少し経つと、ホール後ろから数体の雑務型のホロウが現れた。彼らは胸元に抱えた紙束から1枚ずつを各ホロウへと配っていった。

 

(知り合いの名前くらいは入っているか……?)

 

 心の中で呟き、寄越された紙にザッと眼を通す。

 

 ……通して、唖然とした。

 

 

「………………は?」

 

 

 

〜下記メンバーを結界の破壊に向けた調査団として結成する。原則的に辞退は許されないが、止むを得ない理由がある際は本日中に管理部まで連絡をするように〜

 

対象者(順不同)

 

浄化型:

 

・コクヨ

・エイガ

・アサギ

・シヅキ

・サユキ

・チコ

・ライカ

・クロウ

 

抽出型:

 

・ソウマ

・トウカ

・リーフ

・フィア

・ヒョウ

 

解読型:

 

・ヒソラ

 

 

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