突然茂みから歩み出た、無骨なメイスを担いだメイド服の銀髪女。
私がそんなモノに遭遇したなら問答無用で危険物認定だが、聖教国で勇者やその仲間として持ち上げられてきた彼らは、判断に時間を要したようだ。
筏作りの手間で止めて、間抜けな顔が私の前に並んでいる。
彼らの手元をよく見れば、嫌に都合の良い形・サイズの板材やら、綺麗に形作られたその他色々と見える。
この場で即席に用意した筏の材料にしては、手際が良過ぎはしないか。
そう言えばイリスが、こいつらは舟を手配しているようだと言っていたのを思い出した。
ほんの数分前、文句を言いながら作業していた男どもの様子を思い出す。
部品を用意して現地で組み上げることを、舟の手配と言われたら……それは文句も出るだろう。
「……誰だ? 俺達はただの漁師だ。その物騒な物を下ろして貰えるか?」
少し離れた所でタバコを咥えた渋めな雰囲気の男が、誰にも先んじて私へと声を投げてきた。
見た目の、と言うか肉体年齢は20歳前後に見える若さだが、その中身はどうだろうか。
レベルも162と、この一団の中では最も高い。
「これはこれは失礼しました。人目に付かずにコソコソと舟を作るなんて、漁師の方々とは思えませんでしたよ」
メイスを肩に担いだまま、私は肩を竦める。
「俺達のやり方さ。慣れるとなかなか便利だ」
飄然と紫煙と軽薄な台詞を吐き出す。
どういうやり方で、何が便利なのか。
私は漁業に精通している訳では無いが、舟の部品を持ち歩いて漁場でそれを組み立てる漁法は寡聞にして知らない。
仮にそんな方法が有ったとして、先程の会話を聞いてしまっている以上、騙されてやるのも難易度が高い。
私は溜息を落とすと、小賢しい三文劇場に閉園を告げる。
「なるほど、例えば暗殺だったり破壊活動だったり、便利そうですね?
川面を渡る風が吹き込み、私たちを覆い隠す林の枝を揺らす。
ぽかんとする男達の中で、慌てた様な顔が幾つか見える。
そんな少数の男達よりも更に現状を正しく判断出来た5人。
暗殺者達は、示し合わせたようにそれぞれが武器を手にしていた。
短剣短刀、取り回しの良さそうな武器をそれぞれ構えているが、私は特に感慨も沸かない。
身近な危険物がそれを手にするよりも、遥かに迫力を感じないのだ。
「……アンタ……あの街の、魔女の手下か」
タバコを足元で踏み消して、最初に私に答えた男が鋭い眼光を向けてくる。
頬に触れる風に混ざる魔力の流れ。
それはとても細く感じるが、恐らくこれは威圧系の何かだろう。
威圧か何か知らないが、それは私に何の影響も与えない。
そんなモノよりも、男の放った台詞こそが、著しく私の神経を逆撫でした。
「誰が、あの魔女の手下……ですって?」
思わず私のほうが威圧を放ちそうになるが、そこは堪える。
「誰の所為であの厄介極まりない魔女に目を付けられて……。誰の所為で神経をすり減らしたと思っているのですか」
しかし、恨み言が漏れるのは我慢出来なかった。
腹の中に渦巻くのは、理不尽な扱いを受けたことの鬱憤。
それもこれも、私の観光旅に合わせるように下らないことをしでかした、コイツらが悪い。
気を緩めて威圧感やら殺気やらを漏らして、逃げの選択を選ばせる事になったら面倒臭い。
私はメイスを握る手に力を込めて、殺気の発露をやり過ごす。
追いかけて殺すのはなかなか面倒そうだから避けたい所だ。
「何を言ってるのかイマイチ
その言葉と男の態度は、誰の目にも明らかな宣戦布告。
間抜け面を晒していた
ただし、状況の理解は――誰ひとり、正しく行えていない。
「死んでくれ。ああ、首くらいなら、あの魔女に届けてやるよ」
男の一言に、15人が下品な嘲笑を顔に貼り付けて動き出し、そして私は溜息を飲む。
女ひとりなら、平均30レベルの冒険者相当が15人も掛かれば余裕だろう、と思ったか。
5人の暗殺者たちは、しかし、その職業で有ることが疑わしい程に不注意だ。
取り敢えず、先陣きって横並びで掛けてくる捨て駒の前に軽く踏み込んで、私はメイスを右から左へと、大きく鋭く振り払う。
前列3人仲良く並んで武器を振り上げているところへ、向かって右の男の胸板に吸い込まれたメイスは、真ん中の男の胸部を粉砕しながら勢いを止めず、左の男の右腕ごと胸部を似たように抉り取る。
状況が整わねば、これほど綺麗に一振り三殺など決まらない。
私は溜息を漏らすように殺意の扉を開放し、翔んだ。
「殺す前に、遊んでも良いんだよなッ!?」
私が何をしたのか、まだ理解出来ていない者の下品極まる声が、場違いに響く。
前列に続いていた男達が唐突な惨劇を、その意味を飲み下す前に反射的に蹈鞴を踏んだ。
空白に支配された者、状況把握が遅い者、即座に警戒して盾に身を隠す者。
レベルには殆ど差が無いのに、その動きは素人同然からそれなりの空気を体感したことの有るものまで、見事にバラバラだ。
後列ともなれば、もっと反応は鈍い。
場数を踏んでいるであろう者達は見事と思えるが、いかんせんレベルが低すぎる。
或いは私と同格だったなら、この場の立場は逆転していたかも知れないが、勝負は時の運とも言う。
どこでどういった修羅場を踏んできたのか些か気にはなるが、仲良く談笑する場面ではない。
何よりも、戦闘慣れしたような手合は早めに潰すべきだろう。
私はいち早く身構えた男の真横に張り付くと、今度は先程とは逆に、左から右へとメイスを一閃させた。
盾が砕けて弾け、腕か胸板か背筋か判らない肉片が血飛沫とともに舞う。
フォロースルーの
この辺りで、男達は状況を把握し始めた。
身構えつつ傍観していた暗殺者たちも、ようやく危機感を覚え始めただろうか。
私を見るその目に、狼狽と混乱、そして恐怖が灯る。
ふはは、怖いか。
――私だって、もっと恐い目に遭ったんだ!
私は思い出し涙目になりながら、あの時の恐怖を、本来受ける筈だった者たちへと届けてやる。
振り上げる動作でひとりの脇腹から逆の肩口までの肉と骨と臓物を吹き飛ばし、振り返りつつの振り下ろしでひとりの頭頂から股間までを両断するように叩き潰す。
捻るように身を翻しながらメイスを振って更に2人、首のない死体に変える。
混乱しているのは
「なんだよこれ! 何なんだよ、この女!」
わざわざパニックに陥っていると自己申告してくれた正直者の脳天に、ご褒美のメイスをプレゼントする事を忘れない。
「……悪魔……!」
誰かの声が耳に滑り込んでくる。
大袈裟なことである。
私はレベルが高いだけの、戦闘素人だというのに。
踏み込んで相手の喉元に柄を叩きつける――
体勢を崩してから叩き潰す予定だったのだが、柄を突き込まれた勢いで吹っ飛ぶ男は、結果的にここまでで一番綺麗な死体となって大地に横たわった。
――この程度には膂力を持つ私が、あの双子を前にして怯えて縮こまるしか出来なかった。
私は思い出して背筋を凍らせ、私を取り囲む、しかし半数近くまで数を減らした男たちは血の気を失っている。
自称漁師たちとの心温まる触れあいから、5分程度が過ぎようとしていた。
ひどい八つ当たりですね。