迷子のマリア   作:naow

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その程度の障壁は、わ、私でも思いつきますとも。


117 増長と自重

 私の障壁が魔法矢(マジックアロー)を防ぐと同時に、周囲に衝撃波を撒き散らす。

 魔法矢(マジックアロー)自体の炸裂の衝撃波も相まって、周囲には暴風が吹き荒れ、障壁に取り付こうとしていた金属糸の侵攻を妨害した。

 それでも諦めずに私の障壁に到達した糸たちは、果敢にも巻き付き締め上げようとするが――果たせない。

 

 巻き付いた所で放たれた衝撃波で、全て千切れて風に舞い、何処かへと飛び去ってしまったからだ。

 

 吹き荒れる風が砂塵その他を巻き上げ、視界を奪う。

「化け物め……!」

 男達の中で最も状況を把握出来ている糸使いの男の声が、風に紛れて私の耳に届いた。

 

 忌々しさを内包したその焦りの声は、彼の仲間達に私の生存を伝えたのだろう。

 私を挟むように左右に展開していた2名がそれぞれ走り寄ってくる。

 正面からは、風に隠している心算(つもり)か、魔法の詠唱が聞こえてくる。

 

 正直、このまま障壁を維持して突っ立っているだけで、こいつらは全滅するんじゃなかろうか。

 

 考えている間に私の間近にまで迫った2名は、障壁をその短剣で斬れると思ったのだろう。

 刃が障壁に触れると同時に、またも爆発的に衝撃波が放たれる。

 

 カーラ発案の爆散式障壁は、私が思っていた以上に派手で喧しく、そして暴力的だった。

 

 250枚を圧縮して1層とし、4層展開させるのが本来の姿だが、今回は1層しか出していない。

 だというのに、その障壁は十数枚しか破られていないというのに、ひとりは得物を失い、2人が無謀な近接攻撃で爆散した。

 

 攻撃に対していちいち爆散してしまうので数で攻められればすぐに攻略できてしまう障壁だが、このように近距離で炸裂してしまえばただで済む筈もない。

 それこそが、この障壁の真価なのだ。

 格上の化け物相手にはただ破裂するだけの脆い障壁でしか無いが、格下相手なら。

 

 砂煙を割って跳躍する私に気付いた煙草男と糸使いは大きく飛び退いたが、詠唱愛好家は反応が遅れた。

 慌てて懐からスクロールを取り出して私に向けて拡げて見せると、彼の正面に魔法の障壁が現れる。

 

 とっさに魔法の詠唱を止め、即座にスクロールの使用を選択出来たのは素晴らしい判断力だし、見事だと思う。

 だが。

 

 私の障壁の特性を掴んでいなかっただろうから仕方がないのだが、彼は攻撃を捨てた段階で、防御ではなく回避を選ぶべきだったのだ。

 

 彼の障壁が私の障壁とぶつかった瞬間、彼はありったけの魔力で耐えようと思っていたのだろう。

 呆気なく砕けた()()()()と一緒に、彼は自分の防壁ごと爆散した。

 

 もはやメイスすら不要かな、等と考えた私だが、周囲の有様を見てすぐにその思いつきを振り払う。

 周囲に散っていた死体も含めて細切れの肉片と化してしまったそれらを、素材として拾い集めるのがとても面倒だったからだ。

 面倒すぎてもう、焼却廃棄したほうが楽といった塩梅である。

 

 溜息を風に乗せた私が振り返ると、顔色を失った男が2人、少し離れた位置でそれぞれ私に顔を向けていた。

 

「どうしました? 化け物だと知っていたのでは無かったのですか? 化け物の相手は初めてですか?」

 

 動こうとしない2名に、私は声を掛けてみる。

 こうまで一方的だと気分が高揚しなくも無いが、遊んでばかりも居られない。

 もう既に数回爆発騒ぎを起こしているのだから此方に気付いている冒険者等が付近に居るだろうし、監視者に至っては撤退を検討しているか、既に退いている恐れすらある。

 これ以上は目立たないように気を使った方が良いだろう。

 

 今更だと、自分でも思う。

 

「化け物にも、程があるだろう。何故貴様の様な化け物が、魔女に従っているのだ」

 

 糸使いは私の話を聞いていなかったらしい。

 少し離れた場所では、煙草男が静かに私を観察している。

「話を理解出来ない人達ですね。私はそもそもあの魔女の手下では有りませんよ」

 苛々を通り越してなんだか虚しくなった私は、障壁を完全に解いて肩を落とす。

 

 それを機と見たのか、糸使いが懲りずに、私を包囲するように糸を走らせた。

「手下で無くても、仲間なんだろう? 邪険にするのは良くないな」

 煙草男がわざとらしい動作で懐から煙草を取り出すして一本咥え、火を灯す。

 糸使いの意図を隠す手助けか。

 

 それこそ今更で、糸が何本、私の周囲にどのように展開しているかも把握しているのだが、まあ、正直に伝える必要もあるまい。

 私はうんざり顔でジェスチャーまで付けて、肩を竦めて見せる。

 

 そして、少し本気で跳んだ。

 

 私を見据えてタイミングを測っていた糸使いは、容易く私を見失い、そしてその頭部をメイスで吹き飛ばされるまで、私を見つけることは出来なかった。

「仲間? 圧倒的な力で脅してくるような物体を、仲間とは呼びたく有りませんね」

 血と脳漿が風に舞うさまを視界から外して、私は煙草男の横顔に視線を貼り付ける。

 

 反応の遅れた男は、最後に残っていた仲間が頭部を失って崩れ落ちる様子と、その後ろでメイスを払う私を見た。

 

 馬鹿な。

 

 私に向いた顔は口を動かすが、声になっていない。

 次々と仲間達が、あっさりとその命を散らして行ったというのに。

 私が、少しだけ速度を落として遊んであげていた事にも気付かなかった男は。

 

「貴方たちは、最初から勘違いしていたのですよ。あの街には」

 

 私は、場違いな滑稽さに気まずい笑みを浮かべる。

 それが、仲間を失い、恐怖というものを自覚した男の目に、どう映っているのかは知らない。

 

 かろうじて踏み止まり、短刀を構え絶望を()る男に、私は続く言葉を投げる。

 

「あの双子、そしてもうひとり。私を容易く捻り潰せる化け物が少なくとも3体、あの街には居るのですよ。本国に伝えるべきでしょうね」

 

 男は私に勝てないと悟ったこの段階で、ようやく話を聞く気になったようだ。

 私の言葉に顔色を失って行くが、本国へ、と言う台詞に希望を取り戻した。

 

 本国へ帰れ、そう言ったのだと、良く理解(わか)った様子だ。

 

 私はにっこりと微笑んで見せる。

 

「今更ですが」

 

 正面に居た筈の私の声が真後ろから聞こえた事を、彼はどんな表情(かお)で受け止めたのだろうか。

 

 私のメイスが振り下ろされるその瞬間まで、彼は振り返る事は無かった。

 

 

 

 周囲に探知を走らせ、探査を飛ばして此方に興味を持っているらしい反応が無いことを知った私は、荒れた現場の後始末を始めた。

 風で散った肉片その他を浄化させ、ただの土に馴染ませる。

 奇跡的に喉元の一撃だけで済んだ死体は手足を斬り落とし、残りは舟の部品と共に焼却して灰にする。

 

 焼け跡が残ってしまったが、まあ、気にしないことにしよう。

 

 現場は荒れているが、人が死んだ跡には見えない……と決めつけて作業を終わらせ、続いて私は最大範囲で探知を起動し、そのまま東方向へ走ってみる。

 半分諦めつつの作業だったからか、東――聖教国方面へ急ぐような反応を見つける事は出来なかった。

 

 まあ、逃してしまった物は仕方がない。

 

 それこそ、このまま逃げてしまえば私はひとりになれるのだと気付いたのは、残念ながら街に戻り、魔女の屋敷の玄関に入った後の事だった。




いい加減、仲間が出来て嬉しいと、素直に認めて欲しいものです。
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