迷子のマリア   作:naow

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一度外に出て、頭を冷やすのも良いかと思います。


124 ふりだしにもどったら

 玄関ホールまで後退した我々は、タイラー・ジェシカ・アリスの冒険者組(元冒険者を含む)が顔を突き合わせてなにやら話し込んでいる様子を、少し遠巻きに眺めていた。

 私などは遺跡調査の経験どころか、森の中を歩く程度で手一杯の一般人形だ。

 こういう事は、専門家に任せるに限る。

 

「いやー、冒険者ってスゲえよなあ」

「アンタも冒険者でしょうが」

 

 感心したように軽口を叩くイリスを、隣のリリスが言葉で刺す。

 私は少し意外に思って、そのイリスの顔を凝視してしまった。

 

 今気付いたが、そう言えばイリスもリリスも、今日は仮面をしておらず、代わりに軍礼服に良く似合う制帽を頭に乗せている。

 

「冒険者登録、していたんですか?」

 目が合ってしまったので無言で居るのも気まずく、私はつい声を上げる。

 イリスはと言うと、キョトンとした後で肩を竦めて小さく笑った。

「まあ、一応だけどな? お約束っ()ーか、流れで何となくっ()ーか」

 あまり深く考えての登録ではなかった、と言う事だろう。

 アリスもおそらくそんな感じの登録だったのだろうし、私ですら――最初の流れが悪くなければ――冒険者登録を考えても居たのだった。

「そっからまあ、酷い事ばっかりでなあ。いち冒険者が、なんだかんだ祭り上げられてクランマスターなんぞやらされて」

 小さな郷愁を見つけた私のように、イリスもまた、今までを思い起こしていたのだろうか。

 言葉の割りに口調は柔らかで、懐かしむように目は細められる。

「何が悪かったのか領主様の孫なんぞになって。口も育ちも悪い俺が、そんなモン出来る訳ねえのに、見て判らんもんかね」

 それはすぐに単なる悪態に変わった。

 余程嫌だったのだろうが、断ることも出来なかった、という所か。

 

 冒険者、と言うだけだったら、その身ひとつで逃げ出せばそれで終わった話だったのだろう。

 だが、クランマスターになってしまった以上、無責任に逃げる事も出来なくなった訳だ。

 

「まあ、恩も有るし仕方無いんじゃない? そもそもアンタも私も貴族の一員ではあっても爵位はないんだから、そもそも大したことが無いのよ。せいぜいお口チャックして、お嬢様っぽく微笑んでれば良いんじゃないの?」

 嘆きの妹に、姉が慰めの罵声を浴びせる。

「俺にいっちばん似合わねえヤツだな、それ」

 イリスは少し嫌そうな顔をすると、その視線を私の方へと転がしてきた。

 

「お前さんは、ただの旅人やってんだよな? どうなんだ、実際んトコ」

 

 一つ所に根を下ろし、活動を続ける事。

 安定を捨て、心のままに旅を続ける生活。

 

 どっちがどうだ、等と比べる心算(つもり)もないし、比べられるほど私は高尚な存在でもない。

 

 今の私はいろんな景色が見たいからと旅を続けているが、では、そんな景色を堪能した後はどうするのだろうか。

「どうも何も、それこそただの旅ですよ。その途上で姉妹人形に襲われて破壊されそうになったり、大きな街を観光だと意気込んでみれば怪しげな人形たちの大量殺戮劇場に遭遇したり……気楽なモノです」

 今までの旅路を振り返って懐古的な微笑みを浮かべようとした私だが、思い出す景色が微笑ましさと無縁だった。

「……イヤな気楽さね」

「気楽さがほとんど含まれて()えじゃねえか……」

 私の苦い顔に思うところでもあったのか、双子は揃ってどこか同情的だ。

 

「おうい、マリア! ちょっとこっち来てくれ!」

 

 そんな風に、すっかりと調査のことを忘れていた言い出しっぺの私を、アリスの声が呼ぶ。

 釣られて顔を向ければ、3つ並んだ金髪頭が此方を見ていた。

 

 そう言えば、なんで私は銀髪なんだろうか。

 銀髪と言えば聞こえは良いが、見ようによっては白髪(しらが)だろう、これは。

「はい、すぐに伺います」

 考えているどうでもいい事とは別に、丁寧な返事が勝手に口から滑り出す。

 溜息を()きたい私は見た目颯爽と歩き出し、その後ろにどうやら双子がついて来ているらしかった。

 

 

 

 アリス、それにタイラーとジェシカが立っているのは、使ったことのない大扉の、真正面の壁だった。

 その大扉も随分遠くに見える、特になんの変哲もない壁沿いである。

 

 探知に反応が返ってくるでもなく、探査した所でただの壁。

 

「マリア、あんた此処を開ける方法、聞いてないか?」

 

 だと言うのに、アリスはその壁を拳で軽く叩きつつ、そんな言葉で私を試そうとしてきた。

 いくらなんでも冗談が過ぎる。

「壁を開ける? 何を言っているのです? リフォームでしたら建築業者様にご依頼されるのが筋では?」

 冷めた顔と声で答え、ちらりと壁に目を向ける。

 

 何度も、それこそこの空間に帰ってくれば必ず目に入るこの見慣れた壁に――この先が有るのだと、そう言う話なのか。

 

 鼻で笑って差し上げる場面だろうか。

「えーナニソレ。この屋敷に入って真正面のとびきり目立つ壁になんか有って、それに家主が気付かないとか。ウケるんですけどー」

「どんだけ自分ちに興味無いのってカンジー」

 後ろから着いて来ていた双子姉妹が、実に低俗な棒読みの煽りをくれる。

 普段の話し方は高圧的で時に腹が立つが、特に嫌うようなものでもなかった。

 

 しかしこれは、純粋に気に障る。

 時を選ばずいつでもすぐにご立腹させられる、素晴らしい話法だと思う。

 

 人目が無ければ、鈍器で頭を撫でて差し上げたくなるほどの。

 

「ま、まあ、私とそっちの双子がほとんど言ったんだけど、要はこの壁の向こうが見たいって話なんだ。……ホントは知ってるんだろ? だよな?」

 そこそこ付き合いも長くなったアリスは、私の不機嫌の深さを表情から読み取って言葉を選ぶ。

 珍しい気遣いだが、言葉を並べる途中で私に対する信頼が揺らいだらしい。

 

 最後の「だよな?」は、たぶん、「頼むから知ってると言ってくれ」と言う意味だと思う。

 

 ……しかし。

「ご期待に添えず申し訳有りませんが、こんな所に階段なり通路なりが有る等と、私は聞いたことが御座いません」

 

 私の自信溢れる言葉に、アリスは絶望をその表情に映し、背後の双子は小さく吹き出した。

 失礼な事である。

「無根拠に否定している訳では御座いませんよ? 私とてこのホール、隅々まで探査・探知を使って調べているのです」

 不機嫌を隠さず、私は事実として、既にホール内は調べているのだ、と告げる。

 これだけ目立つ空間なのだ、調べないほうがおかしいだろう。

 

 そんな自信満々の私に困り顔のアリスと、無表情のタイラー、笑顔のジェシカ。

 探索得意系冒険者3名を並べて眺める私だが、正直なところ。

 

 段々と自信が無くなってしまう。

 しかし、ここまで大見得を切って何か出てきてしまったら凄く格好悪いので、お願いだから何も有りませんようにと。

 

 こっそりとお祈りするしか無いのだった。




劣勢のマリアは、冒険者集団を追い払えるでしょうか。
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