一旦別れの言葉を飲み込み、私は誤魔化すように視線を周囲に走らせる。
何処か、落ち着ける食事処とか、軽食が取れる喫茶店のようなものはないのか?
しかし場所が悪いのか、見渡しても冒険者相手に商売していそうな酒場しか無い。
未成年と見目麗しい女に優しい店はないのか、この通りには!
麗しいのは見た目だけだがな!
此処で別れるものだとばかり思っていた少女に縋るような目を向けられ、私は分かりやすくパニックに陥っている。
目的が有って此処を目指していたのでは無かったのか?
そんな
そもそも、この少女とまともに会話をした記憶が無い。
食事時にも、食事の手伝いのときも、森の移動中だって、当たり障りのない会話程度のことしかしていない。
少女の風体から訳アリと判断して、深入りしないようにして来たのは私だ。
いやだって、こんな、10代前半っぽい少女が1人で森の中で彷徨っているのなんて、訳アリ以外にないと思うだろう、誰だって。
……その訳を聞けば、面倒事に巻き込まれだろうと触らず放置した私のミスなのだが。
取り敢えずもう、飲食店を探して移動するのも面倒になったので、手近な酒場へと2人で向かうのだった。
少し値は張るが、良い酒が有るとウェイターに言われ、興味があったので聞いてみるとどうやらウォッカが有るらしい。
聞き間違いかと思ったが、やはりウォッカだという。
異世界都合良い……と思って聞き流していれば、どうやらすぐ西の古い(やけにこれを強調していた)交易の街で作られるようになった酒だとか。
何やら地脈がざわつく西と、そちらから流れてきた、聞き覚えのある名前の酒。
同郷の人間の気配をヒシヒシと感じるが、面倒事は御免なので興味を押し殺し、エールと果実飲料、それと適当な食事を頼む。
同郷の人間だからと無条件に信用して接触出来るほど、私は脳天気な
それに、同郷とは言っても、ざっくりとしすぎている。
日本人だと期待して会いに行って、アメリカ人とかロシア人だったりしたら、生活環境が違い過ぎるのでお互いに共感もしづらいだろう。
そんな事を考える辺り、我ながら呑気だという自覚は有るが。
「……それでは、少しお話をしましょう」
今更感が漂う中、私は埒もない逃避から思考を戻して少し吐息を漏らしてから、言葉を紡ぐ。
少女は少し緊張の面持ちで此方に視線を向けてくる。
「貴女は、何がしたかったのですか?」
……我ながら、あんまりな質問である。
もうちょっと訊きようが有るとは思うのだが、じゃあどうすれば良いのかは思いつかない。
少女は私の目を見ていたが、すいと視線を外して下を向くと、言い
両親が死んだこと。
故郷の村は貧しく、1人残された少女が生活するには環境が厳しかったこと。
成人まで後1年(15歳で成人らしいので、つまりは14歳という事か)を迎え、街へ出て冒険者として生活しようと決意したこと。
冒険者になろうとは思っていたが、具体的なプランは無かったと言うこと。
私はすぐに感想を言うことも出来ず、酒場の煤けた天井を見上げる。
何と言うか、行きあたりばったりなのは否めないが、そこに至る経緯が物悲しい。
「村で飢えて死んだら、私の死体を燃やしたりお墓を作ったり、周りに迷惑をかけてしまう。でも、冒険者が何処かで野垂れ死んでも、それほど迷惑をかけない」
そんな事を聞かされてしまっては、軽率に掛ける言葉は浮いてこなかった。
「褒められた決意では無いですね」
ウェイターが持ってきたエールを受け取り、チビリと喉を湿らせてから、呟く。
「ですが、貴女の決めた事です。私が口を挟むことではないでしょう。無理をするな、程度のことしか言えませんね」
口調には気を配った
私は思ったよりも、この少女に同情してしまっているらしい。
知らず、沈んだ雰囲気になった私達。
私がどうしても冒険者になりたいという意見に頷き難いのは、環境の所為だろう。
視線を無作為に巡らせるだけで、私の目に飛び込んでくるのはまあまあガラの悪い冒険者と思しき群れ。
酒の席だし、特に気が大きくなっているのだろう、なかなかに粗野な雰囲気があちこちで見受けられる。
奥の方では、喧嘩してる連中もいるし。
「……冒険者、本気でなりたいんですか?」
私は白けた視線を少女へと戻し、思わずそんな事を口にしていた。
つられて周囲を眺めていた少女は私の言葉に視線を戻し、私の目を見上げてくる。
「……他に、思いつかないんです……」
そうして弱々しく呟くと、しゅんとして視線を落とした。
冒険者の実態、一面でしか無いがそれを見て、少女は今更躊躇しているようだ。
私はその様子を、笑いもせず、じっと見つめる。
内心で言えば、むしろいい傾向だとすら思っていた。
冒険者のすべてが粗野で下品で荒々しいとは思わないものの、しかしこうも目に入る冒険者達が押し並べてそんなモノばかりだと、自説を曲げたくもなると言うものだ。
そもそも店のチョイスをしくじったというのは、ありありと感じている。
「おう、姉ちゃんよ。アンタ1人かい?」
不意に掛けられた酒臭い声に、私は堪えていた溜息を漏らしてしまう。
先程から数人、此方を不躾に眺めているのは知っていたが、やはり声を掛けてきた。
どう見ても此方は2人連れなのだが、コイツの目はガラス玉か何かなのだろうか。
私は、少女に向けていたものとは別の、心底から軽蔑しきった瞳を声がした方へと回すのだった。
そして定番の揉め事です。