灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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再会

 

 

 それから何が起こったのか、よく覚えていない。

 

 ノイズの渦を一身に浴びたせいか、はたまたトウカの心が流れ込んできた影響か。何にせよ、気がついたときにはシヅキは渦の中心、ノイズが皆無の空間である“結界”前に立っていたのだった。

 

「よ、良かった。上手く、いったね」

「…………」

「シヅキ?」

「え? あ、あぁ」

 

 ノイズの渦を抜けた達成感なんてものはまるで無かった。シヅキの心はひたすらに困惑で満たされ止まなかった。 ……ノイズによる後遺症も今のところは感じることのない。

 

 首の後ろをポリポリと掻きつつ、シヅキはポツリと溢した。

 

「本当に“結界”を誤魔化したってのかよ……」

「シヅキーーー!!!」

 

 その時、そんな太い声が響き渡った。反射的に眼を向けると、大振りに手を振りこちらに駆けてくる大男の姿があった。

 

「アサギ」

「おお、良かったなあシヅキ! お前に会いたかったぞ!」

「あ、ああ…………なんでお前半泣きなんだよ」

 

 シヅキが引き気味にそう突っ込むと、アサギはズビビと音を立てながら鼻水を啜った。

 

「そりゃあ泣きたくもなるだろう! 俺の大事な友がただ一体苦しんでいたのだぞ!」

「と、友だと……?」

「む? 友に決まっているだろう。頼りになる戦友ではないか」

 

 アサギはニッと笑うと、シヅキの背中をパンと叩いてみせた。そして首後ろに腕を回し、肩を組んだのだ。

 

「お、おい……何を……」

「いいじゃあないか。少しくらい」

「俺が気にすんだよ! 何で今日はこんな馴れ馴れしいんだこいつ……!」

「アサギさん、シヅキさんを守れなかったことを気にされていたのですよ」

 

 肩を上下に揺すられブレる視界に飛び込んできたのは、眼鏡をかけた軽装のホロウだった。

 

「アサギさんは浄化型の中でも魔人の攻撃を集める盾役ですからね。“守る”という行動には大きな責任感が伴っているのでしょう」

「サユキか……」

「こんにちはシヅキさん。お久しぶりというには短すぎますかね」

 

 いつものようにメガネをカチリと上げたサユキは、アサギに肩を組まれたシヅキの周りをグルリと回ると一つ頷いたのだった。

 

「外傷は特に見られませんね。ノイズの渦の影響もありませんか?」

「ど、どうなんだ? シヅキ!」

「お前はもう離れろって! ……別にねえよ」

 

 強引にアサギを引き剥がしたシヅキは項垂れるように大きく溜息を吐いた。

 

「お前らがどこまで知っているか知んねーけど。ノイズの渦を越えるのは、トウカが何とかしてくれた」

「せ、正確には私だけじゃない……ないんですけどね。ここのみんなも知恵を貸してくれました」

「……そうだったのか」

「ええ。とは言うもののわたしやアサギさんは力及ばずでしたけどね」

「全くだ。殆どはトウカとリーフだけで渦の突破案が出されちまった。魔素に関する知識量が違ってな」

「……ん? リーフ?」

 

 キョロキョロと辺りを見渡したシヅキ。しかし今ここに居る彼ら以外にホロウの姿は見られなかった。

 

「なぁ、そういやリーフのやつは――」

「ここよ〜」

「は? ――どわっ!?」

「もと暗しリーフちゃん〜」

 

 シヅキが振り向いた直後、リーフはシヅキの足元から迫り上がるように視界に現れた。思わず姿勢を崩して尻もちをついたシヅキ。見上げたリーフは満足気にニヨニヨと笑みを浮かべていた。

 

「い、居るのなら居るって言えよ……」

「残り物〜ふくふく〜」

「わからん」

「リーフさんは最後に登場した方がサプライズ感が出て良いよね、と仰っているのですよ」

「……ずっと思っていたが、お前のその翻訳ってどうやってんだ」

「長い付き合いですからね」

「あう〜〜〜ん!」

「……そうかい」

 

 傍から見たって分からないものはあるか、と自身の中で割り切った(?)シヅキは、ヨロヨロと立ち上がると周りの景色を俯瞰し、「あー」とただ無意味に声を出した。薄く目を開くと、トウカ、アサギ、サユキ、そしてリーフがこちらを見ていた。

 

「…………」

 

 異様なまでの照れくささを感じた。身体が熱くなる感覚に襲われる。それは今から自身がしようとしている行為への大きすぎる違和感である。 ……でも、だからって躊躇うことは違う。キャラじゃない、とかそういう問題ではないのだ。

 

「あのよ」

 

 意識的に瞬きを繰り返し、その視界を懸命にズラし、シヅキはポツポツと溢すように言った。

 

「俺なんかのために……その、色々と考えてくれてよ……あ、ありが…………とう」

 

 言いきった後に、シヅキは既に逸れつつあった視線を真下へと完全に逸らしてしまった。以前コクヨにお姫様抱っこをされた時と同じ感覚に襲われる。彼の顔は、耳まで真っ赤になっていた。

 

「シヅキく〜ん」

 

 そんな彼に対して、初めに声をかけたのはリーフだった。シヅキは自身の上唇を下歯でギュッと噛んだ後に、本当に恐る恐る顔を上げた。

 

 上げたら真っ暗だった。

 

「シヅキく〜ん、よく言えたね〜かわいね〜」

「お、おい……! 何を……」

「ご褒びぃ〜?」

 

 そこでシヅキはようやく状況を理解出来た。どうやらリーフに頭ごと抱擁されているらしい。

 

「は、離れろって!」

 

 彼がそんな気恥しさに耐えられるわけがなく、リーフの両肩を掴み、強引に引き剥がした。

 

「むふひゅ〜」

 

眼前のリーフは、その眠たげな眼をさらに細め、やはり満足気に笑っていた。

 

「……お前のこと、よく分かんねーよ。リーフ」

「顔好きだから〜頑張った〜ね」

「リーフさんは、シヅキさんの容姿がそこそこ好みらしいですね」

「んだよそれ」

「一番好きなのは〜リーフちゃん〜だけど〜」

 

 屈託なく笑うリーフはずっとご機嫌な様子で。言葉とか、思考とか、そういうのはやはり分からない。分からないが、確かに言えることもちゃんとあった。 ……それは、彼女もシヅキがノイズの渦を抜けたことを喜んでいることだ。

 

 (よくもまぁ、こんな短い付き合いのくせして誰かのことを思えるよな)

 

「ほよ〜?」

 

 しばらく無言でいたシヅキを不思議に思ってなのか、そんな声とともに大袈裟に首を傾げたリーフ。その様子を見たシヅキはフゥと満足気に息を漏らすと、

 

「いい加減、離れろって」

「ニャ!?」

 

 彼女の額を軽い力で弾いたのだった。

 

「あ……」

 

 それを見たトウカがどこか残念そうに息を漏らしたのは何故だろう?

 

 

 

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