迷子のマリア   作:naow

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マリアの心当たり、という時点で、ろくでもないモノだと思います。


120 お屋敷問答

「ファルマン様」

「頼むから、イリスって呼んでくれ」

 

 真面目くさって名を呼べば、げんなり顔で訂正を要求された。

 本人の言動から、貴族扱いを嫌がりそうだと勝手に思い込んでいたが、どうやら当たっていたらしい。

「……では、イリス様」

「様もいらないよ。で、なんだ?」

 じゃあ、と、フレンドリーに呼び掛ければ、これもお気に召さない様子だ。

 難しい小娘である。

 話が進まないので、適当に呼ぶ事にしよう。

 

「イリスさんのクランに、腕の良い探索(シーカー)系の職の方は居られますか?」

 

 私の言葉に、今度は反発ではなく、イリスは自分の姉の方へと顔を向けた。

 

 実際の所、私の心当たりを調べるにあたって特に探索系の人員が必要な訳では無い。

 まず、私やアリス、たぶんカーラもそれ系の魔法は使える。

 勘などのセンス系技能では遅れを取るだろうが、ある程度時間を掛ければ似たような事は出来るだろう。

 なので、私のこの質問は、単純にこの双子の興味を引きたいだけだったのだが。

 

「……居すぎてわからん」

「半分くらい斥候(スカウト)よね、ウチ。なんでこんなに偏ってるの?」

 

 だったのだが、双子はなんだか想像してなかった方向に話を持っていく。

 どう言うことだ?

 

 私の悪い癖で、横道に逸れた話に興味を惹かれてしまう。

 

「……本気で理解(わか)らん。なんなんだろうな。んで、腕の良い斥候(スカウト)になら困らんけど、それが?」

 

 私は好奇心を抑え込み、此方に顔を向けるイリスへと口を開く。

「……なんでそんな状況なのか非常に興味がありますが、酒の席ででも教えて頂きましょう。それならば、数名、少しお力をお貸し頂きたいのです」

 抑え込みに失敗しながら、取り敢えず伝えたいことを伝える。

 

 カーラの懇願からの説教、そしてこの私の発言について、室内の誰もが流れを把握出来て居ない。

 困惑顔が並ぶ中、おずおずと手が挙がる。

「あの、な? マリア、私の頼みに関連する何かに、心当たりがある、と言うのは理解出来た。だが、それに探索者(シーカー)やら斥候(スカウト)やら、何の関係があるんだ?」

 挙手の意味は相変わらず不明だが、その疑問は誰もが共通していただろう。

 カーラの情けない顔に視線を向けて、私は恐らく、この場では彼女にしか理解(わか)らない事を言う。

 

「あの『霊廟』はどうやら多層構造らしい、と言う話は覚えていますか?」

 

 困惑から疑問に変わった顔が並ぶ中、同じように考え込んだカーラが、はっとして私を見る。

「ああ、賢者が言っていたやつか! ……いや、それがどうしたんだ?」

 思い出したらしいカーラだが、しかし、それと彼女の望みとが結びつかないらしい。

 まあ、当然である。

 

 私だって、確証をもっている訳ではないのだし。

 

「なんだ? 話が見えないんだが、霊廟って何処のだよ。っ()ーか、賢者って誰?」

 

 話に出てきた単語に全く心当たりのないイリスが私に表情のままの疑問をぶつけ、その隣に腰掛けたリリスも興味深そうに私を見ている。

「賢者様については、追々お話致します。『霊廟』については……イリスさん、今ここで、私の魔法道具を出しても構いませんか?」

 説明をするなら、実物を見せたほうが早い。

「はあ? ここで? ……この部屋に収まる大きさだろうな? ヤだぞ、部屋が荒らされるの」

 イリスの返事に、広いが無駄なものを置いていない、シンプルな室内に軽く視線を走らせる。

 

 非常に残念だが、私の手持ちでは、出すだけでこの部屋を荒らす様なモノは無い。

 

「問題御座いません。何か有ったら逃げますので」

 

 仕方が無いので、取り敢えず不穏な言葉で不安を与えてみる。

「問題しか()えよ。まあ良いや、やらかしやがったら全力デコピンな」

 不安にさせる予定が、逆に不安にさせられてしまった。

 私は小さく咳払いして、比較的広く空いている空間へと足を向ける。

 

 まあ、ドア1枚出した所で、部屋を荒らす事も出来ないのだから、問題は無い。

 

「それでは、失礼いたします」

 

 言葉とともに私の魔法鞄(マジックバッグ)から取り出された純白のドアを眺めて、見知ったカーラ以外は揃ってぽかんと口を開けるのだった。

 

 

 

 ドアを開けて双子と錬金術師、そしてカーラを招き入れる。

 キョロキョロとホールを見回す客人たちは、なかなか言葉が出ない様子だ。

 少しだけ、その様子が面白い。

 

「なに……コレ。なんでこんなに広いの? あの大扉は飾り?」

 

 ホールの奥を見て天井を見上げ、そして振り返ったリリスが、好奇心に目を輝かせて1番に口を開く。

「いえ、あれも使えますが、あれはここから出ることしか出来ません。外であのサイズの扉をだすのはちょっと……」

 やっと見た目相応な様子を見せたリリスが思いの外可愛らしく、私はつい、丁寧に説明してしまう。

「あんなモン部屋で出されてたら、キレてたわ」

 同じようにあちこち見回していたイリスだが、私の説明に即座に反応し、ジットリとした目を向けてきた。

 出せないのだから良いだろうに。

「これが、私たちの生活拠点。各々が好き勝手に呼んでますが、正式名称は『霊廟』と言います」

 そんなイリスをひとまず無視する。

 初めて足を踏み入れた3人は無駄に広いホールとそこから奥へ繋がる何本かの廊下を見て、改めて私の方へと、揃って顔を向けた。

 

「広すぎて不便そうね」

「屋内の移動に自転車が欲しいな」

「建物の中で遭難しそう……」

 

 3者3様の反応に、私はなんとも言えない微妙な表情を浮かべてしまう。

 実際、部屋に帰るだけで結構歩くのだ。

 カーラはそんな3人の反応が意外だったのか、少し驚いた顔をしている。

 

 お前は、この広いだけの空間が褒めちぎられるとでも思っていたのか。

 

「……んで? 斥候(スカウト)出して、この中探ろうってのか? お前さん、持ち主なんだろう?」

 イリスは天井あたりに視線を走らせながら、声だけを私に向けた。

 もっともな疑問である。

「ええ、持ち主ではあるのですが。困ったことに、全てを把握しているわけでは無いのですよ。詳しくは、イリスさんのお部屋に戻ってからお話ししましょう」

 とりあえずここでしたい事と、ここが無闇に広い事を認識して貰えたと思った私は、当然のように帰還を提案した。

 だが、それに対しては4人が、驚いたように振り返った。

 

 ……なんで今すぐに行動すると思ったのか。

 カーラも、なんで驚いているのか。

 

「……私たちはともかく、リリスさんとイリスさん、それにレイニーさんが急に姿を消したら、皆さん驚くでしょう。行動するにしても、きちんと必要な準備と連絡は行っておくべきです」

 

 まかり間違ってあの不死姫(アンデッド)お嬢様などを怒らせては洒落にならない。

 それに、イリスは特に、例えばあの眼鏡男子とかメイドっ子に説教でもされそうな予感も漂う。

 私の溜息混じりの言葉に、顔を見合わせた双子は半眼を向け合い、それを眺めるレイニーもまた、少し種類の違う半眼を2人に向けている。

 

 下手に触れるのは止めておこう。

 

 なんだかんだ言ってもこの空間を探検したかったのか、特にリリスが名残惜しそうに廊下の方を何度か振り返り、そんな姉を引っ張るイリスを先頭に、私たちはイリスの部屋へと戻る。

 そこで今後の行動について相談する、と言う事で、イリスが最も信頼するクランメンバーらしい、眼鏡男子ことタイラーと、その相棒のジェシカと言う金髪美女が呼び出された。

 

 メンツを揃えて見れば、ある程度以上私の事を知っている顔ぶればかり。

 

 ならば隠し事も特に意味は無いと判断した私は、「霊廟」について私が知っていることと、カーラの望みに繋がる何かについての予測を話す事に決めた。




人様を招く態度というものを、もっとしっかりと教えるべきでした。
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