迷子のマリア   作:naow

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注意力と集中力が散漫で、良い子だと思っていたのですが。


123 付き添いは無責任

 自転車、と言う単語に興味を示した錬金術師にやけに細かい説明を行うイリスと、それを呆れたように眺めつつ歩くリリス。

 自転車を知っている私とアリスは有れば便利だけど、車種によってはこの世界では使用が厳しい、とか、無責任な話を広げ、自転車を知らない他のメンバーは何を言っているんだという顔で、やはり全員足を止めることはない。

 

 取り敢えず、次の目的地で4箇所目。

 敵が居る訳も無いこの「霊廟」内で、目的は別のフロアへの移動経路の発見。

 集中こそすれ緊迫感など皆無なこの作業、最終目標は人形工房の発見なのだが、それについては確信を持って「有る」と言い切れるものでもない。

 

 無かったら――さて、どうしたものか。

 

 まあ、私は最初から確証は無いと言っているのだし、謝れば許されるだろう。

 

 

 

 これ見よがしに怪しい、巨大柱というべきか、隔離ブロックと言うべきか。

 4区画目を丹念に調査した私――ではなくジェシカとタイラーだが、やはり何か特別な仕掛けなどを見つけることは出来なかった。

 

 私ですらかなり早い段階で怪しいと思って調べ、そして何も見つけられなかった場所でも有る。

 そこを本職の斥候(スカウト)が本気で調査して何も見つけられないのであれば、そこには何も無いのだ。

「こうなると、他の場所も結果は同じだろうな。ジェシカ、何か気になる事は有るか?」

 タイラーが考え込む癖で腕を組み顎先に手を添えて、相棒へと顔を向ける。

 いや、本当に考え込む時の癖なのかは知らないが。

「うーん。違和感が有ると言えばむしろ……って感じかなあ? 一回、基本に帰ろうかなって」

 こちらは口元に人差し指を添えて、視線を上に向けつつ答える。

「確かにな。俺達はダンジョン調査の要領で進めようかと思ったが、事はもっと単純なのかもしれん」

「基本って? 単純ってなんだよ?」

 そんな2人の会話に、イリスが割って入る。

 私も気になって顔をそちらに向けると、考え込むタイラーに、全員の視線が集中していた。

 

「未知の空間と言う事で、考え過ぎていたかもな。一度戻るぞ」

 

 右を見ても左を見ても似たような景色が広がるこの空間で、タイラーは迷うこと無く玄関ホール方面へと足を向けている。

 もっと食堂に近いとか、そんな位置ならまだしも、ここは結構奥まった場所になる。

 更に奥が有るし、私でさえ立ち止まって少し考えなければ、玄関ホールの方向を割り出せない自信がある、その程度は進んでしまっていた。

「うはぁ……私、こんなトコで置いて行かれたら、絶対に戻れないよ……」

 レイニーがタイラーの迷いのない背中を見て、呆然と呟く。

「大丈夫だ、レイニー。私だって、こんな所に放置されたら、もう二度と外には出られん」

 そんな友人を笑顔で励ますカーラだが、言っていることの情けなさに気付いているだろうか?

 その友人は気まずそうに笑って「ありがとう」とか言ってくれているが、励ます対象に気を使わせてどうするのか。

 

 エマを差し置いて着々と、カーラはアホの子ナンバーワンへの道を歩んでいる。

 

 応援もしないが矯正もしない、そんな意味で私は彼女を見守って行きたいと思う。

 

「マリアちゃん、退屈になってきたよぉ? 何か罠とか、そういうの起動できないかなぁ?」

 

 アホの子の座はともかく、危険であると言う地位は揺るがない存在が、刃物でも持ち出しそうな声を上げた。

 すっかり口数が少なくなったと思っていたが、ついにエマが危険な徴候を示し始めたのだ。

 その顔は言葉通りに退屈そうに半眼で、欠伸でも漏らしそうな程緊張感がない。

 退屈である、と言う点で気持ちは判らなくもないが、罠など起動したら、お前も巻き込まれるぞ、と突っ込むのは野暮だろう。

 そんな危険を欲したからこその、台詞なのだろうから。

 と言うか、普通に生活する為のフロアでそもそも罠など有る筈あるまい。

 

 ……無い筈だ。

 

「罠など有りませんよ、少なくとも先代に聞いた限りでは。有ったとして、自分たちが巻き込まれるような危険を冒すわけがないでしょう」

 

 思いがけず2重の不安を抱えてしまった私だが、表面上は平静を装って答える。

 スリルが味わえるのなら何でも良いのだろうが、罠とエマの狂気、2重に巻き込まれる私たちはそんな物をそもそも欲していない。

 

「なんだい、危なっかしいこと言ってんな? お嬢ちゃん、後で俺と遊ぶか?」

 

 馴れ馴れしい口調で、何故か私の肩に腕を回しながら、イリスがエマに声を掛ける。

 ……何故、私を巻き込むような真似をするのか。

 あと、その言い回しは色々と誤解を生むから、もっと考えて発言した方が良いと思う。

 ついでで言うなら、その馴れ馴れしさは格好をつけた心算(つもり)かも知れないが、私より身長が低い有様ではただの小娘が私に甘えているような有様だ。

 それで良いのか?

「あんたは何を堂々とナンパなんかしてるワケ? 脳天カチ割って欲しいの? バカなの?」

 さっそく実の姉に絡まれているが、なかなか見事な自業自得である。

 フォローする必要性も感じないし、放って置いても問題なかろう。

 

 このままだと私が巻き込まれる、それを考慮しなければ。

 

「イリスちゃんとぉ? 良いのぉ?」

 

 一方で、ナンパされたと目される小娘はどこか乗り気である。

 

 いやまあ、上辺で済まないレベルで、エマが本心からイリスと「遊び」たがっているのは判るし、イリスが単なるスケベ心でエマに声を掛けた訳ではないことも理解(わか)っている。

 だが。

 

「お願いですから、表に出てからにして下さい。此処を荒らされるのは非常に迷惑です」

 

 エマの戦闘衝動もイリスの暴虐コミュニケイトも、ましてやリリスの訳の分からない不機嫌も纏めて私には制御困難だ。

 3大怪物大乱闘などに、私と「霊廟」を巻き込まないで欲しいのだ、心の底から。

 

 真面目に調査を行っているのが2名……いや、アリスもわりと真面目だから、3名しかいないこの集団は、もしかして探索に不向きなのでは?

 

 私は訝しむのだった。

 

 

 

 私たちは一度談話室――ではなく、玄関ホールへと戻っていた。

 私はてっきり談話室へ戻って見取り図と睨めっこだと思い込んでいたので、これはこれで面食らう。

「なんでえ、戻るって、一回屋敷に戻るってか? まあ、それも良いかもなあ」

 それどころか、ここから出るとさえ考えているらしいイリスだったが、彼女もまた驚いて動きを止めることになる。

 

「いや、此処だ」

 

 イリスがぽかんと口を開けて立ち止まり、間抜け顔でタイラーを見詰めている。

 それを笑いたい所だが、私もまた、間の抜けた顔を晒していることだろう。

 

 私の視界の中のアリスが、納得顔で手を叩いている様子に私はひとり、非常に納得が行かないのだった。




アリスは元冒険者でしたね、そう言えば。
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