アルバレインに拠点を構える、天から落ちる大火球を操る双子の魔女。
イリスだけだったらまだ別人かと思い込む事も出来たが、同じデザインの色違いの狐面を着けた少女がご登場とあっては、それも困難だ。
狐面のみならず、ご丁寧にも同じ様なデザインの軍服を纏っている辺り、仲が良いと言うよりも、判りやすくアピールしていると捉えるべきだろう。
ただし、イリスと違ってタイトスカートを着用しているが。
タイトスカートで全力疾走したらそれはもう大変な事になるのだが、そんな場面になっても他人事だし、どうでも良いことだ。
その
だが、例によって私の鑑定は通らない。
それは別に良いのだが。
「おーうリリス、思ったより早かったじゃねえか。まあ、ここにレイニーちゃんが居る時点で、商業ギルドの用事は終わってんだろうとは思ってたけどな?」
「そう思ったんだったら、なんで素直に屋敷に戻んないのよ、この馬鹿ちゃん」
ケラケラ笑いながらイリスが誂うと、リリスと呼ばれた少女はプリプリと怒ってみせる。
仲の良い姉妹だ。
「
「言い訳になってないこと言ってんじゃ無いわよ」
ヘラヘラ笑う……どっちが姉だ? ともあれ、そんなイリスに噛みつくリリス。
そのリリスの隣で、にこにこふわふわと微妙な高さで浮いている身なりの良いお嬢様。
そのお嬢様にも鑑定が通らないのは、一体どういう
隠蔽だったら、私と同レベル程度の可能性も有るが……もし違っていたら。
これもまた、私の手には負えない化け物だったとしたら。
「キャンキャン騒いで
手元の情報に無かった事態に困惑する私を他所に、イリスは手慣れた様子で離れた位置にいるウェイトレスを手を上げて呼び、リリスと呼ばれた少女は狐面を外しながら、エマの隣へと腰を下ろす。
メアリーと呼ばれたお嬢様は、更にその隣。
全員が少しづつ席を詰めるだけで、あっという間に二人分の席が出来るのは良いのだが、何故その位置なのか。
姉妹だし、隣同士に座るかと思っていた私は、こんな事にすら戸惑う。
「私もメアリーちゃんも、いつもの
「今日はウォルターさんが居るハズだからー。サンドイッチをお任せで頼んでみないー?」
イリスに呼ばれてやって来たウェイトレスを前に、顔を向け合うリリスとお嬢様ことメアリーは、そんな事を言い合っている。
サンドウィッチ伯爵が転生している訳でもあるまいに、サンドイッチが存在するとは。
偶然の一致と考えるよりは、私も知らない転生者なり転移者なりが絡んでいると見たほうが良いだろう。
今は見も知らぬ転生者等よりも、すぐ傍の化け物達をどうにかせねばならない訳だが。
少なくとも、この街で警戒すべきは魔女2人だと思い込んでいたのだが、それでは済まなかった様だ。
これでは、まだ他に化け物が潜んでいても
つくづく、一言の忠告も無かった賢者様への不満が募る。
「ところで、知らない顔が混ざってるんだけど? グスタフさんトコの新入りとか?」
考え込んでいた私がハッとして顔を上げると、リリスと呼ばれた少女の
血のようなその瞳は吸い込まれそうで、容易に目が離せない。
これが、魔女の
「いんや? 今日この街に着いたばかりの、旅人なんだとよ。酒が呑みてえっ
意味もなく息を飲む私をフォローするように、翠の瞳に悪戯な光を浮かべて、イリスが口を開く。
そんなイリスに反応したリリスが私から視線を外してくれたお陰で、私は緊張から開放される。
酷く疲れる空間だ。
「なんだァ? お前んトコの新入りじゃねえのか?」
ジョッキを抱えてアリスと酒談義を繰り広げていた短髪髭男が、不思議そうな視線を私たちやイリスにせわしなく向けている。
「なァに言ってやがんでえ、ウチは冒険者クランだぞ。ただの旅人を囲う様な真似は、基本的にはしねえよ」
そんな視線を受け止めたイリスは、肩を竦めてジョッキを煽る。
見た目と言動が合わな過ぎて、どうにも違和感の主張が激しい。
「基本的には……な」
そんな彼女が、意味深に繰り返した。
ありがちな、良く見る展開だと思うが、当事者になると気が気ではない。
意味深な含みを持たせるのは辞めて欲しいものだ。
こんな落ち着かない気分の仲間を探して周囲を見るが、アリスは短髪髭男と同じようにキョトンとした顔で、カーラは此方には関心を失ったように隣の少女と談笑し、エマはただひたすらに笑顔だ。
むしろ初対面の筈の魔法使い然とした少女や冒険者然とした少女の方が、私に気遣う視線を寄越しているような気さえする。
ままならない物だ。
「まあ、出会ったのもなんかの縁だろ! 今日んトコはウチに泊まって行きな! 俺らに捕まって、真っ当に宿が取れる時間に開放される
不安を感じる私に、更なる不安を重ねて連ねて、イリスは呵呵と笑う。
「理由にならない事と、理由にしちゃいけない事。旅人さんが可哀想」
魔法少女の呟きは、私の心情をそのまま映していた。
この街の冒険者ギルドは侮れない。
酒類は思ったよりも豊富で、カクテルまで扱っている。
加えて、料理が美味だ。
唐揚げやポテトチップスなど、どこか見慣れたメニューの多さが多少気になったが、その出来栄えは素晴らしいものだった。
唐揚げは塩唐揚げだったが、文句などあろう筈もない。
文句が有るのは、その後の事だ。
「何故、私がこんな目に?」
完全に正体を失ったイリスを担ぎ、私は真夜中の通りを歩く。
「なぁに、酔っ払いなんてこんなモンでしょ」
隣のアリスが、同じようにリリスを背負っている。
「ごめんなさいねー? ふたりとも、お酒の飲み方が下手だからー」
先行するメアリーお嬢様が、振り返って片目を瞑る。
つくづく、力関係の良く判らない3人だ。
「ウチのマスターは、そんなにお酒に強くないのに、いつも調子に乗るから……」
「今日は脱がなかっただけマシ」
同じく先を歩く冒険者少女が溜息を
普段はどんな有様だと言うのか。
「途中でイリスが言ってたけど、こんな時間だし、ウチの客間を使って良いと思うよ? 流石に今からじゃ、宿を取るのも大変だろうし」
冒険者少女が、振り返る。
気の強そうな目元に人の良さそうな光を湛え、困った風に眉根を寄せて。
正直に言って宿を取る必要は無いのだが、その説明をするのも面倒だ。
それに、それこそ背中の少女に釘を刺されても居る。
「どうすんだい、マリア」
隣のアリスが、いつもの、普通の人間には聴こえない程の小声で私に問うて来た。
その顔を私に向けるでもなく、私も彼女に目を向けもしない。
「已むを得ません。化け物が2人、下手すると3人。大人しく言うことを聞いておきましょう」
私の返答も、夜の空気を小さく揺らすのみだ。
アリスと、その隣でエマを肩車したカーラが小さく頷く。
カーラは気がつくと、エマの台車になりがちである。
なんとなくいつも通りのエマとカーラの様子に心を癒やされつつ、背中の化け物を捨てる訳にもいかない私は、先導するイリスの仲間達の背を追って歩くのだった。
エマとカーラの仲の良さが少し意外です。