うちのカーラが、お友達と人形を作りたいから材料をちょうだい、と、夏休みの自由研究をしたい子供のような事を言いだした。
その件も含めて、取り敢えず話を聞いてみると言うことで、カーラには床に正座して頂く。
尋問からのお説教コースが予想されるのだが、当の本人はまだその事に気づいた様子はない。
「
……交渉は普通、多めの数字から始めて、徐々に下げるように見せ掛けるものだろう。
増やしてどうする。
リリスは俯いて肩を震わせ、イリスは隠す気も無く爆笑している。
豪快な交渉術に、お友達のレイニー嬢も困惑しているではないか。
「まあ、素材については検討しますが……。それよりカーラ。
要求は理解した。
その上で、私はまず、とても気に掛かる事の確認を試みる。
とは言え藪を突付くのも恐いので、微妙に言葉を濁して。
必死の懇願顔だったカーラは、私の言葉に一瞬考える顔をして、すぐに笑みを咲かせる。
「うむ! 怖かったが、隠し事をするのが嫌だったからな!
元気良く答えるカーラの笑顔咲き誇る脳天に、私の拳が真っ直ぐに振り下ろされる。
正座させていて良かった。
「痛い!」
なんでそれを、笑顔で報告出来たのか。
「わはははは! 駄目だ、ハラが
「わら、笑い事じゃないでしょ! っふ、あはははは!」
イリスがベッドの上で悶絶し、リリスがフォローしようとして果たせず、口元に手を添える。
「何をするんだ! 私は繊細なんだぞ!」
そんな双子の様子には目もくれず、カーラは涙目で頭を抑え、私を見上げて噛みついてきた。
その顔面を、私は右手で鷲掴みにする。
そう言えば、初対面時にもやった気がするな。
「状況把握の方にこそ、繊細になって頂きたかったのですが?
私の苛立ちに呼応してか、背筋からうなじにかけて、チリチリと魔力が電気を帯びて走る。
「ま、待て待て! お願い待って! 電撃は嫌だあ!」
慌てたカーラが半泣きで私の右腕に取り縋り、必死に叩いて懇願する。
彼女も、同じ場面を思い出したのだろう。
「あ、あの、カーラさんを許してあげて下さい、私が色々訊いてしまったんです」
レイニー嬢が、流石に私に取り縋るような真似こそしないものの、しかし本心から申し訳無さそうな顔を私に向ける。
カーラのクセに、良い友達を得たものだ。
「そこで誤魔化さずにホイホイ話してしまったこの馬鹿が問題なので、
私はにっこりと微笑んで、レイニーが安心出来るようにと心を砕く。
魔導師や錬金術師は、基本的に好奇心旺盛で知りたい事には臆せず突っ込んでいくものだ。
偏見かも知れないが、そういうものだと思って対応すべきところを、
私の素性を知られる事も勿論問題だが、むしろ一般人がそんな存在について「知ってしまう」危険と言うモノを、少しは考えるべきだと言うのに。
「ただ、何度も言いますが、私はあまり人に受け入れられる類の存在では有りませんので、あまり大っぴらに外で話さないようにお願いします。私を捕縛か破壊したい者達が、
言いながら、私はそれが杞憂だろうとは思ってもいた。
レイニーに危害を加えようとする、と言う事は、そこで笑い転げている双子の魔女に喧嘩を売るに等しい。
下手すると企てた時点でバレそうだし、そんな輩を見過ごすような人の良さは持ち合わせて居まい。
「まあ、ウチのメンバーにどうこうしようってんなら俺が動くけど、そうだな。レイニーちゃん、俺からも頼むわ、あんまりこいつらの正体は、言わないでくれるかな?」
私の推論を補強する
命令でなくお願いである辺り、イリスに深く根ざす、人の良さを感じなくもない。
仲間を大事にするからこそ、敵かも知れない存在には、手を抜く事をしないのだろう。
涙声で必死に謝罪するカーラも、いい加減なんで私が怒っているのか理解出来た……と、思う。
「私の所為で友達を危ない目に合わせたのは謝るから! ごめんなさい、電撃は嫌だあ!」
……いや、私はお前の所為でまた双子に目を付けられる寸前まで行った事に対して怒っているのだが。
溜息を
「ウチのを心配してくれたのは有り難いけど、あんま仲間をイジメてやるなよ。本気で泣いてるじゃねえか」
台詞は真っ当だが、笑いが漏れていては台無しである。
と言うか、イリスも私を誤解している。
正直に我が身可愛さだと言っても良いのだが、まあ、幻想を壊すのも気が引けるし、このままで良いだろう。
子供には夢を見る時間が必要、誰かがそんな事を言っていた気もするし。
「……お友達は大事になさい」
適切な言葉に思い当たらなかったので、何となく当たり障りのない言葉で誤魔化し、私は素直にカーラを解放した。
そのカーラは解放された喜びを噛みしめる間もなく即座に土下座の姿勢に移行し、私への謝罪とイリスへの感謝を口にしていた。
特に興味も無いので、当然のように聞き流したが。
「ともあれ、事情は
私は後方のイリスへと、
向けられた方は、笑いを収めてきょとんと私を見返している。
「良いのですか?
そんな様子を気にせず発した私の言葉に、双子は顔を向け合う。
「良いんじゃないの?」
姉の方が、まず口を開いた。
とても深く考えたとは思えない判断の速さが、若干気に掛かる。
「別に大丈夫だろ? 人形師がみんな人嫌いって訳でも無いし」
妹の方も、ものすごく楽観的に言う。
まあ確かに、例えばカーラを制作したドクター・フリードマンに関して、特に悪い話は聞いたことが無い……と思う。
彼の場合は、人間不信ではあったものの、だからこそ、家族として人形を造っていたと聞いたような気がする。
うろ覚えだが。
「問題はむしろ、人形造りって、なんか特別な設備とかが必要なんじゃないのか? ってコトかな」
私が自分の記憶に疑問の目を向けた間隙に、イリスの言葉が滑り込んできた。
思わず考えそうになった私だが、そもそも私には人形制作のノウハウは無い。
素直に私は振り返り、視線をカーラへと向けた。
「え? いや、人工精霊が必要では無いから、特別な設備も必要では無いな。ただ、それなりの量の金属類だったり、その……」
涙を拭ったカーラが元気に答えるが、その声はすぐに言い難そうに詰まる。
少し困った様子のカーラの様子を不審に思った私だが、すぐにその理由に気が付いた。
なるほど、生肉を大量に使うので保管場所を用意して下さいとは、言い難かろう。
「素材を置く場所が必要になるのですね? それも、鮮度を維持しつつ保管出来るような」
察した私が言葉を選んで口を開くと、カーラはぶんぶんと頷き、レイニーは訳が
それは、彼女のクランマスターも同じだったようだ。
「素材はともかく、鮮度ってなんだ?」
イリスの声に、レイニーも頷いた。
私は困る。
イリスやリリスはともかく、レイニー嬢は普通の感性の人間であろう。
だからこそ、カーラも言い淀んだのだ。
ここで私が無神経に言ってしまえば、そんなカーラの気持ちを無視するようで楽しくも有るが――聞かされるレイニー嬢は楽しくもなんとも有るまい。
「あー……カーラよりも私のようなタイプの方がむしろ必要なのですが。人工筋繊維や疑似筋肉類、疑似外装……要するに皮膚の素材として、動物性タンパク質を多く含む素材が好ましく、使用用途も広いので、必然量が多いのです」
言い回しに苦心した割りに、あんまり隠せていない。
イリスはぽんと手を叩くと、納得顔で口を開く。
「ああ、生肉が大量に必要で、それを良い状態で保管しときたいって事か」
せっかく私が直接的な表現を避けようと無駄に頑張ったのに、直訳されてしまった。
完全に理解してしまったレイニー嬢は、自分の工房に生肉を積み上げられる様子を想像したのか、素直に嫌そうな顔だ。
まあ、外骨格式だったら、完全機械式も無くはないのだが……カーラがそれの造り方を知っているかは謎である。
「冷蔵庫は有るけど、大きさに限度は有るし……
イリスが腕組みして天井を見上げる。
それも手だが、もっと簡単な方法が無いものか。
そんな都合の良い事に心当たりが無くもない、しかし全く確証のない私は、それを口にする事を躊躇するのだった。
この街に来たばかりのマリアに、心当たりが有るとは思えませんが。