灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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宣戦布告

 

「わ、私が回収をしていた還素薬の隠し場所をお教えします。なので、ソウマさんの治療はソレを使って、ください」

「……ほう」

 

 辿々しくトウカが言い終えると、コクヨは自身の眉を大きく上げてみせた。

 

「驚いたな。まさかお前にそのような手助けの意志があるとは」

「手助け? ……そんな訳ない。今あなたに(ころ)されないための最善策、だよ」

「ああそうだろうな。であるならば、その言葉はハッタリだろうか?」

 

 喉の奥で笑いながらコクヨが近づいてくる。それだけでもシヅキにとっては大きすぎるプレッシャーであった。決して彼女には敵わないという“絶望感”……それが否応もなく加速してゆく。

 

 でも、どうしても大鎌だけは離さなかった。

 

 そんなシヅキの肩にポンと手が添えられる。

 

「シヅキ、ありがと。大丈夫だから。 ……あの、嘘だと思うなら私の頭の中を覗いて、みたら?」

「……どういう意味だ」

 

「コクヨさんって、()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

「……え」

 

 シヅキの口から細い声が漏れた。コクヨが浄化型ではない? トウカは確かにそのように言った。

 

 …………。

 

(いや、そんな筈がない)

 

 心の中で否定をしたシヅキ。一方でコクヨは淡々と尋ねたのだった。

 

「なぜ、そのように思った?」

「……いいの? 長話すると、ソウマさん助からなくなる、よ」

「お前の言葉の真相を識別する必要があるだけだ」

「答えに、なってない。今必要なことは、ソウマさんを助けることじゃない、の? 私が嘘を言ってると思うなら、確かめればいいよ」

「――っ! おい、トウカ!」

 

 いつの間に移動したのだろうか? 気がついた時には、トウカはシヅキの目の前に立っていた。それだけでも危険にも程があるが、なんと彼女は(おもむろ)にその手を伸ばし、コクヨの腕を掴んだのだ。

 

「ほら。これで、思考でもなんでも読み取ったらいい、よ」

「……お前。想定よりもよほど狂うているな」

「怖いけど、あなたがたった今に手を出すことはない、と思ったから」

「ああそうか……そうか……ヒヒッ、そうか」

 

 コクヨは何度も「そうか」と反芻をしつつトウカのことを軽く押し返した。それだけでもトウカの身体は簡単に後ろへと倒れそうになったものだが、最終的にはシヅキの胸の中にポスっと収まったのだった。

 

「シヅキ、相応に気を遣うがいい。コレは無謀を知らぬ。 ……ヒソラを媒介し、還素薬の場所を通心にて教えろ。篝火と共にな」

「…………」

 

 そう言い放ったコクヨはシヅキたちの間をスルリと抜けるようにして、“結界”から遠ざかってゆこうとする。

 

「いいのかい? トウカちゃんを覗き見なくて」

「なに。お前が口出ししない事が何よりの裏付けだ。さて、どこからが筋書きか?」

「……うるさいなぁ」

「まぁ良い。 …………いいか? ()()()()()()()()()

 

 その言葉を聞いたヒソラの表情が明らかに不快へと歪んだものだったが、ついにその手をポケットから出すことはなかった。

 

 ソウマを胸辺りに抱いたコクヨ。その細い脚がシヅキ達の真横を通り過ぎて行った。その間に彼女の眼がシヅキ達のことを捉えることは一度たりともなかったのだった。

 

「あの、コクヨさん。最後に一つだけ、いいですか?」

 

トウカの呼び掛けに対し、コクヨの脚がピタリと止まる。それを確認したトウカはこのように言い放った。

 

 ――シヅキにはとてもじゃないが()する事の出来ない言葉を、言い放ったのだ。

 

「あなたの計画にとって(トウカ)が邪魔なように、私にとってあなた(コクヨ)のことがすごく邪魔、なの。だから……だからね……必ず(ころ)すよ」

「ヒッ! お前がか?」

「私には無理。一体じゃ何も出来ない、よ。せいぜい誰かに頼ることくらいだもの。 ――シヅキ」

 

 シヅキの袖部分がギュッと握られる。既にシワだらけの外套に、更にシワが刻まれる。

 

 トウカはなんの躊躇いもなく、再び言葉を紡いだのだった。

 

「シヅキが、(ころ)す。コクヨを、(ころ)す。私のために、やってくれる。 ……そういう宣戦布告」

「ククク、ヒヒッ! そうか……そうか!」

 

 バッと後ろを振り返ったコクヨ。彼女の凄惨たる黒の眼が、確かにシヅキを捉え尽くした。

 

「シヅキ、暫く後にベースキャンプまで来い。ワタシのことを(ころ)しに来い。全力にて応えてやろうか」

 

 口元が裂けるほどに吊り上げられた笑いを見せたコクヨの姿が一瞬にして()えた。呆気もなく。理不尽的に。あたかも夢のような。 ……しかし、決して夢ではなかった。胸の中に抱いたトウカの体温がソレを教えてくれたのだった。

 

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