灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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対 コクヨ②

 

 無数の蔦、蔦、蔦、蔦。

 

 斬り捨てた側から新たに生成され、縦横無尽にシヅキへと襲い掛かる。以前のモノとは比べモノにならなかった。(ころ)すという強い意志……斬り払いながらシヅキはソレを感じた。

 

 時折、蔦の中央に佇むコクヨと眼が合う。闇空よりも黒き(うつろ)なる右眼、そして眼帯の下に隠された琥珀色の左眼。一方でシヅキは知恵の種(インデックス)を飲んだ影響で、右眼の視力をすっかり失ってしまった。どうなのだろうか? やはり、大いなる力には代償が必要なのだろうか? シヅキだって、自身の存在ごときでは代替のしようが無いモノを、確かに捨て置いてきた訳だが。

 

 

 ブチッッッッッ

 

 

 蔦の繊維を見事に横断するように横薙ぎつつ、シヅキはそのような思考を重ねていた。彼が薙いだ蔦の数は実に100を越えていた。

 

「はァ……はァ…………はァ」

 

 遠くの方で、枯れ枝に変化を遂げた腕を抱き、肩で呼吸をするコクヨがこちらを睨み見ていた。彼女の腰元には得意の長身刀が携えられているが、蔦の猛攻中にソレが引き抜かれることはなかった。 ……蔦と枯れ枝による攻撃と刀による斬りかかりは両立が出来ないらしい。安直に考えるとそういうことになる。

 

 加えて、蔦による攻撃とは随分と燃費の悪いものらしい。なんてったって、あのコクヨが大きく疲弊をしている。先刻、鎖に囚われていた時にでも余裕そうな素振りを見せていたのに。 ……もしかすると、鎖の破壊をすぐに行わなかった理由はそこにあるのだろうか? 自身の身体に大きく影響を及ぼしうるのだから。

 

 異形と化した自身の腕をシヅキは撫でる。そのような仮説とは、コイツが()()()()()()。 ……ああ、実に頼りになるものだ。

 

 乾いた唇を舌で舐めたシヅキは、意味もなく右腕をコクヨへと向けた。

 

「本気を出してくださいよ、コクヨさん。 ……俺が知っているあんたは、もっと圧倒的だった筈です」

「……逆撫でているつもりか」

「“ミィ”とでも鳴きましょうか?」

「アレはワタシの複製だ!」

 

 パン、と周りの蔦が破裂をすると同時に、コクヨがこちらへと駆けてくる。その手には得意の刀が握られていた。どうやら非共存にある考えとは合っていたらしい。

 

 シヅキは自ら動くことなく、コクヨのことをただ待ち構えた。

 

 

 ――その間、たった一言を呟く。

 

 

「アサギ、頼む」

 

 

 ガギィィィィィン!!!!!

 

 

 耳の内側で音の波紋が広がってゆく。心地の悪い音だ。だがその金切り音とは、シヅキの無事を知らせるものであった。

 

 構えられた大盾の隙間より、歯を軋ませるコクヨの表情が見える。シヅキがグッと脚を踏み出すと、途端に盾を押す左手の力が弱まった。コクヨが後ろへと後退をしたからだ。

 

「コクヨさん、俺はエイガを失っちまったあんたとは違って、一体じゃない。これは正々堂々とした勝負じゃ無ェ。残酷な袋叩きですよ」

「……自身の記録(きおく)を、有り余った魔素により再現しているのか」

「あんたはずっと、エイガとソウマとつるんでいたからさ。こういうことは出来ないですよね」

 

 コレにコクヨは答えなかった。ただその刀を振るう。振るう。振るう。力任せでは無い。軌道と強弱、タイミング、間合い全てを変え続け、シヅキを(ころ)さんとした。

 

 シヅキはソレを弾く。ひたすたに弾く。腕を折り、大盾を自身の身体へと密着させる。盾に刀が擦れるたびに橙の火花が飛び散った。時折飛んでくる盾にて対処の出来ない攻撃は、自身の右手にて弾いた。その度に罪悪感が積もってゆく。

 

 そのような剣撃がしばらく続いたところで、コクヨがついにボロを出した。

 

 盾の正面を捉えた甘い一撃。当たったのはちょうど刀の先端のみで、作用された力とは、先ほどまでのものと比べて、半分程度しかなかったのだ。

 

 

(今だ!!!)

 

 

 自身のものではない声が耳鳴りのように響く。ほぼほぼ反射と同じ速度にてシヅキは全体重を盾へと預けた。地面を踏みしめ、コクヨのことを弾き飛ばす。

 

「ッ……!」

 

 彼女の口元から息が漏れ出たと共に、シヅキは大盾を自身の身体へと仕舞った。開けた視界へと映ったのは、地面を横転するコクヨの姿である。

 

 それは好機以外のナニモノでもなかった。

 

 

「ラァ――――!」

 

 

 その身を全て投げ捨てるかのように、シヅキは右腕を振りかぶる。狙いはコクヨの首だった。そこには躊躇の一つもない。

 

 

『シヅキ!』

 

 

 脳裏を支配するトウカの表情。シヅキは不乱にトウカのことだけを思い、その右腕を振り下ろしたのだった。

 

 

 ――否、振り下ろそうとしたのだった。

 

 

「………あ?」

 

 シヅキは愕然とした。なぜ振り下ろせないのだろうか? まるで腕が動かない。空中で固定されてしまったようで……いや、固定されている……?

 

 

「シヅキ……ワタシとは、ワタシの願いを届かせる」

 

 

 独特な言い回しをするコクヨの声が聞こえてくる。頭から尾まで震えた声だった。執念と、信念に満ち満ちた声……。

 

 ここでシヅキはようやく状況を把握したのだった。振り上げた右腕が地面から生えた蔦にて巻き取られていること、そして、自身の胸を1本の枯れ枝が貫いていること。フラフラと立ち上がったコクヨの手には確かに刀が握られていた。

 

「……ブラフとは、ワタシの得意分野だ」

 

 剥き出された琥珀の瞳がシヅキを捉える。彼女もまた同様に、何の躊躇もなく、その刀を振るい上げたのだった。

 

 

 グシュ

 

 

 肉と骨を裂く、最低な音が棺の滝にて虚しく鳴った。

 

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