化け物かもしれないと思っていた存在は、真に化け物だった。
ある程度自分を上回る程度だったならばどうにかなると思っていたが、想定を上回れてしまっては笑うしかない。
実際には引き攣る頬を必死に抑えるしか無かったのだが。
「いやな? 俺もこういう、脅迫じみた真似はイヤだったんだけどな? 姉には逆らえんのよ」
狐面を外し頬を掻きながら、イリスが申し訳無さそうに眉根を寄せ、眉尻を下げる。
確認するまでもなくどちらが姉で妹かが判明した訳だが、喜んでいられる場面でもない。
「素直じゃなくて可愛げもないクセに、今更殊勝げに言われてもね。まあ、言質は取ったってことで勘弁してあげるけどね」
同じく狐面を外し、紅い半眼を向けるリリス。
その言葉に、慌てたように顔を向けているが、今更前言撤回は聞き入れられないだろう。
迂闊な発言は厳に慎むべし。
私は自身に言い聞かせる。
「ほらほらー、2人とも遊んでないでー? 用事が有るんでしょー?」
そんな姉妹をふわふわニコニコと眺めながら、メアリーお嬢様がぽんと手を合わせる。
なにやら楽しそうに見えるが、その印象は昨日の初顔合わせから変わっていない。
私達に対してテーブルを挟んで正面に、向かって左からお嬢様、リリス、イリスの順で座っている。
開示された情報は、左からレベル1721の
次いで、レベル1835、ニンゲン。リリス・イハラ・ファルマン。同じく称号で目を引くのは「
最後はレベル1628、ニンゲン。イリス・ケイス・ファルマン。称号は「
普通の人間が私達人形と渡り合うには、最低でも私たちの倍程度のレベルは必要だ。
仮に目の前の3名がただの人間だったなら、一番レベルの低いイリスでさえ、エマと互角ということになる。
だが、そのステータス値はもはや、人間とは言えない異常な数値を叩き出している。
あまつさえひとりは「
明らかに人間では無い。
他2名に関しても、良く見ると「ニンゲン」と言う表記で、他の人間種を
普通は「ヒューマン」だ。
普通の人間や、そこらのアンデッドと同じ様な扱いをしていたら、私が破壊されることになるだろう。
友好的に接してくるアンデッドなんて、少なくとも私は初めて出会ったが。
それ以上に、とても気になる事柄が有る。
そして、あの賢者様にはとても文句を言いたい。
大声で言いたい。
「そうね、馬鹿ちゃんの所為で話がそれるトコだったわ。私たちの用件は単純な確認よ。気楽に答えて頂戴」
輝かんばかりの笑顔を私たち、というか私に目を向けるリリス。
目が笑っていないので、少しも気を抜く気持ちになれない。
イリスが「俺の所為かよ!」とか騒ぐのを無視して、しかしアイアンクローを顔面にしっかりキメながら、リリスは質問を紡ぎ出した。
「アンタ達、この街に何の用なの? それと、アンタ達と聖教国の関係は?」
私は言葉を失う。
緊張ではなく、脱力によって。
気が付けば、リリスはともかく、イリスもメアリーも、真顔を私に向けていた。
まったく、何事かと思えば。
この
流石にそう言った行儀の悪い真似は自重し、静かに息を吐いて、そして答える。
「この街に来たのは、単なる観光です。信じるか否かはお任せします。ただ、聖教国に関しては、無関係ではありません」
リリスの顔からも、笑顔が消える。
私の両隣からは、緊張の気配が伝わってくる。
「どちらかと言えば、アレは敵です。関わる気は有りませんが、寄ってくるならころ……対処します」
思わず思ったことをそのまま言いそうになり、言葉を替える。
積極的に近付きたいとも思わないし、基本的な対応姿勢も本心だ。
そもそも私がこんな
友好的な感情など、有る筈もない。
私の言葉と視線を受けとめたリリスは、何故かぽかんとしている。
「……アンタ、ザガン人形なのよね? そっちのちびっこいのも。他2体も、元は別の人形師なのに、何故かザガンの技法が使われてるっぽいし。それで聖教国とは敵対関係?」
リリスの言葉に、今度は私が豆鉄砲を直撃された。
前半というか、途中までは良い。
どうせ格上が相手だ、私たちの素性もレベルもステータスも、丸裸にされているだろう。
だが、最後のはなんだ?
その言い分は、まるで。
「あー、質問を変えるぜ。聖教国に、お前らと同じザガン人形が居るのは知ってるか?」
考え込む私に打ち込まれたのは、イリスの口から放たれた物だ。
聖教国の聖女。
同じ名の、ザガン人形。
Za202、「
私はぎこちなく視線を滑らせ、此方に向いているエマのそれとぶつかる。
その顔に驚きはないが、笑みも浮いていない。
「……確証は有りませんが、私の知っている名前があの国に居ることは知っていました。それが私の知るモノかどうかの確認はしていません、が」
イリスへと顔を戻し、落ち着いて、口を開く。
アリスは、カーラはどんな顔をしているだろうか。
「
その名を出した瞬間、室内の空気が重量を増した様な錯覚に襲われる。
イリスは先程までの軽薄な表情を完全に失くし、厳しい眼差しのままで自身のウエストポーチに手を翳すと、その手の中に禍々しい天秤が現れる。
ほんの一瞬、その天秤に痛ましい視線を向けた彼女は、意を決したようにそれをテーブルの上に置いた。
「理解が早くて助かるぜ。とは言え、こっちも
曖昧な返答では解放してはくれないらしい。
目の前に置かれた天秤に、私は目を落とす。
話に聞いた程度の知識だが、これが私の知っている物だとすれば。
私は覚悟を決め、正直に回答せざるを得ない。
「もう一度、リリスと同じ質問を繰り返すぜ。お前さんにはまず、ありのまま答えると宣誓して貰おうか」
偽証をすれば死ぬ。
逃げれば破壊される。
闘っても勝てはしない。
私はイリスの目を見据えて、深く頷いた。
どうやら私の「姉」が、順調に「お父様の願い」のために動いているようですね。