灰色世界と空っぽの僕ら   作:榛葉 涼

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闇空へと堕ちる

 

  次に気がついた時には、空へ向かって堕ちていた。

 

 眼を失い、肌を失い、感覚を失い…なのに堕ちていることはすぐに理解ができたのだから不思議だ。堕ちている。落ちているのではない。堕ちているのだ。

 

 無いはずの眼を開いた。そこには闇が広がっている。黒を黒で塗りつぶしたどす黒い闇……一体、この闇の正体とは何なのだろうか? 答えを出せないその疑問にはとっくの前に背を向けた筈なのに。空へと堕ちていく過程にて、脳裏をチラついたのだった。

 

 ふと横を向く。見知った顔ぶれがそこには在った。

 

 

 アサギ、サユキ、エイガ、レイン。他にもたくさん……知っている者から、知らない者まで。

 

 彼らを認知し、自らを悟った。捨て置かれたのだと。

 

 

 ……………。

 

 

 無いはずの眼を閉じる。自らの中に、自らでは無い存在を感じ取った。ただ、彼らは入ってきたのでは無いのだ。ずっとずっと昔から。それこそ自らが存在を始める前から、自らの中にあり、自らを象っていた。故に、“忘れていた”という表現が最も近しい。

 

 自分は、自らへと“確認”を行うことにした。

 

(ごめん。たくさん混ざり過ぎちゃってて、今まで声に気がつかなかったけどさ。君たちは、生命があった頃の人間だね? )

 

 そう尋ねると、自分の中で自らの声が反響をした。無いはずの耳で確かに聞き取る。

 

(そうか……この闇の原因はやっぱり人間だったんだね。取り返し用の無い罪を……隠す? 美談? そうかい。教えてくれて、ありがとう。ありがとう)

 

 お礼を言うと、人間の声は聞こえなくなってしまった。多分だけれど、人間が語ることを止めたのではなくて、自分の方に問題があったのだ。

 

 

 ――もう、思い出せない。自分とは……一体どのように呼称をされていたのだろうか? 横に在る顔ぶれとは、一体誰なのだろうか?

 

 

 無いはずの頭を使った。記録(きおく)を探し求める。記憶ではなくて、記録。自分たちを人間以下の存在として位置づけるためのケジメ。

 

 

 自分はたった2つを追録(ついおく)した。1つは、自分がとても強い信念を持っていたということ。でもその内容を思い出せない。すごく大事なことだったのに……忘れちゃいけないことなのに、忘れてしまったなんて。

 

 

 ――でも、もう1つのことはちゃんと覚えていた。その名前を繰り返す。

 

 

(シヅキくん、シヅキくん、シヅキくん…………)

 

 

 自分を捨て置いたホロウ。自分を犠牲とし、己が力として取り入れたホロウ。その目的とはとてもくだらなくて……自分はシヅキの為に犠牲となった。犠牲、犠牲となった……。

 

(でも……それは、君が救いへと辿り着くために必要だったんだね)

 

 その原動力は痛いほどに理解ができた。99と100、どちらを選ぶかって訊かれれば、後者を選ぶことは当然で……。これはそのような話なのだ。つらつらと語るは、たったソレだけなのだ。

 

 無いはずの眼を再び閉じた。1つ目の追録、その内容がポッカリと抜けているのはきっと、自分の半分程度が()()()()()()()のだと悟った。残った自分が持っている。まだこっちに受け渡したくはないようだ。

 

(自分は……酷い奴だね)

 

 闇空へと堕ちる、堕ちる、堕ちる。末路とは闇だった。 ……闇で待っているよ。また会えたら、その時は少しくらい愚痴を聞いてもらってもいいかな? それくらいは許しておくれ。 

 

 

 ――たださ、それまではさ。

 

 

 (今は、君のことを手伝うよ。シヅキ)

 

 

 無いはずの心に、誓いを立てた。

 

 

 

 ※※※※※

 

 

 

 ……………………

 

 ……………………。

 

 ……………………!

 

 腕が熱い。熱い、熱い、熱い、熱い、熱い。

 

 魔素がみなぎる。なんだこれは? 余力なんて言葉は不適格だ。 ……だとするならば、この力の名前とは何なのだろうか?

 

 それについて思考を巡らせる前に、幻覚がシヅキの前に現れた。

 

 

 ――ダボダボの白衣を着た、背の低いホロウが、何を言うでもなく、通り過ぎていく。

 

 

「……ブラフとは、ワタシの得意分野だ」

 

 次の瞬間、視界一杯にコクヨが映る。蔦で拘束をしたその身に向けて、剥き出しの刀を振るい上げていた。このままでは(ころ)される。突破には力が必要だった。

 

 故に、シヅキは(こいねが)った。

 

 

『仕方ないなあ。分かったよ、シヅキ』

 

 

 その幻聴が、後押しをした。

 

 「…………っ!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 グシュ

 

 

 肉と骨を裂く、最低な音が棺の滝にて虚しく鳴った。

 

「ガ…………アァア゛…………!!!」

 

 

 

 

 耐えがたい痛みに、コクヨがその顔を歪める。

 

 

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