迷子のマリア   作:naow

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意外と考えているようですが、果たして。


122 探検隊突入

 簡単なテーブルセットが中央に鎮座し、書架が掛かる壁には窓もある。

 柔らかな光が差し込んで見えるが、そこから外の様子は見えない。

 

 ただ、何もない空間が、時間帯によって光量を変えるだけである。

 

「これが、この『霊廟』についての書籍になります」

 

 私が談話室の書架から1冊の本を取り出し、テーブルに乗せる。

 ハードカバーのそれを一見して、タイラーは不審げに眉根を寄せた。

 

「……開かなくても判るほど、ページが足りていないな」

 

 閉じたままのその本は、タイラーの言う通り、不自然にページが足りておらず、見てわかるほどの隙間が見えている。

「仰る通りです。この本は、半分以上のページが千切られております。一応、このフロアの見取り図と、大まかな説明は残っていますが……」

 私は言葉を切り、書籍へと目を落とす。

 

「それすらも、途中で途切れている有様です」

 

 私の言葉に、タイラーは腕を組み右手で口元を隠して考え込む様子を見せた。

 双子は揃って興味津々な様子を隠しもせず、アリスもなにやら目を光らせている。

 

 思いの外真面目に考えてくれている様子の面々だが、肝心の中身は見なくても良いのだろうか?

 

「本……見なくて良いのか……?」

 

 同じ事を考えたらしいカーラがおずおずと挙手して、か細い声を絞り出した。

 タイラーは尚も考え込むように動きを止めたままで数秒過ごし、それからようやく手を伸ばす。

 私は阻むこともせず、いつもよりも倍以上の人数を収めた談話室を一旦後にし、食堂にお茶の用意に向かう。

 

 ひとり勝手に退室するとか、客観的に見てかなり胡散臭い動きだと思うのだが、少なくとも表面上、誰も私を咎める事はなかった。

 

 

 

 勿論毒を混ぜるような事もなく、カートを押して談話室へ普通にお茶を運ぶ。

 私が外している間に、めいめい勝手に椅子に腰掛け、タイラーとジェシカ、イリスとリリス、そしてアリスが熱心に本を覗き込んでいる。

 

 実に窮屈そうだ。

 

「マリア、悪いがこの見取り図の、此処なんだが……」

 

 お茶を淹れる私に、タイラーが声だけを投げてくる。

 私はお茶くみをカーラに押し付け、タイラーの傍らへと足を進めた。

「此処と、此処、それと此処だ。調べたことは?」

 私の気配を感じたのか、タイラーは次々に看取り図上の数カ所を指さした。

 言われて覗き込み、私は脳内でそのポイント周辺の様子を思い起こす。

 

 それは各ブロックの区切りというか、角地と言うべきか。

 巨大な柱状に一部が区切られ、小さめの未使用区画になっている。

 当然怪しいと思った私が割りと早い段階で探査し、視認まで行ったポイント群である。

 結果その周辺に、目を引くような何かが有った記憶もないし、不審なモノと言えばそもそもこの空間そのものが不審だ。

「歩いたり、探知を行った事は有りますが、特に気になることは有りませんでした。ですが、私はそもそもの出自がアレですし、人が隠れているとか不審物が有るとかならまだしも、遺跡調査のような細かな探知が出来る訳でも有りませんので……」

 途中で言葉を濁したのは、そもそも私は人を殺すことを目的として作られた人形がベースなのだ、という事を隠しただけだ。

 しかし、こういう言い方をすれば、適当に誤解してくれるだろう。

 

「恐いねえ、殺人人形ってのは」

 

 残念なことに、誤魔化されも騙されもしてくれないらしい。

「酷いですね。私は人も殺せる人形である、というだけですよ。基本は至って普通の陽気などこにでも有る人形です」

「陽気に会話できて、茶まで淹れて、そんで人も殺すような人形は普通じゃ()えよ」

 私の悲しい言葉に、イリスは正論を被せてくる。

「そもそも人形が動く時点でホラーでしょ」

 リリスが、優雅にお茶を口に運びながら冷やかす。

 

 そんなホラーな存在が4体、此処に居るのだが。

 

 カーラがバツが悪そうにレイニーを見ている様子がなんだか可哀想に思えてくるが、当然フォローはしない。

「戦士職を素手で圧倒するような魔導師も、相当な怪異だがな」

 口を開いたのは、私ではなくタイラーだった。

 

 ……普段からそんな真似をしているのか。

 

 私が双子に白けた視線を送るが、送られた方はビクともしない。

「俺らが悪いんじゃ()えだろ、それ。鍛錬が足りねえよ、鍛錬が」

 すぐに噛みつくイリスだが、タイラーの方は見取り図を眺め、ページを前後させては気になるらしいポイントに指を置き、なにやら考え込んでいる。

「フロア見取り図だってのに、これ何ページ有るんだ? 私はもう、何処を見てるのか判んなくなってきたよ」

 アリスが冒険者だったとは思えないような事を言って背凭れに身体を預け、行儀悪く茶を啜った。

 まあ、気持ちは理解(わか)らなくもない。

「もう、素直にタイラーくんとジェシカさんに任せたほうが良いかしらね?」

 リリスは優雅な動作で茶を楽しみながら、しかし思考は回転させたまま、そんな眼差しで少し遠くから見取り図に視線を送っている。

 

「私は、ただ人形を造りたいだけなんだが……」

 

 カーラの声はやはりか細く、レイニーがちらりと視線を向けた以外は、誰も反応しないのだった。

 

 

 

 結局、経験持ちを中心に動くしか無いのが現場というもので。

 この場合の経験というのは、ダンジョンなり遺跡なりを実際に踏破なり調査なりをした人材、と言う事だ。

「それじゃあ、私とタイラーが見当をつけた辺りを適当に調べてみましょうか」

 金髪美人斥候(スカウト)のジェシカが元気良く右手を上げ、その相棒は無言でその隣を歩く。

 

 つまり、ジェシカがこのメンツの中ではそう言った経験が最も豊富だった、と言う事だ。

 

「マリア、こいつ、タイラーくんな? 暗殺系の技能持ちの斥候(スカウト)なんだぜ? 似合いすぎて漫画みたいだろ?」

 

 2人を先頭に、後ろをついて歩く私たち。

 イリスが私の肩を叩き、無遠慮にタイラーを指さしながら軽口を叩く。

「また物騒な……。では、ジェシカさんも?」

 そうであっても無くても驚きはないし、むしろイリスの気安すぎる態度の方が気になるというか恐いのだが、そんな事はおくびにも出さない。

「んー、私は純粋な斥候(スカウト)よ」

 私の何気ない呟きに、ジェシカが振り返ってウインクする。

 美人がそういう動作をすれば可愛くなるというのは、なんだかズルいと思う。

「ジェシカさんが純粋な斥候(スカウト)と言う事は……言うならば、タイラーさんは不純な斥候(スカウト)ですか」

 何の気無しに口の端から転がり落ちた言葉に、ジェシカとイリスが目を合わせ、そして2人同時に吹き出す。

 タイラーは忌々しげに首を振ると、肩を落として嘆息した。

 

「随分懐かしい事を言われたな。お前はイリスと気が合うのかもな」

 

 タイラーが何を言いたいのかは全く不明だったが、たぶん酷い罵声だろうと思う。

 そんな言葉を浴びせられた私は、純粋にイリスの同類認定されたことを不服に思うのだが、口に出して反論はせず、同じように肩を竦めて返しただけだ。

 

「やっぱ広いってここ。自転車欲しいなあ……」

 

 笑いを収めたイリスがしみじみと放った言葉に、私も薄っすらと同意するのだった。




……床を汚すような真似は止めて下さい。
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