迷子のマリア   作:naow

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大人しく話を聞いていられるでしょうか?


111 犠牲者たち

 カナエ、レベル46。

 18歳、職業(クラス)闘士(ファイター)

 本名、掛川佳苗。

 称号……「犠牲者」。

 

 

 トモカ、レベル47。

 18歳、職業(クラス)魔砲士(ガンナー)

 本名、明石智香。

 称号……上に同じ。

 

 

 

 この2人のレベルなら、「明示」が無くとも「鑑定」で隅々まで見渡せる。

 闘士(ファイター)はともかく、魔砲士(ガンナー)はあまり見たことのない職業だ。

 確か、攻撃系統の魔法に特化した魔法使い(メイジ)だったか。

 例によって見える情報に気になるけれど触れたくないものが見えたので、絶賛逃避中である。

 

 称号持ちなんて珍しい筈なのに、なんだか最近、当たり前のように見ている気がする。

 私の仲間たちも、なんだかんだで称号持ちだし。

 

 ちなみに、私の「墓守」は称号ではない。

 我が身体(ボディ)の創造主たるマスター・ザガンのちゅう……遊び心溢れる何かだ。

 称号らしい称号は、私は持っていない。

 ……そう思って自身のステータス情報をこっそり鑑定してみれば、ちゃっかりと「犠牲者」とあった。

 

 いつ付いたのかなんて、野暮な事は思うまい。

 アリスにも同じものが付いている。

 

 緊張気味の2人の少女。

 

 同じ称号を持つ、4人……2人と2体。

 更には、「世界を渡るもの(キャラクター)」だの「巻き込まれたもの(プレイヤー)」だの。

 

 こんな称号持ちを同じ場所に集めておいて、偶然と言うには無理がある。

 これこそが、私たちが疑われ、そして今後の話の根本ともなる物なのだろう。

 

「えっと……私から話せば良いのかな?」

 

 何となくしげしげと眺めていると、カナエが恥ずかしそうに目を逸らしながら口を開く。

 隣のトモカも落ち着かなげにソワソワしている辺り、室内の視線がこの2人に集中していたらしい。

 

「あー、いや待ってくれ。取り敢えずウチと聖教国のアホどもとの関係と言うか、因縁を話しとく」

 

 少し考えた風を装って、イリスが頬を掻いた。

 考えがあってこの2人を呼んだらしいが、どうやら段取りは決まっていなかった様子だ。

 カナエは素直に頷き、イリスは咳払いをする。

 見た目が可愛らしいので、ただの誤魔化しにしか見えないのが、なんとも言えず微笑ましい。

 

 そうして話し始めたイリスに、リリスがちゃちゃやら補足やらを入れたのは。

 

・聖教国は人間種至上主義である(知ってた)。

・その聖教国が、他種族を駆逐する為に宗教を利用し、武力的な意味での恫喝目的で無闇に「召喚」を行っている(知ってた)。

・実は「召喚」とは名ばかりで、実態は他の世界……まあ、地球から強引に魂だけ呼び寄せ、こちらの世界で用意した新鮮な死体にその魂を定着させる為のモノである(知ってた)。

・「召喚」で呼び寄せた魂を死体に結合させると、魂は欠損情報を補うように用意された死体と強く結びつき、その作用で概ね普通の人間よりもレベルが高くなる。

・そのレベルが最初から100を超えていれば聖教国にとって「アタリ」、それ以外は「ハズレ」であり、「勇者」或いは「勇者候補」となる(知ってた)。

・現在、レベル300を超える「アタリ」は存在しない。従って、聖教国の中枢では「レベルは300が限界」説が主流。そのレベルを超えている筈のリズは、何も言っていないようだ。

・そんな聖教国が、この街のゴブリン村と、そこの酒造所に難癖を付けている。

・曰く「ゴブリンは全て殲滅ないし追放し、酒造所は聖教国が管理するべきだ」、と。馬鹿かな?

・聖教国は軍の派遣を匂わせている。間にあるカルカナント王国(ベルネとかトアズの所属する国)はどういう理由で通る心算(つもり)なんだろうか?

・その裏で、「アタリ」の暗部の連中が再三この街、と言うかゴブリン村への襲撃を企て、全て未然に防がれている、イマココ。

 と言う事らしい。

 

 だいぶ端折って纏めたが、それでもこの長さ。

 説明を真面目に聞いていた私は、褒められるに値すると思う。

 

 ともあれ、こんな楽しい連中の仲間だと思われていたのなら、いっそすぐに破壊されなかっただけ良かったとも思う。

 

「……まあ、こんなトコだけど。なんか質問ある?」

 

 説明中に嫌気が差してきたのだろう。

 イリスの口調はいつにも増してぞんざいだ。

 

「質問と言うか、疑問ですが。聖教国には、馬鹿しか居ないのでしょうか?」

 

 代表して私が率直な意見を言えば、優雅にお茶を楽しんでいたリリスが咽た。

 化け物でも、気管にお茶は苦しいらしい。

 とは言え、この世界の最大宗教でも目指しているのかも知れないが、やり方が杜撰だし色々と考えが足りていないと思うのは本心だ。

 

 少しは、()()()()のやり方を学べば良いのに。

 

「馬鹿ばっかりだろ。特に、勇者なんて呼ばれて調子に乗ってるハズレどもは」

 イリスが傍らで咳き込む姉に憐憫の視線を向け、すぐにその視線をこちらに向けて言う。

 そんな棘しかない台詞に、カナエが居心地悪そうに身動ぎした。

 

 私はちらりと横目をそちらに向けると、すぐにこれも逸らす。

 

「……そちらのお2人が此処に居る理由は、それと関係していると。更に貴女(あなた)たちは、私とアリスが特に、それと関係しているのではないか。そう疑っているのですね?」

 

 私の中で納得と言うか、なんだかすっきりした。

 この姉妹がいつ知ったのかは不明だが、私とアリスの正体も掴んでいるに決まっている。

 

 聖教国に居座るザガン人形、リズ。

 それとほぼ同系で、かつ、「犠牲者」の称号を持つ私と、同じく人形の身体(からだ)のアリス。

 この姉妹の庇護下に居ると思われる、「犠牲者」の2人。

 

 カナエとトモカに確認しなければ断定出来ないが、恐らく。

 聖教国に魂を狩られた者に付く称号こそが「犠牲者」という事だろう。

 それを踏まえて考えれば、私は聖教国の関係者にしか見えまい。

 ある意味で正解なのがまた、絶妙に嫌なポイントである。

 

 私の左頬あたりに、カナエかトモカか、或いは両方か。

 視線が刺さるのを感じて、今度は私の居心地が悪くなるのだった。

 

 

 

 イリスの説明が終わり、カナエとトモカはその境遇を、私とアリスはこれまでの来歴をそれぞれの口から語り、室内がなんとも言えない沈黙に包まれる。

 

 聖教国にまで引き寄せられて、得た肉体と環境に違和感を拭えなかった2人。

 違和感どころか持ち上げられて調子に乗ったらしい「勇者様」との旅路で違和感は嫌悪感と結びつき、ここアルバレインでついに「勇者様」と決別。

 今ではこの屋敷、というかイリスのクランに厄介になっているのだという。

 そして、私のこれまで――偶然の事故で死んだと思っていたが、実はそれが聖教国の「召喚魔法」が関与していたこと、聖教国を遠目にした時の嫌悪感。

 必死に抗った末に先代「墓守」マリアの誘導に従って難を逃れたこと、そしてそれからの生活と旅路。

 アリスの始まりの、私に良く似たスタートからのこれまで。

 そういった事がそれぞれの口から語られ、経験者はそれぞれ共感を覚え、そうでない者は俄には信じられない、そんな面持ちだ。

 

「まあ、似たモン同士ってこったな?」

 

 それなのに、イリスの総括はあんまりにもあんまりだ。

 少なくとも地球側では4人死んだ訳で、それなりに重めの話だと思うのだが、そんなどうでも良い結論に結びつけるのはどうかと思う。

 

 間違っては居ないかも知れないが、そうじゃないだろう。

 

「こちらに来てからの経緯が、全然違うでしょう。私やアリスは人間ですら無くなったんですよ?」

 

 私は別のことをちらりと考えはしたが、それを隠して単純にイリスの台詞に噛みついて見せる。

「かと言って、人間の身体(からだ)を手に入れたとして、馬鹿に振り回されてろくに宿も取れない、そんな旅路を数ヶ月続けるのもイヤではありますが」

 本心からの言葉では有るが、言いながら、私は別のことに思考を向けていた。

 

 私たちが「犠牲者」と言うのは理解出来る。

 だが、イリスとリリス、2人のもつ称号は一体何なのか。

 どう考えても転移或いは転生者だと思うのだが、私たちと違う理由は何なのか。

 

 いや、そもそも2人が別々の称号を持っているのは何故なのか。

 

 理由はもう、その称号を目にするだけで予想は出来るのだが、それを訪ねて良いものなのか。

「なん()ーか、まあ、こっちの事情と、お前らの話を合わせて色々考えてみようかなって思ってたんだけど」

 イリスは私の疑念を他所に、大きく伸びをして見せる。

「タイラーくん達が混ざって来るんだもんなあ。カナエちゃん、言い難かっただろ?」

 その口調には緊張感は無いが、カナエとトモカの方に向けられたその視線には、気遣いが有った。

「タイラーくんよ、信じようが信じまいが、事情は聞いた通りだ。変に吹聴したり、雑な扱いするんじゃ()えぞ?」

 顔を向け直して発せられた内容はしっかりと釘刺しのそれだが、口調はやはりのんびりとしたものである。

 先の内容を、眼鏡男と金髪女は知らなかったと言う事だろう。

 となれば、双子の事情など知る筈もあるまい。

 

 下手な話の振り方で、双子に睨まれるような事にならずに済んで良かった。

 

「何も変わりはしないさ。転移だかなんだか知らんが、()()()()()()()()()()()()? 生まれが何処の誰だろうが、知ったことではないな」

 

 そんな風に自分のファインプレーに胸を撫で下ろした直後、そのタイラーという名の眼鏡の台詞に、私は全動作を停止させる。

 

 今の言い方はなんだ?

 その言い方は、まるで。

「まあ、そうなんだけどな? 俺らで言えば、リリスよりは俺の方が、こいつらとは立場が近いんだけども」

 受けて答えるイリスは飄々と、私の新たな予想に合致する事を平然と口にする。

 

 秘密だったどころか、もう既に話してあったのか。

 私の慣れない気配りを返して欲しい。

 

 言っても詮の無いことだが、そう考えてしまうのは仕方の無い事だ。

 口にしないだけでも、褒めて欲しいものである。

 

 私の表情はきっと、驚くほど憮然としていたと思う。




いつもほぼ無表情なので、驚く程では無いと思います。
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