こんな世界に転移……というか拉致られて、気が付けば何年だ?
なんだか馬鹿でかい力を与えられて、それでも無力感に苛まれて、そして仲間に出会って支えられて。
なんかゴチャゴチャとしたイベントを幾つかこなしたら、貴族様に保護されたり王都で王様の前でガチガチに緊張したり、小市民の心臓は破裂して無くなりそうな出来事なんかも有って。
最近は特に目立った問題もないけど、聖教国の事は警戒を緩められない。
そんな真面目なフリしても、仲間達には過保護気味に心配されつつ過剰にイジられている、そんな俺です。
朝起きて半裸で屋敷内をウロウロしてたら仲間に怒られて、きちんと着替えて朝食を摂るといういつものルーティーンをこなし、冒険者ギルドでバイトがあるからと出掛けた料理人のウォルターくんと、商業ギルドで打ち合わせがあるからと連れ立って出掛けたレイニーちゃんとレベッカちゃんを見送り、俺はとてもヒマになった。
若年組も、朝から
「ちょっとイリス。悪いんだけど、カイさんトコいって、荷物受け取ってきてくれない?」
そんな俺に、赤い狐面を付けた、俺の双子の姉ことリリスが声を掛けてきた。
「んあ? 別に良いけど、お前が行かないのも珍しいな?」
勝手にホイホイ出掛けるか、俺を引っ張って冒険者ギルドの
「私はこの後、商業ギルドの方に顔だして、レイニーちゃんと一緒に打ち合わせなのよ。それに――」
狐面を外しながら、どこか面倒臭そうにリリスは赤い瞳を閉じる。
俺とリリスの外見上の違いは、狐面を別にすれば、その瞳の色しか無い。
双子ってコトになってるけど……まあ、細かいことはこの際置いておこう。
「アンタ、最近サボってるでしょ? もう北門の入場待ちの列に
リリスの言っている意味が
サボるって、棒振り剣術モドキは欠かしてないし、
「ここ最近平和だったからって、危機感薄まってるんじゃないの? どうせここからじゃ探知も探査も届かないんだから、素直に
溜息混じりに言われて、やっと俺は思い当たった。
思い当たってしまった俺は、やっぱり嘆息してしまう。
「危機感云々じゃなくて、単純に
リリスの手解きで、俺も霊脈とやらを覗き込めるようにはなった。
なったんだけど、そこに色んな情報が有ったり、やりようによっちゃあリアルタイムの霊脈上の情報をある程度視ることが出来たりするのも
情報云々よりも、そこに渦巻くエネルギーの奔流が怖すぎて、あんまり深く潜ったりは未だに出来ないのだ。
いざとならなきゃ、やりたくない。
とは言え、リリスが警戒しちまうようなナニカがこの街の北門まで来てしまっているらしいし、いざって事態の一歩手前の可能性もある。
「そういうのはもっと早い段階で言ってくれよなァ」
溜息ついでに愚痴ってみれば。
「怖いとか情けないこと言って、霊脈に触れなかったアンタの落ち度でしょうが」
ピシャリと返されて、俺は何も言えなくなるのだった。
北門の外、ゴブリン村の入り口を守衛ゴブリンくんと馬鹿話を交わしつつ通り過ぎ、村長のカイくんと村の状況や酒造に関して軽く話し、お土産の酒類を受け取る。
衛兵の皆さんや冒険者有志の方々の協力も有り、村は平和そのものだとか。
酒造の方も順調で、樽の熟成を促進する魔道具の方も順調に稼働中、一般流通用のウオッカやウイスキー、ブランデー共に順調だそうだ。
酒造りを始めてある程度時間が経ったのも有るんだが、時間経過を早めるなんて言うある意味禁忌か国宝級の魔道具を作ったウチのレイニーちゃんとリリスは、素直に凄いと思う。
ちなみに、その二人から見た俺は、別に凄いともなんとも思われていない。
アルバレインの酒造所は、今やこの領の宝になっている。
気がつきゃ町の外に小麦やら葡萄やらの畑が出来てたりと、領主様の本気度が凄い。
その畑も衛兵さんやら冒険者のみなさんが見回ってくれてるので、害獣は勿論、不届き者もうっかりとは手出し出来ない状況だ。
頼もしいやら恐ろしいやら。
そんなこんなでお使いも終わり、カイくんの本気か社交辞令か判断の難しい呑みの誘いを適当にあしらって、俺は入場待ちの人の列を横目に、北門を潜って街へ戻る。
俺は見た目は美少女()なのだが、中身はおっさんだ。
男に誘われても少しも嬉しくないのだ。
どうでも良い雑念をなんとなく中断して、俺は少しだけ意識を集中させる。
リリスの話だとここが現場な訳で、此処までくれば霊脈にアクセスする必要も無い――筈だ。
まずは探知を走らせると、びっくりするくらいすぐに、黄色の要注意反応が出た。
すぐ近くに3つの反応がある。
タイミングが良すぎて作為的な何かすら感じてしまうが、ともあれ確認しなければ始まらない。
近すぎるので目視での確認を、と思えば。
そいつは、擁壁沿いに造られた、慰霊碑に目を向けていた。
俺の失敗で失われた、少なくとも俺はそう思っている、12人の慰霊の碑。
それを無表情に眺めているのは、銀髪の髪を風にそよがせた、メイド服の。
それも、俺的ポイント激高の、英国風のメイド服を纏った女。
旅に向く服装とは思えない。
だが、わざわざ着替えたとも思えない。
見たところ手荷物らしきも持っていない、身軽に過ぎる、風変わりと言うには余りにも怪しい女。
俺の目に写るそのレベルは、718。
ついでに言えば、種族は「自律人形」。
レベル100超えも殆ど見ないこの世界で、化物とも言えるレベルの高さだ。
ちらりと視線を回せば、すぐ近くに冒険者風の女と、背の高いゴシックドレスの女、それとフレンチスタイル……っ
それぞれ、レベル721、322、881。
一番低いヤツでも300超えで、しかも揃いも揃って自律人形とか、ホントに化け物がやって来てくれたモンだ。
面倒臭さに、今日何度目かの溜息が漏れる。
とは言え、何を仕出かすか判らん以上、見過ごして
ボヤきたい気持ちを脇にどけて、俺はその女の背後から声を掛ける。
まあ、もう気付かれているのかも知れないが。
「それは、この街の馬鹿な大人の勝手な判断で失われた、子どもたちの名前だよ」
ゆっくり振り返った女の表情は乏しく、やはり気付いていたのか、冷静に見える。
いや、冷静というよりも。
その瞳は冷たく、無表情と言っても差し支えが無いように思えた。
似たような境遇から、全く異なる環境を築き上げた者達。どうなるのでしょう。