灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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ろまんちっくな羞恥心

 

 それからすぐに結界の調査が行われた。

 

 指示の中心となったのはコクヨだった。彼女の指示により浄化型が4体、抽出型が3体、そして解読型のヒソラが結界の調査に当てられた。やはり指名制であり、メンバーは初めから決められていたかのようだった。

 

 去り際にコクヨはこのように言った。

 

「なに、ホロウごとに個体差があるだろう。必要ならお前たちを頼らせてもらうだけだ」

 

 そのセリフに、自身の心を見透かしているニュアンスをシヅキは感じ取った。

 

 結界の調査に当てられなかったシヅキのようなホロウはというと、何も仕事が無いわけではなかった。結界周辺の魔人の排除、彼らにはソレが命じられていた。

 

 結界から少し離れたところを歩く。

 

「はぁー! つまんないすねー!」

 

 頭の後ろで両腕を組みつつ、左右へ揺れながら歩くエイガが不満げに嘆いた。

 

「エイガさんは結界の調査をしたかったのですか?」

「そーそー、そーすよ! 魔人を(ころ)すなんていつもやってんじゃないすかー!」

「とは言ってもなぁ。少なくとも浄化型である俺たちが出る幕は無いんじゃないか? 先ほどのシヅキが教えてくれたろう」

「んだよ」

 

 こちらへと視線を寄越したアサギを、シヅキはギロリと睨んだ。

 

「いやいや! 結界に強い力を加えてもビクともしなかったじゃあないか。それ以外に他意は無いって!」

「……そうかよ。ならまぁ――」

「かわいかったよ〜? お姫様抱っこ〜」

「っ――!」

 

 リーフは地雷を踏み抜いた。シヅキの頭に先ほどの記録がフラッシュバックをする。途端に彼の身体が急激に熱くなった。

 

 フードを被り、目を伏せたシヅキの肩にサユキがソッと手を添えた。

 

「シヅキさんが気にする事はないですよ。コクヨさんが吹っ飛ぶシヅキさんを受け止めるためにお姫様抱っこをしただけじゃないですか」

「そうかな〜? ろまんちっく? めるへん? 照れてる〜シヅキくん〜かわい〜」

「リーフさん! シヅキさんはお姫様抱っこをされて、且つ皆さんに見られたことについてとても気にしているのですよ。触れないのが吉です!」

「おい、全部聞こえてんだよ」

 

 シヅキは大きく溜息を吐いた。身体が異様にダルい。もはやノイズの影響か羞恥心のせいなのか分からなくなっていた。

 

「……ふふっ……」

「む? トウカ、今笑ったか?」

 

 アサギの問いかけを機に、皆の視線がトウカへと集まった。シヅキも伏せた目線を恐る恐ると上げる。そこには明らかに頬が綻んだトウカが居たのだった。

 

「い、いえ……笑っては……ふふっ……はは」

「笑ってますね」

「にこにこちゃ〜ん」

 

 釣られて笑いだしたサユキとリーフ、そしてアサギ。場がすっかりと笑いに包まれたところで、シヅキは堪らず声を差し込んだのだった。

 

「おい何がおかしいんだよ! ト、トウカ!」

「え……いや……ハハッ……だ、だって……抱っこで照れてるシヅキ、すごい面白いから……ひひ……」

「後で覚えてろよ……クソッ」

 

 さすがにこの場でトウカを断罪(デコピン)する訳にもいかず、シヅキはただ頭を掻きむしるだけだった。

 

「トウカちゃ〜ん、けっこー可愛い〜。わたし〜ほどじゃな〜〜〜い」

「え……え?」

「リーフさんはトウカさんを褒めているのですよ。トウカさん」

「そ、そうなんですね。あ、ありがとう……ございます?」

「ええん〜やで〜」

「にしてもトウカ、結構喋るんだな! てっきり1体でいる方が好きなのかと思ってたから、少し安心したよ」

「えっ……と……は、はい。楽しい、雰囲気は好き……だから」

 

 声がしりすぼみに小さくなるトウカ。気が小さい彼女の周りに何体ものホロウが集まっている絵面は随分と違和感があるものだった。

 

(あいつ……楽しそうだな)

 

 話題の中心から弾かれたシヅキは、ようやく落ち着いて周りを見られるようになった。改めて見るトウカは明らかに緊張をしていたが、それ以上に楽しそうにわらっていた。 ……それこそ昨日のソウマとの一件や、調査団への不安感が嘘のように。

 

「皆さん楽しそーっすね。頭ん中、お花畑って感じで」

 

 ふと背中に呼びかけられた声。振り返ると左右に振れながら歩いてくるエイガが居た。

 

「適当にその辺ほっつき歩いたんすよ。こりゃ近くに魔人は居ねーっすね」

「あぁ……すまんな。任せちまって」

「別にどーでもいいすよ。 ……放っとかれることは慣れてるんで」

 

 普段の陽気な態度は鳴りを潜めているようで、どこかつまらなさそうな表情を浮かべているエイガ。一体何があったのだろうか? とシヅキは疑問に思ったものだが、それを声に起こすことはなかった。

 

 なぜならば――

 

「――っ」

 

 突如襲ってきた頭痛に、シヅキは自身の頭を押さえた。

 

 結界から離れて、周囲を歩き続けること十数分。会話のしすぎで気づかなかったらしい。どうやら再びノイズの発生地帯に足を踏み入れてしまったようだった。

 

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